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古本屋ツアー・イン・ジャパンの2018年総決算報告

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2018年総決算報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 2018年は、凶のおみくじを引いたところから始まった、なんだか長い長い一年であった。しかし今この場で、これを書けているということは、どうにかこうにか乗り切ったということである。結局は古本と古本屋さんでもりもり遊ばせてもらった感があるので(まぁ毎年のことではあるが)、そのおかげで“凶”という悲惨な運命を、吹き飛ばせたのではなかろう…古本バンザイ!

 まずは年の前半を急ぎ足で振り返ってみると、一月には吉祥寺で古本写真集専門店「book obscura」を発見し、早稲田には詩歌に力こぶを入れる「古書ソオダ水」が開店。明大前の出版社兼古本屋の「七月堂古書部」が古本売場を大幅拡大。二月には京成大久保の名店「キー・ラーゴ」、池袋の老舗「八勝堂書店」が閉店。三月には旅から帰ってきた「古書玉椿」が西調布に刺繍や北欧に特化した「folkkora」を開き、中村橋には良書を安く販売する「古書クマゴロウ」が誕生。駅近にデカイ看板を掲げていた竹ノ塚「永瀬書店」が惜しまれながら閉店した。四月は久々の出張で出向いた京都で出町柳の商店街に「EL camino」の開店を目撃し、金町の駅前大衆店「五一書房」と辻堂の良書ドッサリ「洋行堂」の閉店に涙する。

五月には追浜で「ぼちぼち書店」の開店を祝い、東陽町の古本屋酒場「古本と肴 マーブル」でビールに酔い痴れ、吉祥寺では黒猫とともに引っ越した「すうさい堂」をビル二階に探し当てた。六月には雑司が谷の「JUGLE BOOKS」が半地下店舗から路面店に引っ越したのを祝い、家の一部を改装した山手「古書けやき」のひっそり閑にため息をつく。また大和の独立店舗「古本市場」の閉店セールに小田急線で駆け付けた。相変わらず関東近郊の古本屋動静であるが、新しいお店が生まれ続け、役目を終えたお店が表舞台から姿を消して行くのは、いつものことである。一店一店のお店が閉店するのは悲しいことであるが、大局的に物事を見れば、古本屋界の激動の歴史を目撃していることになり、貴重な瞬間に立ち会えている思いが、常に胸の中にある。

 さて、後半戦である。まず七月には総武線の平井駅に「平井の本棚」が開店。女性店主の知的なお店であるが、雜本コーナーに安値の良書が混ざるのが魅力的であった。また大山の「銀装堂書店」の店舗が消えているのに愕然とするが、これは催事にしばらく集中するためとのことであった。気長に店舗の復活を待ちたい。また東京都古書籍商業協同組合の計らいで、皓星舎より「古本乙女の日々是口実」を出したカラサキ・アユミさんと対談トーク出来たのは、貴重な体験であった。いわゆる古本好きの女性はたくさんおられるが、カラサキさんは女性には珍しい弩級の古本コレクターなので、お互いが打てば響く鼓のようになり、共鳴しまくるマニアックな古本話が炸裂した。

今後も彼女には、西日本で古本屋さんを活性化させるべく、大いに買いまくっていただきたいものである。八月には中央線の名店である「ささま書店」の店内が大きく変化した。今まで奥にあった文学関連が表側に移動したり、映画関連が奥に移されたりと、何か秘めたるものがあるらしい動き。また「ささま」は、五月と十二月に中野「古本案内処」とタッグを組み、「おぎくぼ古本市」というイベントも始め、攻める「ささま」!を印象付けている。久々の遠出は、福島県いわきに開店した「阿武隈書房」へ。白っぽい街中にある古い商店を改装した趣きある店舗で、マニアックな棚造りが渋く眩しかった。九月には月に二三回は通っている神保町なのに、裏路地に新たに出来ていた「山吹書房」に初めて気付き、古書がたくさんのルックスに惚れ込んで定点観測ルートに入れ込むのを決める。

