県立長野図書館(前編) 書庫の「中」と「外」をつなげる  【書庫拝見1】

県立長野図書館(前編)  書庫の「中」と「外」をつなげる  【書庫拝見1】

南陀楼綾繁

 大学に入った直後に、高校の同級生と一緒に国立国会図書館に行った。
 日本で一番大きい図書館ってどんなところだろうと興味津々、とにかく書棚の本を手に取ってみたいと思っていた。しかし、入館してすぐその期待は打ち砕かれる。手続きをして中に入ってみると、どこにも本棚はなく、中央に大きなカードケースが置いてあるだけだったからだ。
 手持無沙汰にケースを開けて中のカードをめくってみたものの、それ以上どうすればいいか判らずに、友人と顔を見合せ、そのまま帰ってしまった。何でもいいから1冊選んで請求してみるという頭がそのときは働かなかったのだ。それが閉架式の図書館との出会いだ。
 その後、図書館や文学館、博物館などに通うようになって、開架として表に出ている本はごく一部であり、貴重な本は奥にある閉架書庫に収まっていることが判ってくる。
 取材などで書庫を見せてもらえる機会があると興奮した。案内する館の人もどこか誇らしげだ。書庫には、その館の歴史を伝える資料も所蔵されている。
 開架の書棚はその図書館のいわばよそ行きの顔であり、本質はむしろ書庫にこそあるのではないか。そう思うようになった。
 この連載では、普段は一般利用者が入ることができない閉架書庫に足を踏み入れ、そこで見つけた本や資料を紹介する。それとともに、書庫内を知り尽くす館員に、資料の管理や活用について話を聞く。
 書庫という奥の院を拝見することで、私なりにその図書館や文学館の新たな表情を描ければと思う。

いざ、県立長野図書館へ!

 最初に訪問したのは、長野県長野市にある県立長野図書館だ。
 2021年12月の初め、新幹線で長野駅に着くと、前館長の平賀研也さんが車で出迎えてくれた。平賀さんは企業での仕事を経て、2001年に長野県伊那市に移住。2007年に公募で伊那市立伊那図書館の館長となった。その後、2015年4月~20年3月まで県立長野の館長を務めた。現在は各地の図書館に関するプロジェクトに関わりながら、「たきびや」という謎の活動をしている不思議な人だ。
 平賀さんとはその2か月ほど前に茅野市で行われた「まちライブラリー」関連のトークイベントで一緒だった。その際、図々しくも「県立長野の書庫を見せてください」とお願いしたところ、「いつでもどうぞ」と云ってもらえた。
 こんなに簡単に書庫拝見が実現したのは、平賀さんに私が信頼されたから……では残念ながらなく、平賀さんの館長時代から県立長野が「書庫を生きたものとして活用する」ことに取り組んできたからだ。あとで述べるように、思いもかけないしかたで、さまざまな人が同館の書庫に入っている。

 今日の長野市はいい天気だ。5分ほど走ると、県立長野図書館に到着した。いかにも図書館らしい重厚な建物だ。若里公園に面しており、隣にはコンサートなどを開催する県民文化会館がある。
 館内の事務室を訪れると、槌賀基範さんが出迎えてくれた。北海道室蘭市生まれで、信州大学で歴史学を学ぶ。2002年に長野県の司書として採用され、県立長野図書館に配属される。途中、県立高等学校の図書館勤務となった3年間以外はずっと同館で勤務してきた。現在は資料情報課資料係として、書庫内の資料を知り尽くすエキスパートだ。温厚な人柄で、なにを聞いても丁寧に答えてくれそう。口から先に生まれたような平賀さんとは対照的だ。この二人がいたら、鬼に金棒ではないか。
 挨拶もそこそこに書庫に案内される。
 同館は1929年(昭和4)に長門町で開館。現在とは長野駅をはさんで反対側、善光寺近くの文教地区にあった。現在は長野市立長野図書館がある。最初の館は3階建てだった。1979年に現在の場所に移転し、新図書館を建設。地上3階、地下1階建て。それに対して書庫は地上6階、地下1階である。
 しかし、6階は開館以来、なににも使われていない「開かずの間」だったという。書庫の入り口にある「書庫案内」には、5階までしか表示されていない。しかし、その上には紙が貼られて訂正されている。新しい「書庫案内」を見ると6階までが使われているのだ。これはどういうことだろう? 疑問を抱きつつ、まずは地下に足を踏み入れた。
 中に入ると、整然と並ぶ書棚が我々を迎える。資料を保存するため、照明は抑え目だ。

地下書庫に潜入

 ここでまず見せてもらったのは、「PTA母親文庫」をはじめとして団体貸出などで使用していた図書の棚だ。PTA母親文庫は1950年に開設されたもので、県内の何か所かに「配本所」を設置し、そこを通じて学校のPTA会員向けに図書を貸し出した。当時、婦人層が本に接する機会は少なかったため、母親文庫の活動は大きな支持を集めたという。同じ本を複数冊購入して貸し出していたが、現在は1冊ずつ所蔵している。
 このフロアには一般書が並ぶ棚もある。1950~80年代ごろの小説やエッセイが中心のようだ。内田百閒、尾崎一雄、佐多稲子らの本もある。手近な1冊を抜いて裏見返しを見ると、貸出カードを入れるポケットが貼られており、そこには「本を大切に 返す期限に遅れぬように」と大きく、「読書とともに 観察思考の力を 養わなければならない」と小さく書かれていた。
「新聞もありますよ」と誘われたところには、「信濃毎日新聞」の原紙綴りがあった。現存する新聞では県内で最も長く続いている。他にも県内発行の新聞は多い。また、地域面があることから朝日新聞、読売新聞などの原紙も保存されている。
 さらに、16ミリフィルムを入れたケースが並ぶ棚もある。県政ニュース、農業や漁業、議会、学校、松本城など、さまざまなテーマの映像だ。こういうフィルムを上映会で観たことがあるが、いろんな発見があって面白い。

