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『じゃがたら 江戸アケミ、四万十川から』

『じゃがたら 江戸アケミ、四万十川から』

吉岡 誠 (股旅堂)
 1978年から1990年まで活動したロックバンド・じゃがたら(JAGATARA)。そのヴォーカリストでリーダー、江戸アケミさん(本名:江戸正孝、以下敬称略)の故郷・高知県中村(現四万十市)での幼少期から高校、そして上京後の音楽活動と、その全ての足跡を辿った記録を書かせていただきました。故郷の旧友、じゃがたらメンバー、関係者などの証言や御本人のインタビュー発言、中村時代そしてじゃがたらの貴重な写真や資料なども多数掲載しています。

 じゃがたらの名が知られるようになったのは、1980年。当時のバンド名は「財団法人じゃがたら」でした。その頃から、江戸アケミがライヴで自ら額を切って流血して暴れるなど、過激なエログロ・パフォーマンスを始め、当時のパンク・ロックのムーブメントと連動して脚光を浴びることに。しかし、週刊誌などで面白おかしく取り上げられるだけで、メディアで音楽性について語られることは殆どなく、その後、アケミは音楽だけで勝負することを決意。
 「暗黒大陸じゃがたら」と改名し、1982年5月に満を持して自主製作でリリースした1stアルバム『南蛮渡来』は、後に日本のロックの金字塔として語り継がれることになります。パンク・ロックとファンク、アフロビート、レゲエ、ダブ、それらが雑多に混じり合う、泥くさく生々しい音楽は、各メディアで絶賛され、初めて音楽的な評価を受け、アンダーグラウンド・シーンの孤高の存在として、熱狂的な支持を獲得。
 しかし、「じゃがたら」と改名し、自主レコードに門下を開放する目的で完全DIYの専用録音スタジオをスタートされるなど、精力的に活動していた矢先、1983年11月の関西ツアーからアケミは精神のバランスを崩し始めます。1984年3月からは故郷の高知県中村へ戻って長期療養をすることに。その経緯は1985年にリリースされたドキュメンタリー的なライヴ・アルバム『君と踊りあかそう日の出を見るまで』に詳細に記されています。

 私が、じゃがたらを初めて聞いたのは、1985年、16歳の時。リリースされたばかりのそのライヴ・アルバムがNHK-FM(渋谷陽一の「サウンドストリート」)で掛かったのを偶然聞いたのです。
 当時はパンクばかり聞いていた私がラジオで偶然聞いただけで、何故もの凄く興味を持ったのかはよく分かりません。雑誌にアケミの精神的不調時のエピソードやそれが記録されているこのアルバムの紹介が書かれていて、それに触発されたのかもしれません。ラジオを聞いた数日後には、当時住んでいた兵庫県から電車を乗り継いで大阪心斎橋まで行き、そのライヴ・アルバムと、少し前に再々発された1stアルバム『南蛮渡来』を購入しました。
 じゃがたらに激しく衝撃を受けた理由は、世界中の音楽の影響を受けながらも、海外からの借り物や模倣ではなく、あくまでそのリズムが日本人独自の土俵に立脚していたこと、そして、表裏一体の聖と俗を体現するアケミの詩とボーカル、その凄さを、高校生の未熟な頭と体で(いや、未熟で何にも毒されていなかったからこそ)直感したのではないかと、今になって思います。

 アケミは1986年にようやく本格的に復帰。第2期「じゃがたら(JAGATARA)」がスタートします。1987年3月には、復帰後初のアルバム『裸の王様』をリリース。アケミの復調とともにバンドは安定した時を迎え、同年12月にリリースされたインディーズ時代最後のアルバム『ニセ予言者ども』は、メンバー間の絶妙なコンビネーションが発揮され、バンドのひとつの到達点として最高傑作に挙げるファンも多い名盤です。

 1988年、大学入学で上京して、ようやくライヴに通い始め、結果的には、じゃがたら最後の2年間だけとなってしまいましたが、首都圏で行われたライヴは殆ど行くほど熱中しました。言葉に出来ないほどの満足感で、じゃがたらの演奏を、アケミのMCを思い出しながら、汗まみれのままで体から湯気を出しながら、ライヴハウスから歩いて帰った、あの頃のことを今でもよく覚えています。

