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本とエフェメラ①「古書センター」の時代――週末古書展のチラシ

本とエフェメラ①
「古書センター」の時代――週末古書展のチラシ

小林昌樹(近代出版研究所)

■はじめに――「エフェメラ」とは?

 エフェメラはまだ聞きなれない言葉だろうが、我ら古本マニアには「紙もの」のことと言えば通じるだろうか。みんな(?)が集めている古いチケットやチラシ、絵葉書のような紙もののことを英語でプリンテッド・エフェメラと言うらしい。
 前職・国会図書館を早期退職して趣味の研究を始め、誰に頼まれたわけでもないのに研究雑誌『近代出版研究』を年刊で出している。今年4月に出した5冊目は、ミュージアム界で流行っている「エフェメラ」を特集した。そのスジで30年間、最先端を走ってきた古書日月堂さんのロングインタビューや、いま誰も知らない戦前コレクターのことがわかる貴重な原稿などをもらえたし、さらには「本のエフェメラ小事典」と称して、カバーや書店ラベル、帯などの歴史についても考証しておいた。
 趣味が図書館史だったので、図書館・読書絵葉書を3000枚ほど集めた。そこで以前、この日本の古本屋メルマガで「本とエハガキ」という連載を掲載させてもらったけれど、よく考えたら絵葉書以外にもいろいろな本にまつわるエフェメラがあったなと思い出し、この度「本とエフェメラ」という題に改めて連載を続けることにした。

■古書展チラシのスクラップブックを古書展で

 数年前、神保町の週末古書展のことだったと思う。手書きの題箋を貼り付けたスクラップブックを見かけた。銀装堂さん出品で、そこそこの値段だったが、珍しいと思い買ってしまった。なんと古書展チラシのスクラップブック【図1】。
 新聞記事などのスクラップブックはたまに古書展に出るのだが、即売会チラシを貼り込んだものは後にも先にもこれだけしか見たことがない。


【図1】「古書展案内資料集」

 スクラップブックには『古書展案内資料集』とタイトルが振られ、小林鶴男なる編者名まで貼り込まれている。中を開けてみると、なんと珍しいことに、古書展や古本まつりの広告チラシ集なのであった。120枚ほどのスクラップブックに70枚分、1970年代の会館古書展やデパート展などのチラシが貼り込まれている。つまり140枚ほどのチラシが貼り込まれていて珍である。
 例えば、古書展「紙魚の会」は1973年8月10日「新規古書即売展のお知らせ」というチラシが張り込まれているので、昭和48年に始まったことがわかる【図2】。


【図2】古書展「紙魚の会」のチラシ

■作った人は図書館担当の古本好き教員

 本当は序文にあたるべき内容が「あとがき」【図3】に手書きで書いてある。「ここに貼付した古書展案内資料は、長い年月文献探究のため古書展通いした思い出である。/この一枚一枚の資料は、これから三十年〜五十年経過すると、貴重な資料になると確信するものである。/なぜならこのような資料は、保存する人がなく、すべて捨てられてしまうからである。」などとある。しかし、資料集本体にはキャプションもコメントもなくて、折角の価値がわかりにくいので発行年だけ私が鉛筆で書き込んでみた。


【図3】「あとがき」

 わざわざ手書きの後書きと奥付けがしつらえてあって、発行者:愛書館、発行年:1985.11.14とある。限定10部のうち6番本とあるので、古書展チラシを10枚づつ集めて貼り込んだものらしい。一人で何枚も取ってゆくなんて、古本屋さんにはさぞかし変な人と思われたことだろう。作った人は小林鶴男という人で、別途NDLデジコレで調べると埼玉県の中学教師らしい。学校図書館に関係していたようで、『埼玉県学校図書館協議会史』(1963)という本を編集した人。どうやらこういった本を編纂するため、わざわざ電車で神保町まで通っていたと思われる。彼が出した『文学関係文献総覧:戦後における県人著作』(1982)の奥付によると、1916年生まれ。埼玉県立文書館長、図書館長などを歴任している。昭和後期、図書館長ポストは教員系で偉くなった人の上がりポストだったことを思い出す。

