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メールマガジン記事 シリーズ古書の世界

「日本の古本屋」メルマガ300号と古書業界の人物模様

「日本の古本屋」メルマガ300号と古書業界の人物模様

高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長)

「日本の古本屋」メールマガジンが今号で発行から300号になるそうです。衷心よりお祝いを申し上げます。日々激動するネット社会の中で中断もなく今日まで継続し、発行し続けてきたことはまさに稀有のことかもしれません。「日本の古本屋」メルマガは毎月2回の発行ですから、発刊から12年半になるわけで、これまで担当された編集長、役、職員の皆さんのご努力とご苦労に敬意を表したいと思います。そして、何よりもメルマガ読者の皆様のご支援がなければ継続することはできませんので、本当に深謝、深謝です。また、陰で支えてくれている古書業界の皆さんのご理解とご協力があったこともおおいに力になったことでしょう。このような記念すべき節目に私が一文を寄稿させていただける巡りあわせに身の幸運を感じている次第です。

さて、新型コロナウイルスの政府による緊急事態宣言がようやく解除されましたが、日本経済にあたえたダメージは非常に厳しいもので、これからその影響が顕著になってくるのは目に見えています。古書業界もこの厳しい経済状況を乗り切るのは容易なことではないでしょうが、微力ながら応援していきたいと思っています。
前回と前々回の二回にわたり、古書業界の全国組織についてお話をしてきました。組合組織の話なので、どうしても堅苦しい内容になりました。今回は少し趣を替え「閑話休題」として、古書業界の中の人物をご紹介したいと思います。

古書業界における人物像を語る際に、私はまず大まかに三つに分類してみます。第一は、営業的に業界に影響を及ぼした人、第二は、組合行政に影響を与えた人、第三は、古書業界内外で活躍した人です。勿論、それぞれ横断的に活躍された方もおられるので、あくまでも目安です。今回は第三の範疇に入る人をご紹介します。余談ですが、私は第二のグループの人物像も記録しておくべきで、特に新古書会館建設前後の方々については書く必要があろうかと思っています。
今、私の手元に2005年に東京古書組合が発行した「古本屋の書いた本」展目録という小冊子があります。この冊子を見ると随分多くの古書業者の方々が本を書いていることが分かりますが、その中には直木賞受賞作家の出久根達郎さんもいらっしゃいます。

今回は、新型コロナウイルスの渦中ですので、健康に関わる人物を採り上げてみました。
その人はご高齢で亡くなったペリカン書房の品川力さんです。この方は、内村鑑三のお弟子さんでキリスト教の無教会派の信者でした。ご自身で「内村鑑三研究文献目録」も出していますが、その風貌が独特でした。私がお会いした時は、すでに80歳に近かったと思いますが、彫りの深い痩身の方で、真冬でもシャツ一枚で肋骨が透けて見え、片手には常に扇子を持ち、麦藁帽で暑い暑いと言いながら自転車に乗り、東京中を走り回っていました。お店は本郷にあったのですが、駒場の日本近代文学館へ行くことなど「への河童」です。若い頃は吃音がひどかったそうで、兄弟でレストランを開いていたときは、お客さんが店を出たころになって、やっと「有難うございました」と言えたと、古書通信の八木福次郎さんからお伺いしたことがあります。
『品川さんは真冬でもシャツ一枚ですから、夏は大変でしょうね』と私がお聞きすると、「夏は死にそうだ、帰ったらすぐ水風呂に入る」と仰っていました。『品川さんの健康法を教えてください』とお願いすると、「亀の子たわし」で体をこすり、肌を鍛えていると教えてくれました。確かにご高齢でもお肌は鋼のように締まって見えましたし、風邪をひいたことがないと言っていました。曲りなりに私も真似をしてみましたが、真冬はシャツ4、5枚着ないと過ごせません。
また、品川さんには変わった趣味があり、出版された本の誤植を見つけるのが大好きで、上手でした。誤植を見つけては、出版社に指摘のハガキを送って悦に入っていました。その他、タイプライターで似顔絵を描くのが得意で、エドガー・アラン・ポーを描いた絵というか、打った作品を頂戴したことがありますが、素晴らしい出来ばえでした。それもその筈で、品川さんの弟さんは品川工という版画家で、国画会の重鎮でした。
ある時、組合の行事でバス旅行をしたことがあり、品川さんとご一緒したのですが、現れた品川さんは幅広の高級ハットをかぶり、渋い草色のシャツにルーフタイを付け、普段とは大違いのダンディな姿で吃驚したことがあります。
メルマガ読者の皆さんもためしに一度、健康維持のため亀の子たわしで肌を鍛えてみてはいかがでしょうか。ただし、その際はほどほどにした方が無難ですが。
今回は健康増進を兼ね、品川力さんをご紹介しました。私の寄稿は今回が最終となり、中途半端な終わり方で誠に恐縮ですが、ご購読ありがとうございました。

takahashi1

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