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古本屋ツアー・イン・ジャパンの2019年総決算報告

「古本屋ツアー・イン・ジャパンの2019年総決算報告」

古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山力也

 ついに2020年になってしまった。漫画『AKIRA』の時代であり、『ウルトラQ』のケームル人が遠い星で暮らしている時代でもある。漠然とした未来にいつの間にか現実が追いついてしまった…そんな殊勝なことを考えながらも、古本と古本屋さんに喜びを見出す日々は、変わらず続いている。2019年もまったく飽きることなく戯れ続けた、この素晴らしき知識と物質の泥沼のような世界…一瞬だが駆け足で振り返ってみよう。

 東京近郊ではあるが、まずは新たに開店したお店を列挙してみよう。谷保の鄙びた商店街に「小鳥書房」という出版もするお店が開店。三鷹には「りんてん舎」が出現し、駅からちょっと離れていはいるが、地元民の心を素晴らしき棚造りと値段の安さで捉えている。西荻窪の「benchtime books」は製本工房と古本屋さんが一体化した変わり種。国分寺の「早春書店」は若者向けの選書が尖る、攻める姿勢が好ましい。町田の「EUREKA BOOKSTORE」は裏路地の飲屋街二階にあるが、場所柄に反してセンスの良いセレクトがピカリと光る。鎌倉「くんぷう堂」は一軒家を改装した広いお店で、女性店主の視点に、幅広く豊かで芯の通った強さを感じる。西荻窪の「トムズボックス」は吉祥寺にあった絵本屋さんが古本屋さんとして復活。武蔵境「おへそ書房」は奇妙な店名とは関係なく、子供にも大人にも優しいしっかりとした選書が際立っている。吉祥寺「BOOK MANSION」は棚貸しを基本とした、小さな固定一箱古本市と言った趣きの空間。一棚店主の個性がせめぎあう面白さがある。阿佐ヶ谷「ネオ書房」は評論家の切通理作氏が、三月に閉店したお店を引き継ぎ開店。以前とは異なる、怪獣文化やサブカル・映画に強いマニアックなお店に生まれ変わった。氏の蔵書が棚に並ぶのも大いなる魅力である。神楽坂「アルスクモノイ」は、バーカウンターも併設し、小さな印刷&製本工場が連なる地帯にオープン。「砂漠のような場所に店を出したかった。寂しいところにポツンと灯りが浮かんでいるようなお店」とは、店主の呟いた名言である。高円寺の「tata」は、行き止まり路地の元「アバッキオ」があった場所にオープンした、小さなセレクトブックショップ。武蔵藤沢の「逍遥館」は『ジョンソンタウン』という元米軍住宅の街に、その米軍ハウスの中に端正で重厚な棚を並べて年末に開店。周囲のショップが飲食店や雑貨店ばかりなので、タウン内で一際目を惹く存在になっている。他にもまだ未踏ではあるが、尾久に古本バーが出現していたり、大森にも同様の古本バーが。そして黄金町に「楕円」というお店が開店しているとの情報もつかんでいる。

 さて、新開店するお店あれば、残念ながら閉店するお店もあり。悲しいことだが、これも流れの一つなので列挙しておこう。阿佐ヶ谷では「あきら書房」と旧「ネオ書房」、それに山岳書籍の老舗「穂高書房」が店主の急逝により閉店。谷中「信天翁」、荻窪「象のあし」、龍ヶ崎「竜ヶ崎古書モール」、神保町「マニタ書房」、「東京書房 自由が丘店」、西千葉「鈴木書房」、経堂「遠藤書店」、町田「高原書店」、鳩の街「右左見堂」、鎌倉「books moblo」、神保町「りぶる・りべろ」も様々な理由で閉店となってしまった。頻繁に利用したお店、時々出向くお店、一度しか行ったことのないお店など、これもまた様々であるが、間違いなく古本屋巡りと古本買いの楽しさを支え、教えてくれたお店たちである。ここで多大なる感謝を捧げておきたい。みなさま、本当におつかれさまでした。

