私が実感する古書組合に加盟することのメリット6つ書肆吉成 吉成秀夫 |
平素はご愛顧いただきありがとうございます。札幌組合の書肆吉成の吉成秀夫です。この度は東京古書組合さんよりメルマガに原稿を書くようにとご下命があり、3回にわたって書かせて頂きます。今回は東京組合さんより指定のありましたテーマ「私が実感する古書組合に加盟することのメリット6つ」をご紹介いたします。加えて、昨年7月21日に私が古書店修行をした札幌の伊藤書房の伊藤勝美さんが亡くなりまもなく一周忌となりますのでその追悼の意味をこめた原稿となります。古書店経営や組合にご興味ある方にお読みいただければと思います。
さて、今年3月26日に私はツイッター( https://twitter.com/syosiyosinari/ )に以下の投稿をしました。 まず、1番目。「日本の古本屋」に出品できる。 2番目に挙げたのが「古本市に参加できる」です。 3番目として全国の市場ですね、札幌古書組合では習慣的に「交換会」とか「セリ場」と言っていますが、「市場を利用して仕入や在庫調整ができる」ことです。多くの人が組合加盟のメリットとしてこの市場の利用を挙げると思います。 市場は個人的にも大好きで、宝探しの楽しさがあり、行けば必ず絶対に面白い本があります。ここですこし脱線をさせていただくと、私が古書の世界に憧れるきっかけになった人は「本の真剣師」月の輪書林の高橋徹さんでした。私が学生時代に文化人類学者の山口昌男先生がホストで坪内祐三さんと月の輪書林の高橋さんを招いた講演会が札幌でありました。そこではじめて「生の」古本屋さんを見ました。講演会も面白かったのですが(坪内祐三『三茶日記』p72参照)、その翌々日に山口先生たちと古本市に出向き、その後カフェで昼食をとりながら古本市の獲物を見せあう自慢合戦をしました。それがすごく楽しくて、その場の思いつきで私は「大学を卒業したら古本屋さんになりたいです」と発言したところすぐさま月の輪さんと坪内さんに「いやいやそれはやめた方がいいよ!」と止められました。それがまた漫才みたいで面白く、やっぱり僕は古本屋さんになるんだ、と心のなかで決心したのでした。 実際つねに市場はドラマティックです。落札できたできないの一つ一つに火花が散っています。雑本の山のなかに光るものが一冊ありそれを仕入れたいと思った場合に他の同業者はこの本の存在に気づいているか、どのくらい札が入っているか、自分の懐具合はどうか、運を天に任せて乾坤一擲いざ勝負! といった緊張感ある駆け引きがあり非常に面白いです。アドレナリンが分泌しているのがわかります。私が修行した伊藤書房の伊藤社長がまた市場が大好きで、ワクワクするといって毎月セリを楽しみにしており、景気のいい時はどれもこれも片っ端から落札するような豪放磊落な人でした。伊藤書房での修行時代には釧路や帯広の交換会や東京の大市にも連れて行ってもらいました。古書業のおもしろさの一つは本を求めて地方に出かけられることです。市場は古本の仕事を楽しくするひとつの仕掛けだと思います。 4番目として「仲間ができる」をあげました。札幌組合は月1度ですがセリ場でいつも同業者と顔を合わせて少ない言葉を交わすだけで自然と打ち解けます。古本市などのイベントを一緒にやるとぼくらは仲間だという感じがしてきます。仲良くなったからといってべつにどうということもないんですが(昔は大きな仕入れがあると何店か共同で仕入れるといったことがあったようですけれども)、すくなくとも孤独ではないですね。お互いどんな商売をやっているのか意識し、セリ場でどんな本をどのくらいの強さで落札しているかを見て参考にしたり、荷物運びを手伝いながら、こないだ怪我しちゃってさぁとかどこに旅行に行ったとか昔はよかったぞーとバブル時代の話を聞いたり。茶飲み友だち的なコミュニケーションのなかに耳学問の種があるばかりでなく、たんにこんな他愛もない時間が好ましく、意外とかけがえのない貴重なことだと思います。 5番目として業界紙で全国動向を知ることができます。4番目のメリットの全国拡大版ですね。全国の情報が入ってきます。大市の出来高や別の地方の古書組合の様子などがうかがえます。東京組合が発行している古書月報はさまざまなエッセイ、座談会、インタビューが収録されていて読み物としてもとても面白いです。内輪向けの完全にガードの下がった本音が載っていたり、非常に力の抜けたリラックスした文章を愉快に読めたり。そういうなかに海外のお客さんが最近どういうものを盛んに購買しているとか、どういうものが商品としてクローズアップされてきているとか、新しい組合員さんが加入したとかがわかります。日々皆さんが思っている何気ないことにヒントがあったり無かったりと、なにかと参考になります。「古書業界」というおおきな世界で自分も商売してるんだぜという実感を呼び覚ましてくれます。 6番目として「被災した時に支援金を贈り合う」。寄付活動です。助け合いの輪に参加できます。 古書組合は何の権力も強制力もない組織で、組合員がそれぞれめいめいに自分の利益を追求するための相互扶助組織です。組合に加盟することは自分たちの「生き残り」のためにプラスに働きます。自社の利益だけでなく業界全体を盛り立てようと考えた時に非常に有効に機能します。全体で取り組むことで課題を解決し、一人一人が潤います。その大きな仕組みが「日本の古本屋」と「市場」です。これは個人で必死にやっていてもなかなか達成できない仕組みです。 以上6つのメリットを挙げてみました。これで東京古書組合さんからのご依頼に応えられたでしょうか。 さて、ここまで原稿を綴りながら、私には昨年亡くなった伊藤書房の伊藤勝美さんのことが思い出されてなりません。伊藤書房は私が修行した古書店です。今までの人生で唯一厚生年金をかけてもらったのがこの頃です。私が独立するときは札幌古書組合にスムーズに加盟できるよう配慮してくださり、独立後は組合の事業活動で助け合い協力しあう関係を継続しました。市場の一角をともに作っていったのです。 |
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