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私が実感する古書組合に加盟することのメリット6つ

私が実感する古書組合に加盟することのメリット6つ

書肆吉成 吉成秀夫

平素はご愛顧いただきありがとうございます。札幌組合の書肆吉成の吉成秀夫です。この度は東京古書組合さんよりメルマガに原稿を書くようにとご下命があり、3回にわたって書かせて頂きます。今回は東京組合さんより指定のありましたテーマ「私が実感する古書組合に加盟することのメリット6つ」をご紹介いたします。加えて、昨年7月21日に私が古書店修行をした札幌の伊藤書房の伊藤勝美さんが亡くなりまもなく一周忌となりますのでその追悼の意味をこめた原稿となります。古書店経営や組合にご興味ある方にお読みいただければと思います。

さて、今年3月26日に私はツイッター( https://twitter.com/syosiyosinari/ )に以下の投稿をしました。
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私が実感する、古書組合に加盟する5つのメリット
1.「日本の古本屋」に出品できる。
2.組合が開催する古本市に参加できる。
3.全国の市場を利用して仕入れや在庫処理ができる。
4.同業者に仲間ができる。
5.古書月報、全古書連ニュースといった業界紙を入手して全国動向を知ることができる。
番外.なんらかの被災があったときに支援金を送るなど相互扶助ができる。
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これが東京古書組合さんの目に留まったとのことなので、以下に私個人の実感に即して解説してゆきます。

まず、1番目。「日本の古本屋」に出品できる。
書肆吉成では店頭販売のほかネットでは日本の古本屋とAmazonに出品しております。売上比は日本の古本屋の売上がAmazonの約2倍です。出品点数と販売点数はAmazonの方が多いのですが、貴重書、学術書、全集、雑誌などは日本の古本屋に出品しており、結果的に日本の古本屋の売上のほうが格段に多くなっています。かつてはAmazonの売上のほうが多かったのがここ3年くらいで逆転しました。今は日本の古本屋での販売に力を入れています。これはなぜかと言うとAmazonの手数料が比較的高額なのと、仕様や規約がころころと一方的に変更されることにうんざりしていることと、機械相手に価格競争をしている感じがすることのつまらなさが原因です。Amazonに隷属し、その下請けとして働かされている気がして、これでは自営で古書店をやっている意味がないよという気持ちになります。一方で日本の古本屋はお客さんの姿が感じられ、自分の裁量でお客様とコミュニケーションをとりながら信頼関係をつくれます。常連さんができるとうれしいです。登録販売のプロセスが若干面倒で手間なのですが、ひとつひとつ自分の手でやっていくことで手ごたえや面白さを実感できます。多少の不便さをふくめて日本の古本屋を好んで使う理由です。

2番目に挙げたのが「古本市に参加できる」です。
札幌古書組合では年2回の古本市を開催しています。今はコロナでできませんが、例年は新札幌サンピアザという大型商業施設にて紀伊國屋書店新札幌店さんと共催で各3日間の開催をしています。古本市では単価の安い商品を大量に売りさばくことができます。古本市用に本を分けて用意するのは大変ですが、それを上回るメリットは地元のお客様とじかに接することができることです。本好きのお客様へ手から手へ本を売るたびに手応えを感じます。モチベーションも上がるし売上も上がる。買取につながる。ライブ感がある。商売を営むうえでこれ以上のメリットがありますでしょうか。

3番目として全国の市場ですね、札幌古書組合では習慣的に「交換会」とか「セリ場」と言っていますが、「市場を利用して仕入や在庫調整ができる」ことです。多くの人が組合加盟のメリットとしてこの市場の利用を挙げると思います。
「売り」では大量出品してまとまった資金を得ることができ、「買い」では自分好みのジャンルの本を落札して自店の特色を打ち出せます。全国の市場を利用できるので、札幌の組合員でも東京の「大市」で売り買いしたり、珍しい本を仕入れて商売を大きく飛躍させることができます。
また、「売り」で無視できないメリットは大量出品によって生み出される「スペース」です。古書店業は在庫=空間=コストです。空間をどう使うかは経営に直結します。当店は約50坪の店舗のほかに合計200坪を超える3カ所の倉庫に本を置いていますがそれでも空間確保はつねに課題です。そもそも札幌古書組合の市場は月1回の開催なので、東京のように毎日市場があって自社販売と市場を自転車の両輪のように回していくようなスタイルを作れません。そのため自然とフローよりストックを重視する難しいやり方になりました。

