☆古本乙女の独りごと④ 古本好きの財布のヒモの結び加減カラサキ・アユミ |
私は古本のある場所に行ったら手ぶらで帰る事はほぼない。 財布に入っていたら入っている分全てを綺麗に残さず美味しく使える、と言うか使ってしまう私である。心踊るモノにお金を使うのは楽しい。 ここ最近何かと身辺が忙しく、まとまった自由な時間が無い状況が続いたせいもあり、我が古本欲は最高潮に達していた。「古本を漁りたい‼︎」ただただ暇さえあれば心の中で咽び叫んでいた。会えなければ会えぬほどに燃え上がる恋の炎の如し…。最寄駅に隣接する新刊書店にはコンビニ感覚で頻繁に立ち寄っていたものの、一向に私の心の隙間は埋められる事はなかった。不思議なもので新刊を買い続けても何冊新刊を買い求めても古本を買う時と同じあの高揚感は得られないのだ。一冊の本と出会った際の喜びは味わえるものの、やはり古本買いの時のワクワク感には程遠い。つくづく自分は〝探す〟という行為が好きなんだなと感じる。 そして待ちに待った念願の終日予定の無い日が到来。ここ数日の状況から見れば自分にとって大変貴重な一日である。おまけに気候は穏やかお天道様は優しく輝いている。絶好の古本日和だ。よし、腹が減っては戦はできぬ、朝飯を食べたら早速古本屋行脚に繰り出すぞルルルンルン。と、トーストを焼き目覚ましの熱い珈琲を淹れる。普段ほとんどじっくり観る事のないテレビをつけ、イチゴジャムをトーストに塗りながら眺める。年金・税金・保険・所得……なんだか己の先々の事を考えなさいよ的なニュースばかりが目に耳に入ってくる。支度を済ませ「よし、行くか。」と玄関に座り靴紐を結びながらにわかにジワジワと得体の知れぬ感情が私の中で騒めき始めた。「大丈夫か…?このまま行ってしまっても良いのだろうか私…。」(※この〝大丈夫だろうか〟というニュアンスは読み手の方々にご想像していただきたい。) ところが古本屋の前に到着した瞬間、「いや、これでいい…。間違いなくこれでいいんだ。」と道中の暗雲立ち込めたる沈鬱な葛藤も霧が晴れるように一瞬にして消え失せ、屋外の均一棚を見始めたのであった。 将来に備え国民各自貯蓄せよと国が強く促している昨今、そのような注意喚起を右から左に受け流し馬耳東風状態、何が何でもさてはさておき自らの欲求を満足させる事に一投入魂する、明日食う米が無くとも目の前の古本を買ってしまう、そんな私に小さな葛藤が芽生えた或る日の休日風景であった。この葛藤は古本趣味の人間誰しもが通る通過点なのかもしれない。 だが葛藤があったとてそれでも変わらず私の財布の紐はユルユルである事は一向に変わらないのではあるのだが…
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