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編集長登場(6) 月刊『みすず』について

月刊『みすず』について

守田省吾

酒井啓子「「アラブの春」と「ウォール街」と「3・11」をつなぐもの」、小池昌代「三月の冷たい水」、海老坂武「没後50年、フランツ・ファノン」、森まゆみ「奇祭・湯かけ祭りの朝――どたんばの八ッ場ダム」。いま作業中の『みすず』3月号の目次の一部である。その他に連載がいくつか。2012年3月号は第54巻第2号、通算では602号になる。

 『みすず』の創刊は1959年4月。『学燈』にははるか及ばないものの、PR誌としてはけっこうパイオニアだ。創刊号ではみすず書房の新刊書5冊を、関根正雄・宗左近・小堀杏奴・宇佐見英治・山室静がそれぞれ書評している。しかし、自社の刊行物の宣伝を中心とするPR的機能は徐々にうすれ、5冊が3冊、2冊が1冊となり、1970年1月号からは自社の新刊書評の類はほぼなくなってしまった。以来、PR誌らしからぬPR誌として現在にいたっている。

 『みすず』はみすず書房の出版物のシンボル的存在である。1960年代から30年ほどつづいた「海外文化ニュース」のコーナーは翻訳書を中心とした小社にふさわしく、また1966年2月号にはじまり、現在もつづいている年に一回の「読書アンケート特集」では、これもみすずの本同様、多種多様な分野の先生方が多岐にわたるジャンルの本について執筆されている。2012年1・2月合併号の「読書アンケート特集」には148名の方々からの回答があった。新刊既刊を問わないこと、800字程度のコメントをお願いしていること、海外の本も挙げられていることが特徴だろうか。

 90年代にはちょっと色気を出して国際文化雑誌をめざし毎月百数十ページにまでふくらんだが、いまは身の丈にふさわしく、70ページ前後の小冊子として落ち着いている。

昨年はチャールズ・ローゼン、キャシー・カルース、タラル・アサド、エヴァ・ホフマンなど、毎年同様、海外の著者の文章もあり、また震災後の4月号からは精神科医・中井久夫による「東日本巨大地震のテレビをみつつ」を皮切りに、多様な角度から震災・原発に関わる文章の掲載をつづけている。上に記した小池昌代さんのエッセイもその一つだ。昨年8月に刊行した山本義隆『福島の原発事故をめぐって』は、当初『みすず』で依頼したものの、あまりに原稿枚数が多くなったために単行本にしたしだいである。また11月・12月号掲載のヨアヒム・ラートカウ「ドイツ反原発運動小史」は、上野千鶴子さんはじめ絶賛をいただき、注文が殺到している。

『みすず』の連載からは昨年、外山滋比古『失敗の効用』、植田実『住まいの手帖』、五十嵐太郎『被災地を歩きながら考えたこと』、松本礼二『トクヴィルで考える』の4冊が単行本になった。このように、本が生まれる場でもあるが、なにより、読者と著者と出版社を結ぶ敷居の高くないささやかなアリーナとして、今後も機能していきたいものである。

(『みすず』編集長 守田省吾)

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