市場は個人的にも大好きで、宝探しの楽しさがあり、行けば必ず絶対に面白い本があります。ここですこし脱線をさせていただくと、私が古書の世界に憧れるきっかけになった人は「本の真剣師」月の輪書林の高橋徹さんでした。私が学生時代に文化人類学者の山口昌男先生がホストで坪内祐三さんと月の輪書林の高橋さんを招いた講演会が札幌でありました。そこではじめて「生の」古本屋さんを見ました。講演会も面白かったのですが(坪内祐三『三茶日記』p72参照)、その翌々日に山口先生たちと古本市に出向き、その後カフェで昼食をとりながら古本市の獲物を見せあう自慢合戦をしました。それがすごく楽しくて、その場の思いつきで私は「大学を卒業したら古本屋さんになりたいです」と発言したところすぐさま月の輪さんと坪内さんに「いやいやそれはやめた方がいいよ!」と止められました。それがまた漫才みたいで面白く、やっぱり僕は古本屋さんになるんだ、と心のなかで決心したのでした。
さて、高橋徹著『古本屋 月の輪書林』(晶文社)には市場での奮闘ぶりが描かれていて、それは真剣勝負そのものです。高橋さんの主戦場は市場であるようです。市場とはなんて面白そうな場所なんだろう、こんなふうに本気で打ち込み戦える仕事というのが世の中にあるのかと大いに感化されました。是非自分も市場というところで同業者と切磋琢磨しながら商売をやってみたいと思ったものです。

実際つねに市場はドラマティックです。落札できたできないの一つ一つに火花が散っています。雑本の山のなかに光るものが一冊ありそれを仕入れたいと思った場合に他の同業者はこの本の存在に気づいているか、どのくらい札が入っているか、自分の懐具合はどうか、運を天に任せて乾坤一擲いざ勝負! といった緊張感ある駆け引きがあり非常に面白いです。アドレナリンが分泌しているのがわかります。私が修行した伊藤書房の伊藤社長がまた市場が大好きで、ワクワクするといって毎月セリを楽しみにしており、景気のいい時はどれもこれも片っ端から落札するような豪放磊落な人でした。伊藤書房での修行時代には釧路や帯広の交換会や東京の大市にも連れて行ってもらいました。古書業のおもしろさの一つは本を求めて地方に出かけられることです。市場は古本の仕事を楽しくするひとつの仕掛けだと思います。

4番目として「仲間ができる」をあげました。札幌組合は月1度ですがセリ場でいつも同業者と顔を合わせて少ない言葉を交わすだけで自然と打ち解けます。古本市などのイベントを一緒にやるとぼくらは仲間だという感じがしてきます。仲良くなったからといってべつにどうということもないんですが(昔は大きな仕入れがあると何店か共同で仕入れるといったことがあったようですけれども)、すくなくとも孤独ではないですね。お互いどんな商売をやっているのか意識し、セリ場でどんな本をどのくらいの強さで落札しているかを見て参考にしたり、荷物運びを手伝いながら、こないだ怪我しちゃってさぁとかどこに旅行に行ったとか昔はよかったぞーとバブル時代の話を聞いたり。茶飲み友だち的なコミュニケーションのなかに耳学問の種があるばかりでなく、たんにこんな他愛もない時間が好ましく、意外とかけがえのない貴重なことだと思います。

