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第三回 古本屋稼業十年目の呟き

第三回 古本屋稼業十年目の呟き

山本善行

 ふと、あと何年古本屋を続けていけるのだろうかと考えることがある。身体と頭が動く限り、多少鈍くなっても、最後の最後まで古本屋でいたいと思うが、すでにかなりの鈍さを日々味っているので、とりあえず後十年を目標にしたい。まだまだやりたいことがあるので、今回はそのことについて書いてみよう。それにしても、いつまでも古本屋を続けたいというこの気持ち、古本屋のどこにそんな魅力があるのでしょうね。

 いつの日か「善行堂目録」を出したい。古本屋の目録発行は年々減っているように感じるが、目録を読み、あれこれ考えて注文する楽しみは他に代え難いと思うし、実際私自身が大好きなのだ。例えば、福島書房さんから目録が届くと、仕事はさておき、すぐに封筒を開く。本のタイトルと作者が並んでいるだけだが、それを見ていくのが、どれだけ楽しいか。きっと私と同じような人がいると思う。

 目録は本を売る方法としても優れたものだと思っていて、今までに、この本を目録に出せたら良いのにと思ったことは何度もあった。普通によくある本は良い本で本であっても目録向きではない。例えば、大きなまとまった買取りで、個性のある蒐集書物であったなら、それを丁寧に売るには目録が一番だと思う。
 人が一生をかけてコツコツと集めてきた書物を全て引き取らせてもらう、ということが古本屋にはあって、私はいつも不思議に思うのだが、それが大量の書物であっても、古本屋を続けて行くためには何人も何人もの本が必要なのだ。こんなに良い本がこんなにたくさんあるのに、一年もしない内に、売れていったり、どこかに消えて行ってしまう。

 自分の目だけで判断しないで、目録に載せて、お客さんに判断してもらうのも楽しみの一つになるだろう。まず大事なのは、コレクターの人の住所録を作ること。目録ができてもそれを必要とする人に送れないと話にならない。
 私はまた昔の古書目録を見るのが好きだ。京都から出ていた古書目録、「CHIJITSU」や「書肆かみかわ」は本を整理しているとき、見つかることがよくあるが、つい仕事の手を休めてしばらく読んでしまう。
 他にやりたいことは、今読みにくくなっている作家の作品集を編集したい。私は、今までに、黒島伝治、上林暁、埴原一亟、の作品を編み、解説を書いてきたが、さらに例えば、宮地嘉六、衣巻省三、田畑修一郎、光田文雄、の作品集を編みたいと思っている。もちろん、講談社文芸文庫向きの作家たちなので、そこに入れば、私の選でなくても読者として嬉しい。

 あと、絵本も作りたい。上林の作品で絵本にしたいのがあって、これはどうしても自分で手がけたい。絵が入れば楽しめるだろうな、という小説が上林の中にあって、その作品を中心に「星を撒いた街」の続編を編んで、絵本にもするというのが私の夢である。私は、上林暁全集(全19巻)を、ほぼ毎日夜に読み続けている。毎日少しずつだけれど、もう3周目の第6巻に入っている。繰り返し読むことが良いことかどうかはわからないが、繰り返し読むことでわかってくることもある。

 そしてこれは、今年中に始める予定だが、好きな作品を筆写していこうと思っている。自分の満足以外何物も生み出さないかもしれないが、自分の満足だけでもいい、それにもしかするとそこから何かが生まれるかも知れない。とにかく思いついたことはやってみる。そう考えてこの十年、やってきたのだ。

zenkou
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山本善行
2009年、銀閣寺近くに「古書善行堂」を開店する。
著書に「古本泣き笑い日記」「関西赤貧古本道」「漱石全集を買った日」など。雑誌「APIED」と関西ジャズ情報誌「WAY OUT WEST」に連載中。

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