古書組合の役割と古書業界の仕組み その5高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長) |
メルマガ読者の皆様、年明け早々に一都二府七県にコロナ対応の緊急事態宣言が再び発出され、不自由な生活を強いられていることと存じます。世界中が未曽有の災厄に見舞われている現在、力を合わせて乗り越えていくより他はありません。
さて、今回は古書の交換会(市場)についてお話ししたいと思います。以前も若干触れましたが、もう少し詳しくご紹介したいと思います。古書組合の交換会(市場)は、古物営業法という法律の下、警察の公安委員会から市場許可を受けなければ開催することができません。その上、市場は古物許可証を受けた組合員しか参加できませんので、市場の様子は一般の読者の皆さんの目に触れることはほとんどありません。これまではせいぜいマスコミの写真やテレビ映像でしか公開されていませんので、市場の様子は一般に知られていないのが実状です。当事者としては、別に秘密裏に開催しているわけではなく、法律の立て付けがそうなっている結果です。今後、築地の魚市場のように見学コースでもあれば、一般の方も古書の市場を見る機会ができるかもしれませんが、実際の市会運営は地味で絵になりませんからあまり面白くはありません。しかし、見学させるとなれば、市会運営者もオークション等の市場開催方法を工夫するかもしれません。 古書の交換会には、大別して二つの方法があります。一つは振り市方式、今一つは入札方式です。この入札方式には、置き入札方式と廻し入札方式がありますが、最近ではネット入札方式もあります。 振り市方式は最も古い形態ですが、振り手(中座と言います)を中心に買い手が車座になり、本を見ながら声を出して落ち値を競っていく方式です。声を出して落ち値を決めていくので、本の相場を憶えやすく、また落札業者の店名も分かるうえ、その業者の扱い分野や特徴も知りやすいので、とても有効な方式ですが、出品物がすべて終わるまで市会参加業者を長時間拘束してしまうこと、新参者には声が出しづらいことなどのマイナス面もあります。 また、これは五十年以上前に行われた市会方式ですが、古典籍を扱う市会では腕伏せ式と言って、自店専用のお椀のふたの中に墨で希望する落ち値を書き、それを中座に伏せ返し、最高値を書いた人に落札するという方式をとっていました。これは振り市と入札市を合わせたような中間的な方式ですが、現在では採用されず過去の歴史的な市会開催方法です。 一方、置き入札方式は、当日の出品本を事前に机に並べ書名と口数を書いた封筒を付けて置き、業者が落札したい金額を入札用紙に書いて封筒に入れ、決められた締切り時間に市会担当者が開札し、最高値を書いた人に落札するという方式です。この方式は入札が済めばその場に居る必要はなく、落札は後から確認すればよいので、今日ではほとんどこの置き入札方式が市会運営で採用されています。この置き入札市会には、出品物(古書)の最低価格が決められており、安価な場合は本口(束)にして最低価格を満たすようにします。また、出品者がこの値段以下では売りたくないという場合は、止め値を事前に入札封筒に入れておくこともできます。一方、入札者にも取り決めがあり、入札金額の何千円以上は2枚札、1万円以上は3枚札、10万円以上は4枚札、50万円以上、100万円以上、500万円以上、1000万円以上8枚札と順に決められています。この何枚札という言い方ですが、これは入札札の枚数のことではなく、例えば、1万円以上であれば落ち値額を3通り書けるということで、1000万円以上は8通りの希望金額が一枚の入札用紙に書けるということです。開札の後、市会担当者が出品物の封筒に落札金額と落札者を記入し、その落札封筒を基に各店の買上伝票が作成され、清算につなげていきます。 また、廻し入札方式は参加業者がコの字型に並べたテーブル席に座り、担当者が入札封筒のついた出品本を順次荷出し、その本を各業者が値踏み、希望値を書いて入札封筒に入れます。古書が順送りで移動していき、最後に市会担当者が封筒を開札し、書名と落札者と落ち値をその場で発声するという開催方法です。入札札の規定は置き入札と同一で、買上伝票の作成も同様に行います。置き入札は出品本の周りを人が回りますが、廻し入札は出品本が移動します。この方式を採用しているのは、東京古典会という古典籍を扱う市会です。やはり、参加業者を開札終了まで拘束してしまいますが、その場の雰囲気、落札値や落札者が即座に分かるので、高額本を扱う市会としては有効な開催方法として現在も継続しています。 |
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