 1989 年4月には、アルバム『それから』でBMGビクターからメジャーデビュー。前年のレコーディングあたりから、アケミの体力は休養以前の状態へと回復していましたが、その一方で、テンションの高さは凄まじくなり、その後、徐々に周囲との方向性や価値観のズレを感じ始め、音楽メディアが振りまくロック幻想やそれに乗っかる聴衆に対しても苛立つようになっていきます。同年12月にメジャーから2枚目のアルバム『ごくつぶし』をリリース。
 翌1990年1月27日。アケミは自宅の風呂に入っていて、そのまま眠ってしまい、溺死しました。精神的不調から復帰以降も飲み続けていた薬の影響もあるだろうが、むしろ過労が原因ではないかといいます。アケミの急逝により、じゃがたらは「永久保存」という形で活動を停止することに。

 訃報を知ったのは、友人からの電話でした。心にぽっかりと穴が空いてしまった、あの日のことは一生忘れません。
 バブルで洗練されていく世の中にあらがうかのように、いつも〈土くさいノリで〉とメンバーに求め、どこまでも思いを突き詰めて自らを追い込んで歌い続け、それに呼応するバンドの演奏の凄まじさ。あれから36年という長い時が経ちましたが、じゃがたらの音楽や江戸アケミの言葉は今も多くの人を惹きつける普遍的なリアリティを持ち続けています。

 普段は、股旅堂という古書店を営む、じゃがたら関係者でも音楽関係者でもない、ただの一ファンの私がこの本を書いたのは、色んな偶然が重なってのことでした。
 Twitter(現 X)に、「未だ果たせていない江戸アケミさんのお墓参りに行きたい」と書き込んだことがきっかけで偶然知り合った高校時代の親友・武内文治さんからの誘いで行った初めての中村への旅(2023年7月)。
 そこで旧友から貴重な話を聞き、お母様の御遺品の写真などを預かり、東京に戻った後、これは記録に残さなければいけない、自費出版で高知中村編だけの小冊子を作ろうと思い立ち、メンバーや関係者に相談。それが始まりでした。
 2度目の旅(2024年10月)では、従兄、当時通っていた教会関係者から、さらに深い話をお聞きして、小冊子では収まらない内容になりました。その後、編集者や出版社との出会いがあり、上京後の音楽活動の話も含めた本格的な書籍にしようと、東京で関係者への取材も始めることに。
 さらに3度目の旅(2025年9月)は、じゃがたらのギタリスト・OTOさんも同行して下さり、旧友宅での歓迎会、教会の日曜礼拝参加、ゆかりの地巡りと、語り切れないほどディープな旅になりました。

 1990 年の日比谷野外音楽堂「江戸アケミ追悼コンサート」で涙していた21歳の自分に、こんな本を作る日が来るよと教えてあげたら、きっと驚くでしょう。何の因果かたまたまこの本を書くことになっただけですが、それは、私の使命として課せられたのではないか、そうとしか考えられないような出来事や出会いが、旅行中や執筆中に何度もありました。
 本書に記したことは、江戸アケミのほんの断片に過ぎません。昨今、アケミが神聖視された存在であるかのように語られているのを見かけますが、アケミ自身はそんなことは望んでいないでしょう。それを考えながら、何度も書いては消してを繰り返し、眠れないほど苦悩した執筆と取材の日々でした。
 しかし、特に高知県中村時代の話は、私がここで書き残さなければ、おそらく永遠に誰も書かないでしょう。次の世代に少しでもその足跡や思いを伝えたいという気持ちはきっと分かって下さると信じています。

 じゃがたらの素晴らしい音楽がずっと聴き続けられますように。




書名:『じゃがたら 江戸アケミ、四万十川から』
著者:吉岡 誠
発行元:SLOGAN
判型/ページ数:四六判/320ページ
価格:3.190 円(税込)
ISBN:978-4-909856-30-2
Cコード:0073

好評発売中!(2026年1月27日/江戸アケミ命日発売)
https://slogan.theshop.jp/items/128785519

股旅堂ウェブサイト https://www.matatabido.net
Xアカウント @matatabido


 3月27日に、田口トモロヲ監督、宮藤官九郎脚本で、1980年前後の日本のアンダーグラウンドなパンクロックシーンを描いた映画『ストリート・キングダム』が公開され、江戸アケミ役を中村獅童が演じています。
 この映画をきっかけに、若い世代の方にも、じゃがたらや江戸アケミに興味を持っていただければ幸いです。

映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』
https://happinet-phantom.com/streetkingdom/

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