「カラヴァッジョ展」について国立西洋美術館研究員 川瀬佑介 |
「カラヴァッジョ展」は、イタリアの代表的な美術館が所蔵するカラヴァッジョの名品と、その影響を受けたカラヴァジズムの作品51点、及び関連文書史料6点により構成し、カラヴァッジョの劇的な人生と作品、そして彼の芸術が美術史に与えた影響を紹介するものです。 カラヴァッジョは、西洋美術史における最大の変革者のひとりにして、バロック美術の創始者にも数えられる画家です。目の前のモデルを忠実に写すリアリズム、素描を行わずカンヴァスに直接描く手法、モチーフの半分を強烈な明暗で影に隠す明暗法(テネブリスム)、そして観る者に直接訴えかけるヴィヴィッドな主題解釈といった点において、彼はルネサンス以来の美術の様々な規範を打ち破り、新時代の到来を告げました。それゆえに時には同時代人からは批判や非難にさらされ、注文主たる教会から作品の受け取りを拒否されることもありました。しかし、彼の画法は多くの熱狂的な継承者(カラヴァジェスキと呼ばれる)を生み、17世紀前半の美術史における一大潮流を築いたのです。彼とその継承者たちの作品は、古典主義的な価値観が主流を占めるようになった17世紀後半からは否定的に評価されましたが、17世紀美術の正統な再評価が試みられた20世紀後半以降、再びその真価が知られるようになりました。 本展は、国内で開かれるカラヴァッジョに焦点を当てた展覧会としては2001年以来2度目の開催となり、イタリアの代表的な美術館が所蔵するカラヴァッジョの名作11点と、同時代の画家たちの作品を合わせて51点を展示します。カラヴァッジョによる現存する真筆作品は60点強と言われており、その中には移動不可能な祭壇画などが多数あることから、本展の出品数は日本で過去最多、世界でも有数の規模となります。 展覧会の構成は、「風俗画」、「五感」、「静物」、「肖像」、「光」、「斬首」、「聖母子と聖人の新たな図像」というテーマ別に設けた7つの章と、1つのミニ・セクション(「エッケ・ホモ」)から成ります。各章とも冒頭にカラヴァッジョの作品1点(もしくは2点)を置き、その作品を出発点として同様のテーマを扱った同時代の重要な作品群を併せて紹介します。そうすることで、カラヴァッジョの芸術の革新性やその影響力を明らかにすることは言うまでもなく、彼の友人やライヴァル、そして宿敵であった様々な画家たちがどのようにカラヴァッジョ芸術を咀嚼し、そこから新たな展開を生み出していったのか、実際に作品を見比べながら理解していただけるのではないかと考えています。是非展覧会に足をお運びくだされば幸いです。
会期 2016年3月1日[火]~6月12日[日] その他、休館日、チケットなど詳しい内容はホームページをご覧ください。 |
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