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古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期報告

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2021年上半期報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 新型コロナウィルスに相変わらず振り回されながら、あっという間に今年も半分が過ぎ去ってしまった。世界中でワクチンの接種が進み、パンデミックを抑え込む希望の光は見え始めているが、まだまだ遠い場所での、手に届かぬ輝きである。そんな状況での、ありえないオリンピック開催に憤りながら、二度目・三度目の緊急事態宣言にもめげず、個人が出来る感染対策を十分に施しながら、素敵な古本を求めて、愛しい古本屋さんを工夫して巡る日々は、何とか継続している。ただし三回目の緊急事態宣言発出時は、さすがに苦しめられた。何故か古本屋にも東京都から休業要請が出されたため、東京では多くのお店が制限が緩和されるまでの一ヶ月ほど、休業に入ってしまったのだ。馴染みのお店のシャッターが閉じられ、そこに貼られた『臨時休業のお知らせ』の紙を、どのくらい目にしたことか……それはまるで“禁古本屋法時代”に迷い込んでしまったような、切なく乏しい一ヶ月……だが、砂漠の中のオアシスのように、それでも開けてくれている貴重なお店をトボトボ伝い、古本と言う名の命の露を必死に啜り、どうにか乗り切ることが出来たのであった。こんなことがいつまで続くのだろうか。またもや七月に入ってから緊急事態宣言が出されてしまった。そして愚挙と声を大にして言えるパンデミック下での東京オリンピック開催…これらが一介の古本屋ツーリストにどんな影響を及ぼすのか、その月日を乗り越えなければ、行く末はわからない。だが、これまで暮らして来た生活の中に、この継続する過酷な事態を乗り越えるヒントが、もしかしたら潜んでいるかもしれない。それに気付くために、一月からの古本屋行動を急ぎ足で振り返ってみる…。

 一月、去年同様、中央線の中野〜武蔵小金井間で古本を買い漁る日々が続いている。特に一月八日の二度目の緊急事態宣言発出以降は、主に高円寺〜吉祥寺間を頼みにすることが多くなった。そんな最中に、武蔵境の「浩仁堂」が店売りを辞めることを知り、大泉学園の名店「ポラン書房」閉店一割引セールに駆け付けたりした。二月は、いつでも開けてくれている上井草の「井草ワニ園」で童心社のヨセフ・チャペック「こいぬとこねこはゆかいななかま」を800円で、沼袋の「天野書店」で河出書房新社「霧と影/水上勉」の献呈署名入りを千円で買ったり、荻窪の「古書ワルツ」でカバーナシだがポプラ社の少女探偵小説「流れ星の歌/西條八十」を330円で見つけたり、都立家政の「ブックマート」で國民文藝社「溺れる川/窪田空穂」の歌入り署名本を330円で掘り出したりと、意外なほどの掘り出し物当たり月に。神保町では「大島書店」の跡地に入った「光和書房」の店頭の古書の充実に瞠目したり、白山通りの古本もちょっと扱っていた「東西堂書店」の『閉店の原因は、新刊書店業界の長期低落と新型コロナウィルスです』の閉店の貼紙に涙する。

また国立では老舗の、街の小さなランドマークでもあった洋古書専門店「銀杏書房」が閉店。同時期に同国立の「みちくさ書店」が、駅裏手の『国立デパート』内に移転する。三月も奮闘してなかなか良い本を見つけており、荻窪「竹中書店」で徳間書店「ミステリー 戦艦金剛/蒼社廉三」とアルス「槐多の歌へる/村山槐多」(函ナシ、大正九年初版)をともに200円で買えたのは奇跡であった。また吉祥寺には「あぷりこっとつりー」という絵本の古本を扱うお店が出現し、阿佐ヶ谷でも古着屋なのに知的な読了本を店先に並べる「雑踏」というお店が、小さいながらも近辺古本屋ルートに新たな選択肢を増やしてくれた。三月二十八日に緊急事態宣言が解除され、その直後に吉祥寺に「古本のんき」が誕生。これで吉祥寺古本屋ルートの駅南側が、キレイな半円を描くことになった。四月、荻窪に「中央線書店」が出来ているのを、たまたま車窓から発見。

今は店頭に100〜500円棚を出しているだけだが、秋くらいには店売りも始めるらしい。そして出来たばかりの「古本のんき」で春陽堂探偵双書「不連続殺人事件/坂口安吾」を千円で見つけたり、函ナシの日本評論社「勞働詩集 どん底で歌ふ/根本正吉・伊藤公敬」を千五百円で手にしたりと、一気に当店のファンとなる体験が連続。そんなことでウハウハ喜んでいると、本郷古本屋街とば口の老舗「大学堂書店」が閉店することを知り、ビル奥のロケーションが素敵だったお店に別れを告げに行く。そして四月二十五日には三度目の緊急事態宣言が発出。都下の多くの古本屋さんが休業に入ってしまう。“禁古本屋法時代”の到来である。そうして迎えた五月も、それでも開けてくれているお店を求め、街を彷徨う。そんな厳しい状況下で、下北沢「ほん吉」で櫻木書房「日米對譯 映画劇」(函ナシ)に330円で出会えたのは、古本の神が与えてくれた哀れみの慰めか。高円寺ではバンドマンが酔っ払いながら開いていた「おもしろ古本市」に偶然出くわし、角川文庫のレア本「流砂/ビクトリア・ホルツ」を二冊も500円で買えてしまったのは、古本の神がニヤリと微笑んでくれたおかげだろうか。さらにその高円寺では、元クリーニング屋さんが蔵書を並べて古本屋と化した「クリーニングまるや店」が出現。

だが、そんな風にどうにかヨロヨロと古本ライフを楽しみながらも、神保町に赴いてみたら、開いているお店が二十店弱…世界に誇る本の街が、さすがにこの状態はかなり寂しい、とショックを受ける。六月、緊急事態宣言は続くが、規制が緩和され、多くの古本屋さんも休業トンネルから脱出。開き始めたお店をあちこち挨拶するように巡りながらも、代田橋駅前の小さなお店「バックパックブックス」の開店を目撃したり、高円寺の変わり種店「アニマル洋子」の建物の解体に伴う閉店を悲しむなどする。この月一番の掘出し物は、吉祥寺「古本センター」で80円で買った千代田書院「決定版 祇園小唄/長田幹彦」(函付き、献呈署名入り)であった。

 ……うぅむ、ここまで書いて、何がヒントかまるで閃かない。ただ古本屋に行って古本を買っているだけではないか…まぁ、とにかくいつワクチンを接種出来るのかわからぬが、引き続き感染対策を施し、もはや己にとって性で呪いで福音でもある、古本屋さん探索に血道を上げてゆくことにしよう。江古田に出来た「snowdorop」にもいまだに行けてないし、池袋に移転した「コ本や」や、南足柄に移転した「中島古書店」、神保町すずらん通りに移転した「永森書店」、神保町に新しく出来た「NAGA」、伊勢原の「おほりばた文庫鐙堂」にも行かなけりゃならないんだ!新型コロナとそれに伴う強制型環境に、負けてなるものか!




小山力也
2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。「東京古書組合百年史」の『古本屋分布図』担当。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。http://furuhonya-tour.seesaa.net/

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