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古本屋ツアー・イン・ジャパン2023年総決算報告

古本屋ツアー・イン・ジャパン2023年総決算報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 2024年元日、能登半島地震が発生してしまった。北陸の皆様にお見舞い申し上げるとともに、石川・富山・新潟の古本屋さんが無事であることを、ただ祈るばかりである。そして人間社会はすっかり新型コロナウィルスを御した形となり、方々でいわゆる日常を取り戻し、人が集まるイベントなども頻繁に行われるようになった。それはやはり賑やかで活気があり、素晴らしいことなのであるが、引き続き最低限の感染対策は続けるべきであろう。混み合う場所でのマスクや手洗いは、これからも必須にして行くつもりである。面倒ではあるが、おかげで相変わらず風邪もひかないのが大きなメリットである。と言うわけで古本屋さんも通常通りに営業するようになり、催事類も大きなもの含めて開かれるようになった。2023年は、感染症がマイナス面で世界をひとつにした時代から、抜け出した始めた特殊な時代になっていた気がする。トンネルを抜け出し、明るい世界に飛び出し始めたが、実はその長く暗いトンネルが、ジワリジワリと人々の気持ちに影響を与えていたのかもしれない。私はトンネル時代もそこから抜け出しても、古本屋通いと古本買いの毎日は決して変わらなかった。そんな愚かな男の行動と情報収集から(ほぼ東京近辺であるが)、何かの姿が浮かび上がって来るかもしれない…。まずは上半期の動きをおさらいし、下半期に突入して行こう。

 まず開店について言えば、神保町にパチンコ屋跡地を利用した巨大店「@ワンダーJG」、西荻窪に武道と関連深い外国人武道家が営む「文武堂」、祖師ケ谷大蔵にシェア型書店「BOOK SHOP TRAVELLER」が挙げられる。対して閉店情報は残念ながら賑やかで、荻窪「藍書店」、神保町「友愛書店」、浦和「金木書店」、川崎「朋翔堂」、沼袋「天野書店」などが惜しまれながらお店を閉めた。催事では由緒ある『城南古書展』が“ザ・ファイナル”と称し、東京古書会館地下での活動に終止符を打った。だが新たに西部古書会館では『高円寺優書会』と言う催事がスタートしている。この新しい催事の波は、実はこの後も続いて行く。これは古本業界の必死さであり、新たな道を切り開く決意表明でもあるのだ。と言うわけで下半期へ。

 七月には立石の下町老舗店「岡島書店」が閉店。実は駅近くのリサイクル系古書店「BOOKS-U」もすでに閉店してしまっていたので、立石から古本屋さんはなくなってしまったことになる。だが「岡島書店」の血は息子さんの「立石書店」&「古書英二」に脈々と受け継がれているので、これからも古本業界の一翼を支え続けてくれるはずである。また催事では『中央線はしからはしまで古本フェスタ』と言う、その名の通り主に中央線沿線の古本屋さんが多数参加した古書市が開催され、いつもは神保町に足を踏み入れぬ若者たちが大挙押し寄せる、伝説的な成果を上げ、古本業界の耳目を集めた。八月は京都に出張取材に赴いた折りに、好みの古本屋さんを訪ねつつ、一乗寺に出来ていた「TAKE書房」を訪問。ラーメン街道にある、古書の多い激安店であった。九月には三鷹で「藤子文庫」の閉店を確認。十月にはひばりケ丘で、何度訪れてもシャッターが下りっ放しの「近藤書店」の閉店を確信。十一月は、神保町路地裏のミステリ専門店「富士鷹屋」が閉店。十二月には高円寺で、「えほんやるすばんばんするかいしゃ」の隣りに出来た、ほとんど屋根裏部屋のような古書も扱う書店「ヤンヤン」に遭遇し、青年が営む新たなお店の息吹を気持ち良く身体に受け、本と言う文化はこれからもまだまだ続いて行くと、暖かな希望を感じてしまう。

