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〈『東北の古本屋』のその後〉3 震災15年-福島県の浜通り、原発事故をこえて(1)

〈『東北の古本屋』のその後〉3 震災15年-福島県の浜通り、原発事故をこえて(1)

折付 桂子(八木書店出版部)

◆楢葉町の岡田書店へ

東北各地で震災15年の追悼式が行われた今年の3月11日。その日、福島県の古書組合では総会が行われ、組合長のバトンが、郡山市の古書てんとうふの熊谷鶴三さんから楢葉町の岡田書店の岡田悠さんへと渡された。岡田書店さん父子は原発事故のあと、長く避難生活を強いられた、いわば事故の直接の被害者の一人であり重要な証言者でもある。震災後、須賀川市の古書ふみくらさんに避難されていた岡田さんにお会いして以来、毎年岡田さんはじめ東北の古本屋さんを訪ねるのが私のルーティンとなった。息子の悠さんは2015年秋、避難指示解除と同時に楢葉に店を開き、父の共一さんは2016年、震災前の重要な販路だった仙台のイービーンズ即売展を復活させた。そんなお二人の古本屋としての生き様を見てきた者として、悠さんの組合長就任はとても感慨深い。福島県古書業界復興のひとつの象徴のようにも思える。

さて、今年は久々に鉄道で浜通りへと向かった。常磐線特急ひたちで、上野駅からいわき駅まで2時間15分。そこから常磐線の各駅停車に乗り換える。いわきでは若者の姿が多く、さすが地方の中核都市という感じだが、土曜日の朝、各駅停車の車両には乗客は十数人。四倉、久之浜と北上しながら右手に見える海は穏やかだ。広野駅の駅前のビルには相変わらず「テナント募集」の垂れ幕が下がっている。火力発電所の煙突や、高野病院(原発事故後も30㎞圏内で唯一診療を続けた)も見える。ひときわ立派なJヴィレッジ駅では三人の若者が下車。その次が岡田書店がある木戸駅。私の他に降りたのは二人。駅から歩いても数分だが、岡田共一氏が車で迎えに来てくださった。国道6号線方向へ、名古谷の信号を渡った先に店がある。

〇岡田書店(右:共一氏、左:悠氏)

ちょうど地元の方らしいお客が帰るところ。(共一さん=K、悠さん=Y)
Y「毎週一回、野菜を持ってきて、古本を買ってくれる方なんです。以前多かった作業員のお客さんはみんな富岡町に移って、殆ど来なくなりましたが、代わりに地域の人がすごく増えました。広野駅前のオフィスビルからも抜けて富岡に移った会社が多いみたいです。」

―来るとき、広野駅前ビルにテナント募集の垂れ幕がありましたね。

Y「そう、以前から満杯にはなってなかったようですけど。うちの店は広野町からのお客さんも結構多いんですが、広野は最近あまり元気がない感じですね。楢葉町はもと7000人の住民のうち4400人戻っています。移住者も含めて6割強ですが、実感としては8割~9割に感じるくらい町が元気になってきています。」

―楢葉町の元気のもとは何でしょう。

Y「普通に買い物ができる場所が増えたことですね。ここなら商店街はじめ飲食店も増え、初めは営業時間が短かったんですが、今はこの店の閉店後に食事ができるくらい営業時間が延びました。そういう点では普通の田舎の町になりつつある。暮らしの復興もだいぶできているなと思います。隣の富岡町ではまだ営業時間が短い店もあるようですが。」

―確かに、去年の能登の取材でもそうでしたが、被災地ではコンビニさえも早く閉まりますから、そこは大事なポイントかもしれませんね。

Y「楢葉は今、イモ推しなんです。先日、所さんのTV番組でも取材されてましたが、駅の向こう、海側の何もないところにサツマイモの熟成所がつくられて、有名スイーツ店におろしているみたいです。イモ掘りとか関連で農業支援ボランティアも多く来ています。」

―大熊町や双葉町はどんな感じですか。

Y「双葉・大熊は別世界ですね。解除になっている地域が小さくてごく一部なんです。双葉のイオンはこの前行ってみたんですが、大きいコンビニという程度。買い物している若い人もボランティアの学生だったり。戻っている人も少ないし、全然まだまだという感じですね。その分、何か新しい店が出来たりするとニュースになったりはしますが。」

K「復興のためにあちこちに建てたハコモノはどうなるのかな。」

―各地の震災資料館などに訪れる人が減っているという報道をみました。

K「そう、今年の3.11は“震災の風化”と“震災を語り継ぐ”がテーマだった。あの中間貯蔵施設にある山のようなフレコンバッグ、本当に中間になるのか、最終処分の行先はあるのか。」

―政府は完全に原発再稼働に舵を切り、新設まで言い出しました。

K「そうだよな。事故の反省はどっか行ってしまって、フクシマは都合のいい時だけ利用されている感じ。一方で県内全般をみると、福島駅前のデパート中合の跡地もうまくいっていない。郡山市に住んでいて俯瞰的にみていると、そんなことがいろいろ心配になる。」

