文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大

古書を探す

メールマガジン記事 シリーズ古書の世界

〈『東北の古本屋』のその後〉1 震災15年、古本屋と見る“復興”

 

〈『東北の古本屋』のその後〉1  震災15年、古本屋と見る“復興”

折付 桂子(八木書店出版部)

〈『東北の古本屋』のその後〉シリーズ開始にあたって

はじめに―『東北の古本屋』ができるまで

 今年もまた3月がやってきた。東日本大震災、そして福島第一原発事故から15年。“節目”という言い方に違和感はあるが、とりあえずマスコミが注目してくれるのは有難い。東北に縁がない方にとっては、なかなか被災地に想いを寄せるのは難しい現状だと思うので。

 私の故郷は福島県。15年前の3月11日は、神保町古書街近くの日本古書通信社の机の前にいた。突然の揺れで、目の前に積み重なっていた本や書類が雪崩をうった。とっさに部屋を出て廊下の柱につかまりながら、揺れる度に崩れ落ちる本を呆然と眺めていたのを思い出す。震源は東北沖。実家になかなか連絡が取れず不安が募り、原発事故が起きてからは、故郷がなくなるかもしれないという恐怖にかられた。
 これまで『日本古書通信』や『全国古本屋地図』などを通じてお世話になってきた古本屋さんはどうしているか、状況を知りたいと思っていたとき、編集長が帰省を兼ねた取材を勧めてくれた。懇意にしていた福島県須賀川市の古書ふみくらさんに取材予約をし、ガソリン不足がようやく解消された震災3週間後、単身オートバイで被災地へ向かった。

 ふみくらさんの実家には、原発事故で避難を強いられた楢葉町の岡田書店さんがいらした。そのお話を聞いたとき、私の中の何かが変わった。趣味の雑誌『古書通信』でも伝えられることはあるのではないか、この証言を記録し続けなくては…。以後毎年、岡田書店さんをはじめ被災地の古本屋さんや古書市場を訪ねて話を伺い、震災・津波・原発事故に負けずに頑張る古書業界の姿を『古書通信』を通じて伝えてきた。2017年、盛岡の市場に伺ったとき、他県の様子も知りたいという声があり、2018年から2019年にかけては、改めて東北6県の古書組合員を訪ね、地域と店に寄り添った案内となるよう「東北の古本屋」を連載した。

 その東北の古本屋案内と震災ルポとを『東北の古本屋』という小著にまとめ自費出版したのが2019年秋。東北各地の古本屋さんが支持して下さり、あっという間に完売した。引き続き取材を重ね、2022年暮れには『増補新版 東北の古本屋』(文学通信)を刊行することができた。ひとえに毎年の取材にあたたかく応えてくださる古本屋さんのお蔭である。
 その後も取材は継続し、ずっと『古書通信』にルポを掲載してきたが、同誌は昨年末で終刊になってしまった。今回、「日本の古本屋」メルマガで発信させていただけることになり、大変有難いと思っている。今後もできる限り、被災地の古本屋さんの言葉を記録し伝えてゆきたい。  

〈『東北の古本屋』のその後〉1

震災15年、古本屋と見る“復興”

 震災15年、今年はまず大津波の被害から立ち上がった気仙沼市のイーストリアスさんにガイドをお願いして、岩手~宮城の海沿いを訪ねた。震災10年の時にも案内していただいており5年ぶりの訪問である。

◆大津波から15年

 宮城県の最北東にある気仙沼市のイーストリアスさんは津波で流された唯書館の営業を引き継ぎ、2012年仮設商店街の一角で古本屋をスタート、2017年に高台に移転、古書組合に加入する三陸地方唯一の古本屋として地域の古本文化を担う。売上はネット販売と催事がメインだが、事務所があることで仕入につながり、地域ともつながる。最初は圧倒的に震災関連の整理の仕入だったが、最近はすっかり終活の仕入にシフトしたそうだ。一昨年から発行している紙の目録は今春9号となった。32ページに700点ほど掲載の小冊子だが継続は力、目録好きのお客のためにもぜひ頑張って出し続けてほしい(ちなみに他に東北で冊子目録を定期的に発行しているのは郡山市の古書てんとうふさんだけで、今春40号を数える)。

 さて、気仙沼市から、市の復興の象徴ともされる三陸道の気仙沼湾横断橋(かなえおおはし・2021完成)を通り、少し北上して今回の取材のスタート地点、陸前高田市へ向かう。
広域に津波被害を受けたこの地域は、住宅地のかさ上げのため、山を切り崩して巨大なベルトコンベアで土を運ぶ様子がニュースにもなった。しかしそうして新たに造成された宅地には、5年前と同様、ぽつりぽつりとしか家が建っていない。住民たちは造成を待てずに各々が高台へ移転してしまったようで、状況はその後も殆ど改善されていないように見える。新たに形成されるはずだった商店街も歯抜けの状態。陸前高田駅はバスのロータリー。ここも鉄路が廃止され、BRT(バス高速輸送システム)に変わっている。待合室は鉄道時代の駅舎を再現して造られたそうでレトロな雰囲気だが、なんだか切ない。ここから海側を見渡すと、かさ上げされた殺風景な野原の向こうに道の駅高田松原や津波伝承館の姿、そして高い防潮堤…確かに土木工事はしっかり終わったのだろうが、人々の暮らしは、コミュニティはどうなってしまったのだろう(後日、盛岡の東光書店さんに話したらやはり同じように感じたと仰っていた。陸前高田も釜石も“復興”したようには見えない、釜石から盛岡に避難したお客さんもつながりがなくなって寂しいが帰りたくはないと言っているそうだ)。

