古書組合の役割と古書業界の仕組み その4高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長) |
メルマガ読者の皆様、明けましておめでとうございます。 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます、と言いましても、例年のように新年を寿ぐというわけにはいきません。昨年は年初から世界に蔓延した新型コロナウイルスによって世界の活動は停止し、経済も停滞、人の往来もストップする事態となりました。当然わが国もコロナ禍に振り回された一年だった訳ですが、年が明けたからと言ってコロナ禍が収束するわけでもありません。まもなくワクチンができるということですが、それよりも早くコロナウイルスが変異してしまう可能性もあります。 この世界を襲ったコロナ禍のとらえ方は、これから様々な分野で研究され、論じられると思いますが、おそらく元通りの世界には戻れないだろうと言われています。グローバル化した経済格差、矛盾に満ちた社会制度、行き詰まった政治体制等、地球的規模で起こりつつある環境破壊と大量エネルギーの消費は、人類の生存を脅かすものだという科学者の警告もあります。 さて、視点をわが国に向けたとき、今年も経済活動は不自由を免れないでしょう。古書業界も昨年は大きな影響を受け、初めて交換会(市場)の休止や各店舗の自粛休業もありました。そのような厳しい経済環境の中でもそれぞれが工夫を凝らして古書展の開催やネット販売、店舗経営ができたことは、皆様のご支援やご協力の賜物だと思います。 ところで、メルマガ読者の皆様は古書の世界に興味があるかと思いますが、現在の状況下、古書店で働くということはどういうことかを考えてみたいと思います。 昭和の前半は徒弟制時代に括ってよいと思います。大戦後の古書店は群雄割拠の中で一誠堂出身者や東陽堂出身者、南海堂出身者、巌松堂出身者などと判別できるほどで、それらの大店古書店では、一概には言えませんが、主人の出身県から多くの店員が就職したようです。その店で実績を積み番頭となり、主人が認めたところで暖簾分けとなり、独立して店舗を持つという形が王道でした。本の相場を憶えるという期間として、ほぼ十年は要したようですが、店員同士の横のつながりもありました。それらの古書店は、その後有名店となって古書業界を支える業者に育っていきました。 現在の雇用形態は昔と違いますが、セオリーとしてはそんなに違いはありません。自分で古書店を経営してみたいと思う場合は、いろいろな入口がありますが、自分でいいなあと思い描く古書店に勤めさせてもらい、古書店経営のノウハウを得るのが一番良いとされています。また、店員として働いた後に古書店を開店する場合もありますし、店員を経験せずに最初から古書店を開店する場合もあります。古書店という業種は面白い面があり、もちろん営業ですから商いとしての経営が必要で利潤を出さなければなりませんが、一方で書物や著者や著作を知る、調べるといった地道な知識の積み上げが必要であり、これがとても古書店にとって大切な仕事なのです。この知識を身につけること、研鑽を積むこと、このことを嫌う人は残念ながら古書業者には向いていないかもしれません。この業者としての研鑽が日本の文化を陰から支えていることにつながり、古書店は自身の仕事に矜持を持つことになると思うのです。また一方で書物の専門分野の選択という問題もあります。自分の得手不得手や興味のあるなし、体験し勉強した専門分野等で自店に合った専門分野の書物を扱うようになれば、自店の特長を社会にアピールできるのです。 このように古書店で働くということは、古書を販売するということを通じ、本の陳列から本の種別、本の価値、本の内容と著者、等々を学んでいかなければなりません。これは現在のコロナ禍にあっても変わらない古書店の営みです。 |
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