■2005年から京都方面に
勤め先で奇禍に遭い、晴れて本来のポジション司書に戻ってから、大学時代の趣味だった古本集めを復活させたのは2005(平成17)年のこと。ちょうどネットでブログ(weblog)が流行っていて、自分も書物ブログ(biblioblog)を始めていたので、おなじ書物ブロガーの「神保町のオタ」さんとネットで知り合い、彼に教えてもらって、下鴨の古本まつりへ初めて行ったのだった。【図1】は翌2007、9年のチラシ(フライヤー)。

【図1】「下鴨納涼古本まつり」のチラシ
■古書展チラシのスクラップブックを古書展で
自分が4月に出した『近代出版研究』のエフェメラ特集で、チラシなど紙ものの整理にはクリアフォルダを使うと良いとわかったので、自分もそれをやってみた【図2】。とりあえず古本がらみの紙ものを古本特有の地域別にわけ、年代順にフォルダに入れていく。年代は年が書かれていればそれを採り、書かれていなければ月日と曜日の掛け合わせで年代推定る便利サイトなどを使うが、意外と年代が明記されているものが多かった。
フォルダは集まった紙ものの量に応じて、①神保町、②その他の東京圏、③京都、④大阪・兵庫、⑤三都以外の全国、といったところに分けた。

【図2】古本関連エフェメラのフォルダ
■古本まつりのチラシ、案内図
チラシ類、エフェメラは全国流通機構を持たないから、基本、地元でしか集まらない。そういう意味で京都の古本エフェメラもいちばん持っているのは地元、京都の古本者だろう。私などはたまの遠征で拾うだけなので微々たるものである。そのうち神保町のオタさんにも開陳してもらいたいところだ。
【図3】は2005年と翌年の京都古本まつりへ行った際に拾ったチラシや案内図だ。ちなみに「古本祭」という表現は、1933年に大阪古書籍商組合が開催したものが最初だが、1960年の神田古本祭から広まった言葉のようだ。
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【図3】京都古本まつりチラシ(2005〜2006年)
■チラシの読み解き例
【図3】左に写った「第18回 下鴨納涼古本まつり」チラシをちょっと細かく見てみよう。2005年で18回とあるので、第1回は1988年であるようだ。「会場案内図」では交通手段(出町柳駅から徒歩5分など)が書かれるが、「特設コーナーのご案内」が面白い。「百円均一コーナー」は「日頃倉庫の片隅に眠っていた本や資料たち」という。もう10年くらい前だろうか、この下鴨の均一コーナーはなくなってしまったが、東京からも行った甲斐のある掘り出し物が多数あったので、ぜひ復活させてほしい。
「児童書コーナー」は子どもが集まっていたことを覚えている。「本部」から本を「送り」にしたこともあったな。ただ大抵は帰りの電車(新幹線)で読むのが楽しみなのでなるべく持って帰るようにしていた。「喫茶コーナー」では「冷やしうどん」が食べられるとあるが、食べたことはない。むしろビールを買って飲んだことが何度かある。ただビールを飲むと集中力が落ちるので古本を拾いづらくなるのが問題ではある。
このチラシ、裏が「集印帖」になっており、古本を買った店舗で印を押してもらう。5店分で400円の金券がもらえるとある。41店舗全店で5000円の金券とあるが、これは不可能に近いだろう。私のものは梁山泊さんなど4店舗で買ったスタンプが押印されていた。この「集印帖」は歴史的には参加店およびその総数がわかることが歴史的意義だろう。古本まつりの規模感は参加店舗数で計るとよいと思っている。
■京都伝統の古書店マップ
しかし、京都の古本エフェメラと言えば、まず第一に挙げるべきなのは古本屋地図だろう。【図4】は京都の古書組合が発行した『新訂京都古書店案内図』、『京都古書店絵図』。そして2006年、私がさる京都の古本者に手書きで描いてもらった「叡山電鉄沿線古書店地図(仮称)」である。
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【図4】(大)『京都古書展案内図』、(中)『京都古書店絵図』、(小)手書きの地図
