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〈左翼出版社〉が生き生きと息づいた時代

〈左翼出版社〉が生き生きと息づいた時代

井家上 隆幸

 五味川純平『人間の条件』は、最初持ち込まれた理論社社長の小宮山量平さんから三一書房の竹村一にわたり、世に出たという“ベストセ ラー誕生秘話”にしたがうならば、小宮山さんなければわたしの〈現在〉はないのですが、その小宮山さんは、出版社の生産物には本来の「出版物」 と「出版産業製品X」の二つがある、といっています。

「出版」「編集者」についてはまったく無知なまま、とびこんだ「出版」という世界は、警職法改悪反対闘争(59年)―安保改定阻止闘争・三池闘争(60年)、そして高度成長期に入るという時代で、「出版物=岩波新書」と「出版産業製品X=カッパ・ブックス」を両極とし、その間に、多くの「X商品」や中公新書や現代新書、それにほどなく撤退しますが、筑摩書房や新潮社、文藝春秋、講談社などが参入した“新書ブーム”の時代でした。

手許にある「日本読書新聞」縮刷版(60年―68年)や、「若者の文化」(いまはサブカルチャーというけれど、当時はカウンター・カルチャーといった)が沸騰した60年代を回想する津野海太郎『おかしな時代/『ワンダーランド』と黒テントへの日々』(本の雑誌社)などをみれば一目瞭然のように、この時代は、日本共産党を「唯一の前衛党」とする無謬神話は崩れ、ベトナムに平和を市民連合(ベ平連)が生まれ、既成の新劇を攻める紅テントや黒テント、天井桟敷など無名の若者たちの〈叛乱〉のように、政治・文化・風俗――あらゆる場で、「秩序」を「紊乱」する行動が渦巻いていて、いまはほとんど揶揄の対象でしかない〈左翼〉が元気な時代でした。「平民労働者の成就せんとする革命は、政治組織や経済組織の革命ばかりではない。

人間生活そのものの革命である。人間の思想と感情、およびその表現の仕方の革命である」と大杉栄が喝破したその〈革命〉が、価値の転覆と新しい思想と事実との創造が〈時代精神〉となった時代でした。左翼出版社三一書房も三一新書も、その〈時代精神〉を呼吸していました。1958年―73年、15年在籍したわたしもそうでした。

しかし、70年代以後、「左翼」の政治論議も“井戸端会議”になりさがり、89年11月のベルリンの壁の崩壊、冷戦体制の終結、東欧社会主義国の崩壊、91年12月のソ連の崩壊と続くなかで〈左翼〉は軽侮の同義となり、かつての左翼史観は“自虐史観”と貶められていますが、あれからざっと45年、「歴史なんざ無用の長物」といった風潮が圧倒的で、「出版産業製品X」が猩蕨をきわめるなかで、〈左翼〉〈左翼出版社〉が生き生きと息づいた時代のあったことを記録しておくことは、けっしてムダではありますまい。こどものころから身にしみついた「自分に甘い性格を許す怠惰」はついに克服できず、先達正木重之が生きてあれば顰蹙したであろうことは重々承知、であります。

『三一新書の時代』 井家上 隆幸 著
論創社刊 定価:1600円+税
 http://www.ronso.co.jp/

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