 館内には未整理の業務資料も多い。箱の一つを槌賀さんが開けると、そこには同館の歴史を語る資料が詰まっていた。手書きのものが中心で、経年により古びてはいるが、この世に1冊しかない貴重な資料ばかりだ。
 開館から10年間の「図書館統計表」には、毎年の来館者などが記録されている。
 手書きで記されている、戦前の「図書購入簿」。同館の前身は1907年(明治40)に設置された信濃図書館だが、1925年(大正14)の購入簿を見ると、1冊目の『現代戯曲全集』に続いて、2冊目以降に宮武外骨が自分の出版社・半狂堂で刊行していた『震災画報』『面白半分』『変態知識』など12冊が並ぶのが面白い。どういう購入基準だったのか?
 また、県立長野になった1929年(昭和4)の図書購入簿を見ると、「供給者」として〈西沢書店〉が見える。同店は現在も営業しているとのこと。同店の店主・西澤喜太郎についてはあとでも触れる。
 1945年の「当直日誌」もある。8月15日の項を見ると、「異状なし」と終戦の日でも淡々と記されている。
 これらの資料をめくっていると、たちまち時間が過ぎてしまうが、まだ書庫めぐりははじまったところなのだ。

 
信濃図書館の『図書購入簿』(第2号、1925年4月)と、その1ページ目。二行目に「外骨」「半狂堂」の名前が見える

クロっぽい本が次々に……

 階段で1階に上がる。ここには児童書、信濃図書館時代の本、戦前の本などがあり、いわゆるクロっぽい本が目に付く。
 児童書の棚には、宮沢賢治の『風の又三郎』の年代も出版社も異なる版がずらりと並ぶ。
「『注文の多い料理店』は終戦後に文章が一部差し換えられているのが判ります」と、平賀さんは云う。
 同館では2017年から月1回「館内見学ツアー」を開催。毎回、テーマに沿って、館員が書庫を案内した。そこでも児童書は人気だそうだ。
 このツアーの一環として、なんと「古本セドリツアー」まで開催。プロの古本屋さんをゲストに招いて、書庫にある珍しい本を探すというものだ。もちろん、それらの本が買えるわけではないのだが、「客の目」になって本棚を見渡すのは新鮮な体験だったと思う。

 別の棚には、「出版物差押通知接受簿」が収まっていた。1933年(昭和8)5月から1944年(昭和19)2月までの期間に差押対象となった図書、雑誌、新聞の内容、問題になった個所が詳細に記録されている。
 それとともに、処分の対象となった図書や雑誌の現物も何点かあった。たとえば、『改造』1939年(昭和14)8月号では、論文の一部が切り取られている。当時の検閲の実態を示す貴重な資料だ。なお、「出版物差押通知接受簿」は「信州デジタルコモンズ」で公開されている。
「以前、別の調査で書庫に入った際、この記録を見つけました」と槌賀さんは云う。平賀館長に提案し、2015年8月に企画展「発禁1925-1944 戦時体制下の図書館と知る自由」が開催された。出版・表現の自由への関心を持つ見学者が全国から集まったという。


「出版物差押通知接受簿」。中には、差押年月、書名、接受日、取扱者名が記載されている

 また、同年12月には「GIFT 子どもの世界が変わった時―進駐軍とともにやってきた児童書と戦前・戦中・戦後―」展を開催。館員が書庫を整理中に、児童書に押された「GIFT」のスタンプを見つけたことから生まれた企画だ。連合国軍最高司令官総司令部の民間情報教育局が全国23か所に設置した図書館であるCIE図書館と、そこから移行したアメリカ文化センターについての展示だった。
 このとき展示されたなかに、CIE図書館のPR用に同館で配布した栞がある。その裏には「最寄りのCIE図書館に行く習慣をつけませう。どの図書館も皆さんと関係深い事柄―保健、政治、音楽、農業、機械、織物、科学、家庭等々―に関する書籍、雑誌、パンフレツト等をたくさんとりそろへて、皆さんの御利用をお待ちしてゐます」とある。
 具体性のある呼びかけは、アメリカらしいなと思う。戦前の日本の図書館では利用者へのこういったアプローチは、ほとんどなかったのではないか。

 書庫の資料を企画展という形で書庫の「外」に出した根底には「県立図書館は何のためにあるのか」という平賀館長の問題意識があった。
「それまでの図書館は本を所蔵することには熱心だったけど、その利用についての議論が足りなかった。書庫の資料をテーマごとに切り出して、『外』で見せることが必要だと思いました」と平賀さんは云う。
 書庫の「中」と「外」にある壁を壊し、両方をつなげることで、これまでと違う図書館のかたちが見えてくるのではと考えたのだ。

(次回に続く)

 
 
 
 
 
南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、「石巻まちの本棚」
の運営にも携わる。著書に『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)、『古本マニア採集帖』(皓星社)、
編著『中央線小説傑作選』(中公文庫)などがある。

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古本屋四十年(Ⅳ)

古本屋四十年(Ⅳ)

古書りぶる・りべろ 川口秀彦

 今までに二度『街の古本屋入門』の名を出したのは、私が著者を意識し続けてきたからである。著者の志田三郎は本名石田友三、私が神奈川古書組合に加入した直後の84年に神奈川組合の理事長になった人である。その年から『神奈川古書組合三十五年史』が出た92年秋までの8年半で、神奈川組合の新規加入者は約20人いる。組合や市場の仕事の関係で私はその全員から古本屋になった動機を聞いているが、10名がはっきりと石田の本の影響が最大の要因だと答えていた。そうでない人も石田の本を読んでいる人が多かった。石田の次の理事会の理事となった私が、石田の存在と影響力を意識したのはこの頃である。

 もっとも、最大の要因だと答えた10人のうち現在も組合員でいるのは2人だけで、その2人とも、とっくに店舗をやめて無店舗通販のみの古本屋になっている。『三十五年史』を出した時の組合員は169名、増減があって現在は104名、そのうち92年から続いているのは42人、店舗営業を続けているのは27人である。92年の頃には無店舗だと組合加入を原則として認めていなかったから、この30年の間に街の新刊屋がなくなった以上に街の古本屋もなくなっているといえる。小資本で始められる古本屋だから、うまく行かない時に転業を決意しやすいのかも知れない。

