文京区立森鴎外記念館特別展「写真の中の鴎外 人生を刻む顔」開催中文京区立森鴎外記念館 岩佐春奈(司書) |
文京区立森鴎外記念館は、森鴎外生誕150年にあたる2012(平成24)年に前身・文京区立鴎外記念本郷図書館より建物を改めて開館し、今年開館10年を迎えます。当館が顕彰している森鴎外は、明治大正に活躍した作家です。『舞姫』『最後の一句』など、その作品は教科書にも掲載されています。鴎外は、1862(文久2)年、現在の島根県津和野町に生まれ、1881(明治14)年、東京大学医学部を卒業、陸軍軍医となり1916(大正5)年まで勤めます。翌年、帝室博物館総長兼図書頭となり在職のまま、1922(大正11)年、60歳で亡くなりました。今年生誕160年没後100年を迎えました。 記念年を機に、より多くの皆さまに鴎外に親しんで頂きたく大規模な展示や講演会等の開催を予定しています。1つ目の特別展は「写真の中の鴎外 人生を刻む顔」と題して開催中です。2022年、鴎外を様々な側面から紹介していくにあたって、写真をとおして鴎外の顔を覚えていただき、興味を持っていただきたいと考えました。
展示のために、写真や顔について語った鴎外の言葉をまず確認しました。鴎外の写真はたくさん残っていますが、鴎外の弟・潤三郎によると実は写真が嫌いでした。確かに、私的な写真は多くありません。また、鴎外の自伝的小説『ヰタ・セクスアリス』(1909年)からは、鴎外は若い頃、生まれつきの顔に満足していなかったことがわかります。東京大学医学部では、年上の同級生に囲まれ、体格が劣った自分に歯がゆい思いをしたことが想像できます。一方、発表当時の森家とよく似た家族を書いた小説『半日』(1909年)では、主人公の博士は妻に対して「俺の顔は閲歴が刻み附けた顔で、親に生み附けて貰つた顔とは違ふ」と語ります。 展示は、「団子坂の家 観潮楼」「為事 鴎外の為したこと」「鴎外の顔 顔かたちとまなざし」の3章で構成いたしました。まず、文京区立森鴎外記念館の建つこの地にあった鴎外の居宅・観潮楼での鴎外や家族の写真が並びます。写真が観潮楼のどこで撮影されたかを示すパネルや、モノクロームの写真をカラー化した写真7枚(AIを利用し人の手で彩色)を並べたパネルを作成、観潮楼と鴎外が身近に感じられます。家庭での鴎外はやはり、穏やかな顔をしています。 「為事 鴎外の為したこと」では、1872(明治5)年、父と共に津和野から上京した頃から、陸軍軍医、文学、美術の分野ごとに写真の中の鴎外を編年で追っていきます。陸軍軍医としてドイツに留学した鴎外は、衛生制度を学びながらヨーロッパの文学や美術など文化を体験、吸収して1888(明治21)年に帰国します。その翌年から戯曲の翻訳を発表し、陸軍軍医として勤める傍ら生涯執筆をつづけます。それぞれの為事(仕事)先や仲間と写る姿からは、「絶えずごつごつと為事」(『あそび』)を続けた生涯を垣間見ることが出来ます。陸軍軍医として写る鴎外の顔は、いつも緊張感をただよわせ、作家仲間と写る顔には時に笑みが見えます。鴎外もまた、現在の私たちと同じように仕事に励み、執筆にも情熱を注いでいました。 「鴎外の顔 顔かたちとまなざし」では、人生を刻んだ鴎外の肖像を1872(明治5)年から亡くなるまでの写真40枚でたどります。鴎外は、「人間は親から貰った顔のままではいけない。その顔を自分で作って行って立派なものにしなくてはならない」(小堀杏奴『晩年の父』)と言っていました。並んだ顔から鴎外の閲歴が浮かび上がってきます。 現在、記念館では、鴎外の等身大パネルを設置し皆様をお出迎えしています。ご来館の際はぜひ鴎外と共に記念撮影をしてください。 また、記念館エントランスではブックフェアを開催しています。記念館のスタッフが選んだ鴎外作品や鴎外論、鴎外周辺の人物の詩集や随筆集、鴎外作品を現代作家がパスティーシュした小説、森茉莉や星新一など親族の本等々、何でもありの鴎外関連ブックフェアです。常時50冊程度が揃っています。ご来館の際には是非お手に取ってみてください。 最後に、鴎外記念年の今後の展示予定です。 ◇特別展「読み継がれる鴎外」 ◇コレクション展「鴎外の住まい(仮)」 ◇特別展「鴎外遺産(仮)」 開催情報/特別展「写真の中の鴎外 人生を刻む顔」 ●展覧会の最新情報は記念館HP等でご確認ください。 〒113-0022 東京都文京区千駄木1-23-4
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