十月は目録販売の雄「股旅堂」の倉庫を見せていただき、涎の垂れそうな本の中を懐中電灯片手に探索させていただく。その後お店は、恐ろしい袋綴じの目録を出し、心底度肝を抜かれた。未だにその袋綴じは恐くて開けていない…。伊勢佐木町には催事で活躍していた「雲雀洞」が開店。古本屋的に少し寂しくなりかけたイセザキモールに、先に出来た「馬燈書房」とともに、新たな古本風を巻き起こし始めている。池袋では立教大近くの「夏目書房」が華々しくセールを行いながら閉店。大変残念なことに、これで西口に古本屋さんはいなくなってしまった…。十一月には飯能の「文祥堂書店」が閉店。

今後は催事とネットにスタンスを移すとのこと。それにしても、あの大量の本がうずたかく積み上がったお店を、一人でコツコツ片付けていた姿勢には、深く深く頭を垂れてしまった。十二月には古本盟友の岡崎武志氏とともに、毎年恒例の蔵書放出ガレージ古本市を実施。例年よりお客が多く売り上げも良かったので、平成を締めくくる上出来のイベントとなった。

 岡崎氏と言えば、十月には西荻窪の「盛林堂書房」を版元とする、共著の古本屋本の第四弾を刊行。その名も『青春18きっぷ古本屋への旅』である。JRの普通列車載り放題の青春18きっぷを駆使して、61歳と51歳のポンコツ気味のオジさんが、一人旅&二人旅で古本屋を訪ね回る写真満載の紀行文集である。電車に乗り、街を歩き、古本屋を訪れ、時に何も買えず、時に掘出し物を手に入れ、喫茶店で買った古本を愛で、また電車で家に帰る。そんな古本を買う喜びに満ちあふれたユルく楽しい本であるが、古本屋に関わる本を出し続けられるのは、本当に嬉しく幸せなことである。

 そして去年も書いたことであるが、漫画家・喜国雅彦氏の貸し棚古本屋「ひとたな書房」では、たくさん探偵小説を買ってしまった。「黒い東京地図/蘭郁二郎」8000円、「自由酒場/ジョルジュ・シメノン」6000円、「女食人族/香山滋」6000円、「獣愛/橘外男」3800円、「人工怪奇/九鬼澹」13000円、「少年探偵団 妖怪博士/わか・としろう」12000円、「江戸川乱歩全集7 少年探偵 灰色の巨人/田中ちかお」15000円、「怪盗追撃/森下雨村」10000円…合計73800円!?…たくさん夢にまで見た探偵小説を安く買えてとても嬉しいが、やはりバカだ…。

 ただしこの奇跡の古本屋さん擬きも、氏の蔵書整理がスムーズに進んでいるので、後一年ばかりで終わりを迎えることになりそうである。  とまぁこんな風に、やはり“凶”を古本で吹き飛ばした2018年であった。吉のおみくじを引いて動き出した2019年も、早速新しく出来る古本屋さんについてや、涙を絞りたくなる閉店情報が飛び交っている。その辺りは、また七月あたりにご報告出来れば。何はともあれみなさま、今年もよろしくお願いいたします。

小山力也 2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。「フォニャルフ」の屋号で古本販売に従事することも。古本屋に関する著書ばかりを出し続けており、それらの出版社や形状は違えど、全部を並べたらいつしか“日本古本屋大全集”となってしまうよう、秘かに画策している。最新刊は岡崎武志氏との共著「青春18きっぷ古本屋への旅」(盛林堂書房)。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。http://furuhonya-tour.seesaa.net/

seisyun
『青春18きっぷ古本屋への旅』
著者:岡崎武志×古本屋ツアー・イン・ジャパン
発行元:盛林堂書房 価格:1,500円
http://seirindousyobou.cart.fc2.com/ca6/437/

Copyright (c) 2019 東京都古書籍商業協同組合

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