 神奈川というのは古本屋の営業形態の新機軸が出てくる土地柄なのか、80年代に『街の古本屋入門』の影響下にあるような小資本型の古本屋、90年少し前からロードサイド型といえる「古本小屋」などのチェーン店とその系譜につらなるブックオフ、インターネット通販では今世紀初め頃からの紫式部、いずれも神奈川が発祥のようだ。

 紫式部については良く知らないが、最初の頃のその事務所の住所は当時の私の自宅から30mも離れていない場所だった。そこは私と同年輩の女性が始めた古本屋で、90年代後半の創業の組合員だったが、彼女が間もなく病を得てからは会えなくなり、紫式部との関係については聞いていない。店自体も10年は続いていないで、閉店後に亡くなっている。

 私が組合員になった80年代半ば、神奈川組合には他業種転入組だが古本屋商売についての理論家と思える人が2人いた。1人は石田だが、もう1人は牧野誠という、石田よりは少し年上の人である。東京町田の古本屋高原書店がその広さで話題になりだした80年頃、横浜の繁華街伊勢佐木町の商業ビルでワンフロア80坪ほどの先生堂書店という広い古本屋をやっていた。私と牧野は横浜南支部という同じ支部所属で、その頃はまだ週1回やっていた南支部の支部市や、週2回の本部市で何回か話を聞いたことがある。古本業界は外への発信力を強化すればもっと儲けられるというようなことを聞かされたと覚えている。石田とはソリが合わなかったようで、2人の口論の現場に居合わせたこともある。石田理事会の後半に先生堂を人に譲り、牧野は組合を脱けて、非組合員として「古本小屋」チェーンを始め、そこから「ぽんぽん船」という古本屋チェーンが派生した。「古本小屋」「ぽんぽん船」の成功を見ていた坂本孝が牧野にロードサイド型古本チェーン展開のノウハウを聞いて相模原にブックオフの1号店を始めた。坂本と牧野ではチェーン系古本屋をシステムとして売るところは同じでも、牧野はまだ本という商材に坂本より愛着があったと思えた。牧野先生堂から出た古本屋が2人、今も神奈川組合で活躍中である。1人は数年前に自社ビルを持つまでになった長倉屋書店長倉健之、もう1人は現在の神奈川組合理事長の藤沢湘南堂西嶋 聖光である。西嶋は今は無店舗だが、一時は100坪規模の店を複数を持つ、多店舗・大型店展開の神奈川の筆頭古本屋だった。その店員からは現在も店舗営業をしている組合員の古本屋が6、7人出ている。非組合員として古本屋を開業したのはその倍近くいると聞いたが、そちらはほとんど古本屋は廃業しているらしい。牧野も石田も坂本も亡くなってしまったし、こんな神奈川組合史外伝みたいなことはここいらで終りとしよう。

 本物の『神奈川古書組合三十五年史』は、小田原の高野書店を中心として、多少の準備期間のあと、石田理事会の86年に発刊を決定し、商業協同組合発足後三十五年目の88年に発行するつもりだったのだが、実際に出たのは92年になっていた。本格的な編集執筆作業に入ってから満6年はかかってる。私も編纂委員の1人として分担執筆に参加し、編集者経験もあったことから、全体的な編集実務についても仕事を任されて「序にかえて」まで書いている。組合前史を入れたら三十五年ではなく六十五年史でもよかったのだが、戦前の神奈川の市場に2系統あって、多少の時間的なズレがあるので、誰もが異論のないところで、商業協組になってから三十五年という表題にしたのだ。

 この組合史編集には石田友三も参加している。石田と私が編集委員として並んだ本がもう1冊あって、そのことも私が石田を意識する大きな原因になっている。その本のことを書く前に、私の屋号についてもう一度。「りぶる・りべろ」は“自由な本屋”の欧文訳である。なぜ自由か、60年代末から70年代にかけての時期、自由という言葉の重さを思い、自由社会主義者評議会という団体のメンバーになったりしていたからだ。その団体は準備会のまま終ったが、簡単に言うと絶対自由主義というアナキズムに憧れていたのだ。石田と私が今世紀になる前後に編集委員となり、2004年に刊行されたのは『日本アナキズム運動人名事典』(ぱる出版)という本である。

 石田は95年に影書房から『ヨコ社会の理論—暮らしの思想とは何か』という本を出した。貰ったのか買わされたのか忘れたが、すぐに読んで、この元理事長は、いつもはパワハラ気味なのに根はアナキストなのかと思ったものだ。日常生活のアナキズム的な過し方を提唱している本である。この頃から非暴力をテーマとするアナキスト向井孝らとのつきあいが始まっていたのだろう。

 私とアナキズムとの関係は、60年代後半の学生時代に、マルクス主義の中でも前衛主導型ではないヨーロッパ・マルクス主義に魅かれていて、同じように評議会社会主義を唱える自由社会主義、いわゆる無政府主義とは少し違う理論形成をしようとするアナキズムに展望を見つけ、そうしたアナキストとつき会い出したのが始まりである。70年になって、麦社という全国規模のアナキスト団体の実務担当の若手労働力として数年間運営委員をやっていた。生活手段としての薔薇十字社などでの編集者稼業を表とすれば、裏ではボランティアとしてアナ系団体の仕事を週1、2回やっていた。薔薇十字社というのは、澁澤や種村などの著者たちも経営陣もアナーキーといえる人たちだから、そんな二重生活もさして矛盾を感じることはなかった。その二重生活の中から、私の古本屋への道が少しずつ築かれていたのだろう。

 薔薇十字社の先輩社員で営業担当の石井康夫という人が、下北沢に移る前の、確か早大正門通りにあった古本屋の幻游社でバイトをしたことがあり、店主の長沢久夫が薔薇十字社に来訪したり、こちらから下北沢へ訪ねたりして古本屋話を聞いていた。丸山たちと私が祐天寺のあるご書店の棚を作っていた頃には石井は日吉に本店のある古本屋誠文堂のできたばかりの戸塚の支店の店長をしていて、店主の内山勇夫を紹介された。内山はまだ開業して5年ほどで、古本屋開業についてのアドバイス、体験談を具体的に話してくれた。

