古本屋開業記(台風来襲)古本&カフェ じゃらん亭 内山武明 |
昨年8月に長野県小布施町の片隅に古民家を借りて、古本屋を開店しました。それまではネットや催事での古本販売を行っていましたが、数年前から物件を探し、ようやく開店にこぎつけることができました。
小布施町は人口1万人ほどで、葛飾北斎が逗留したことや名産の栗で知られる観光地です。新刊書店は以前にありましたが、今はなく、古本屋は、ここ数年で2軒開店し、当店が2軒目になります。長野県関係の本や自然、農業、アウトドア、旅行、地図、ちょっと懐かしめのマンガなどを中心に扱っています。 開店後、しばらくしてから、19号台風の来襲により、周辺地域は大きな被害を受け、1ヵ月ほど営業を休止することになりました。年が明けてから、イベントや宣伝に力を入れ、少しずつではありますが常連さんや買取も出てきたところで、コロナ禍に見舞われるなど、多難な船出になりましたが、何とか細々と営業を続けています。 当店では地図も扱っており鳥瞰図や市街地図などもありますが、地形図なども好きで集めています。地形図は地味で、商売としては面白みに欠けますが、情報量は圧倒的です。地形や地理の専門家になれば、地形図だけから地質や土地の歴史、住民の生活など様々な情報も読み取れるようです。素人では、そこまできませんが、5万分の1地形図「中野」の昭和初期のものを見ると、19号台風で大きな被害を受けた浅川と千曲川の合流地域(有名になった新幹線車両基地の下流)は、桑畑が広がっており、人は住んでいる様子はありません。 地形図は実用品であるため、様々な書き込みがされているものも多く、登山ルートの書き込みがあるもの、開発予定地、道路や鉄道の予定が書き込まれたものもあれば、戦前の地形図では軍の演習に使われたのではないかと思われるような書き込みがあるものもあり、また、そうした書き込みのあるものを求める人もいます。 戦前は軍事目的から地図は作られていましたが、当時の地図では、水田は乾田、沼田、水田の3つに分けられています。これは、戦車が通れるところ(乾田)、戦車は通れないが歩兵が通れるところ(水田)、歩兵も通れないところ(沼田)だそうですが、今では水田の記号に統一されています。ところが戦前の地図の田んぼの地図記号は、今でも役に立ち、古い地形図を見ることで地盤の良し悪しを判定することができるそうです。 話を台風に戻しますが、30、40年前(筆者が子供の頃)にも、今回被害を受けた千曲川と浅川の合流地点では、水害が発生しており、友人の家が床上浸水になるなど生々しい記憶があります。しかし、若い人や他所から移り住んできた人には、聞いてみると、過去の災害については、あまり伝わっていないようです。千曲川などの大河川は、過去の水害などについて、まとめられた書籍がありますが、中小河川などでは、市町村史などを紐解かないと過去の災害について、詳しいことはわからないことも多いように思います。災害の記憶を繋いでいくことなども、地域の古本屋が貢献できることの一つかもしれません。 古本&カフェ じゃらん亭 ツイッター |
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