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〈『東北の古本屋』のその後〉2 震災15年、古本屋に聞く震災後の本の世界

〈『東北の古本屋』のその後〉2 震災15年、古本屋に聞く震災後の本の世界

折付 桂子(八木書店出版部)

 

◆震災後の本の世界

 気仙沼から海沿いを南下した翌日は、仙台市の古本あらえみしさんへ。古本屋であり出版社でもあるあらえみし(荒蝦夷)さんに、震災後の本の世界の動向についてお話を伺った。

―震災10年の時に仙台市民図書館の震災文庫の受け入れ数が激減していて驚きました(ピーク時の20分の1、約100点)。震災10年での出版が一時的に増えたものの、その後はまた100点程度で推移しているようです。やはり風化が進んでいるのでしょうか。
「出版業界が厳しい状況の中、震災関連本も、出さねばという思いはあってもなかなか出しにくいということがあるでしょうね。今年は震災15年ということで、読売も日経もNHKも、震災と文学をテーマに取材にきましたよ。NHKは、震災の時に地元の活字メディアがどう動いたかを聞いてきました。」

―あらえみしさんは仙台短編文学賞にずっと関わっていらっしゃいますよね。
「震災前に立ち上げる予定だったのが、震災で遅れ、2017年にリスタートとなりました。初めは仙台にも文学賞があってもいいだろうくらいの気楽な気持ちで計画していたけれど、震災を経たあと、そういうわけにはいかない。けれど、あえて「震災文学」には限定しないというスタンスをとりました。震災を書きとどめることは文化ではなく資料となってゆくものですから。そうはいっても、最初の頃は震災を直接対象とする作品が殆どでした。それが徐々にストレートではない作品が増えてきた。

 過去の応募作の中には、昭和30~40年代の大川小学校近くの村の生活の記録がありました。津波も地震も出てこない。でも土地勘のある人が読めば、震災で喪われた今はなき村の情景が立ち上がる震災文学。土地勘のない人にとっては昭和レトロ。最近はこうした、心の中に沈静化した部分を描く作品が目立ちます。
3年前に芥川賞をとった佐藤厚志『荒地の家族』は、震災で人生が狂った人の小説ですが、同時に仙台の日常を描いた文学でもあります。地元では、今の仙台のリアルをよく書いてくれたという評価ですが、東京では震災文学として評価された。読者の住む場所によって評価の二面性があります。

 今年から選考委員を務める木村紅美さんは、『あなたに安全な人』でドゥマゴ文学賞、『熊はどこにいるの』で谷崎賞をとっていますが、震災文学を書こうとしているのではない。けれど今の盛岡・岩手を描こうとすると震災を避けては通れないと言います。」
―では、何をもって「震災文学」というのでしょう。
「3・11を8・15と対比させる言説があります。地域が大きく壊滅するという意味で、戦災も震災も同じ。いま東北被災三県だけが時間軸が異なってしまっている。そうした中で現代の日本文学と比較するよりも、戦後15年の1960年代の日本文学との比較の方がわかりやすい。戦後は国内全体が書き手も読者もみな戦争経験者で同じ時間軸の中にいたわけです。ただし、では体験していないから語れないかというとそうではない。例えば、「河北新報」で人気を博し書籍化された山野辺太郎『大観音の傾き』(2024)。著者は東北生まれだが東京暮らしで、東北で震災を体験したわけではない。仙台市泉の観音様が閖上の津波を見ていたという話だが、そこには体験せずとも、想像力を働かせることで生まれる物語がある。

 被災地以外での風化は仕方ないでしょう。被災地でもある意味、心を保つために忘れることも必要な場合があります。あの時生まれた子が15歳。あの時、自分が大丈夫でも、身近な周りに何らかの被害を受けた人が必ずいた。被災地ではそれが続いての日常なのです。(荒蝦夷のスタッフにも気仙沼で酷い被害を受けた方がいる)。つくられたドラマとは違う日常が続いているのです。そんな中で「節目」とは、何かというと、ハード面での復興の目標・達成としては大事なことなんだと思いますが。」

◆震災を伝える、紙で残す

―震災を伝えてゆくのが難しくなっていきますね。
「そう、震災の伝承・継承をどうするかが、これから重要になっていきます。単に心情的な問題ではなく、現実として、科学的な見地からも「また来る」可能性が高い。だから身近な問題として子供や孫たちに伝えなければならず、語り部や伝承が大事なのです。
 客観的データは絶対残る。国や行政、大手メディアがまとめた数字は自動的に残りますから。では残せないものは何か。その時それを体験した人々の心の中で何が起きたのか。数値化できないものを残せるのが、文学はじめ映画、音楽、絵画など様々な表現活動でしょう。

 先程の戦後の話で言えば、例えば島尾敏雄やトールキン、サリンジャーといった作家たちが戦争体験後に何をどう表現してきたか、何を残そうとしたか、そこから学ぶことは大きい。
 被災地では風化よりむしろ心の傷、トラウマ、PTSDなど、10年、15年経って顕在化する場合もあります。数値でわからない精神的な傷をどう表すか、それこそ文学の出番です。仙台短編文学賞も内面のドキュメントを描く作品が中心になった。今の読者のためでもあり、100年後の読者のためでもある、次の災害時に伝わるものになると思います。」
―でも本を取り巻く環境は厳しくなるばかりです。特に紙の本は。
「本は、暮らしを豊かにとか知性と教養とかいうレベルでなく、生存のために必要不可欠なものです。精神安定剤よりも本を読んだ方がいい。

 以前、阪神淡路大震災の時、瓦礫の中を歩いていたら片岡義男の本があった。データ上で何千人死んだとかではなく、片岡が好きなこの人はどうしたのかと考えるのが自分の仕事と感じました。本は読んだ人の個性を表すもの。紙の本だから残っていたともいえます。
古本屋をやってみて、伊達家の古文書や明治の歴史資料が出てくるのを間近に体験するようになった。電子データではなく、本だから、紙だから残っている。偶然性、地域性を超越して、人知を超えた残り方をする。
“震災の伝承”も“紙で残す”ことが大事です。防災・減災も大切ですが、残念ながら限界もある。本を作ること、古本屋として次の人へ渡すこと、本にまつわることすべてが後世に“残す”仕事なのです。仙台の新刊書店も厳しい状況にありますが、古本屋があれば本の世界は大丈夫という気概をもって、本を繋いでいこうと思います。」


書名:『増補新版 東北の古本屋』
著者:折付桂子
出版社:文学通信
判型/ページ数:四六判・並製/312頁(フルカラー)
定価:本体1,800円(税別)
ISBN:978-4-909658-88-3

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『古本屋でつなぐ東北(みちのく)シリーズ』
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「古本屋でつなぐ東北」は『日本古書通信』で2022年8月~2023年2月号に連載していた、
東北の若い古本屋さんによるリレーエッセイです。

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