 麦社の方では、麦社パンフレットの納品先として、後から新刊屋修業をさせてもらうことになる文鳥堂四谷店や模索舎、神田ウニタだけでなく、新丸子の古書店甘露書房にもよく行った。創業店主の高橋光吉は戦前はアナキズム系の労働運動の有力な活動家だったし、戦後は46年にアナキスト連盟に加わり、60年安保の頃は秋山清、大沢正道、向井孝らと自由思想研究会を結成、自店を発売元としたアナ系の出版物を出していた。また、それ以外のアナ系のパンフも置いていた。その頃、アナキズム文献を捜すなら甘露書房という定評があった。

 まったく礼を失しているのだが、私はこの東横線の古本屋2人、高橋光吉と内山勇夫の葬儀には参列していない。内山の時は組合の催事の仕事がはずせず、体調もよくなかったので不義理をした。高橋の時は意図的に行かなかった。組合に入ったばかりで古本屋に専心しよう、アナキズムから少し離れようと思っていて、アナ系の知り合いに会いたくない時期だったのだ。今はアナ系の人達とつき合っているのだから、まったく申し訳ないことをしたと思っている。誠文堂(移転した)は内山夫人が、甘露書房は子息と孫が店を継いで現在も営業を続けているがアナ系の本はないようだ。


神奈川古書組合三十五年史(1992年刊)

日本アナキズム運動人名事典(増補改訂版, 2019年刊)
書影は増補改訂版。2004年刊の元版の時から編集委員が、
半減したので、これには私の名は残ったが、石田友三の名はない。

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2022年3月25日号 第343号

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1.『「第一藝文社」をさがす旅』         早田リツ子

2.『古本スタイル創刊!』             林 哲夫

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━━━━━━━━━【自著を語る(288)】━━━━━━━━━━━

『「第一藝文社」をさがす旅』          早田 リツ子

 2015年春、当時コロンビア大学の東アジア図書館で働いていた友
人から、北川冬彦の『純粋映画記』を出版した第一藝文社について
問うメールが届いた。北川が滋賀県大津市の出身であることは知っ
ていたが、彼の著作を刊行した出版社が大津にあったというのは初
耳だった。友人は詳しい情報を求めていたわけではないので、ここ
で「わからない」と返信すれば済む話だったのに、いま思えば何か
の力が働いたかのようにもう少し調べてみようと思い立ったのだ。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9060

『第一藝文社をさがして』 早田リツ子 著
夏葉社 定価:2,750円(税込)好評発売中!
http://natsuhasha.com/news/2022119/

━━━━━━━━━【自著を語る(289)】━━━━━━━━━━━

『古本スタイル創刊!』               林 哲夫

やっぱり、雑誌がやりたくなるのです。昨年末に『古本スタイル』
という古本好きの雑誌を創刊しました。岡崎武志、山本善行らと発
行していた同人誌『sumus』が13号をもって休刊したのが2010年です
から、そろそろ何かやりたくて、雑誌の虫がウズウズしていたのは
間違いありません。

そこへもってきて世界の終末を見るような新型コロナ騒動です。
それまでは、『sumus』が休刊する直前(2009)に京都で善行堂とい
う古本屋をはじめた山本善行も、古本ソムリエと自他ともに許し、
その弁舌と同じように絶好調で古本商道まっしぐらでした。ところ
が、一転、地獄を見たのです。一時は「店を閉めようかと思う」と
悲壮な面持ちで語ることもありました。それでも〈善行堂倶楽部〉と
いう「おすすめ古本直販システム」(要するに古本おまかせ弁当です
ね)をひねり出しては、かろうじて日々を乗り切ってきたのです。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9051

『古本スタイル 創刊1号』 書肆よろず屋刊
販売 古書善行堂 600円(税込)好評発売中!
http://zenkohdo.shop-pro.jp/?pid=165430750

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

近代出版研究 創刊号
発行:近代出版研究所
発売:皓星社
定価:2200円(税込)
発売日:4月上旬
判型:A5判並製288頁
https://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/9784774407623/

──────────────────────────────

東京都書店商業組合YouTubeチャンネル
『東京の本屋さん ~街に本屋があるということ~』
https://www.youtube.com/c/tokyo-shoten

内容
①著名人出演のインタビュー動画(13本)
②ドラマ『本を贈る』篠原哲雄監督(全9話)
③書店紹介(72店舗)

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

3月~4月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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日本の古本屋メールマガジン その343・3月25日

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古本が繋がる時1

古本が繋がる時1

樽見博(日本古書通信社)

古本の世界は不思議だなと改めて痛感させられたことが、このところ二つ続いたので紹介したい。ある雑誌の記事や、本への書き込みが、知らないでいた事実を教えてくれた。調べ始めたら次の部屋への扉を開くように、ある古本が別の古本へ繋がっていったのである。語呂合わせではなく、古書趣味とは考証趣味だと私は考えているが、古書探求の面白さを実感した。インターネットの普及で古書の売買の在りようは確かに変化したが、この面白さは何も変わっていない。

私が編集している『日本古書通信』の関西の読者から、アナーキスト詩人だった向井孝と山口英の戦前の俳句誌『句と評論』での活動期間を教えてほしいという依頼があった。この二人の詩人の出発が当時台頭していた新興俳句への参加であることを『日本古書通信』や『京大俳句を読む会』会報に私が執筆したのを読まれたからであろう。早速所蔵する三年分ほどの『句と評論』を改めて調べてお知らせした。手元には昭和7年9月の創刊号と10月号、昭和8年の第二巻一号から翌年の第三巻、昭和12年の一年分(巻数表記無し)がある。見て行くと第二巻一号の6号記事に「新興句会小会 常陸笠間田中青牛報」があり、昭和7年11月26日に、茨城県笠間町の青牛邸で参会者十名の句会を開き、高点を得た九名の作品を記録していた。末尾には「午前零時散会。天地三者へ『句と評論』十一、十、九月各号を呈した」とある。陶器で知られる笠間は私の生まれ故郷で我が家の墓もある。歴史はあるが田舎町である。新興俳句始動期に既に笠間にその支部ともいうべき存在があったことに驚愕といっていいくらいの驚きを覚えた。所蔵の『句と評論』は、平成14年に刊行した拙著『戦争俳句と俳人たち』(トランスビュー)執筆時に求めていたが、まだ十代だった三橋敏雄や、先の向井、山口などの作品を調べたのみで、当時はこの小さな記事に全く気が付かなかったのである。