 全体を見ると、ちょっと閉店が多い状況であろうか。しかも長らく営業していたお店の閉店が目立った気がする。店主の高齢化や跡継ぎ問題が原因のひとつであろうが、やはりコロナの影響も感じてしまう。さらに実際に目にした閉店ではなく、ブログのコメント欄にタレ込まれた情報も列挙しておこう。鹿島田「南天堂」、滝野川「龍文堂書店」、名古屋「つたや書店」、岡山「万歩書店中之町店」、盛岡「浅沼古書店」、早稲田「ブックス・ルネッサンス」、横須賀「沙羅書店」、西新井「古本のりぼん」、白楽「鐵塔書院」、大森「松村書店」などの閉店が確認されている。さらに東京では、リサイクル系のお店である「ブックセンターいとう」と「DORAMA」系列店の閉店が相次いでいる。常に閉店は悲しい寂しいことであるが、致し方ないことでもある。今現在、何かの条件が様々に重なり、このような事態を生み出しているのであろう。だが、人が動き、工夫を続ける限り、古本のある限り、きっと新たな局面は展開されるはずである。その展開を少しでも応援する為に、微力ながらこれからも大好きな古本を買い続けるつもりである。

 またこの年は、古本屋さんの手伝いを頻繁にした年でもあった。もう十年以上、西荻窪「盛林堂書房」で大きな買取の時に“盛林堂・イレギュラーズ”と称し、本を運ぶ苦役を担っているのだが、何と一年で二十三回も出動していたのである(恐らく冗談ではなく十万冊は運んだ気が…)。そのおよそ半分は、稀代のアンソロジスト・日下三蔵氏の書庫片付け手伝いであるが、実はその書庫も段々と完成に近付いており、今年中にはクライマックスを迎える予感がヒシヒシとしている。さらに盛林堂では、“盛林堂・イレギュラーズ・エクストラ”と称し、三月の『神保町さくらみちフェスティバル 春の古本まつり』四月の『SFカーニバル』十月の『神田古本まつり 青空掘り出し市』でブースの売り子を務め、攻め寄せるお客と暗算地獄に、頭から煙を吹き出しそうになる。こんな風に古本屋さんと関われるとは、古本屋好き冥利に尽きるお仕事であった。こちらも依頼のある限り、今年も続けて行く予定である(すでに正月明けに一万冊を二階から独りで下ろす仕事が……)。

 古本屋さんとの関わりと言えば、一昨年横須賀中央の「港文堂書店」が店主の急逝により閉店してしまったのだが、以前から親交のあった娘さんが、お店は継がなかったが、時折片付けの終わった店舗部分で、常連客さんが集まり『BOOK赤提灯』と称する飲み会を行っていると言うので、年が押し迫った三十日に参加させてもらった。あの元気でおしゃべりで笑顔の輝く店主はもういなかったが、本の無くなった骸骨のような棚、主のいない番台、そこに集まり昔話に花を咲かせる人々を見て、ここに古本屋さんがあったのは、かように意味があったのだなと思い、しんみりじんわりかつてのお店を懐かしんで来た。その時にいただいた、片付けの際に出て来た、横須賀の風景を描いた版画が印刷された、古いオリジナル書皮は、大事な宝物となっている。

 こんな風に、一年間古本屋さんの中を駆け抜けて来たが、今年も変わらず駆け抜けて行く所存である。さて、最後に古本者の業としての、下半期の古本成果を挙げておこう。国土社「空をはしるヨット/香山美子 伊坂芳太郎」二百円、現代社「はだかの王様 山下清日記/式場隆三郎編」(山下・式場連名書名入り)二千円、講談社「怪奇雨男/都筑道夫編」五千五百円、奢覇都館「美童 山崎俊夫作品集 上巻」八百八十円、などであろうか。今年も引き続きこのような値段で良書をハントして行きたいものである。

 
 
 
 
小山力也
2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚と大阪「梅田蔦屋書店」で古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』、「日本古書通信」にて『ミステリ懐旧三面鏡』連載中。
http://furuhonya-tour.seesaa.net/

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