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メールマガジン記事 シリーズ古本マニア採集帖

第23回 村田亮太さん アルバイトと趣味を両立するひと

第23回 村田亮太さん アルバイトと趣味を両立するひと

南陀楼綾繁

「最近、うちにアルバイトに来ている大学生がかなりの古本好きなんですよ」
 この連載の編集を担当している皓星社の晴山さんからそう云われて会った村田亮太さんは、温厚そうな青年だった。
「古書会館や池袋〈三省堂書店〉など、東京で開催される古書市はぜんぶ通っています。だから、新型コロナウイルスの影響で即売会が中止になったときは辛かったです。東京古書会館の即売会が再開した7月6日には、もちろん駆けつけました」
 さっきも即売会に行ってましたと、収穫物の入った袋を見せてくれる。その下からもう一袋が出てきた。計4900円なり。とにかく即売会に通うのが楽しくて仕方ないらしい。
「僕、除籍本が好きなんです」とも云う。図書館の蔵書から廃棄された本のことで、ラベルが貼られたまま売られている。
「あれは、まさにこの世に一冊だけの本でしょう。『日本の古本屋』で除籍本を探して買うこともあります」
 恐るべき21歳である。

 村田さんは1999年、群馬県伊勢崎市生まれ。両親と姉との4人家族。両親の年齢を聞いたら、私よりも年下だった。二人とも公務員として働く。
小さい頃、母に『おしいれのぼうけん』や『モモ』を読んでもらった記憶がある。また、父は青年マンガが好きで、その本棚から引っ張り出して読んだりした。
小学校に入ると学校の図書室に通い、学年で一番多い冊数を借りた。
「学習マンガを読み尽くし、ライトノベルを読むようになりました。『キノの旅』などのファンタジーに触れて、こんな世界があるんだと思いました。同級生にやはりファンタジー好きの男の子がいて、作品を教えてもらっていました。その子はサイト『小説家になろう』に小説を投稿していましたね」

小学5年生になると、近所にある〈TSUTAYA〉で本を買うように。中学3年までには、ラノベを500冊以上買っていた。ゲームも好きだったが、それ以上に本が好きで、つねに何かを読んでいたという。
高校に入ると、授業で新書の感想文を書かせられたことから、さまざまな新書を読むようになる。2年生のときに、日本史の授業で先生から網野善彦のことを聞き、『日本の歴史をよみなおす』(ちくま学芸文庫)を読む。「サンカ」に興味を持って、五木寛之の『風の王国』を読んだという。
 その後、上野誠の『折口信夫 魂の古代学』(角川ソフィア文庫)で折口信夫のことを知り、そのマレビト論に衝撃を受けた。上野氏の出身校ということもあり、村田さんは國學院大学を受験して合格。上京して、姉と一緒に住む。2年生から民俗学を専攻し、現在3年生だ。
 
古本との出会いは、大学の授業だった。
「法制史の先生が法制史研究者の本の話をされているのに興味を持って、神保町の古本屋で瀧川政次郎の文庫を買いました。それでもちょっと敷居が高かったんですが、その年の秋、神保町古本まつりのときにいろんな古本屋に入ったことから、ときどき通うようになりました」
 その後、自宅の近くにある豪徳寺の古本屋で、店主から目録をもらい、五反田の南部古書会館の即売会にはじめて行く。知らない本に囲まれているのが面白かった。
 即売会って面白いなと思った頃、大学の司書過程で新藤透さんに図書館学を教わる。『戦国の図書館』(東京堂出版)などの著書があり、古本好きでもある。
「古本の話で気が合って、研究室に遊びに行くようになりました。新藤先生から谷沢永一のことを教えてもらい、書誌学の本を読むようになりました。本自体への興味が高まり、本を集めることが楽しくなりました」

 専攻の民俗学でも、最初は折口信夫の研究書を集めていたが、次第に折口本人の著作を集めるように。2年生のとき、神保町の〈三茶書房〉で、『古代研究 民俗学篇』(大岡山書店)を買う。
「4500円でした。それまでに買った最高額でした。それが、いまでは高い本でも躊躇せずに買うようになってしまいました(笑)。新刊書店のアルバイトで入ったお金を、2、3回の即売会で使い果たしたり」
 いまは月に5、6万円を古本に使っているそうだ。当然、自室は本で埋まり、実家にも同じぐらいの量の本があるという。
 最近では、戦前のエロ・グロ・ナンセンスに関する本を集めている。
「斎藤昌三『変態蒐癖志』、藤沢衛彦『変態伝説史』などの変態十二支シリーズとか、梅原北明の『明治性的珍聞史』とかです。『変態』と『伝説』が結びつくセンスが面白いです」
 卒論では、田中緑紅が主宰し斎藤昌三らが寄稿した大正時代の雑誌『郷土趣味』について、書くつもりだという。
「エロ・グロ・ナンセンスの時代の空気感もあわせて描ければと思っています」

 文献を調べているうちに、皓星社の雑誌記事索引データベース「ざっさくプラス」の存在を知る。
「コロナの自粛期間中、無料公開していたので使ってみたら、戦前の民俗学雑誌がヒットしたりして面白かったので、『皓星社友の会』に入会しました。それがきっかけで、週1回アルバイトするようになったんです」
 毎週金曜日、資料のスキャンやデータ入力などの作業の合間に、古書会館に行かせてもらう。そこで買ってきた雑誌が面白そうだと、「ざっさくプラス」に入れたりしている。趣味と実益が一致していて楽しそうだ。
 アルバイトとは別に、戦前の古書目録からあるデータを入力する作業も行っている。たしかに、まとまれば利用価値がありそうだ。
 コロナで就職活動ができないこともあり、いまのところ、将来は白紙だという。
「自分なりに好きな研究ができればいいんです」と村田さんは云う。
 
 好きな本に囲まれて充実した生活に見えるが、社会との接点はちゃんとあるのか。若い頃、それで悩んだ私はつい気になってします。
「大学には古本好きの友人が二人いて、よく話をしています」
 それと最近、幼なじみの女の子を神保町の古本屋に案内したという。
「もともと本が好きな子なので、古本好きにしてしまおうと思っています(笑)」
 なんだ、ちゃんと青春しているのだった。 

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南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)、共著『本のリストの本』(創元社)などがある。

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