田中青牛という俳人は初めて知ったのだが、この1月号巻頭二人目で「酉の字」というエッセイも寄稿している。『句と評論』でもそれなりの位置にいた俳人と考えられるのである。勿論、この程度では俳句文学事典などに立項はない。その後も毎号「笠間新興句会報」は掲載され、他にも「近江句会」「銀座句会」「七里ガ浜句会」「白山句会」「札幌句会」が出来て行ったようだ。前年昭和7年の9月号にも「漢詩と俳句・続」というエッセイと俳句三句、10月号にもエッセイ「秋の蚊」と俳句四句を掲載している。俳句には「茨城 田中青牛」とある。また、創刊号の裏表紙裏に『合本句と評論』第一輯の広告があり、青牛は「蕪村の一面」と「『日本名勝俳句』を見て」が収録されているようだ。この二編は未所蔵の昭和7年11月、12月号に掲載されたものだろうか。

昭和8年分を見て行くと、9月号に遺影を添えた青牛の追悼特集があってまた驚いた。遺稿「眼白」と、妻田中みぐさの「臨終記」、橋本桂秋の「笠間俳壇と青牛氏」、及び松崎華外、松原地蔵尊、藤田初巳共編になる「青牛句鈔」が掲載されていた。笠間に新興俳句を呼び込みながら数カ月で亡くなってしまったのだ。「青牛句鈔」で青牛の俳句歴が、大正15年夏の『黄橙』、昭和2年秋の『境地』、昭和5年夏の『群青』、昭和5年秋の『新黄橙』、そして昭和6年夏の『句と評論』投句時代と変遷したことが分かった。昭和6年に『句と評論』が出ていたということは、第一巻一号とある昭和7年9月号で体制の変化があり仕切り直しをしたということだろうか。青牛句は百八十句あまりが収録されているが、創刊9月号掲載の句「独居のひとりを襲ふ蚊なりけり」の前に『句と評論』掲載句が十三句ある。

この追悼特集では、青牛が病を得て東京から故郷の笠間の実家に帰り、従来の笠間の俳壇に新風を注いだこと。実家の環境が病気に良くないので町場の桂町に引っ越したこと。それでも結核には勝てず4月25日に32歳で亡くなり、雨の降る翌日、光照寺の荼毘堂に運ばれたこと。戒名は「法心院雄山青牛居士」。幼い子供二人と、やはり俳人である妻みぐさがいたこと、またその「臨終記」を読むと、法政大学出身(私の同郷の先輩ということになる)で、教師をしていたらしいことは何となくわかった。しかし肝心の本名が分からない。

そこで思いついたのが『茨城俳句』(昭和54年)という枕のような近代の茨城県出身と関係俳人のアンソロジーである。所持している筈だが出て来ないので、コロナ休館を終えた地元市立図書館所蔵本を見た。先の『句と評論』追悼記事を元に作品二十句が掲載され、ごく簡単な経歴として本名田中虎雄、明治34年生まれ、教員、前記の俳歴、父悠峯(善治)、兄白甫も作家とある。その父悠峯も妻みぐさも各一頁を当てられている。ただ、これだけではどこの教師であったのか、何を教えていたのかもわからず、まだ具体的な人物像が浮かび上がって来ない。『句と評論』の中核の一人で多くの文章も書き、病を得ながらも帰郷して句会を主宰し共鳴者を集めながらあまりに早い死を迎え、しかも「臨終記」の伝える末期は胸を締め付けられるような哀切極まるものである。もっと詳しく知りたいという気持ちを消すことが出来なかった。
もう一度『句と評論』を見て行くと、昭和8年7月号の俳句欄に「笠間俳壇と田中青牛氏」を書いた橋本桂秋が「五月廿一日石寺村なる青牛氏の墓地に詣る」と題して「枯葉燃して線香つける春の山」という句を出していた。青牛は住まいに近い光照寺で荼毘に付され、葬儀もしたが埋葬は実家のある石寺村(現在笠間市)にあるようだ。田舎によくある田圃や畑のなかにある村の墓地だろう。

私は墓参りを兼ねて笠間に行き、光照寺を訪ねた。真宗大谷派の立派なお寺である。御朱印集めをしている妻に親切に対応して下さったご80歳くらいの住職の奥様に、昭和8年4月にこの寺で葬儀をされた田中青牛という俳人のことを知りませんか、お墓は石寺にあるようですがと、聞いても当然のことながら首を傾げられただけだった。無理もないことで、青牛が最期を迎えた桂町とよばれる地域だけを教えて頂いた。城址のある佐白山の麓、日動美術館や笠間小学校のすぐそばである。

カーナビで石寺の位置は分かった。市街から北に大分離れた山里である。病院に通うにも句会を開くにもあまりに不便である。しかも今を去る90年前、街に出るには数時間を要したに違いない。山の中を車でグルグル回ってみたが、墓らしいものは発見できなかった。