5番目として業界紙で全国動向を知ることができます。4番目のメリットの全国拡大版ですね。全国の情報が入ってきます。大市の出来高や別の地方の古書組合の様子などがうかがえます。東京組合が発行している古書月報はさまざまなエッセイ、座談会、インタビューが収録されていて読み物としてもとても面白いです。内輪向けの完全にガードの下がった本音が載っていたり、非常に力の抜けたリラックスした文章を愉快に読めたり。そういうなかに海外のお客さんが最近どういうものを盛んに購買しているとか、どういうものが商品としてクローズアップされてきているとか、新しい組合員さんが加入したとかがわかります。日々皆さんが思っている何気ないことにヒントがあったり無かったりと、なにかと参考になります。「古書業界」というおおきな世界で自分も商売してるんだぜという実感を呼び覚ましてくれます。

6番目として「被災した時に支援金を贈り合う」。寄付活動です。助け合いの輪に参加できます。
商売は「攻め」(売り・投資)だけでなく「守り」(保険・福利・補強や修繕・休むこと・リスク管理)がとても大切です。「攻め」は勢いでやれるので簡単ですが「守り」は案外難しいものです。古書組合はこの「守り」の機能があります。数年前、大洪水の被害を受けた古書店が近隣の古書店さんの手伝いをうけて倉庫の汚損本を処分した様子がツイッターにありました。全国組合に募金が呼びかけられ、私も少額を寄せました。ときにライバルとして、ときに仲間として、助け合い切磋琢磨しながらやっていく、そういうものとして組合が存在していることは有難いことです。

古書組合は何の権力も強制力もない組織で、組合員がそれぞれめいめいに自分の利益を追求するための相互扶助組織です。組合に加盟することは自分たちの「生き残り」のためにプラスに働きます。自社の利益だけでなく業界全体を盛り立てようと考えた時に非常に有効に機能します。全体で取り組むことで課題を解決し、一人一人が潤います。その大きな仕組みが「日本の古本屋」と「市場」です。これは個人で必死にやっていてもなかなか達成できない仕組みです。

以上6つのメリットを挙げてみました。これで東京古書組合さんからのご依頼に応えられたでしょうか。

さて、ここまで原稿を綴りながら、私には昨年亡くなった伊藤書房の伊藤勝美さんのことが思い出されてなりません。伊藤書房は私が修行した古書店です。今までの人生で唯一厚生年金をかけてもらったのがこの頃です。私が独立するときは札幌古書組合にスムーズに加盟できるよう配慮してくださり、独立後は組合の事業活動で助け合い協力しあう関係を継続しました。市場の一角をともに作っていったのです。
伊藤さんはとにかく情報が大事だといってこまめに連絡をくれました。ほかの古書組合員のご家族に訃報があればすぐに香典を持っていくという具合で、付き合いを大事にする昔気質(むかしかたぎ)の方でした。そんな伊藤さんの姿から、組合の存在がただ商売の場というだけでなく、そこでの生老病死や人付き合いを大事にする、家族的な共同体のようなものとして私のなかに意識付けられてゆきました。
また、私は伊藤さんが先輩ですが、その伊藤さんはえぞ文庫の古川実さんに商売の恩を感じていて、そういった継承、系譜が繋がっていく場として組合が考えられます。排他的なムラ社会の縁故主義のような側面がでてしまうきらいがありますが、そういう系譜とはなんの関係もなく入ってくる人もいますし、古書を商う者同士があつまって仲良くなったり喧嘩したりみんなで温泉に行ったり古本市をやったり、そんな離合集散をワイワイガヤガヤとやりながらぜんたい古書店業が純粋持続してゆく場として古書組合があるのだと思います。札幌古書組合80年史という本も数年前に発行しました。東京古書組合百年史も間もなく刊行予定と聞いています(ご予約お急ぎください)。
伊藤さんは自分の利益追求に余念の無い人でしたが、不思議と人づきあいや仲間付き合いを大切に考えた人でした。情が厚く、下世話な話もあけすけにものを言い、宴会が大好きでした。古書店業の大先輩として、ときには反面教師として、つねに体当たりの付き合いでした。伊藤さんの背中をみることで、私は私なりの仕事のスタイルをつくることができたのだと思います。7月21日に一周忌となる伊藤勝美さんにこの原稿を捧げたいと思います。



書肆吉成
https://camenosima.com/

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