古本屋ツアー・イン・ジャパンの2014年を振り返って
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毎年この時期に、どうにか切り抜けた古本屋さんと古本まみれの一年を回顧して、この場を借りて書き記しているのだが、全体的に各年を並列して俯瞰してみれば、それはほぼ同じことの繰り返しである近似値な一年一年であるはずなのに、それでも一度として同じ一年はないのである。
昨年を一言でいえば、神保町に身も心も捧げた一年ということになるだろう。新刊「古本屋ツアー・イン・神保町」をまとめるために、神保町とその周辺で古本を売っている場所を、余すところなく調べ続けていたら、自然と神保町に入り浸ることとなってしまった。街の中に散在するおよそ百五十店を、年の初めには半分ほどすでにツアーし終えていたとはいえ、それでも残りの七十店を六ヶ月余で調べ尽くさねばならぬ状態であった。また、過去のツアー時より様相の変わっているお店や、意外に出現する新店もフォローして行かなければいけない。尚且つ店仕舞いをするお店も出て来たりするので、神保町に足を踏み入れたら一店のツアーだけでは済まずに、古書街全体の動きを敏感に察知し、本作りのための情報を更新していかなければならなかったのである。 そんな風に苦心して街を徹底的に歩き回り、一冊の本を上梓したのだが、これはあくまでも街の一面を捉えただけであって、これで神保町の全貌が!などと愚かな主張をするほど鉄面皮ではない。これからも街は変わり続けるだろうし、お店の入れ替わりもあるだろうし、何より雲の上の事務所店がワンサカ残っているのだ。いつの日かそれらもツアーさせていただき、「古本屋ツアー・イン・神保町 完全版」を作りたいと、早くも夢見ていたりする。 神保町に心血を注いでいる間は、それほど地方に足を延ばすことは出来なかったが、それでも釜石と八戸に足跡を残し、これでひとまず大震災以降の太平洋沿岸古本屋消息を、一通り調査し終えたことになった。久々の京都では二泊三日で腰を据え四店をツアー。札幌ではアイヌ文献に強い「サッポロ堂書店」を早い雪の中に訪れ、すっかり閉店していたと思っていた長野北部の信州中野「ブックス柳沢」に入れたのも僥倖であった。一時期古本屋不毛の地になりかけた新潟では、年末ギリギリだったためにお店に入ることは叶わなかったが、新店やブックカフェの影を捉えることに成功した。 続いて一年を通しての、首都圏での新開店と閉店のせめぎ合いを見てみよう。 開店したのは「水中書店」「藍書店」「午後の時間割」「秋葉星雲堂PX」「古書ウサギノフクシュウ」「BOOK CAFE 二十世紀」「ちがりん書店」「書肆逆光」「東京ベンチ」「古本なべや」「古本 雲波」「狐白堂」「青と夜ノ空」「えほんのがっこう」「澤口書店 東京古書店」「Tweed Books」などが代表的なところであろうか。 閉店したのは「國島書店」「谷川書店」「寅書房」「ほんだらけ本店」「浅草古書のまち」「赤い鰊」「新生堂奥村書店」「猫額堂」「木犀堂」「トップ書房」「なずな屋」「ひばり書店」「小林書店」「古書いとう」「山の手文庫」「ブックパワーRBS」「サンダル文庫」「中神書林」「喜楽書房」「秋葉星雲堂PX」。 両方に「秋葉星雲堂PX」が入っているのは、開店から閉店までの時間が極端に短かかったからである。その理由は、店内にシリアと新疆ウイグル自治区での求人募集を貼り出していたため、それが問題となり閉店に追い込まれたのである。なので結果として去年一番マスコミを騒がせた古本屋さんとなったわけだが、ただお客として通っていた私にとっては、安値の掘り出し物が多い、電気街の静かで薄暗いお店でしかなかった。 かように様々な理由で名店や地元店たちが、蝋燭が尽きるように消えて行っている。またその一方、希望に燃えた新店も様々な営業形態で日々船出しているのが現状である。心の中に墓標のように建つ、思い出の古本屋さんは増える一方だが、現実のお店の数は減少傾向にあるとはいえ、日々勇気ある開拓店が姿を現すので、まだまだそう簡単に、古本屋事情は変わらないのではないだろうか。いや、実際に粘って粘って粘り抜いていただきたい! また毎日血眼で古本屋さんを探していると、街の片隅でひっそりと息を殺し、忘れ去られたように営業を続けているお店に、出会ったりすることもあった。大山「大正堂」蒲田「石狩書房」清瀬「臨河堂」押上「イセ屋」北赤羽「桐北書店」松戸新店「つなん書房」などは、特に天然記念物的で貴重な発見と自負する。粘り過ぎたために、もはや植物の域に達したお店たちであるが、今日もひっそりと古本の花を、街に咲かせているのである。 ツアーを重ねる度に、段々と訪ねるべきお店はその数を減らして行くのだが、日々のブログは再訪問やテーマを決めてルート設定したりと、工夫しながら更新を続けている。その場合、お店の調査ではなく行動の記録が主となるため、それほどの集中力は必要としないのである。自然その比重はブックハントに移ることとなる。そうなると再訪問するお店の見方もちょっと変わり、以前は分からなかったジャンルの良さや棚の流れを発見したりすることもあるのだ。古本屋さんは、こちらの行動や心構えによって、かようにも姿を変えるものなのか!と改めて気付いた2014年でもあった。 そしてすでに走り出した2015年。その元日に、東京の三大古本屋街である『神保町』『本郷』『早稲田』の休養する姿を堪能した後、あるお店の店頭で古い一冊の本を掴み出す。それは、椎の木社「随筆/井伏鱒二」で、驚くことに見返しに、三好達治への謝辞献呈署名が入っていたのである! これは、私が今まで掴み取って来た古本の中でも、一等貴重なものであろう! それが500円! 古本屋さんの店先には、まだまだこんな夢が転がっている! 恐るべきロケットスタート! しかしこれで早々に、一年分の古本運を使い果たしてしまったのかもしれない。それでもめげずにこれからも様々なお店をツアーして、古本を買いまくることを、ここに誓います! |
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