家に帰りグーグルマップの衛星写真で笠間市石寺を見たが、墓場らしきものは見つけられなかった。

調べもここまでかなと諦めかけた頃である。昨年末に石田波郷と石塚知二が主宰した『鶴』の未所蔵分を多く含んだ俳句雑誌の束を古書市場で落札していた。必要と思われる物だけ抜いて、捨てるものを束ねてしばらく放置していた。いよいよ処分しようと最後にチェックしたら、細谷源二が札幌で出していた俳句雑誌『氷原帯』が二部あり、片方は1967年7月号(第二十巻七号)で何と「句と評論・広場」特集を組み、松原地蔵尊、湊楊一郎、細谷源二、砂川長城子、そして田中から姓を変えた関口みぐさが文章を寄せていたのである。みぐさの文章「思い出 たぐり寄せられた綱に」には青牛に関する記載はなかったが、地蔵尊の「『句と評論』創刊より九年迄の展開」は青牛に詳しく触れていた。危うく捨ててしまうところであった。さらに驚いたことに、この号には、みぐさが江原という方に書いた手紙が挟まれていたのである。こんな偶然があるのかと身震いがした。ところが次にあらたな本との出会いが続いたのである(つづく)


『句と評論』昭和8年9月号 田中青牛追悼記事

 
 


『氷原帯』1967年7月号と関口みぐさ(旧姓田中)の手紙

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「第一藝文社」をさがす旅

「第一藝文社」をさがす旅

早田 リツ子

 2015年春、当時コロンビア大学の東アジア図書館で働いていた友人から、北川冬彦の『純粋映画記』を出版した第一藝文社について問うメールが届いた。北川が滋賀県大津市の出身であることは知っていたが、彼の著作を刊行した出版社が大津にあったというのは初耳だった。友人は詳しい情報を求めていたわけではないので、ここで「わからない」と返信すれば済む話だったのに、いま思えば何かの力が働いたかのようにもう少し調べてみようと思い立ったのだ。

 まずは図書館のレファレンスサービスを利用することにした。その結果、参考文献として紹介されていた古書店主山本善行さんの「純粋映画記 北川冬彦」(林哲夫編著『書影でたどる関西の出版100―明治・大正・昭和の珍本稀書』)に出合い、大いに驚くことになる。そこには北川だけでなく伊丹万作や今村太平、杉山平一等の名があり、天野忠、中江俊夫などの詩人の名があった。

 社主中塚道祐(悌治・勝博名義もある)についての詳細は不明のまま、次は国立国会図書館の書誌検索で、第一藝文社の本をリストアップする作業を始めた。それによって刊行書に映画評論、詩集、いけばなの本が多いことがわかってきた。実はこのあたりで、くだんの友人宛に概要を伝えて終わることも考えていた。

 ところでリストは当然ながら発行順につくりたいと思っていたのだが、国会図書館も各地の図書館の書誌も、ほとんど発行年までの記載なので同年内の刊行順がわからない。いま思えば、私的な小レポートが思いがけず長い記録になった直接的なきっかけは、発行日を知るために各地の図書館の蔵書を借り、さらに気になる本を全国各地の古書店さんから取り寄せた結果ともいえそうだ。

 私はこれまで、おもに農山村女性の生活史を聞き書きで記録してきた。その地に結びついて営まれた暮らしの話を聞かせてもらうのは、私にとって時代と地域社会を知るための貴重な学びの機会だった。子守り奉公、女工労働、過酷な農作業、敗戦後の変化へとつづく話の底には、戦争がどっしりと居すわっていることも常に意識させられた。

 第一藝文社をさがす旅をつづけた基本的な動機も、この出版社の主要な社業が敗戦までのほぼ10年だった点にある。大津で創業し、間もなく京都へ事務所を移した個人出版社が、困難な時代にどのような本を出したのか全容を知りたくなったのだ。もう一つは、その後明らかになってくる中塚道祐という人の誠実な人柄と、地主の跡取り息子である出自を嫌い、理想の社会を夢見た生き方に関心をもったからだった。さらに決定的だったのは、中塚の長男修さん(故人)との出会いと協力があったことである。

 修さんから託された資料中の自伝『思い出の記』(私家版)と、中塚が編集していたいけばな流派機関誌によって、彼の個人史と、本と著者に関するエピソードが一度に目の前に現れたのだ。それからはリスト作成をつづけながら、第一藝文社の本を実際に手に取って読んだ。もちろん私にも入手可能なもの、理解できそうなものに限られ、その理解も充分とはいえなかったのだが。いけばな関係にも関心はあったが割愛した。

 戦時体制下で刊行された本を手にすることには、新刊書では味わえない身の引き締まる感覚があった。刊行間もない第一藝文社の本を待ちかねていたように買い求め、傍線を引きながら熱心に読んだ読者との出会いも、古書ならではの感動だった。また「いけばな批評家」としての中塚の活動も注目に値する。「挿花は決して一部階級のものであつてはならぬ」と書いた中塚が、作庭家、いけばな・茶道の研究家として著名な重森三玲に師事し、第一藝文社の社名の相談にものってもらったという結びつきにも驚いた。最初の刊行本は重森の『挿花の観賞』である。

 今回は本に導かれるままに時間をさかのぼる旅だった。第一藝文社を通して多くの出会いがあった。なかでも日本映画の向上を願って労を惜しまず尽力した杉本峻一、中塚の篤実な人柄を尊んだ今村太平や杉山平一、今村の親友日名子元雄(文化財保護の専門家)、厚木たか(『文化映画論』の訳者)、九州の詩人西山明、経済学の本を遺した友人佐久間紀彦などはとくに印象に残っている。また中塚に思想的な影響を与えつつ、自らは自由な生き方を選べないまま若くして世を去った、姉の中塚くめも忘れ難い人である。

 一冊の本が世に出るまでに、さまざまな人の力が注がれていることにいつも胸が熱くなる。今回は資料をさがす段階から、図書館と「日本の古本屋」の検索サイトを通じて全国の古書店さんに助けられた。本が届くたびに「よくぞ持っていてくださった!」と心から感謝した。

 最後に中塚のメッセージを記しておきたい。〈日本はいま戦争をしていないけれど、しかしいま地球上には戦争がある。この地球上の、どの地域に戦争があっても、それは、しんの平和でない〉――本書「いけばなと平和」より。


『第一藝文社をさがして』 早田リツ子 著
夏葉社 定価:2,750円(税込)好評発売中!
http://natsuhasha.com/news/2022119/

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古本スタイル創刊!

古本スタイル創刊!

