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メールマガジン記事 シリーズ古書の世界

本とエフェメラ⑤ 東京は古本の都❸早稲田の古書店マップ

本とエフェメラ⑤
東京は古本の都❸早稲田の古書店マップ

小林昌樹(近代出版研究所)

■早稲田は地下鉄・東西線で

 東京に神保町、本郷、早稲田という三大古本屋街がある。現在も神田神保町はサブカル本を求める外国人のインバウンドなどで隆盛を誇っているが、本郷は大学の需要に大きく依存していたためか、個人への店売りが少なくなり寂しいが、早稲田は今でも古本屋めぐりができる。今回は早稲田古書店街がらみのエフェメラを取り上げたい。

 早稲田古書店街の歴史でいちばん参考になるのが『早稲田古本屋街』(未來社、2006)だ。今回、この本が全体を知るのにとても役に立った。著者の向井透史さんは早稲田の古本屋「古書現世」の二代目。現世さんは先代からマスコミ文献専門店としてその筋で有名であった。私も関連文献を探して1980年代後半から通っている。

 戦前、早稲田の古本屋街は早稲田大学正門から東へ伸びる通りのほうにあったと向井著にあるが(なぜなら当時、早稲田界隈の繁華街は神楽坂方面だったので)、現在はJR高田馬場駅と早稲田大学の中間にある。直近の駅は地下鉄東西線の早稲田駅なので電車だと東西線で行く、ということになる。実は古書店街のある早稲田通りは交通量が少なめでパーキングメーターが多く都内では自動車の便もよい。同地はラーメン屋街にもなってきているのでラーメン&古本の街歩きもできる。

■初期は公式マップ

 むかしから早稲田へは行っているのだが、存外に古いエフェメラを持っていないことに気づいた。【図1】は『新宿区古書店案内図』と題する1枚もののリスト及び地図。発行者の記載が見当たらないが、これを売っている金沢文圃閣が「日本の古本屋」で推測しているように、東京都古書籍商業協同組合新宿支部が出したものだろう。年代も記載がないが、幸い、右の方は前の持ち主が「61.7.10」と入手日をメモしているので1986年発行らしいとわかる。左のオレンジ色のほうは地図【図1a】に記載のある「神楽坂書房」が『全国古本屋地図』の「1986改訂新版」を最後に以降の版に見当たらないことから、同年ごろに閉店したものだろう。つまりオレンジ色の紙のほうは1980年代前半のものと推定される。私が購入時書き込んだメモによると、2010年9月に金沢の古本屋Duckbillさんで購入したものである。


【図1】『新宿区古書店案内図』(early1980s?、1986)


【図1a】『新宿区古書店案内図』部分

■公式地図がポップになった2000年代

 1990年代は就職その他で忙しく、古書趣味を休業していたこともあり、この時期の早稲田古本屋街エフェメラは持っていない。次に出てくるのは2004年の『新宿区古書店マップ』【図2】である。妙に横長の折本形式だがきちんと奥付が付いており、なんと発行部数まで刷り込まれている(30000部とある。戦中期発行図書の奥付けみたいだ)。マップはチラシでもあるのでタダで撒くものだから多いのだろう。表紙の長細い無地の枠は頒布書店の店名をハンコで入れる部分だろう。メガネをかけたキャラクターは内澤旬子氏による南陀楼綾繁氏の戯画。古本にポップ文化が入ってきた頃だろう。


【図2】『新宿区古書店マップ』(2004年)

 【図2a】は同マップ「早稲田地区」の地図。組合の公式地図は加盟店全部を載せるので、詳細度に応じて分図にしないといけない。一方で組合非加盟店はふつう出ないので歴史的には要注意だ。
 早稲田古本屋街の西端に「@ワンダー」が表示されているが、この時代の@ワンダーさんに行ったことがない。@ワンダーさんはいま神保町でいちばん勢いがある古書店かもしれない。昔から古本屋街西端は平野書店さんとされていたので気づかなかったのだろう。1980年代後半、ひとりで古本屋めぐりをしていたので、けっこうお店を見落としていたのだった。


