「古本屋ツアー・イン・ジャパン2019年上半期報告」古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山力也 |
相も変わらず東京にのたくり、古本を買って暮している。日々、ご近所への小さな旅を繰り返し、お眼鏡に適った古本を働き蟻のようにせっせと家に運び込んでいる。その代わりに、もはや不要と思った本は、スパッと思い切りドシドシ手放しているので、各部屋に蔓延る本の山は山として、さほどその形を変えることはない。それだから、『ほぼ本の中で生活する』という馬鹿げたスタイルに変化もなく、今年もあっという間に半年が過ぎてしまった…。 一月は西荻窪「にわとり文庫」の百円均一大会からスタート。お年玉として、明治の押川春浪本を手に入れる。阿佐ヶ谷では元貸本屋の古本屋「ネオ書房」が突然閉店半額セールをスタート。貴重な本がびっくりするような安値で供されることがあるので、毎日のチェックが欠かせなくなる。この日は偕成社文庫「水曜日のクルト」を50円で入手する(さらにその後、矢川澄子の仁木悦子宛献呈署名本や、仁木の旧姓本名である大井三重子宛の仁木悦子署名本なども入手)。上井草では古本も売るグラノーラ販売店「井草ワニ園」が、グラノーラを売りながらもさらに古本を増やし、ルックスがほとんど古本屋さんと化しているのに苦笑する。下高井戸では老舗「豊川堂」の営業再開(週末のみ)を喜ぶが、荻窪では変な名前チェーンの「象のあし書店」が地域の人々に絶大に惜しまれながら閉店し、阿佐ヶ谷では住宅の一部をお店としていた「あきら書房」がひっそりとシャッターを下ろしてしまっていた。 二月は谷中の「古書信天翁」の悲しみの閉店から始まり、西日暮里の「古書ほうろう」移転セールや龍ヶ崎の超巨大古書モール「竜ヶ崎古書モール」閉店セール(相変わらずの本の海であったが、停められっ放しのエスカレーターなどが悲しかった…)を駆け抜けるとともに、谷保の渋い商店街に出現した古本も取り扱うひとり出版社「小鳥書房」や西荻窪の小公園横に出現していたビールと古本と書斎の店「BREW BOOKS」の開店を祝う。三月は三鷹に新鋭「りんてん舎」が出現し、同地の先輩「水中書店」同様、詩歌に店内に百均棚を備えるほどの強さを発揮し、三鷹を新たな文学の街へと導き始めている。さらに西荻窪には「benchtime books」という製本と古本の店が出現。薄暗い中二階の奥では店主が、古本より製本作業に熱中しながら日々を過ごしている。また神保町では特殊古本屋「マニタ書房」が閉店するが、棚の一部を下北沢「古書ビビビ」に移植し、その名を残している。「虔十書林」は富士見坂からすずらん通りに移転し、新たな形態で営業をスタートさせている。 そして先述した阿佐ヶ谷の「ネオ書房」が前触れなく突然閉店。その後テレビ番組の企画で、お店の本を全部フリマで売り尽くすイベントにチャレンジしていた…。この月の掘出し物は、西荻窪で百円で見付けた野溝七生子「女獣心理」オリジナル本。裸本で背が傷んではいたが、外棚の片隅に見つけた時は、激しく胸がときめていしまった。四月は高円寺のガード下で、「都丸書店」がお店の一部を縮小するのを目撃し、自由が丘「東京書房」の移転にも駆け付ける。また西千葉の激安店「鈴木書房」が閉店セールを始めていたのでたくさん買うつもりで見に行くが、運悪く定休日で購買意欲の行き場を激しく失う。経堂「遠藤書店」は、朝日新聞でもその閉店を惜しまれながら美しく幕引き。国分寺には「七七舎2号店」跡に若者の思想と文化を独自の視点で並べる「早春書房」が開店。そして一箱古本市のついでに立ち寄った西日暮里「書肆田高」では濃厚な詩の森に迷う。 これで東京には「水中書店」「古書ソオダ水」「田高」「りんてん舎」と、若手詩歌店四天王が華々しく出揃ったことになる。この月の掘出し物は、三鷹で函ナシの「ですぺら/辻潤」と国分寺で朝日ソノラマ「女王蜂/中島河太郎」をともに千円で買ったことであろうか。五月は町田の昭和遺産的仲見世商店街に開店していた「EUREKA BOOKS」を訪れると同時に、突如閉店してしまった古本屋ビル「高原書店」の、本が店内にギッシリ残ったままの悲しい姿を眺めて涙する。そんな悲報を振り払うように、リニューアルオープンした国分寺「七七舎」では、古本盟友・岡崎武志氏とともに一日店長&トークショーを行ったりもした。六月は西荻窪「古書音羽館」で行われた師匠である高原書店に愛と感謝を込めての15%オフセールで古本を買い、高円寺では一階がギャラリーで二階が店舗の「えほんやるすばんばんするかいしゃ」が、一階にすべての機能を移しつつ店主も未知の新たな営業形態で再スタートする!という非常に前のめりな生き方を選択したのに面食らう。 早稲田では二階店舗の「丸三文庫」が西早稲田交差点近くの路面店に移転し、早稲田の新しい顔となる、さらに西荻窪には吉祥寺から移転し古本屋として復活を遂げた「トムズボックス」が開店し、絵本好きの耳目を集める。そして鎌倉では、古都に新しい風を吹かせた「books moblo」がその役目を終え惜しまれながら閉店したが、駅西側に新たに開店していた一軒家古本屋「古書 アトリエ くんぷう堂」が、奇跡的にその血と役割を受け継いでいるように感じ取る。この月の掘出し物は、保谷で見付けた百円の小村雪岱「日本橋檜物町」。函が壊れかけていたが、ちゃんと雪岱の木版画が巻頭にあったので、自然と店頭で笑顔がこぼれてしまった。 とこのように過ごして来た半年であるが、中央線沿線の古本屋さんの充実度には、やはり見逃せないものがある。後半戦も引き続きこの辺りでのたくって生きて行くのであろうが、そろそろ何処かに遠出したいと言う気持ちも頭をもたげて来ている。とりあえずは仙台駅近くに開店した「古本あらえみし」や宇都宮に復活開店した「analog bokks」でも見に行きたいものだ。そして阿佐ヶ谷のすでに閉店した「ネオ書房」であるが、なんと評論家の切通理作氏が店舗と屋号をそのまま引き継ぎ、独自のお店を開店予定とも伝えられている。まだまだ色々不思議な風が吹き荒れそうな、2019年の古本界である。
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