フローとストック月刊「望星」編集長・石井靖彦 |
月刊「望星」3月号では「古書・品切れ・絶版に宝物あり!」と題した特集を組みました。本屋さんに行けば、新書をはじめとした新刊本の大洪水にめまいを起こし倒れる人がいます。アマゾンユーザーや、目当ての本を即購入という効率重視派なら洪水は気にならないでしょうが、面白そうな本はないかな? とブラつくヒマ人にとっても、もはやあの洪水状態は困ります。あらゆる商品はそもそも玉石混淆なのですが、量的拡大を続ける出版の世界は、玉が見つかりづらい代表格かもしれません。 いい本は常に新しく生み出されていますが(何をもっていい本というかはさておき)、一方で、編集者たちの時代の空気を読む力で過去の本が掘り起こされ、装いも新たにして、多くの読者を獲得することもあります。『蟹工船』『思考の整理学』『君たちはどう生きるか』などなど。多くのストックの中に、いまの人にも受ける魅力ある本が潜んでいたわけです。そもそもフローにつき従うのはもう疲れたという気分もあります。 ――と、そんなことを考えて特集を組んだといいたいところですが、実はそんなわけではなく、特集のいつもの路線にすぎないといえばすぎない。「ガリ版」「四畳半」「紙の地図」「銭湯」「辞書」「墓めぐり」「句読点」「歌謡曲」といった、スマホ万能時代にあってはどうでもいいテーマばかりをやっているわけで、図書館で1回も貸し出しされていない本の特集も考えたりもしました。フローにつき従うのはもう疲れたという気分が横溢した特集が基本コンセプトというか、スタッフの気質が自然とそうさせているのかもしれません。 古書・品切れ・絶版などは出版界の裏道に存在するストックの王道、フローの対極でしょう。ここに潜行すると楽しいのでは? 絶版の復刻を望む人たちの声とは? 人気のある絶版にはどんな本があるのか? といった要素でと思っていましたが、さして実現せず。でも素晴らしい復刊を手がける夏葉社の島田潤一郎さんの本への愛情、「出版ニュース」清田義昭編集長が指摘する、戦後の新刊総点数約276万の3分の1はいまでも手に入るといったオドロキの事実、名うての文芸編集者である石井紀男さんと、随文家・坂崎重盛さんの古書店と古書をめぐる話などを紹介することができました。古書店の世界が想像以上に忙しいこともお伝えしています。 (雑誌の発売元は東海大学出版部)
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