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古書目録「堀紫山伝」のこと(一)

古書目録「堀紫山伝」のこと(一)

高橋 徹(月の輪書林)

 二年前、古本屋の大先輩の身にあまる好意で、明治時代の新聞記者・堀紫山(文久3年~昭和15年)宛の書簡・ハガキ200通を手に入れることが出来た。
 うれしくて手紙の束を胸にだきしめると、「堀紫山伝」というタイトルが浮かんだ。
 紫山宛に届いた手紙を写真に撮り、解説を書き、値段をつけてしまえば小粒だが、ぴりりと光る素敵な古書目録がすぐにでも発行できると思ったのだが、二年がたつのに未だ書簡の「解読」もままならぬていたらく、一体どこで道を迷ってしまったのか?

 解読とは大げさなようだが、流れるように書かれた達筆な毛筆の文字が、くやしいかな読めない。九十歳、百歳といった老人の手が読めないのならさほどくやしくはない気がするが、堀紫山宛の手紙の主(ぬし)のほとんどが二十代、三十代の若者なのだ。
 なかでも小栗風葉にいたっては十八歳、だけど惚れ惚れするような美しい字を書く。しかも酸いも甘いも知り抜いた大人(おとな)の字だ。どうしてこの若さでこんな字が書けるのかと、『評伝小栗風葉』(岡保生著/昭和50年/桜楓社刊)をひもとき、なるほどと感心する。一事が万事この調子で、ますますもって古書目録の発行が遠くにかすむ。
 堀紫山は、明治23年10月から数か月、尾崎紅葉と本郷区森川町一番地で共同生活をしたことがある、「紅葉第一の門人」(徳田秋聲)とも言われた男。だから、硯友社周辺の凄玉の男たちからの手紙が多い。

  小栗風葉 18歳(明治26年/封書5通 葉書3枚)
  巌谷小波 26歳(明治29年/封書9通 葉書3枚)
  川上眉山 27歳(明治30年/封書3通 葉書1枚)
  石橋思案 30歳(明治30年/封書10通 葉書3枚)
  柳川春葉 20歳(明治31年/封書3通)
  長田秋濤 26歳(明治31年/封書3通)
  尾崎紅葉 31歳(明治33年/葉書2枚)
  斎藤松洲 33歳(明治36年/封書2通 葉書3枚)
  徳田秋聲 31歳(明治36年/封書3通)
  後藤宙外 36歳(明治37年/封書3通)
  江見水蔭 34歳(明治37年/封書5通 葉書1枚)
  泉 鏡花 31歳(明治38年/年賀状2枚)

 ちなみにこの中で読みやすかったのは江見水蔭と泉鏡花の二人だけ。
 それはさて、今、堀紫山の名を聞いてピンとくる人が一体何人いるだろうか?
 百二十年前には新聞界きっての美文家とうたわれた紫山の名は一体いつ忘れ去られてしまったのか?
 堀紫山とはそもそもどんな男なのか?
 そう問われたらこう答えたい。

 堀紫山には妹が二人いて、一人は美知といい、堺利彦と結ばれ、もう一人の妹は、保子といい、明治39年8月24日、大杉栄の熱烈な求愛をうけ結婚した。
 つまり、堀紫山は、初期社会主義者の巨頭の一人と無政府主義者のスーパースタアの二人を「義弟」に持つ極めて稀な男なのだと。
 古書目録「堀紫山伝」の目玉は、堺利彦と大杉栄をおいて他にない。

高橋 徹(たかはしとおる)
1958年、岡山県の山奥、柵原鉱山に生まれる。日本大学芸術学部文芸学科を2か月で中退。鈴木清順監督の「ツィゴイネルワイゼン」の美術助手として映画製作に関わるも挫折、87年に大田区蒲田の古本屋・龍生書林の店員となる。
3年半の修業の後、90年、東急池上線の蓮沼駅近くに「月の輪書林」を開く。
特集古書目録に「私家版 安田武」、「古河三樹松散歩」、「美的浮浪者・竹中労」、「寺島珠雄私記」、「李奉昌不敬事件予審訊問調書」、「三田平凡寺」、「太宰治伝」などがある。著書には『古本屋 月の輪書林』(1998年/晶文社)がある。

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