【図2a】『新宿区古書店マップ』部分「早稲田地区」

■穴八幡の古本祭は「東京2大古本まつり」だった

 【図3】は「早稲田青空古本祭」のチラシ。なにかの本に挟まっていたものだろう。【図2a】のメープルブックスの南西にある穴八幡神社で第1回が1986年10月に開催されたことがわかる。私もこの古本催事を楽しみにしていた。
 早稲田の古本まつりというと、高田馬場駅前のBIGBOXで行われていたものもある。さきの向井著によると、1971年12月同地点で行われた「新宿古本まつり」の流れで、1974年9月に「BIGBOX古書感謝市」が始まっている(このBIGBOX展は2013年9月が最後らしい)。こちらにも行っていたが、してみると穴八幡(秋)とBIGBOX(晩夏)の二回早稲田の古書店街は古本祭をやっていたということになる。すごい勢いだ。BIGBOX展は中規模ものを毎月1Fコンコースでやっていたこともある(やはり2013年までか)。


【図3】古本屋マップ『日本の古本屋:東京・中央線支部編』ほか

 この穴八幡の古本祭は同時に目録も発行しており、それに古本エッセイが載っていた。過去の自分の記録を見ると、2011年10月に『主要文庫書目』(日本出版文化協会、1942)という珍しい文庫本目録を古書現世さんから買っている。この年が最後と思いきや、ChatGPTに聞いたら2013年が最後らしい(ただしChatGPTは微妙に間違った答えを回答してくるので必ず引用元へ飛んで確認する)。

 早稲田穴八幡の古本祭は、神保町の古本祭に次いで「東京2大古本まつり」と呼ばれたことがある。
 【図4】は早稲田の秋・穴八幡の古本祭と、春の大学校内での古本祭のチラシ。このふたつの古本まつりは記録上、まぎらわしいが、「〔春の大学校内のものは〕「青空古本堀り出し市」という名称で1997年から始まり、〜年に1回、5月に早稲田大学構内でも行われるようになりました。2014年に穴八幡宮での古本市が開催されなくなったのを機に名称変更し、2015年からは5月と11月の年に2回、「早稲田青空古本祭」として開催」*とのこと。
*『早稲田ウィークリー』2019.11.11


【図4】『早稲田青空古本祭』(2005年10月)『青空古本掘り出し市』(2006年5月)のチラシ

■「わめぞ」グループ――早稲田古書店街のスピンオフ?

 【図5】は2009年の「みちくさ市」「外市」のチラシと『わめふり』というフリペに載った「わめぞマップ」である。「わめぞ」とは「東京の早稲田・目白・雑司が谷で本に関する仕事をしている人間のグループ」で、2006年11月に結成、2008年11月30日「鬼子母神通りみちくさ市」を開催し現在も続いている。「外市」は2007年2月初開催だったという。
 わめぞの代表が古書現世の向井さんであったことからもわかるが、【図5a】を見ると、早稲田古本屋勢力のスピンアウトであったとなんとなく感じられる。

【図5】『鬼子母神通りみちくさ市』(2009年11月)、『古書往来座外市』(2009年5月)のチラシとフリペ『わめふり』



【図5a】『わめふり』所収「わめぞマップ(2009年5月現在)」

 当然のことながら『わめふり』はどこの図書館にもなく、「日本の古本屋」にもなく(2026年9月2日現在)、フリーペーパーはその日その時その場所でゲットするものなのだなぁと思う。ネットには当時の紹介記事がある。例えば林哲夫さんのもの

 【図6】は『早稲田古本街地図帖』(早稲田古書店街連合会、2014)である。タイトル「古本街」と法定文字にあるタイトル「古書店街」がズレているのがありがちで面白い。掲載された「早稲田古書店街MAP」がなかなかかわいい。


