『日本の医療崩壊をくい止める』NPO法人医療制度研究会副理事長 本田 宏 |
2020年は新型コロナ感染一色の年となりましたが、1年経った現在は第三波による医療崩壊の危機が叫ばれています。
昨年6月には麻生太郎副総理兼財務相が、日本は新型コロナ感染による死者数が欧米より少ない「民度が違う」と答弁し、Go To トラベルキャンペーンが開始されました。しかし多くの医療関係者が懸念した通り感染者が年末にかけて激増、2021年1月には日本医師会の中川俊男会長が「すでに医療は崩壊している」と記者会見で述べる事態となりました。しかしなぜ海外よりベッド数が多い日本で、感染者は少ないのに医療が崩壊したのでしょうか。残念ながら納得できる説明は今のところなされていません。 少ないのは医師だけでなく看護師も同様で、医師も看護師も少ないために、一般のベッド数は確かに多いものの、重症者を診るベッド(ICU)数は先進国最低レベルでした。そのため重症者が増加した年末から新年にかけて病院の受け入れ態勢は一杯となって、新型コロナ以外のがんや救急患者さんの治療にも支障が出るようになったのです。これが日本の医療崩壊の実体です。 私は1979年に弘前大学医学部を卒業し、移植外科医を目指して東京女子医大に移籍しましたが、1989年から埼玉県の北端に新設された恩賜財団済生会栗橋病院の外科部長として赴任し、同地で四半世紀勤務しました。当初は急性期中核病院の外科部長として24時間365日病院からの呼び出しに応えて働いていましたが、1990年代に全国で医療事故やたらい回し(受け入れ不能)が頻発して社会問題化した時に、その背景にある先進国最低の医師不足と医療費の実態を知ったのです。 患者さんに安全で質の高い医療を提供するためには、多くの国民に日本の医療の真実を知ってもらわなければと、2002年の朝日新聞投稿を皮切りに、2006年にはNHKの「日本のこれから」に出演、2007年には「誰が日本の医療を殺すのか」(洋泉社)、2009年に「医療崩壊のウソとホント」(PHP研究所)を上梓しましたが、一向に日本の医療政策が改善される様子はありません。 本書はそのような私の活動を知った泉町書房の斎藤信吾さんとライターの和田秀子さんの絶大な協力をえてできた渾身の一冊です。私自身の経験に加えて北海道士別地域の危機的な医療体制、家族を過労死で亡くした家族の苦悩とその後、さらに新型コロナ禍にも関わらず進められようとしている全国400以上の公立・公的病院独法化や都立病院独法化問題、OECDより13万人医師不足を無視して厚労省が23年度からの医学部定員削減を強行しようとしていること・・、是非皆さんに知って頂きたい医療崩壊の現実が明らかにされています。 欧米より少ない患者数で、日本の医療が崩壊した根本原因は、政府の医療費抑制策ですが、日本の政府は明治時代から財政赤字を理由に公的病院を潰してきました。そして戦後もオイルショックを機に「医療費亡国論」を国策として、医学部定員削減と診療報酬点数(公定価格)を抑制して、先進国一高齢化社会なのに、医師数も医療費も先進国最低となってしまいました。そのため公立だけでなく民間病院も含めて多くの医療機関は赤字ギリギリの経営に苦しんでいたのです。そこを襲ったのが新型コロナウイルスでした。 新型コロナ感染もいつかは収束するでしょう。しかし歴史を振り返れば、必ず・必ず新しい感染症が人類を襲っています。しかし本書で現実を知った国民が声を上げなければ、わが国は新型コロナ禍による財政赤字を理由に、さらなる医療費抑制と患者窓口負担増、そして医学部定員削減を断行すると思います。
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