『京都古書店案内図』はいちばん古いもので、一度調べたことがあるのだが、1978年に初版が出たらしい。手元の1990年代に出たらしいものを見ると、裏面に「本の豆知識」「本に関する豆用語辞典」「市内主要市バス運行案内」「京都の図書館 資料館」「江戸以降干支暦表」「京都古書組合加盟店専門別一覧」などのリストがてんこ盛り。古本で買った1982年版を見ると袋つきで袋に「頒価250円」とある。これの裏面は「組合加盟店名一覧」と名刺広告だけが掲載。
しかしこの「案内図」はちょっと立派すぎると思われたのだろう、それが現在のA3判の『京都古書店絵図』に変わったのが2007年か。地元の古本者ならご存知だろうけれど。手元の絵図はみな2009年版で、ネットに2007年版の情報がある。私が関西方面へ遠征するようになった2005年以降、行った先でこの地図を100円で買って使っていた(だから3部ある)。京都の土地勘が養われたのはこの地図のおかげ。ネット情報によるとこの「絵図」は2010年ごろに頒布停止になったようだ。
私が1989年に京都古書店めぐりの卒業旅行を試みた際、大判の「案内図」のほうをどこかで入手して使った。いまどこで入手したのかまったく思い出せないが、神保町界隈でこういった特殊な古本関係資料を売っていた新刊書店は岩波ブックサービスセンター(2016年閉店)くらいだった。
【図4】左下「叡山電鉄沿線古書店地図(仮称)」は2006年第2回一箱古本市で一緒に出店した京都の人にファミレスで昼食をとった際に書いてもらったもの【図5】。この方は後に晶文社から古本エッセイ本も出す有名人となった。その後接点がなかったが今でも良い思い出として保存している。
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【図5】「叡山電鉄沿線古書店地図(仮称)」2006年手書き
■古書店マップというもの
古本屋地図(map)ないし地図帳(atlas)は古本マニアの古書店めぐりのために作られるものだった。戦前からあるし、昨年廃刊した『日本古書通信』でも1951年以来全国古本屋案内を掲載していたが、一般化したのは紀田順一郎先生が編纂した『古書店地図帖:東京・関東・甲信越』(図書新聞、1967)からだろう。この影響で『全国古本屋地図』(日本古書通信社、1977-)が出たと言っていいが、私は大学時代古本集めにハマった際、こちらの古書通信の地図を岩波ブックサービスセンターあたりで買って、それを持って関東近県を回っていた。【図6】の右は1989年改訂新版の「地図」だが、高円寺から(のち作家となる出久根達郎さん経営の)芳雅堂に歩いていった際の距離を大学時代の私が書き込んでいる。
近年では実用だけでなく、岡崎武志、小山力也編著『中央線古本屋合算地図:新宿駅-八王子駅:昭和三十年-平成二十九年』(盛林堂書房、2017)といった懐古的地図帳も出ており(この地図帳、日本の古本屋を検索すると古書価がおそろしいことになっている)、一方で2000年代にはGoogleマップを主題検索の上、プリントするという方式にみなが馴染んでいき、2020年代はそもそもプリントせずスマホを見る段階になっている。古書店マップについてはそのうち再論したい。
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【図6】『古書店地図帖』(初版、左)『全国古本屋地図』(1989年版、右)
■次回は……
次回は大阪の古書展・古書店まわりのエフェメラを紹介したい。やっぱり地図が多いが。見るとそれぞれ1枚1枚に関西古本旅行時の思い出が蘇る。
小林昌樹(こばやし・まさき)
1967年東京生まれ。1990年と92年、慶應義塾大学文学部を2回卒業。2021年国立国会図書館を早期退職し、近代出版研究所を設立。近代書誌懇話会代表。現役時代の秘伝テクニックを盛り込んだ『調べる技術』がヒット。それを応用して書いた前代未聞の『立ち読みの歴史』は五大新聞紙すべてで紹介。専門は図書館史、近代出版史、読書史。
