映画ブックセラーズについてかげろう文庫 佐藤龍 |
先日、『ブックセラーズ』という映画を見てきました。 「本屋さんたち」というタイトルの映画ですが、本屋だけでなくお客さんや図書館や美術館の人たち、ブックハンターなど、本を取り巻く人々のインタビューを主としたドキュメンタリー映画です。 舞台となるのはアメリカ、ニューヨーク。世界最大規模となる希少書の展示即売会を基軸として本の文化が語られます。ぼくも毎年参加しているのですが、かつて武器庫であった重厚な会場の雰囲気は独特で、他の都市で行われる古書展と比較しても業者、お客さんの情熱が感じられるフェアです。 映画では古書取引の歴史や文化、その意義なども解説されて行きます。 例えば映画の冒頭に登場するデイヴ。彼はオンライン販売には目もくれない本屋さん、日々本を探してアメリカ以外にも各地の本屋やブックフェアを渡り歩いて本を探し、手当たり次第にフェアに参加して本を売る業者さんです。ネット販売をしない本屋ですが、彼はメトロポリタン美術館やニューヨーク自然史博物館をはじめとした地元の大口の顧客も持っています。実際に本を手に取り、吟味して値付けする姿勢を、多くの美術館・図書館員が信頼しています。初めて自然史博物館の近くにある彼の店舗兼自宅を訪ねた時のことをよく覚えていますが、半地下の、古書と化石に埋もれた部屋に入った際、思わずその混沌さに大笑いしてしまいました。(彼はその時、ぼくの恐竜好きの娘のためにデスモスチルスの歯の化石をお土産にプレゼントしてくれたチャーミングな人でもあります。) そんな魅力的な人々を中心に映し出されていく映画ですが、撮影は確か2019年中のこと、向こうでの公開は昨年のパンデミック直前、2月だったと記憶しています。古き良き本屋の時代から書店の実店舗の激減と、それに抗う流れを伝えた映画の意義は今、パンデミックによって大きく変わってしまったと考えています。 ぼくも同感で、これからの古書の世界に楽観的に思っています。その理由は日本にも、まだまだ(沢山とは言えないけど)本に愛情を持つ人たちがいて、古本・古書の文化を支えてくれていると感じているからです。 かげろう文庫
映画 『ブックセラーズ』 原題:THE BOOKSELLERS|アメリカ映画 | 2019年 | 99分 世界最大のニューヨークブックフェアの裏側から見る |
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