■1970年代にはやった「古書センター」

 スクラップブックができた1985年から40年経ったので、編者・小林さんが確信した貴重さを確認してみたい。
 週末古書展以外のチラシも貼り込まれている中で、渋谷古書センターの開店チラシがあった【図4】。別途ネットで調べると1971年開店らしい。神保町の「神田古書センター」が1978年開業とのことなので、渋谷のほうが早かったわけだ。「古書の名店街」という惹句が楽しい。私も80年代後半行ったし、90年代も図書館協会が三宿にあったので委員会の行き帰りに寄った。現在も2階にフライングブックスが入っているはず。


【図4】「“渋谷古書センター”開店!!」チラシ

 「○○古書センター」というものは他に町田の高原書店が大久保に出した「新宿古書センター」(1994年開店)があった*。いまNDLデジコレを検索すると、「○○古書センター」というのは同時期に岐阜にもあったようで1970年代はやりの名称だったようだ。
* 『水脈:徳島県立文学書道館研究紀要』22号 2026.3 特集高原書店

■神田古書センターでもやっていた即売会

 いま週末古書展というと神保町(本部)、高円寺(西部)、五反田(南部)の三つの古書会館というのが定番だが、昔は池袋(「城北展」はチラシによると)で開かれたり、さらに神田古書センターでもやっていたことが「東京書友会」のチラシ【図5】からわかる。古書即売展が、「神田古書センタービル」の9階で開催されるとある。私が神保町がよいを始めた1980年代後半に古書センターは全部埋まっていたように思うが(たしか最上階はビニール本で有名な芳賀書店さん)、当初はイベント会場もあったのかと驚き。古本初級のみぎり、古書会館と古書センターの区別がつかなかったことを懐かしく思い出す。

 吉祥寺の東急で行われた「武蔵野古本市」のチラシが左にならんで、1970年代初頭のチラシから格段にデザインが良くなっていることがわかる。東京書友会の「古書即売展」は隷書体寄りで古風な感じを出していたが、武蔵野、は大正ロマン書体とでもいうのだろうか。後の【図7】でもこの書体が使われているので、昭和後期に懐古趣味を表すのに使われたフォントらしい。そういえば新宿伊勢丹大古本市の目録で、表紙に打ち出されていたのもこの書体だったっけ。もともとプリンテッド・エフェメラはまず印刷史資料として注目されたものでもあった。文字数が本より少ないので時代の流行りが書体に反映されやすいからかもしれない。

【図5】1978年のチラシ デザインが改良されている

■中核都市でのデパート展

【図6】は「大宮ステーションビル」の6階特設会場で行われた「埼玉の古本まつり」のチラシ。1975年10月8日のチラシでは実際の書目が並んでいるが、百科事典などいまとなっては二束三文のようなものも「売り」になっているのが時代だ。


【図6】「埼玉の古本まつり」チラシ

 【図7】も1976年の「埼玉の古本まつり」のチラシだが、新聞折込みチラシによくあった3色刷りの半カラーなので、まさに地元の新聞に織り込まれていたものと思われる。こういったものは古書会館のチラシ以上に残らないものである(ごく一部の公共図書館に地域資料として保存されている場合もあるが検索できないだろう)。

【図7】「埼玉の古本まつり」チラシ 新聞折込みか?

■週末古書展の予定一覧

 現在でも東京古書会館受付チラシコーナーで無料配布している「古書即売会予定一覧」(B5版)だが(手元の2007年版だと「〃 開催予定一覧」)、そのご先祖も貼り込まれていた。「古書即売展日程表」【図8】がそれ。判型は今より小型である。右の「44年上期」でタテ13cm×ヨコ9cm