林 哲夫

やっぱり、雑誌がやりたくなるのです。昨年末に『古本スタイル』という古本好きの雑誌を創刊しました。岡崎武志、山本善行らと発行していた同人誌『sumus』が13号をもって休刊したのが2010年ですから、そろそろ何かやりたくて、雑誌の虫がウズウズしていたのは間違いありません。

そこへもってきて世界の終末を見るような新型コロナ騒動です。それまでは、『sumus』が休刊する直前(2009)に京都で善行堂という古本屋をはじめた山本善行も、古本ソムリエと自他ともに許し、その弁舌と同じように絶好調で古本商道まっしぐらでした。ところが、一転、地獄を見たのです。一時は「店を閉めようかと思う」と悲壮な面持ちで語ることもありました。それでも〈善行堂倶楽部〉という「おすすめ古本直販システム」(要するに古本おまかせ弁当ですね)をひねり出しては、かろうじて日々を乗り切ってきたのです。

かつて善行堂ファンで満員だった店内は、コロナ禁足によって、全国からの客がパッタリと絶え、地元の常連がときおり顔を見せるていどです。店主は、ジャズやクラシックのレコードをかけながら、上林暁か何かをしんみりと読んでいるのです。

コロナ以前から「雑誌、出したいなあ」と善行堂はつぶやくことがありました。小生も、たしかに、腕が鳴ってはいたのです。けれども、実際に編集レイアウトを担当する身としてはもうひとつふんぎりがつきませんでした。「出せたらいいね、誰か若い人がやってくれたらいいんだけどなあ」などとはぐらかしていました。ですが、コロナのどん底で、あまりに閑そうにしている店主を見ていると、もちろん小生自身も、画家として個展など開けない状況でしたので、閑だということに変わりはありません。「じゃ、やりますか!」

そして「二人が雑誌やるなら、うちが版元になりましょう」という有難い提案が善行堂の常連さんからありました。古書とレコードのヘビーコレクター(体育館みたいな書庫を持っておられます)でもある書肆よろず屋さんです。それまですでに小生が『ふるほんのほこり』(2019)と『日々スムーム』(2021)を、善行堂は『本の中の、ジャズの話』(2020)という単行本を書肆よろず屋さんから出させてもらっていましたから、やるとなったら話は早いのです。誌名も三人であれこれ議論したりはせず、メッセンジャーのやりとりだけで、善行堂の提案した「古本スタイル」に決まりました。

雑誌の内容は、二人が古本ネタを書くのは当然として、ゲスト毎号一人を原則としました。創刊号では善行堂へ高校生のときから通っており、現在は立派な古本真人間となった鈴木裕人さんにお願いしました(南陀楼綾繁『古本マニア採集帖』にも登場)。『龍膽寺雄の本』(2020)で読書人をギョッとさせた鈴木さんは「龍膽寺雄と歩く街」と題した詳細な龍膽寺雄読み解き術を執筆してくださいました。古本魂をいたく刺戟する内容です。

善行堂は久々に復活した「善行堂日記」を掲載しました。相変わらず笑わしてくれる。

《画家のAさん、日が暮れてからご来店。善行堂の灯りに誘われて、と言ってくださる。昔は遅くまで開いている店も多かったが、近頃少なくなって寂しいという話から、コロナの話へ。そういえば丸山書店は遅くまでやっていたな。深夜に入れる書店っていいな。
 コロナの話では、若い子もちゃんとマスクをしているのを、そこまで守らなくてもいいのでは、と言い出した。若いんだからマスクなんて外して話すぐらいやないと、などとも言い出す。私は下を向いて聞いていたが、ふと見ると、その人、ほぼマスクを外しているではないか。若い人ではなく、自分が外したいんだ。マスクはしてもらわないと、と言おうとしたけど、もう帰りそうだったので言わないですんだ。》

小生は古本道に迷い込んだ初期の思い出を京都の山崎書店さんとの交遊を中心に書いてみました。コロナ禍の谷間を見計らって、松山〜大分〜鹿児島〜倉敷と古本屋巡りをしましたので、そのレポートも載せました。「本の本」として『オン・ザ・ロード』(トゥーヴァージンズ、2021)を紹介。余ったスペースには「古本クロスワードパズル上級編」(これはちょっと難しいですぞ)、オーウェルの「古書店の思い出(抄訳)」などを埋め込み、これにて一丁上がり。

体裁はA5判32頁および片袖折返し表紙、ともにファンシーペーパー使用でやや高級感を出しました。表紙デザインはあえて古本を避けて、ブリキのヒコーキを配置しました(これも古本市で買ったものですが)。

昨夏、東京オリンピック効果によって、ふたたび患者数が急増し始めたころに着手して、少し収まってきた11月には完成しました。ところがどうでしょう、ご存知の通り、そこからまたもやオミクロン株が猛威を振い始めたのです(さらには変異株も次々と)。しきりに「ウィズ・コロナ」というような掛け声が聞こえます。『古本スタイル』も、無理せずに古本病と共生する、そんな気持で続けて行けたら良いなと思っています。ご希望の方は古書善行堂(http://zenkohdo.shop-pro.jp)まで、よろしくお願いいたします。そろそろ2号の締切も近いのです。

林 哲夫(はやし・てつお)
1955年、香川県生れ。画家、著述家、装幀家。著書に『喫茶店の時代』(ちくま文庫)、『古本屋を怒らせる方法』(白水社)、『本のリストの本』『本の虫の本』(ともに共著、創元社)など。装幀本に『書影でたどる関西の出版100』(創元社)、『花森安治装釘集成』(みずのわ出版)他。

 
 
 
(註1)岡崎武志、山本善行、南陀楼綾繁、荻原魚雷、扉野良人、生田誠、松本八郎らと出していた
 
 
 


『古本スタイル 創刊1号』
書肆よろず屋刊 600円(税込) 好評発売中!
販売 古書善行堂 http://zenkohdo.shop-pro.jp/?pid=165430750

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2022年3月10日号 第342号

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 古書市&古本まつり 第110号
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

古本屋四十年(Ⅲ)

