『雲遊天下』のこと五十嵐洋之 |
『雲遊天下(うんゆうてんが)』は1994年、大阪で創刊した。当時の編集発行人は村元武。彼が60年代半ばより大阪労音から『フォークリポート』、そして『プレイガイドジャーナル』へと続く活動(これは『プレイガイドジャーナルへの道』、『プレイガイドジャーナルよ(近刊)』いずれも東方出版刊に詳しい)を通して培ったネットワークを活かして、70年代から何らかの表現活動をはじめたり、各様の生き方をしている人たちの記録や創作発表の場という意味を持った定期刊行物だ。 紆余曲折を経て2007年に44号で休刊した『雲遊天下』だったが、その三年後、隔月刊のスケジュール情報誌の制作に疲れ果てたぼくが引っ張り出すこととなった。そのときぼくのまわりには、旧『雲遊天下』の執筆陣と、情報誌の制作を通じて知り合った書き手のみなさんがいた。かれらを組み合わせて、幅広い世代の執筆陣を揃えることで「むかしといまをつなげる」ことができるのではないか、と考えたときに「あ、なんとかなるかな」と、いま考えるとあまりに楽観的だがリニューアル創刊に踏み切った。45号とすると続きのものと思われてしまうかなと考え、101号からはじめることにした。 まあ当然なんとかなるわけもなく、号を重ねるごとに問題、課題が増え、挫折や諦めもあった。そのすべてがぼく自身の未熟さと感覚の鈍さに起因していることは自分自身で一番よくわかるので、動きが固まることもしばしばだった。そんなときに声をかけてくれる書き手のみなさんの励ましや𠮟咤があったからこそ、今年の一月になんとか125号を刊行することができたわけです。 125号の特集「高田渡の夜」には岡崎武志さんが企画するイベント「中川フォーク・ジャンボリー」の模様を掲載しています。このイベントは岡崎さんが司会、中川五郎さんをメインに毎回ゲストのミュージシャンを招いてトークとライブを行っている。「高田渡の夜」には高田渡さんのお兄さま二人、高田驍さんと高田烈さん、そしてベルウッド・レーベルを立ち上げた三浦光紀さんをお招きして、主に少年時代から青年期あたりまでの渡さんの話題で大いに盛り上がった。 時間は通り過ぎるものではなく、積み重なっていくもの、あるいはずーっと続く一連の流れだ。なにかというと「古い」と切り捨てたり、「終わったこと」にしたり、意図的に分断したりするのは本当にもったいないことだと思う。むかしのことをきちんと記録し保存する行為は、いまを生きるための知恵を蓄えることだし、この先どう生きていくのかという問題に関して重要なヒントを探ることなんだと思う。『雲遊天下』を通じてこうした作業を続けることができたら嬉しい。
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