☆古本乙女の独りごと⑦ 夜行バスに揺られてカラサキ・アユミ |
先日思い立って、夜行バスのチケットを取って京都に向かった。明確な目的もなく、衝動的に冬の京都の空気が吸いたくなったという漠然とした理由だった。長い長い乗車時間を経て早朝に京都駅に到着したバスを降りると、瞬時、澄み渡った冷たい空気が身を包み寝不足でトコロテンのようにフルフルした頭の中がシャキッとした。地下鉄を乗り継ぎ、とりあえず鴨川に向かってみた。通勤ラッシュの殺気立った駅構内、スーツを着た人達が足早に進む方向とは逆に向かう自分の足を見下ろしながら静かに幸福感を噛み締めて歩いた。河原町と祇園を挟んだ四条大橋に立つと、どこまでも広がる朝焼け空と緩やかなカーブを描いて流れる鴨川が眼前に広がっていた。京都に住んだ経験もないのに不思議と懐かしい感覚が微かに胸に広がった。深呼吸をすると自分の口から煙のような真っ白い息がフワァと飛び出していった。京都に着いてからまだ数十分、既に旅の目的が果たされたような気がした。さて、今からどうしようか…と腕を組みながら、川を泳ぐ鴨の親子をしばし見つめた。
観光地にいっても観光しようという欲があまり湧かず、まずはその土地の古本屋に行きたいと真っ先に思ってしまうのは、どの古本者にも当てはまる心理なのだろうか。暇をつぶすのは大得意の作業なので、古本屋が開店するまでの数時間、自販機で買った缶コーヒー片手に偶然通りかかった神社境内のベンチに腰掛け、何をするわけでもなく、ひたすら枯れ木をボンヤリ眺めたり野鳥のさえずりを聞きながら過ごしたのであった。なんとも贅沢な朝の時間の使い方だ。 京都に訪れる度についつい思い出してフフフとなるのが修学旅行の記憶で、当時高校生だった自分は仲間意識を保つ事に必死だった。仲良しグループでの自由行動、よーじやのあぶらとり紙をお揃いで買ったり抹茶パフェを食べに有名茶房に並んだり、記念写真代わりにプリクラを撮ったり。これが楽しいと自分に言い聞かせながら友達と足並みを揃え笑い合いながら京都の街を歩いた。しかし通りがかりに古本屋を見つけた瞬間、皆が通り過ぎる中、自分一人店先で足を止めていたのであった。 こうして様々な過去の思い出を振り返りながら幾つかの古本屋を巡り終えると、いつの間にか空は夕暮れ模様に変わっていた。財布と携帯とハンカチしか入っていなかった手提げ鞄は、帰路に着く夜行バスに乗り込む頃にはパンパンになっていたのであった。
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