【図6】『早稲田古本街地図帖』(2014)と所収「早稲田古書店街MAP」


 【図7】は1枚ものの地図。2017年と2019年のもの。一見して【図6】『早稲田古本街地図帖』の浅生ハルミン氏作成図の系譜であることがわかる。

【図7】『早稲田古書店街MAP』

■古本販売のトランスフォーメーション

 古本めぐりに興じていた2000年前後の自分のブログを本連載のためにチェックしていたら、古書現世向井さんのツイートに自分が注目していたことを発見した(すっかり忘れていた)。


【参考図1】古書現世さんのツイート(2009.9.28

 ChatGPTに聞いたら、わめぞの文化的功績は2010年代「「古本屋を街に出した」こと」だという。また、「本周辺の文化」を扱ったことも重要という。雑貨、文具、銭湯(!?)、トーク、街歩きといった「周辺文化」に連動させたというわけだ。実は私の主宰する近代出版研究所も2023年4月16日の「みちくさ広場」に『近代出版研究』頒布のため出店したことがある。
 もちろんお仲間連がいてこその運動であろうけれど、向井さんは店主として業界人として長期の展望を立て、そして行動するという点ですごいと今でも思っている。それで著作もできるのだからすごい。
 今回、早稲田古書店街のチラシを整理して、1980年代から現在までの古本トランスフォーメーション(?)の長期的変化に改めて気づいたことだった。
 また早稲田の古本まつりの次のような流れがざっとわかったのも良かった。古本祭というのも本来は商業活動である一方、ある種の文化運動のような気がしてくる。

新宿古本まつり(高田馬場駅駅前、1971)
 →BIGBOX 古書懇親市(1974-2013)
  →早稲田青空古本祭(穴八幡、1986-2013)
   →青空古本掘り出し市(早大、1997ー)→早稲田青空古本まつり(2014-2019?)
    →外市(2007ー)→鬼子母神通りみちくさ市(2008-)

■「テレビは文明の敵だ」

 1980年代後半に早稲田を歩いていちばんビックリしたのは店頭や店内に「テレビは文明の敵だ」と貼り紙をしていた古本屋さんがあったこと。いまネットで調べるとアカデミー書房さんだという。【図1】を見ると1986年ごろに落合から移転してきていたことがわかる。早稲田の店としては新しいほうだったのか……。40年ぶりに意外なことがわかった。いつの時代も「ニューなメディア」*との付き合いは難しい。
* これは前職で1992年ごろ当時のお偉いさんが言って全館の爆笑を誘った言葉。

■次回は…

 我らが神保町の古本エフェメラをいよいよ攻略すべき? あるいは意外とみんな集めていない国内各地の古本エフェメラを紹介しようか、などと考え中。神保町の(古本屋に限らない)エフェメラについては、『近代出版研究(2026)』エフェメラ特集でスーザン・ページ・テイラーさんが「エフェメラの未来──神田神保町をデジタル・アーカイブにする」という記事を掲載しておられる。


○小林昌樹(こばやし・まさき)
 1967年東京生まれ。1990年と92年、慶應義塾大学文学部を2回卒業。2021年国立国会図書館を早期退職し、近代出版研究所を設立。近代書誌懇話会代表。現役時代の秘伝テクニックを盛り込んだ『調べる技術』がヒット。それを応用して書いた前代未聞の『立ち読みの歴史』は五大新聞紙すべてで紹介。専門は図書館史、近代出版史、読書史。


○近著


内容:初代館長の横死、全部局長の左遷を招いた「春秋会事件」。それを単なる疑獄としてではなく、アメリカ図書館使節が指示したマボロシの「オグジュアリー・サービス」局との対比で語る。敗戦で急転直下わいて出た国会図書館で、国立図書館事業が「収斂進化」しようとしていた! 2026年夏コミで持ち込み分完売! 同人誌ゆえ部数そう多くありません。

書名:国会図書館か国民図書館か:国立国会図書館ウチ・ソト通史【増補版】 / 小林昌樹
発行:近代出版研究所
発売日:2026年8月16日
ページ数:164ページ
定価:2,200円
判型:B5判並製
https://koseisha.stores.jp/items/6a823658efd70ec36c7d8e60

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