 またこの年は、移転したお店が多かったのが一つの特徴であった。何はともあれ、どうにか店舗を継続してくれるのは、古本屋巡りをする者にとってありがたいものである。神保町の『すずらん通り』に移転した「虔十書林」、早稲田の「丸三文庫」は路面店に。「古書ほうろう」は不忍池近くに。八王子「まつおか書房」は京王八王子駅近くに。八幡山駅前にあった「グランマーズ」は永福町にいつの間にか移転していた。また「東京書房 自由が丘店」は店舗機能の一部を宮前の倉庫に移し、時々ガレージセールを開いているとのことである。

 このように日々情報を集め、地元近くの古本屋さんを巡り歩いていると、古本者の常として、いつしか自然と定点観測ルートが組み上がって来るものである。最近のお気に入りルートを思い出してみると、まずは荻窪で「ささま書店」→「藍書店」→「竹陽書房」。吉祥寺で「一日」→「バサラブックス」→「よみた屋」。高円寺で「古書サンカクヤマ」→「DORAMA高円寺庚申通り店」→「アニマル洋子」。西武池袋線沿線の中村橋「古書クマゴロウ」→保谷「アカシヤ書店」と言ったところだろうか。基本は安くて見かけたことのない古い本が買えるお店である。私の蔵書も売る本も、これらのお店で出来ていると言っても過言ではない。

 またこの年は、古本神のひとり、ライターの岡崎武志氏と古本屋旅行ををする機会に恵まれた。夏の熱い盛りに青春18きっぷで栃木方面に赴き、栃木市駅前のハンコ屋兼業の「長谷川枕山堂」を訪れ、続いて住宅街の中の古本屋さん、御歳九十一のお母様が店番をする「吉本書店」にも赴いた。その時には女性店主とお話しさせていただき「いつまでもお店を続けて下さい」とお願いしておいた。ところがその後、台風の水害被害により、「吉本書店」は棚下まで水没し、閉店を余儀なくされてしまったのであった(ただし閉店したのは実店舖で、事務所店は今は復活し、催事に通販に再び活躍を始めている)。その被害の甚大さから、これはもう仕方のないことであるが、その後の古本屋さんたちの連携による、何日にも渡る片付け作業は、迅速で献身的で、感動を覚えるものであった。十月には、熊本の「舒文堂河島書店」の若旦那・河島康之氏の多大なる尽力により、「第50回鶴屋古書籍販売会」に合わせて開かれたトークに、岡崎氏とともに呼んでいただいた。他のトークは硬い内容なのに、こちらはいつものように面白古本トークを繰り広げ、果たして怒られないだろうかと心配したが、概ね好評だったようで、無事に役目を果たせたことに安心する。この時に『上通り』という目抜き通りに集まる、新進気鋭の「汽水社」に古書が雑本的に溢れる「天野屋」、そして熊本時代の夏目漱石も訪れた老舗「舒文堂河島書店」を見学。さらにその後は、路面電車や乗合バスやフェリーを乗り継ぎ、島原で古本屋さんにフラれ、島原鉄道で諫早に乗り込んだ後、博多へ。博多では「徘徊堂」を楽しみ、珍道中を終えて帰郷した。このようにこの古本コンビ、日本全国お出かけして、楽しい古本のお話をいたしますので、ご用命の際はご連絡をいただければ。

 最後にこの年の収穫を一冊挙げるとすれば、三鷹「りんてん舎」で購入した、新太陽社「ですぺら/辻潤」(裸本千円)を迷いなく選ぶ。今まで一度も見たことなく、憧れていた本が、突然目の前に安値で現れる衝撃! 何度味わってもやめられぬ、古本探しの醍醐味をこの身に甘受出来る瞬間である。今年もそんな古本との出会いを求めて、あちこちの古本屋さんに出没いたしますので、今年も何とぞよろしくお願いいたします!



小山力也 2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。
http://furuhonya-tour.seesaa.net/

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