今月半ばに『書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力』(皓星社)を刊行した。
「日本の古本屋メールマガジン」で現在も連載中の「書庫拝見」より、その前半に掲載した
記事を収録したものだ。
本書では、15の図書館・文学館・資料館を取材している。全体を3章に分けた。
《地域の知を育てる》には、県立長野図書館、伊那市創造館、宮城県図書館、長岡市立中央
図書館・文書資料室、釧路市中央図書館・釧路文学館が登場。
《遺された本を受け継ぐ》には、東洋文庫、国立映画アーカイブ、草森紳一蔵書、大宅壮一
文庫、遅筆堂文庫が登場。
《本を未来へ》国立ハンセン病資料館、長島愛生園神谷書庫、大島青松園、新潮社資料室、
日本近代文学館が登場する。
連載で最初に取材したのは、県立長野図書館と伊那市創造館。2021年12月はじめだったので、単行本が出るまでちょうど3年かかったことになる。
取り上げたい館の候補を考えつつ、さまざまなルートで、取材に応じてくれそうな館員を探した。素晴らしい蔵書を持つ館でも、その館を知り尽くした館員に話を聞かないと、その魅力が伝わらないからだ。
また、首都圏以外の館を取材するためには、私自身がどう動くかも重要だ。どこからも取材費が出ないので、別の取材やイベントにくっつけるしかない。
釧路市中央図書館・釧路文学館や遅筆堂文庫は、同館でのイベントに出演する前日に取材したし、釧路の翌日に帯広に移動して草森紳一蔵書を取材した。めちゃくちゃな強行軍だが、その分、印象に残る取材になった。
ある館の取材が別の館への関心へとつながることも多い。国立ハンセン病資料館の図書室の
取材では、自分がこの問題について知らないと感じ、岡山の長島愛生園神谷書庫と、香川の
大島青松園にも行った。
連載を始めた頃は、1回があまり長いと読まれないと思い、1館を前後編に分けて書いたこともあるが、途中からは、どうせ読まない人は読まないんだからと開き直って、長くても1回で書くことにした。
決して怠けているわけではないのだが、構成が見えるまでは書きはじめられないという悪癖から、締め切りを過ぎてしまう。取材先に確認していただく時間が必要だが、そのデッドラインまで引きずって、やっと編集を担当してくれた皓星社の晴山生菜さんに原稿を送る。噂では、古書組合のメルマガ担当者の夫であるKさんは「妻を泣かす気か!」と憤慨しているという。本当にすみません。
これまでメルマガやウェブでの連載をいくつかやってきたが、紙の雑誌に比べると、ほとんど反応がなかった。そんなものだろうと思っていたが、「書庫拝見」に関しては違った。会う人から「あの図書館にあんな蔵書があったんですね」「今度は◎◎を取材してくださいよ」などと云ってもらえる。読まれているのだという手ごたえを感じた。
書籍化にあたっては、原稿に手を入れるとともに、各館にもう一度確認を取りその後の変化も加えた。その過程で、私の勘違いや思い込みを訂正することができた。また、連載時には
掲載できなかった写真も追加した。メルマガで読んでくれた人が、改めて読んでも面白い本になったはずだという自負がある。幸いにして本書が好評なら、続編を出したい。
完成した本を各館に献本するときに感じたのは、「蔵書を取材したこの本もまた、図書館の蔵書の1冊に加わるのだな」ということだった。
取材にあたっては、館員の話を聞くとともに、多くの資料を参照し引用した。こんどは、私の本もそういう対象になるわけだ。本書の記述が間違っていたら、引用されると間違いも踏襲されてしまう。嬉しい半面、責任も感じる。
メルマガでの連載は、現在も継続中。毎回必死で取材と執筆の自転車操業を続けています。
ぜひお読みいただき、感想、意見、𠮟声をお寄せください。
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。
X(旧Twitter)
https://twitter.com/kawasusu

書庫をあるく アーカイブの隠れた魅力
南陀楼綾繁 著
2,530円(税込)
皓星社 刊
好評発売中!
https://libro-koseisha.co.jp/history_culture/978-4-7744-0840-8/