Y「僕自身も最初は戻れると思わなかったですからね。メルトダウンして、広野からこっちは放射能が消えるまで放っておかれるのかと思ってました。除染が進んで住めるようになってこの店を作れて、今は地域の方々ともつながれるようになって良かったと思ってます。ただ、この店の近くにも廃炉作業に関わっている方の宿舎があるんですが、そこは殆どお客様はいないし、ゴミ出しも別、地域と関わっていない。そんな部分もあります。」
と、ここでお客様。楢葉町の歴史資料館館長の坂本和也氏ということで、急遽、資料収集や目指す方向性などについて教えていただく。

「原発事故の被害者意識だけを前面に出すのではなく、様々な危機を乗り越えてきた昔の人々の歩みに目を向ける展示や収集を心がけています。多様な歴史があって現在がある。もちろん原発事故はこの地域にとって大きな危機でしたが、原発否定だけではない、“危機~再生~未来創造”をキーワードに掲げています。この地域には「炭鉱軌道」という歴史的な遺構も残っています。昨春は「国策を支えた楢葉町の炭鉱軌道」と題した展示も行いました。この地域がずっと以前からエネルギー政策を担ってきた、支えてきたという自負もあります。移住者も含め共に地域をつくるため、そうした文化を継承する資料館として、東京大学総合研究博物館と連携し、講演会なども積極的に企画し発信しています。」

―そういえば、木戸駅のホームにお城のレプリカがありました。

K「ここは昔、豪族・楢葉氏が治めていた。Jヴィレッジ北側の台地が城跡で土塁も残っている。楢葉神社が広野にあるが、いわき市の手前まで楢葉だったみたいだね。」

―そういう歴史も含めての楢葉町なんですね。坂本館長が仰った、この地域がずっとエネルギー政策を支えてきたというのは、岡田さんが、いとうせいこうさんのインタビュー(「東北モノローグ」)で語ったこととリンクしますね。ところで最近のお店の状況はいかがですか?

Y「とにかく若い子が来るようになりました。民泊やシェアハウスも増え、大学生がレンタサイクルで町巡りをするなかでここにも来ます。それなりに買ってもくれます。子供は少ないですが、定期的に来る部活帰りの中学生が二人います。ブックオフ感覚で、立ち読みした後に買ってくれるんですが(苦笑)。中学~高校と通ってくれた子が、いわきの大学に行くからと挨拶に来てくれたり。お客さんと会話ができるし、つながりが深まっていて、普通の町らしくなってきていますね。ここ一年程、ヴィンテージの古着も扱い始めました(悠さんはもと服飾の学校に通っていた)。先日は近所のおばさんが喜んで買ってくれましたし、古本に加えモノも出品して喜ばれるイービーンズやイオンタウン泉の催事にも並べています。」

―催事はどんな感じですか?

Y「仙台のイービーンズ、イオンタウン泉、丸善アエルに出展しています。昨年までは会津ブックフェアにも参加していました。即売展を通じてお客が広がっていて、仙台やいわきからも店に来てくれるようになりました。店売りとネット販売と催事とバランスよく安定しています。新しいこと(古着)もプラスして現状維持で続けてゆきたいですね。」

K「俺は「日本の古本屋」でのネット販売だけど、この前ヘンなものが売れたよ。『いわき市史』!」

Y「へえ、いわきの神谷時代(30年ほど前)の店にあった『いわき市史』や『福島県史』がそのままこの店に並んでいるけどね(笑)」

K「日本の古本屋に現在登録約2000件。身体を考えながらゆっくりじっくりやっていこうかなと思ってる。」

―では最後に福島県古書組合長として。

Y「この1,2年で新しい人が増えて現在福島県の組合員は17名になりました。まずは昨年から再開した古書市場を定期的に開催してゆきたい。昨年再開した時の市場は、久しぶりで多くの業者がいらして商品もたくさん集まり売上も大きかったのですが、いつもそうできるとは限らない。太く短くではなく、細く長くを目指したい。もともと市場はみんなが物を持ち寄る「交換会」でした。昔の基本に戻って、継続は力で頑張ってゆきたいと思います。」
組合員17人のうち12軒に店がある。店舗率7割は特筆に値しよう。新規加入者には若い方も多く、今後に期待がふくらむ。(つづく)

書名:『増補新版 東北の古本屋』
著者:折付桂子
出版社:文学通信
判型/ページ数:四六判・並製/312頁(フルカラー)
定価:本体1,800円(税別)
ISBN:978-4-909658-88-3

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『古本屋でつなぐ東北(みちのく)シリーズ』
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「古本屋でつなぐ東北」は『日本古書通信』で2022年8月~2023年2月号に連載していた、
東北の若い古本屋さんによるリレーエッセイです。

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