〇陸前高田駅からの風景


 閑散とした風景を後にし、気仙沼市へと南下する。かつての鉄路の名残があった(今は防潮堤と砂浜が整備され跡形もない)BRT大谷海岸駅には、大きな道の駅があり、駐車場に車がいっぱい、賑わっている。拠点として復興がうまくいった場所なのかもしれない。気仙沼市の南端、本吉駅は鉄道時代は中間要衝駅として重要な駅でもあったと イーストリアスさんが教えてくれたが、今のBRTの駅はひっそりとしていた。ちょうどBRTの赤いバスが来たが乗降客はいなかった。JRとしては初のBRTであることから広報材料として力を入れたい思惑が感じられ、自動運転の実証実験などもしているそうだが、利用者は多いとは言えないようだ。

 イーストリアスさんは気仙沼の地域誌『浜らいん』に執筆、過疎化が進む地域での公共交通の課題について早くから指摘している。ちなみにこの『浜らいん』誌は毎年、新春号で増頁特集を組んでおり、2022年は大船渡線、2023年は気仙沼線の特集で震災前と震災後の様子を豊富な写真でありありと伝えている。鉄道ファンでなくとも読みごたえがある資料となっている(現在も通販などで入手可能)。

〇浜らいん特集号

 海沿いを走る国道45号線は、気仙沼市から南三陸町にかけてとりわけアップダウンがきつく、「ここから津波浸水区域」「ここまで津波浸水区域」の標識が代わる代わる現れ、それと共に家々が消えたり現れたり。5年前にも見た風景だ。
 以前も訪ねた、さんさん商店街は、道の駅さんさん南三陸として、立派に成長を遂げていた。ここはよくある産直品を売る道の駅とは違い、震災伝承施設=南三陸311メモリアルと観光案内所とJR志津川駅(BRT)が一緒に入る複合施設。有名建築家のものと一目でわかる建物で、同じ建築家のつくった橋を渡れば復興祈念公園が整備されている。観光バスもいて、大勢の観光客でにぎわい、すっかり観光スポットとして定着した感じだ。新聞販売店兼書店のNEWS STAND SATAKEがあったはずだが、新聞店としての看板だけしか見当たらなかった(雑貨と珈琲の店サタケに店名変更して、訪問日は臨時休業だったようだ)。
〇道の駅さんさん南三陸


 南三陸町から主要国道は内陸部に入っていくが、我々は同町の戸倉という海沿いの地区を通り、いったん雄勝石の産地である石巻市雄勝地区に入り、女川町へ。イーストリアスさんも私もこの地は初めて。東北電力の原発が立地する町で、町自体は津波被害を受けたが、原発は無事だったため、一昨年に再稼働をはたしている。港のそばに大きな道の駅があり賑わっている。そのすぐ近くに小さな書店があった。入ると、平台にも棚にも震災関連書が目立つ(仙台の古本あらえみしさんの著作『瓦礫から本を生む』も平積みになっていた)。一部は古書も置いてあり、地域の方のシェア型本棚もあったが、棚は空いていて、本屋としてはまだ途上なのかもしれない。ただ、この道の駅はじめ人も多く、町全体に活気があるように感じた。

 再び石巻市へ。夕方になり薄暗くなってきた。ここには学習塾と兼業という一坪書店文庫さんがあったが、店主のご病気により店を閉め、今はネット販売になっている。また一昨年伺った、ゆずりは書房さんは今日はお休み。営業日は限定されているが、かつての古本屋三十五反のように地域に根付く店を目指して頑張っている。仙石東北ラインで仙台からのアクセスもよく訪ねやすい。石巻市には大川小学校や門脇小学校など震災遺構もしっかり残され、震災の教訓を学びながら復興を実感できる場所だと思う。

 すべてを新しくつくりなおすのが復興ではない。その地に暮らす人々の思いに応え、つながりを守りつつ過行く時間とたたかいながら再建への道を探るのは容易ではなかったろう。インフラ復興は成せたが、暮らしの復興の難しさを感じた、震災15年の海沿いだった。




書名:『増補新版 東北の古本屋』
著者:折付桂子
出版社:文学通信
判型/ページ数:四六判・並製/312頁(フルカラー)
定価:本体1,800円(税別)
ISBN:978-4-909658-88-3

好評発売中!
https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-88-3.html


*=*=*=*=*=*=*=*=

よろしかったらこちらもどうぞ

『古本屋でつなぐ東北(みちのく)シリーズ』 https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_category.php?catid=41

「古本屋でつなぐ東北」は『日本古書通信』で2022年8月~2023年2月号に連載していた、
東北の若い古本屋さんによるリレーエッセイです。

Copyright (c) 2026東京都古書籍商業協同組合

  • コショな人
  • 日本の古本屋 メールマガジン バックナンバー
  • 特集アーカイブ
  • 全古書連加盟店へ 本をお売り下さい
  • カテゴリ一覧
  • 書影から探せる書籍リスト

おすすめの特集ページ

  • 直木賞受賞作
  • 芥川賞受賞作
  • 古本屋に登録されている日本の小説家の上位100選 日本の小説家100選
  • 著者別ベストセラー
  • ベストセラー出版社

関連サイト

  • 東京の古本屋
  • 全国古書籍商組合連合会 古書組合一覧
  • 版元ドットコム
  • 近刊検索ベータ
  • 書評ニュース