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古本屋ツアー・イン・ジャパン2022年上半期報告

古本屋ツアー・イン・ジャパン2022年上半期報告

古本屋ツーリスト 小山力也

 世界が新型コロナの脅威に晒され続け、二年半以上が経過した。その間に、感染対策は定着化し(マスクにもすっかり慣れてしまった…いやですねぇ)、ワクチン接種も進み、コロナウィルスをどうにか制御し始めたような雰囲気が世界中に流れているが、敵もさるもの巧妙な進化を続けており、相変わらず未知のウィルスであることに変わりはないのであった。まったく『何処まで続くぬかるみぞ』と言った感じである。だがそれでも、日々を平穏に楽しく暮らして行かねばならぬ我らは、感染対策のさじ加減を手探りしつつ工夫し、以前とまったく同じカタチではないが、少しずつ日常に近いものを取り戻したり、新たに日常化したりして、薄暗闇の中を歩み続けている。古本業界の売る人も買う人も、その例外ではなく、どうにか色々やりくりしながら、今を生き続けている。と言うわけで、ほぼ毎日古本屋さに通い古本を買っている男の六ヶ月を、駆け足で振り返ってみよう。

 一月は、西荻窪の「にわとり文庫」で稀少な本も含めて激安値で大判振る舞いするイベント『帰って来たニワトリブンコ新春100円均一大会』が二年ぶりに催された。事情あって一日目に参加出来ず、ネットに飛び交う掘出し物を涙して眺めていたが、二日目に行っても、暮しの手帖社「暮しのなかで考える/浦松佐美太郎」が買えたりしたので、大いに溜飲を下げる。また神保町では名店の譽れ高い「田村書店」がバーゲンセール(一般書50%オフ、揃い&稀覯書は30%オフ)を敢行。その後は名物の店頭安売も規模を小さくして形を変えたりしたので、何かがひとつ消え去った感じとなる。また四月に「三省堂書店神保町店」が建て替えのために一時閉店するので、八階の催事場で定期的に開かれていた古書市も、『最後の古書市』を開催し幕を下ろした。

 二月は東村山にいつの間にか出現していた「古本×古着ゆるや」を訪ね、豪徳寺の「靖文堂書店」の実店舗閉店を目撃。豪徳寺から古本屋さんが一件減ってしまったと思ったら、明大前から「七月堂古書部」が移転して来たので増減なしの結果に胸を撫で下ろす、また久しぶりに対面で古本を販売する機会に恵まれ、谷中の洋服屋さん『蜜とミシン』の二階で、大阪から上京した「古書ますく堂」と和室で古本販売に勤しむ。古本が目の前で売れてゆく喜びと、お客さんと言葉を交わす喜びに打ち震える。

 三月はひばりケ丘の住宅街に実は一月から開店していた「古書きなり堂」を苦心の末に探り当てる。また二年ぶりの再開となった『第61回神田古本まつり 青空掘り出し市』には、客として駆け付けるばかりか、西荻窪「盛林堂書房」の手伝いとしてワゴンの内側に立ち、ひたすら精算作業を続ける地獄のような忙しさを体験する。そして西荻窪では駅近くの「TIMELESS」が閉店し、学芸大学の「流浪堂」も建物老朽化のために店舗を一時閉店。だが必ず同じ学芸大学の地にて店舗営業を再開するとのことだったので、今からその時が楽しみである。

 四月は前述の「三省堂書店神保町店」一時閉店に伴い、四階にあった「三省堂古書館」も閉館となる。今のところ、新・三省堂書店神保町店に再び入居の予定はないとのこと。大変残念である。また千葉・高根公団駅近くにあったミステリにも強い「鷹山堂」が惜しまれながら閉店。だがお店の跡地は、そのまま「はじっこブックス」が受け継ぎ、在庫も一部受け継ぎ六月には実店舗として営業をスタートした。古本屋さんの後を別の古本屋さんが受け継ぐのは時々あることだが、何か心温まるホッとする出来事である。さらに有名な古本イベントである谷根千の「不忍一箱古本市」も開催日を一日限定にして復活。一日故に参加者の競争率が凄まじく跳ね上がったとのこと。皆古本を媒介に対面でコミュニケーションをはかりたくて、ウズウズしまくっていたのである。

 五月には早稲田で早稲田通り沿いから「古書ソオダ水」のあるグランド坂通りに移転した「三幸書房」に早々に来店。新小説社の「傳法ざむらひ/長谷川伸」が二千円で買えたりして、お店のことが一気に好きになる。また、ミステリ評論家・日下三蔵氏が講演で松本を訪れると言うので、訪ねるべきお店を列挙して伝えると、松本城を模した古本屋さん「青翰堂書店」は2020年三月に閉店したと逆に教えられ、ショックを受ける。

 六月には激安だが良書が紛れ込んでいる押上の「イセ屋」が消滅しているのを目の当たりにしてショックを受ける。そして渋谷の老舗「古書サンエー」も75年の歴史に幕を下ろして閉店してしまった。相変わらず昔程フットワークが軽くないのとコロナ禍のせいで、関東近くのお店の話ばかりだが、閉店情報が目立つのが痛いところである。だが、新しいお店がチラホラ生まれ、この先の開店情報もすでに飛び込んで来ているので、新たな巡る楽しみはこれからも無事に続きそうである。

 そんな古本屋探訪活動の目立ったご褒美としては、講談社「兼高かおる世界の旅」&実業之日本社「兼高かおる世界の旅 オセアニア編」がともに百円、青心社「世界はぼくのもの/ヘンリー・カットナー」が百円、天佑社「小さな王國/谷崎潤一郎」が函ナシだが百円、これはヤフオク落札品だがアルス「槐多画集」が4980円、筑摩書房「人間失格/太宰治」の初版が百円、などであろうか。後半もこのような輝ける安値の宝の獲得を目指し、古本屋をギラギラ彷徨うこととなるだろう。

 また昨年秋辺りから再開した、日本屈指のミステリ古本魔窟・日下三蔵氏邸の書庫片付けにも、盛林堂書房の手伝いとして、もはや上半期だけで七回もうかがっている。これまでの地道な活動の成果か、作業効率が段々上がり、各所に整理のためのスペースが生まれ、長い長いトンネルの先に仄かに光が見えて来た思いである。人の家の書庫の片付けを始めて、間に多少のブランクはあるがすでに八年が経過している…まるでサグラダ・ファミリア建設の難事業に関わっているみたいだが、ライフワークの一つとして、どうにかみんなの力を合わせ、美しく使える書庫の完成に漕ぎ着けたいものである。

 気付けばもう2022年も半分が終わってしまった。齢を取るごとに、時間の進みがドンドン早くなっているように感じるのは、決して気のせいではないだろう。もはや若い頃とは違い、この先使える時間は、段々と限られて来ているのだ。だがそれがわかっていても、これからも古本屋と古本に、人生をぶちまけて行くのに変わりはないだろう。まずは酷暑の夏を古本を買いながら乗り切って、コロナの第七波も古本を買って乗り切って、またこの場をお借りして、色々ご報告させてもらえれば幸いである。

 
 
 
 
 

小山力也

2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』、「日本古書通信」にて『ミステリ懐旧三面鏡』連載中。
http://furuhonya-tour.seesaa.net/

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