文字サイズ

  • 小
  • 中
  • 大

古書を探す

メールマガジン記事 シリーズ古書の世界

若い読書家    (シリーズ古書の世界第12回)

若い読書家

出久根達郎

 本を愛する人の顔は、例外なくステキである。美男美女である。老いても、若く見える。輝いている。肌にツヤがある。
 眼に、張りがある。そして、澄んでいる。活字で眼が洗われているせいだろう。
 言葉に、ムダが無い。言い回しが、しゃれている。あたたかみがある。表現力が非凡である。
 十六歳で七段の棋士・藤井聡太さんを見よ。大人でもめったに遣わないボキャブラリーを、当たり前のように口にする。中学生の時、「望外の僥倖」と言った。日頃本に親しんでいなければ、まず出てこない言葉である。

 通算五十勝を達成した時、記者会見で、これは「セツモク」の数字であると言った。
 並み居る新聞記者の誰もが、一瞬、何のことか理解できなかった。どんな漢字を当てるのか、耳で聞いては見当がつかない。テレビを見ていた筆者にもわからなかった。たぶん将棋用語なのだろう、と独り合点した。
 あとで調べたら、セツモクは「節目」であった。フシメ、である。人生の節目、などと言う。藤井さんはフシメを読み違えたのだろう、と思い、念のため辞書を繰ってみたら、フシメ、セツモクどちらも間違いでないが、正式にはセツモクと読む、とあった。
 藤井さんは正しい読み方をしていたのである。

 僥倖といい、望外といい、耳慣れぬ漢語を身につけたのは、読書のたまものらしい。
 何しろ小学四年生の時の愛読作家ベストスリーが、司馬遼太郎、沢木耕太郎、新田次郎の「さん郎」というから驚く。セツモクは、どうやら司馬遼太郎あたりが仕入れ先であるまいか。
 十四歳の女優・芦田愛菜さんも、藤井さんに劣らぬ読書家である。
 そういえば、大リーグの今年の新人王、大谷翔平選手も、趣味が読書と聞いた。二刀流の大谷選手も二十四歳と若い。読書が趣味と広言する有名人は、この数年、いなかった。近頃、これは嬉しいニュースだった。

 更に望めば、本、特に古書が大好き、と標榜する若いかたが現れてほしい。そして、古書のこんなところが魅力がある、と力説してほしい。古書の良さをご存じないかたが多すぎる。知っている人は、吹聴する義務がある。
 美智子皇后は、幼い時分から本が大好きであった。中学高校生の頃は、神田神保町の古書街を歩いて、外国文学や日本古典を求められた。
 皇后になられたあと、外国記者団が、お供の方と警固の方もなしに、ご身分を隠して一日を過ごすことができたとしたら、どちらにお出かけになり、何をなさりたいですか、と質問した。
 皇后さまは、こう答えられた。日本の昔話に隠れミノが登場する。これを着ると姿が見えなくなる。変装や偽名を考える必要がない。ミノを着けて、「学生のころよく通った神田神保町の古本屋さんに行き、もう一度長い時間をかけて本の立ち読みをしてみたいと思います。」(平成19年5月14日)

Copyright (c) 2018 東京都古書籍商業協同組合

  • コショな人
  • 日本の古本屋 メールマガジン バックナンバー
  • 特集アーカイブ
  • 全古書連加盟店へ 本をお売り下さい
  • カテゴリ一覧
  • 画像から探せる写真集商品リスト

おすすめの特集ページ

  • 直木賞受賞作
  • 芥川賞受賞作
  • 古本屋に登録されている日本の小説家の上位100選 日本の小説家100選
  • 著者別ベストセラー
  • ベストセラー出版社

関連サイト

  • 東京の古本屋
  • 全国古書籍商組合連合会 古書組合一覧
  • 想 IMAGINE
  • 版元ドットコム
  • 近刊検索ベータ
  • 書評ニュース