☆古本乙女の独りごと③ 愛しの古本との共同生活、その喜びと葛藤カラサキ・アユミ |
レンタルしてきた或るアメリカ映画、蔵書が整然と並べられた書棚に囲まれた部屋で主人公の女性がワイングラスを片手に時折口に運びながら机の上に広げた本を読み耽るシーンがあった。たった数十秒しか映らなかったその情景を私は羨望の眼差しで掴んでしまった。その姿その空間その行為の格好良さときたら!! それに引き換え、我が家ときたら・・・テレビ画面から目を離し部屋を見渡す。床に蓄積されたホコリの塊、物で溢れた卓(裸のティッシュ箱、珈琲の飲みかけが入ったカップに食べかけの菓子袋、散らばった公共料金の領収用紙、読みかけの単行本やら相方の競馬攻略本にスポーツ新聞etc‥)、ジャンルも背表紙の高さもバラバラに並べられた本棚、本棚に収容出来ずに床に積み上げられた大量の本タワー、段ボール箱で作られた即席本棚(外側は飼っている猫の爪研ぎの餌食に。前衛アートのような風貌と化している。)、シーツカバーが歪んで皺だらけのソファ・・・。比較するなんて御門違いな現実の猥雑な汚部屋風景に思わず溜息が漏れ出た。今この瞬間、私と同じように〝憧れの空間〟と〝現実の空間〟の狭間で葛藤し、折り合いをつけて生きている物欲逞しき古本好きはこの星の下にどれだけいるんだろう、とベランダから空を見上げた春の夜更けであった。 私の場合、週に最低五冊は古本や新刊本を買込む。その為日々本はどんどん屋内の何処かに蓄積されて生活空間の一部として溶け込んでいく。やがてこれらは知らず知らずのうちに住む人間の片付ける気力をも奪う恐ろしい存在と化す。(ちなみに私は散らかし上手に拍車がかかった。)そう、彼等は(※本)我々古本趣味の愛情を利用する事で静かに確実に領土を拡張していく侵略者なのだ。(なんだか書きながら気分は空想科学作家になってきました。)そんな現状だから整理整頓も諦めの境地に。増え続ける古本様になすがままの毎日なのである。(こんな事を書いていた矢先に積ん読タワー雪崩の餌食になってしまった…脛がヒリヒリ・・・。) 結局、散らかった部屋で安い缶ビール片手に胡座をかいて茶けた古本をダラリと眺めるのが自分には一番ピッタリなのだよ、ネ?古本買いはやめられないし、ウンウン。なんて言い聞かせつつ、やはりスタイリッシュで整然としたお洒落空間への羨望の気持ちは抑えられないまま今日も夜が更けていくのであった。(このフラストレーションを多少なりとも抑制すべく書庫になりそうな安い賃貸物件をチェックするのが日課となっている現在。果たして第二の桃源郷は何処に!?)
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