古書業界の全国組織の成り立ちと活動について…その2高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長) |
現状の日本は、コロナウイルス禍により緊急事態宣言が発出され、誰もが不要不急の外出を制限されています。今回の行政の判断でよく分からない一点は、新刊書店は営業を許可され、古書店は不要不急とされて営業自粛になっていることです。同じ書物を扱う業者でありながら差異があるのは、まさか古書にはコロナ菌がついている可能性があるという誤った迷妄からではないでしょうね。また一方、今回の禍で日本の行政のメッキがはがれたのは、文化政策に対する無策ぶりです。音楽や演劇、絵画、その他多くの文化芸術に対する理解がまったくと言っていいほど無く、日本の政治家は、絵や音楽や文学は好きな連中が勝手にやっていると本当は思っているのではないかと疑ってしまいます。先進国の文化国家と日本を自負するならば、もう少し芸術に携わる人に手を差し伸べてしかるべきではないか、と痛切に思うのですが、いかがでしょうか。
さて、「日本の古本屋」メールマガジン296号で、私の個展開催報告と古書組合の組織についてお話をさせていただきましたが、古書業界の組織について、その続きを少しお話ししたいと思います。メルマガの読者の皆様にはあまり興味は起きないかもしれませんが、なぜこのような仕組みが作られてきたか、という歴史的な視点から見ると、なかなか面白い側面もありますので、少々我慢してお付き合いください。 前回は、全国の古書組合についてお話しし、全国には53の古書組合があって、そのうち法人化されている組合は6組合であり、他は任意組合組織になっていて、その法人化ができない理由も述べてきました。この全国組織(発足当初は、全国古書籍商連盟)ができたのは、昭和7年なのですが、発足の端緒となったのは東京と大阪、京都の東西連合市会と言われています。発足にあたっては役員が手弁当で全国を飛び回ったようで、大変な苦労があったと聞き及んでいます。 また今一つは、全国組織を結成するファクターとして次の問題がありました。現在でも古書業者は営業を始めるにあたり、古物営業法という法律の下、警察から古物営業許可証の交付を受けなければなりません。この古物許可にはいろいろな事業品目がありますが、その中の書籍や美術品等の許可がいるのです。昭和7年当時は古物商取締法という法律の下、古書業者に対してゾウブツ故買という大変厳しい取り締まりが市会や個人に行われ、東京組合では衆議院や内務省へ度重なる陳情や改正運動を行っていました。しかし、一部の地域だけでの陳情や改正運動では国の法律を改正させることは甚だ困難で、どうしても全国的な改正運動や陳情が必要とされる状況がありました。そして、この全国的な改正運動が成就したのは、古書業界にとっては不本意な内容ながらも9年の歳月がかかったと記されています。 つまり、全国組織の必要性は法律の改正運動と古書流通の活性化という両面があったことがうかがわれるのです。この両面性は現在まで古書業界の伝統として、まさに継続していることを、この際メルマガの読者の皆様にはぜひ知っていただきたいと願う点です。無論その他にも、全国の古書業者間の融和と団結というスローガンは現在も踏襲されているのです。その後、全国古書籍商連盟は昭和19年に当時の戦時法により、全国古書籍統制組合に改組され、終戦とともに消滅しました。 現在継続している新たな組織としての全国古書籍商組合連合会は、昭和23年8月に創立総会を開催して、同年11月に京都で第一回の全連結成記念大市会を開催しています。また、その年には古物商取締法の改正に関する陳情を政府に行い、税務対策等も行っているのです。 現組織である全国古書籍商組合連合会(略称;全古書連)は、創立から71年を経過しています。その間、紆余曲折はありましたが、様々な活動を全国的に行ってきました。しかし、その活動はあまりに内向きだったため、一般の方々の目にふれる機会はほとんど無く、その点は大きな反省点であろうかと思います。全古書連としての政治運動としては、税務対策として大型間接税の反対運動、現在は消費税として当たり前ですが、当時は売上税や大型間接税、一般消費税と名称を変え、政府は様々な方式の消費に対する罰金税導入を創設する施策を検討していました。 また、古物営業法改正に対する規制緩和の要望、等です。通常業務としては、全国の古書店名簿の発行や機関紙の発行、古書業界の広報活動、古書相場の公表などですが、マイナス面としては、各地組合員間の利害調整に動いたことなどがあげられます。また、他地区における市会での売買で生じる未収金問題などの課題もあります。しかし、その活動の中でも特筆すべきことは、阪神淡路大震災と東日本大震災の二度にわたる古書業界としての活動と、「日本の古本屋」起ち上げのインターネット事業があげられ、全古書連の存在意義が改めて確認されたことです。……続きは次回に、では。 |
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