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メールマガジン記事 シリーズ古書の世界

古書組合の役割と古書業界の仕組み

古書組合の役割と古書業界の仕組み

高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長)

 メルマガ読者の皆様ごきげんよう。皆様にはあまり興味が湧かない話題かもしれませんが、私としては少しでも多くの方々に古書業界の仕組みを知って頂き、その流通形態の一端と業者の不断の努力をご理解願うことで、古書店を見る視点が変わり、これまでより一層親しく古書ワールドをご利用頂くようになれば、たいへん有難く思っております。

さて、東京古書組合は、正式には東京都古書籍商業協同組合と言い、本年、百周年を迎えます。大企業でも百年もの年月にわたり会社を存続させることは、大変難しいことだと言われています。では、なぜ消費経済の規模が比較的小さいと言われる古書業界が百年も存続してきたのでしょうか。現在、東京古書組合では百周年記念事業として「百年史」を編纂し、出版を予定しております。内容は通史としても面白いし、業界内の出来事も分かるので、興味のある方はぜひ入手されることをお勧めしたいと思います。

さて、東京古書組合は事業協同組合と言い、組合が自ら事業を行っています。その事業の根幹は古本市場の運営です。この市場の利用は組合員しか売買ができないので、結果的に組合員同士の取引となるため、市場を交換会と言っています。なお、この利用制限があるのは組合員資格と古物営業法の市場許可の制限を受けているためです。また、古書組合が事業組合と言っても組合は組合ですから、他の事業として、組合の会館施設の設置や管理、営業用品の提供、教育や情報提供、福利厚生等も行っています。以前、私は本メルマガ紙上で古書業界の二大特長として、卸問屋が無いことと、商品に定価が無いことを挙げました。

古書店の仕入れ方法は様々ありますが、一つは、読者の方が不要になった本を古書店(古本屋)に売ることで、直接お店に持ち込む場合と、自宅まで買い取りに来てもらう場合があります(これを宅買いと言います)。もう一つは、組合が運営する市場(交換会)で仕入れることです。多くの古書店はそれぞれに専門分野を持っています。自店の得意分野、例えば、和唐本専門、近代文学書専門、美術書専門、理工書専門、洋書専門等々、まだまだ分野は数多ありますが、この様々な分野の中で更に専門が細分化されていきます。また、古書には定価がありませんが、その本の価値は時間の経過とともに定まってきます。その要因として、需要と供給の関係や希少性、保存状態等で相場が定まってくると考えられています。

各古書店が商品を揃えるとき、自店だけの買い入れで品揃えができれば理想なのですが、自店の分野に合った書籍を揃えるのは容易なことではありません。また、常時仕入れがあるわけでもなく、古書店は自店の専門に合う書籍を補い常備するために、組合の交換会を利用することになっていきます。その利用の際、自店で仕入れた分野外の書物や余剰の書物を交換会で売ることもできるわけです。東京古書組合の神田にある本部会館では、月曜から金曜日まで毎日交換会を開催しています。

月曜日は「中央市会」と言って、主に扱う分野は一般書で、文学書や美術書、写真集や漫画等、分野の種類は豊富です。火曜日は「東京古典会」という和本専門市で、大げさに言えば明治期以前の書物類は全て扱います。絵巻物や断簡、掛軸、貴重な古典籍等です。また、同日には「東京洋書会」という洋書専門市が別階会場で開かれています。水曜日は「東京資料会」と言い、法律書、経済書、学術書、理工書、学術雑誌等の基本図書を扱います。木曜日は「一新会」と言って、一般書の市会です。この市会は月曜開催の中央市会と扱う分野が似かよっていますが、この会は神田古書店街の人たちが主体になって運営している市会です。運営については後述します。金曜日は「明治古典会」と言って、明治以降の書物、錦絵、初版本、美術類、作家原稿、肉筆類等の趣味的な要素が強い分野を扱っています。

今紹介した6つの市会、交換会が常時開催されて書籍類の取引が行われ、商品の流通が図られているのです。この交換会の運営がまた面白いのですが、運営は組合員の中で専門分野が似通い、競合している店同士が同人組織(会組織)を作り、運営しています。交換会は主に入札制で行い、一番高い札を入札した人に落札します。つまり、一緒の仲間として会の運営を行いながら、商品の入手では敵対するという矛盾の中で交換会を営んでいることになります。このことは、分野が同じ商品を集中させることがいかに大事かということの証左でもあるのです。組合の交換会と言いながら、運営が会組織とあり、皆さんは混乱されるかもしれませんが、その説明と相場については次回にお話ししたいと思います。

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