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第二回 古本屋稼業十年目の呟き

第二回 古本屋稼業十年目の呟き

山本善行

 物を集めて喜ぶというのには何か意味があるのではないか。それが男性に多いということにも意味があるのだろう。男が生きていく上で抱えるストレスの種類と関係があるのかも知れない。とにかく、本に限らず、集める人は周りに多くいるし年々増えているようにも思う。私は、集めるのを楽しんでいる、あるいは苦しんでいる人たちの話を聞くのが好きだ。

 最近も工作舎から、四方田犬彦さんの『女王の肖像』という本が出たが、副題が「切手蒐集の秘かな愉しみ」、帯には「実はまだ切手を集めているのです。」とある。私は、すぐに注文して店に並べた。人が集め続けるという心理に興味があるし、お客さんに読んでもらうことで何か感じてもらえると思ったのだ。古本屋にぴったりの本だと思った。集める人が増えていけば、本を集める人も増える、そう都合よく考えたい。
 私自身も、本とレコード、さらには万年筆などにも興味を持ち集めてきたが、本を扱う仕事をするようになったので、本に関してはちょっとまた違った道筋に入ってきている。

 十年前、自分の集めてきた本を、全部売ってもいいと思えたことで、古本屋を始めることができた。毎日のように古本屋に行き、迷いながら買った本は、全部自分自身のような気がして、残しておきたかったが、それらを店に並べてお客さんに見てもらい、色々話しながら買ってもらえるとしたら、それもまた第二の人生にもなるだろうし、楽しいだろうと思ったのだ。本への執着が人一倍強かった私は、全部売るんだと決心しないと、古本屋にはなれなかった。

 私の店には、例えば、青山二郎の装幀を全部集めようとしている人、和田誠の著書を集めている人、泉鏡花の本を探している人など、いろんな人たちがやってくる。私はその手伝いをすることで、その人たちのこだわりなどにも触れることになる。今は売る側に回った私だけれど、お客さんのコレクション話を聞いたり、本を探したりしているうちに、元々あった私のコレクション魂に、ちょろちょろと火がつき始めた。
 古本屋でも、自分用の本箱に本を並べても良いではないか、と思うようになったのは最近のことだ。吟味してまた一冊ずつ本棚に並べていくのが楽しくて新鮮、それらもまた売る気になれば売ればいいわけで、固まる必要はない。

 それでは、どのような本が、私の本棚に並んでいるか、本棚の前の椅子に腰掛けて、少しだけ見てみよう。
 まずは、関口良雄『昔日の客』。三茶書房版。私は何冊も店で売ってきたが、入荷するたびに読み返して、もう自分用に持っておこうと思ったのだ。
 『ガルガンチュワ大年代記』、昭和18年の筑摩書房版。これは頂いたもので、なんと、訳者の渡辺一夫から筑摩の創業者、古田晁への献呈署名本である。こういう本は開くたびに、気持ちが温かくなり、引き締まる。

 『ラムネの日から』。黒瀬勝巳の詩集なのだが、「あわわん」の詩人、長谷川進への献呈署名本。この詩集は店に置き値段も付けていたが、売れなかった。
 小林秀雄『ランボオ論』。これは一番好きな本かも知れない。49部発行の27番。出雲産の雁皮紙と印刷が見事で、野田書房の制作だ。
 これからも、年に1、2冊でも、自分の本棚に好きな本を並べていこうと思う。こんな楽しみを持つことで、よりお客さんとの話が盛り上がり、商売繁盛という結果が付いてきたらいいな、と思っている。

zenkou
『漱石全集を買った日』山本善行 清水裕也 著
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山本善行
2009年、銀閣寺近くに「古書善行堂」を開店する。
著書に「古本泣き笑い日記」「関西赤貧古本道」「漱石全集を買った日」など。雑誌「APIED」と関西ジャズ情報誌「WAY OUT WEST」に連載中。

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