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『水脈 第二十二号』と、高原書店の思い出

『水脈 第二十二号』と、高原書店の思い出

広瀬由佳子(古書音羽館)

昨年の秋、徳島県立文学書道館の学芸員の方より、研究紀要『水脈 第二十二号』に、高原書店について掲載したいとの連絡がありました。

高原書店は、1972年に徳島県出身の高原坦(たかはら・ひろし、2006年逝去)が東京都町田市に開業し、2019年に惜しまれつつ閉業した大型古書店です。

そこで、奥様の陽子さんと相談し、座談会形式として掲載していただくことになりました。高原陽子さん、澄田喜広さん(よみた屋)、広瀬洋一(音羽館)、私で町田に集まり、高原書店について振り返ることは、懐かしさと共に新たな気づきもあり、有意義な時間となりました。

町田で生まれ育った私にとって、高原書店との出会いは小学六年のときです。家から徒歩五分の緑屋がPOPビルとしてリニューアルしたとき、一階デッキ部分で古本のワゴン販売をしていました。たいへんな賑わいでしたが、「なぜ新しくない本を売っているのだろう?」と不思議に思ったものです。その後、大学三年生になり、アルバイトとして雇っていただきました。その頃には文化的なものへの憧れが育っていたのです。

最初の面接で、高原坦社長(以下、社長)は、「新刊書店が扱う本の量と比べたら、古本屋の扱う量は膨大なんだ。だから面白い」と言いました。「これは大変なことになった。ついていけるだろうか…」と不安になったものです。たしかに、この世に流通しているあらゆる書物を扱うのですから、まったくその通りだと、今になってもつくづく思います。

ところが、いざ働き始めてみると、社長はほとんど店にいません。日々の営業を切り盛りしていたのは店長でした。数人の社員たち(このうちの一人が現在の夫です)や、多くのパートさんやアルバイトの先輩方にも仕事を教わりました。扱う品は多岐にわたり、一般書、専門書、文庫、マンガ、雑誌、CD、同人誌、アニメグッズまで売買していました。お客様は非常に多く、土日にはレジに列ができることもありました。マンガや同人誌、写真集の立ち読みを防ぐためのビニールパッキングも大事な仕事でした。町田には予備校が多く、学生たちの暇つぶしにもってこいの場所だったのです。買取も多く、珍しい本が入荷して高値がついた時にはわくわくしました。一方で、だぶついた本は社長の方針で徳島の大きな倉庫へ送らねばならず、現場はいつも奮闘していました。店長はじめ従業員みんなで、来る日も来る日も本を仕分け、整理し、棚に並べました。来店されたお客様に喜んでいただくことに、一番のやり甲斐を感じていました。

さて、当の社長は何をしているかと言えば、「水泳のマスターズ大会で海外に行ったらしい」「碁会所に行けばいるだろう」と、趣味を楽しんでいるようでした。たまに店にいる時にはどこか居心地悪そうに、私たちの細かな仕事に対して「こんなことはしなくていい」などと仰るので、困惑しました…。それでも店は回っていたのですから、良い時代でもあったのでしょう。1995〜98年頃、まだ古本屋がインターネットに本格的に関わる以前のことです。

しかし、今回の座談会を通して社長の仕事を振り返ってみると、もっと大きな視点で古本の流通を見つめ、時代の変化に果敢に挑んでいた姿が浮かび上がってきました。大きな売り場を構え、支店を増やし、徳島に大きな倉庫を持ち、自社によるインターネット販売をいち早く始めていました。ブックオフが席巻した時代にも、日本の古本屋やAmazon等のEC販売の時代にも、先んじていたのです。また店というものは、一度始めたらなかなか止められません。大きな店舗を複数持ち、多くの従業員を抱え、どんなにプレッシャーがあったろうと思います。

あの頃の町田には、書店とレコード店と映画館がいくつもあり、高原書店がありました。大きな方針を立てる社長、本に詳しく日々の細かな業務をきちんと取り仕切る店長、与えられた仕事を真摯にこなす従業員たちによって、魅力ある売り場がつくられていました。だからこそ、多くのお客様に喜んでいただけたのです。そのことを今でも私は誇らしく思うのです。

座談会のほかに、社長の私家版『古本屋30年 古本屋人生中間報告』(2005年)も全文掲載されています。この本の発行部数は五十部ほどだったそうなので、この機に、多くの方に読んでいただけるようになりました。

研究紀要としては異例の内容となった感もありますが、高原さんご夫妻の故郷である徳島で、このような形として残せたことを何より嬉しく思います。早速、アルバイトの先輩にも読んでいただいたところ、「当時を生々しく思い出した」と感想をいただきました。この手記を通して、高原書店とその時代を感じていただけたら幸いです。このような機会を与えてくださった徳島県立文学書道館の皆様に、心より御礼申し上げます。本書が多くの方の手に渡ることを願っております。

 

 

書名:徳島県立文学書道館 研究紀要『水脈』第22号(特集 高原書店)
発行元:徳島県立文学書道館
判型/ページ数:B5判/33ページ

 

徳島県立文学書道館
徳島市中前川町2丁目22-1
https://www.bungakushodo.jp/publications.html

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