文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大

古書を探す

メールマガジン記事 編集長登場

雑誌ケトルと無駄について考えた

雑誌ケトルと無駄について考えた

嶋 浩一郎

雑誌ケトルを創刊したのは4年前。コンセプトは「無駄が詰まった雑誌」。創刊号は本屋特集だったのだが、特集の中で典型的な書店員のペルソナを解き明かすべくアンケートを実施した。結果、書店員は長男が多くて、A型が多くて、AKBなら篠田真理子好きということが判明。そんな情報が何のために役立つのかと思う人もいるのだろうが、僕は雑誌には何のために役に立つのか分からない“雑な”情報がたくさん入っているべきだと思うのだ。アシモフは“人間は無駄を楽しめる唯一の動物”と言ったそうだが、無駄を楽しむことほど贅沢な体験はないと思う。

映画を見るのも、本を読むのも何かと理由を付ける人が多い。広告業界にいる自分が言うのもなんだが、“泣ける映画”とか“アイデアが出る本”とかコンテンツの効果効能をアピールし過ぎなのではないか?
いつどこで役に立つか分からない情報に出会えることこそ雑誌の魅力なんだと僕は思っている。そんなわけで、村上春樹特集では村上春樹に出てくる全サンドイッチをリサーチ。田舎に新幹線で帰る時にはハムサンドを、厳しい仕事の前にはキュウリとハムとチーズのサンドイッチを、セックスをした後にはレタスとソーセージのサンドイッチというふうにシチュエーションによってどんなサンドイッチを選ぶべきか調べてみた。まあ、この情報が凄く役に立ったという読者が現れたら最高なのだが、まあ、新しいことを知るだけでも人間は興奮する動物だと思うのだ。

ところで次号の特集は“バックトゥーザフューチャー”。なのだが、この映画は伏線だらけの映画である。前のシーンに出て来たほんの些細なセリフが重大な局面を救うことになるのだ。たとえば、主人公マーティーが教会でもらったビラのおかげで過去の落雷事故の時間が分かり、それが現代に戻る重要な手がかりになる。あるいはタイムマシンを発明したドクが「トイレで滑って便器に頭をぶつけた時にタイムマシンを思いついた」と話していたことを過去のドクに伝えることでマーティーが本当に未来から来た人間だと信用させた。

映画の作り手は、あるシーンやあるセリフが、次のプロットにどう繋がるか分かっている。ある意味、神の視点でストーリーをつくることが出来る。しかし、映画の中の登場人物は未来に起きることを知らない。
映画の伏線は些細なモノであるほど見るものを感心させる。え、あのシーンがこんなに役に立ったんだ!と。ケトルに満載される無駄な知識や情報もバックトゥーザフューチャーの伏線のようにいつかどこかで大化けしてくれたら嬉しい。ちなみに、日本で公開される映画で“全米一位”ってキャッチコピーを使ったのは「バックトゥーザフューチャー」が一番最初なんだそうです。

ketoru1

『ケトル vol.23 辞書と図鑑が大好き!』
太田出版刊 定価900+税 好評発売中
http://www.ohtabooks.com/

Copyright (c) 2015 東京都古書籍商業協同組合

  • コショな人
  • 日本の古本屋 メールマガジン バックナンバー
  • 特集アーカイブ
  • 全古書連加盟店へ 本をお売り下さい
  • カテゴリ一覧
  • 書影から探せる書籍リスト

おすすめの特集ページ

  • 直木賞受賞作
  • 芥川賞受賞作
  • 古本屋に登録されている日本の小説家の上位100選 日本の小説家100選
  • 著者別ベストセラー
  • ベストセラー出版社

関連サイト

  • 東京の古本屋
  • 全国古書籍商組合連合会 古書組合一覧
  • 版元ドットコム
  • 近刊検索ベータ
  • 書評ニュース