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『合成開口レーダによる高精度な地球観測の原理と実際』【大学出版へのいざない15】

『合成開口レーダによる高精度な地球観測の原理と実際』 【大学出版へのいざない15】

島田政信(東京電機大学 理工学部教授)

 合成開口レーダとは、航空機や人工衛星などに載せて地球を観測するカメラである。いや、カメラというと大きなレンズを持ったカラフルな写真を撮る装置を思い浮かべるから、正しくない。正確には、電磁波を用いて(発射して)、反射してきた信号をコンピュータ処理・解析して地球の写真(画像)を撮る装置である。画像はグレーレベルの濃淡図である。英語名はSARという。Synthetic Aperture Radarの頭文字を取ったものである。のっけから、小難しい話になった。本書が発売になった折に、私のフェースブックで紹介してみたら「合成開口レーダって、なあに?」と質問されて、答えを書いてみたのだけど、もっとわかりやすい説明はないかと常に悩んでいる。実は、災害は曇天下で多く起こるが、その時でも使用できる優れたセンサーなのである。

 SARを積んだ人工衛星は1978年6月28日に、NASAによって初めて打ち上げられた。宇宙から観測に使えるかどうかの実証実験である。ほぼ想定どおり、いやそれ以上の成果を得た。夜でも、曇りでも、多少の雨でも、地球を映せる。地表の凸凹を計測できる。コンピュータの能力しだいで大量に高速に処理ができる。陸だけでなく、海洋も観測できる。結論として「SARは使える!」ということであった。しかし、当時SARを打ち上げられるのはアメリカだけであった。SARによる地球観測の重要性が広く認識されるまでに時を要するが、その後、宇宙開発を競争の場とし、欧州、日本、ロシア、カナダなどの先進国が独自のSAR衛星を打ち上げる。1990年台の話である。

 これらの衛星で得たデータは公開され、SARの研究が一気に進む。ハードウェアの研究のみならず、SARの原理、なぜ絵ができるのか、なぜ地球は観測できるのか、SARを計測器として仕上げるには何が必要か?どのような応用ができるか、などなどである。

 当時、私は宇宙航空研究開発機構(JAXA)でレーダリモートセンシングを始めたばかりで、アメリカやカナダでのSARの研究集会に参加する。その後、SARの研究者となり、校正の研究を行い、研究集会で発表する。自身の研究に必要なことから、小さなメモリのパソコンで動作するSAR画像化ソフトの開発を行う。それが認められたのか、目についたのか、ある日、上司からJAXAのSAR(PALSAR)を生データから画像にする“運用ソフトウェア”を作るように命じられる。画像を外部に提供すると、研究者からクレームが来る。文句をいわれない、そして使ってもらえるロバストなソフトウェアにする必要があった。ある意味真剣であった。その過程で、さまざまな教科書や論文に出会う。結局は、自ら苦労し、試行錯誤や研究をしなければ、ものは成就せず、SARには、くせがあり、教科書通りにはできないことを学ぶ。2015年にJAXAを退職し、東京電機大学に奉職する。本書は、2015年に国際的な研究者のDr. ジョンセンリー先生から「島田さん書いてみませんか?」といわれ、それではということで、まず英語で刊行したものを、数年おいて、一部手直しして日本語にしたものである。

 SARは電磁波を用いる。電磁波は18-19世紀の先達クーロン、ファラデーの研究をもとに、マクスウェルが築き上げるが、存命中には発見されない。その後ヘルツにより確認された目に見えない波である。この波が、遠隔観測の源となり、SARの観測を支える。SARというと画像処理や画像間の演算が主に説明されるが、その実、電磁波の散乱が屋台骨を組むので、物理現象に戻って電磁波の散乱を考えることは非常に重要である。今日、SARの研究は非常に進んでいる。画像化、キャリブレーション、ポラリメトリ、インターフェロメトリ、バイスタティックレーダ、災害解析、森林解析、時系列解析、さまざまなキーワードが目白押しで、将来さらに発展が期待されるセンサーである。

 本書は、私の研究生活で学んだことから、SARの原理から応用までを説明したものである。第1章は、SARの概要、第2章はハードウエア、第3章はSARの画像化の基本原理、第4章はSAR画像のレーダー方程式、第5章はScanSARの画像化、第6章はポラリメトリック校正とラジオメトリ、第7章はアンテナパターン、第8章は幾何学校正、オルソ補正、勾配補正、第9章は校正:ラジオメトリとジオメトリ、第10章は移動体の画像化、第11章は長尺・時系列SAR画像とモザイク、第12章は干渉SAR、第13章は特異画像:不要波と電離層の影響、第14章はアプリケーション、そして第15章は森林図作成である。

 SARの性能は年々向上し、衛星は増えてきた。本書は、時・空間的に拡大するSARについて、原理を学んでみたい、SAR画像の現状を知りたいという方々に贈りたい本である。

 
 
 
 
 


書名:『合成開口レーダによる高精度な地球観測の原理と実際』
著者名:島田政信
出版社名:東京電機大学出版局
判型/製本形式/ページ数:A5/並製/520ページ
税込価格:8,800円
ISBNコード:9784501335502
Cコード:3055
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https://www.tdupress.jp/book/b634382.html

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