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江戸から伝わる古書用語 4 江戸時代の本屋の日記から    (シリーズ古書の世界第7回)

江戸から伝わる古書用語 4 江戸時代の本屋の日記から

橋口 侯之介(誠心堂書店)

寛永期から続く伝統ある京都の本屋・風月庄左衛門(ふうげつしようざえもん)が書いた明和9年9月(1772)から1年3ヶ月分の日記が残っている。弥吉光永編『未刊史料による日本出版文化1』(昭和63年、ゆまに書房)で見ることができる。

基本的には業務日誌のようなものだが、中を読んでいくと、仕事の様子はもちろん、同業者とのつきあい、長男の出産を始め家庭内のことなどが細かく書かれている。業務もプライベートも飾ることなく書かれた二十代後半と思われる若い店主の個人的な日記である。他人に見せる目的の記録ではないので、使用されている言葉は当時の業界用語そのままであり、わかりにくい文である。しかし、現代の古本屋なら読み解くことができる。注意深く解読していくと本屋が日常どのように過ごしていたかがわかってきて興味深いのだ。

名門の書林なので出版物も多い。しかし、日記から見えてくるのは、現代の出版社のように、間断なく新本を出し続ける仕事ぶりとは違う。出版活動は数多くの業務の中のひとつに過ぎないのだ。店ではさまざまな本に関する仕事をこなすのだが、それを見ると、本業はむしろ古本屋の仕事で、それに加えて時々出版もするという感じである。

というのは、この日記の書かれた時期の最大の売り上げは諸大名への書物の大量納入だった。この頃、各藩では藩校の開始に向けて蔵書の収集をはじめていた。いわば図書館の充実である。風月の店でもそれに向けて在庫を増やす努力をして、売り込んでいる。

前回述べたように本の市場が充実してきており、仕入れにはそれを利用することが多い。とくに唐本の市から多く買っている。次が一般顧客からの買い入れで、日記にしばしば記録されている。中には大坂に珍しい本が出るというので、紹介者に添状をもらって仕入れに行っているなど、大口の買物もしばしばあった。

この店では、新本、古本、唐本がそれぞれ区分けされて保管されていて、店内はもとより、いくつかの蔵、別宅などに分散されていた。その置かれた場所ごとの商品在庫調査や、帳面の整理をこまめに実施している。それらは番頭を長とした店員たちのルーチンワークであり、合(あわせ)といっている。古本に符牒を入れのもこのときだ。どこに会計報告するわけでなし、まして税の申告の必要もなかった当時でも、こうして律儀に帳面と在庫のつき合わせをしていたのだ。

むしろ目的は、在庫目録の作成のためだ。藩校への納本はこの目録を先方に送り、そこから注文を取る方法だったことが日記でよくわかる。先方から欲しい本のリストが届き、ただちに納めると、日をおかずして入金してくる。この店の一番の稼ぎだった。古書目録というのは江戸時代からの有効な売り方だったのだ。



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