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神保町が「中央線文化」になった日――古本フェスタを見て思う

神保町が「中央線文化」になった日――古本フェスタを見て思う

書物蔵

事前情報ほとんど知らず

 週末古書展に欠かさず通うようにしている私だけれど、東京古書会館の新しい週末展「古本フェスタ」のことを知らなかった。直前にネットのSNS(ツイッター改めX)でフォローしている盛林堂さんなどの古本屋さんが、参加するのでよろしくとのお知らせを流していたので知ったことだった。

 事前の情報はほとんど知らず、ただ、「いつも通っているよみた屋さんやりんてん舎さんが参加するなぁ、これらのお店が参加する週末展って今までなかったような気がする。ちょっと行ってみたいな」というレベル。

 7月28日(金)当日。私は午前中、某大で打ち合わせがあり、午後は夏のコミケ用同人誌のアップロード締切日が設定されていた。で、せっかく上京した愛知・南部堂(@Kan_ei_sen_Vol2)さんに、古本フェスタで会いませんかと誘われていたのに夕方まで身動きがとれなかった。

 「後から行ったらどうせイイもんは無くなっちゃってるだろうな」と思っていたら、SNSで「今回は参加店みなネタの層が分厚いので、午後でも収穫があると思います」とよみた屋さんに言われ、それならば、と行くことにした。

あれっ? なんか違う

 神保町某社で同人誌印刷屋にアップロード作業を無事済ませた後、おっとり刀で会場へ駆けつけたところ……。

 「あれっ? いつもの週末展となんか違う」

 なんだろう、なんとなくポップな感覚がある。これは一つには品物の並びのせいだろうが、普段の古書展といちばん違うのは客層だ。おじさんたちもいるけれど、おしなべて年齢が若めだし、なにより女性が結構いる。

 これは週末古書展でも高円寺の古書会館だと、道ゆくカップルや文化系女子が(まちがって?)紛れ込んでくることがあるが、その間違い組が、むしろ流れとなって神保町(ほんとは小川町だが)会館に流れこんできた感じ。

 SNSでも辱知の「ナカネくん」さん(@u_saku_n)が「2日目の3時頃に行ったのですが、とにかく若いお客さんがたくさんいて場内が賑やか! 自分もお客さんですが、嬉しくなっちゃった。」と言っていたとおりだ。

好評で「古本フェスタ」がトレンドに

 古本フェスタ、正式名称は「中央線はしからはしまで古本フェスタ」というものだそうで、聞いた話では、中央線沿線の古本屋さん37店舗が合同で行った催事ということである。もともとはコロナ禍でも新規開店したり組合に新規加入したお店が結構あり、しかし、そもそも店主同士の面識がないよね、と古書組合の中央線支部で話が出たのがきっかけだったそう。

 通常の週末展は、参加店舗は15店ほど、1店5〜6台の棚を準備するとのことだそうだが、古本フェスタは多くのお店が参加した分、1店で1〜3台だったそう。

 多様なお店が少数精鋭の本を出したからか、それともJR中央線ならではの文化的蓄積か、大変に好評で、古書展初日の夕方にはSNSで日本全体のトレンドに「古本フェスタ」が挙がったのだった。

 これも聞いた話だが、初日に200人ほど並んだのはよいとして(普段はその半分)、二日目にも50人ほどが開場待ちで並んだという。二日目にも開場待ちで並ぶというのは、なかなかないことではなかろうか。

 私もつい、楽しい気分になってしまって、よみた屋さんが出していた展覧会図録の山から、永青文庫編『春画展 = Shunga』(春画展日本開催実行委員、2015)を買ってしまうなど、買いすぎてしまい、5000円以上買上げでもらえるトートバッグに本を入れて帰ったことだった。売上のほうも良かったのではあるまいか。SNSによると、二日目、客が途絶えないので30分延長したとか。

アングラブックカフェの思い出

 「はて、こんな雰囲気の古書展がむかしあったような……」と思い返してみたら、2006年ごろから2009年ごろまでやっていた「アンダーグラウンド・ブックカフェ 地下室の古書展」という週末展に雰囲気が似ていると思い当たった。

 アングラブックカフェは、サブカル系だが定番の高価な古本を厳選し面陳して、コーヒーまで出していたところは異なるが、来る客層が若めで女子が結構多かったなど、今回の古本フェスに似ていたと言える。

 古本の話をすると「どうせ、おじさんとおじーさんの趣味でしょう」ってな反応をされることが多い(古書業者にも)。しかし、自分が若い頃を思い出してみると、若い人は単にアクセスする手段を知らないだけのような気がする。現在ただいまのありふれたものでない何か、という点で、古着など古物一般は若い人にオルタナティヴを提示できるわけで、その古物の中に古本もあるように思う。最近、よいしょ本でもアンチ本でもないブックオフ関連書が3冊も相次いで出たように(たとえばエッセーマンガ『新古書ファイター真吾』)、古本文化は薄まった形で一般人にも浸透していると思われ、むしろ古本文化は若い層にこれから広まる準備ができている気がする。

中央線文化を神保町に引き入れる?

 おそらくだが、今回の古本フェスタに来ていた人の多くは、中央線に乗って、御茶ノ水駅下車で来ていたのではあるまいか。

 SNSで古本フェスタがトレンドになったから来た、というお客さんもいただろうが、むしろ、すでに沿線古本屋さん固有の顧客になっている人たちが中央線に乗って来たから、SNSでトレンドになったと考えるべきなのでは。

 明治始めから神保町を始め書店街は、大学に引きずられて発展してきた。神保町しかり、本郷しかり、早稲田しかり。しかし、本というものが、学生必須の実用品から、ある種の趣味に変貌しつつある今、新しい発展形があってよいだろう。首都圏でも中央線文化は制度外の息吹を感じさせるもので、これからも根強く残っていくだろう。そういった文化に神保町、その古書会館が接続できた瞬間を古本フェスタに見た思いがした。以前、千代田図書館長だった柳与志夫さんが、神保町を秋葉原文化と繋げたいと言っていたが、実は中央線文化と接続できるのだ。

 二日目にもフェスタで少し拾い、そのまま高円寺の古書会館へ出張って、さらに古書店「一日」ガレージで富士ゼロックスPR誌『グラフィケーション』の山から読書・書物特集を10冊も掘り出して、中央線文化の底力を感じたことだった。
 
 
 
 

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https://twitter.com/shomotsubugyo

中央線はしからはしまで古本フェスタ
https://www.kosho.ne.jp/?p=783

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