【図8】「古書即売展日程表」

 そういえばこれとそっくりな表をむかし『日本古書通信』で見たことがあった。あれはこれを引き写していたのかと納得。ただこの表、すでに即売会(週末古書展)の何たるかをわかっている人への心覚えみたいな体裁なので、「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」といった初心者向けの案内文がないのが残念。もしあれば、自分も学部生時代から古書展へ行けたのにと思う(私が古書展に毎週必ず通うようになったのは就職後、出世コースを外れてから)。
 古本祭りと週末古書展(大阪や名古屋だと月一くらい)は両方一般客向け(BtoC)なのに出品傾向が全く違うので(それでいて会場はBtoBの会館)、そこは別種の催事として宣伝したほうが良いと思う。
 実際、古書展で古本を箱(単位)で買う音楽評論家・片山杜秀さんも、小学生時代から古書展街へは通っていたのに週末古書展に気づいたのは大学院生になってからだったと『近代出版研究』4号のロングインタビュー「古本王子の快進撃」にある。

■実はこのスクラップ、図書館で読める

 ふつうスクラップブックは唯一無二のもの(「天下の孤本」とでも言うのか)であるのだが、なんとこの冊子、図書館で読めるのだ。奥付けに10部作ったとあるので、NDLサーチという国会図書館の蔵書データベースで検索するとおまけでついている都道府県立図書館の所蔵データもひっかかる。そこでタイトルで検索すると埼玉県立熊谷図書館が郷土資料として所蔵していることがわかる。たぶん編者自身による地元への寄贈書だろう。複部数あっても印刷複製ではないので、各冊に異同があるかもしれない。

■チラシの年代推定について

 チラシというのはエフェメラ、短命資料の一種なので基本、発行年が刷られていない。年代推定が難しい。けれども古書展チラシは催事のお知らせなので月日、そして曜日が刷り込まれていることが多いので、これを使って年代推測するのがよい。特に曜日との掛け合わせで候補年が絞り込める。
 ネットに月日と曜日で候補年をリストアップしてくれるサービスがいくつかあり、ありがたい。今回は使い勝手の良さそうな「年サーチカレンダー」(2026.4.24閲覧)を使った

■古本時事――古本博覧会のお客さん

 「古通」も廃刊してしまったことだし、おまけで古本時事について書いておきたい。
4月中旬に行われた「全ニッポン古本博覧会」(4/16-19)は、いつものさくら祭りに倍する催事で、昨年秋に悪天候で中止になった新本特価のブックフェアと相まって大変な盛況であった。特に良かったのは古書会館の即売会にいつもと異なる善男善女が多数来場していたこと。ちょうどいまネットでは国会図書館デジタルコレクションの個人送信7万件除外(4/22)をめぐり、デジコレが古本商売を阻害するか否かの論争がX(ツイッター)で起きているが、私に言わせると、そもそも古本市場の豊かさ楽しさが一般人に届いていないと思う。デジコレがなにほどか古本市場を阻害するにしても、それは一部研究者やライターなど、商用ユーザであって、古本(リアルな本やエフェメラ)の魅力はデジコレで減じるわけでもない。その魅力を広める機会として古本博覧会はとても良かった。裏方は大変だったろうが少なくとも将来のお客を呼べたのではなかろうか。

■次回は…

昭和後期の古書展チラシを見ていたら、自分が集めた同様のものを紹介したくなってきた。次回は自分が集めた2000年以降の古書展・古書店まわりのエフェメラを紹介したい。


小林昌樹(こばやし・まさき)
1967年東京生まれ。1990年と92年、慶應義塾大学文学部を2回卒業。2021年国立国会図書館を早期退職し、近代出版研究所を設立。近代書誌懇話会代表。現役時代の秘伝テクニックを盛り込んだ『調べる技術』がヒット。それを応用して書いた前代未聞の『立ち読みの歴史』は五大新聞紙すべてで紹介。専門は図書館史、近代出版史、読書史。


書名:『近代出版研究』第5号
特集「エフェメラって?――軽薄短命の紙がみ」
発行:近代出版研究所
発売:皓星社
発売日:2026年4月7日
ページ数:368ページ
定価:3,300円(税込)
判型:A5判並製
ISBN:978-4-7744-0882-8

好評発売中!
https://libro-koseisha.co.jp/publishing/9784774408828/

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