☆古本乙女の独りごと⑨ 古本への我が求愛行動カラサキ・アユミ |
先日、口紅を一本新しく買った。顔色を良く見せる口紅というアイテムは、化粧品に投資するぐらいなら古本に注ぎたいと常々思っている自分にとって唯一必須の化粧道具でもある。もともとそのテの事にはさっぱり疎い上に様々な色を試すのは金銭的にも勿体無いし何より面倒臭いというのもあるので特にこだわりがあるわけでもなく長年同じ色を使い続けている。新調するのはその一本を使い切った時点だ。
思えば、普段塗らずに過ごすことも多い自分は古本漁りに赴く時は必ず口紅を引いて出かける。場所によっては埃まみれになる事もある、ひたすらに自分ひとりの戦い(と表現する方がしっくりくるかもしれない)である古本行脚において、自分がわざわざ唇に紅を塗る意味とは?ある日いつも通り古本屋に出向く前に鏡の前で口紅を手に突然じっくりと考えてみた。実にどうでも良いといえばそれで済む話なのだが、三十路も過ぎると何かと考えたがる癖が出てきたようである。 よくよく振り返ってみると、この行為には武将が兜の緒を締めるが如く古本戦に出陣するにあたって気を引き締めるという感覚にも近く、それと同時に良き一冊との出逢いを期待してという願掛けの意味があるように思われた。更に掘り下げてみると、小綺麗にしておけば古本との良縁に恵れるという独自の思想が浮上してきたのであった。 孔雀が煌びやかな羽を広げて相手に猛アピールするように(この場合は雄だが)艶めいた唇で古本が並ぶ棚の前に立つことにより、呼応してくれる一冊を見つけ出す。まさに古本を男性になぞらえた求愛行動。そう、この口紅塗りは常に古本に恋い焦がれている己の心境がいつのまにか習慣化させたものだったわけである。あぁ私もやはり女だったのね…思わずしみじみとしてしまったのであった。 意外とこうした古本行脚における願掛けに近い行為はどの古本好きの方々にもあるかもしれない。例えば、古本行脚には必ずこのリュックで行くとか、あるいは必ずこの喫茶店で珈琲を飲んでから古本漁りに行くとか、絶対にここで昼ご飯にカレーを食べてから次の古本屋にいく等々、些細な願掛け的行動を無意識に行なっている人も多いのではないだろうか。こうなったら是非とも次回、起き抜けのぼんやりとした状態で口紅を塗らずに古本漁りに出向いて検証してみたいと思う。こうした目に見えない事象で楽しめるのも案外古本趣味の醍醐味かもしれない。
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