                古書りぶる・りべろ 川口秀彦

 横浜希望丘から吉祥寺へ店を移した時に、意図して変えたものが
ある。店の呼び方、看板を「古本りぶる・りべろ」から「古書りぶ
る・りべろ」としたのだ。ヨーロッパ風の本当の発音でいうと、ス
ペイン語にしろイタリア語にしろリーブル・リベーロと長音の入る
ものを、あえて言葉遊びのように音引きをなくし、柔らかく見せよ
うと平がな表記にした「りぶる・りべろ」という店名は、開業当時
に東急東横線に自由書房という本屋があって、重複を避けて同じ意
味の欧風屋号にしたものだ。何の商売だかすぐに判るように頭に
「古本」をつけたが、読みずらい、呼びずらいという、あまり評判
の良い屋号ではないことは知っている。「古本」と「古書」につい
ての私のイメージだが、古本はリユース本、セコハン本で、刊行時
の新刊定価より安く売買するもの、古書は多少ともプレミアムのつ
く本という、大ざっぱな区別をしている。横浜の住宅地から、街は
ずれとはいえ東京の繁華街に移ったのだから、今までよりはプレミ
アム本の取り扱いに力を入れようと思ったのだ。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=8984

━━━━━━━━【シリーズ 古本の読み方5】━━━━━━━━

古本読書史と古本に飽きたときの展開法(古本の読み方5最終回)

                           書物蔵

最後は古本の読み方、というか、それを少し広げて「使い方」「楽
しみ方」の歴史をざっと概観して、古本に飽きた時の対処法につな
げてみたい。
■明治まで本は「借りる」ものだった
 学者や支配層、豪商はともかく、江戸時代の庶民にとって本は
「買う」ものではなく、「借りる」ものだった。
 江戸中期に商業出版が成立し、「本屋」で新刊書も買えるように
なるのだが、その新刊部数は1000部も刷ればそれはベストセラー扱
い、発行部数は少ないため単価も高く、八犬伝(1815-1842)といっ
た読み物であっても揃いで現在の1万円以上はした。
 江戸時代、寺子屋などで大都市の庶民も読み書きができるように
なったので(農村だと地主層は読めたが庶民はまだ読めない。ルビ
ンジャー、川村肇訳『日本人のリテラシー』 柏書房、2008を参照)、
本をデリバリーの貸本屋から借りて読んでいた。
 明治になり公共の「書籍館」(図書館のこと)も設置されたが、
明治末になるまで各地に広がらず、文化の都・東京でさえ3館
(帝国図書館、大橋図書館、教育会図書館)しかなかったが、ちゃ
んと「高等貸本屋」で硬い本も借りられたのだった。だから、明治
中頃までの「読書術」の本には、本の買い方が書いていない。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=9009

書物蔵
本格的古本歴は15年ほど。興味は日本図書館史から近代出版史へ
移行し、今は読書史。
共書に『本のリストの本』(創元社、2020)がある。

ツイッター
https://twitter.com/shomotsubugyo (2009年~)

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「第 61 回東京名物・神田古本まつり☆青空掘り出し市ワゴンセール」

本年は、恒例の“千代田さくらまつり”は開催されない運びとなり、
神田古書店連盟主催の第 61 回神田古本まつり青空掘り出し市として、
3月17日(木)~3月21日(月・祝)の5日間、靖国通り・岩波会場にてワゴ
ンセールを行うこととなりました。3連休を含む5日間の開催です。
未だ情勢は不安定なままですが、感染対策を万全にした上で、ぜひ皆
様のご来場をお待ちいたしております。※コロナウイルス感染症の蔓
延状況が悪化した場合、開催中でも古本まつりを中止することがあり
ます。

☆青空掘り出し市ワゴンセール☆
3月17日(木)~3月21日(月・祝)午前10時~午後6時(最終日午後 5 時)
会場:【岩波外会場、岩波中会場、靖国通り会場】
https://jimbou.info/news/20220125.html

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「コショなひと」始めました

東京古書組合広報部では「コショなひと」というタイトルで動画
配信をスタート。
古書はもちろん面白いものがいっぱいですが、それを探し出して
売っている古書店主の面々も面白い!
こんなご時世だからお店で直接話が出来ない。だから動画で古書
店主たちの声を届けられればとの思いで始めました。
お店を閉めてやりきったという店主、売り上げに一喜一憂しない
店主、古本屋が使っている道具等々、普段店主同士でも話さない
ことも・・・
古書店の最強のコンテンツは古書店主だった!
是非、肩の力を入れ、覚悟の上ご覧ください(笑)

ノースブックセンター
所沢紹介
所沢設営

YouTube 東京古書組合
https://www.youtube.com/channel/UCDxjayto922YYOe5VdOKu9w

━━━━━【3月10日~4月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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第12回 戸田書店 古本・古書フェア(群馬県)

期間:2022/02/04~2022/03/13
場所:戸田書店 高崎店 高崎市下小鳥町438-1

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フジサワ4階古書フェア (神奈川県)

期間:2022/03/03~2022/03/16
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場

http://www.yurindo.co.jp/store/fujisawa/

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第184回神戸古書即売会(兵庫県)

期間:2022/03/11~2022/03/13
場所:兵庫県古書会館 神戸市中央区北長狭通6-4-5(阪急花隈駅西口真裏の通り)

https://hyogo-kosho.com/kamei/

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紙魚之會

期間:2022/03/11~2022/03/12
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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西部古書展書心会

期間:2022/03/11~2022/03/13
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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3月反町古書会館展(神奈川県)

期間:2022/03/12~2022/03/13
場所:神奈川古書会館1階 横浜市神奈川区反町2-16-10

http://kosho.saloon.jp/spot_sale/index.htm

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第61回神田古本まつり青空掘り出し市☆ワゴンセール

期間:2022/03/17~2022/03/21
場所:神田神保町古書店街(靖国通り沿い・神保町交差点)

https://jimbou.info/

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ABAJ 国際稀覯本フェア2022 -日本の古書 世界の古書-
Tokyo International Antiquarian Book Fair 2022, ABAJ

期間:2022/03/18~2022/03/20
場所:東京交通会館展示会場12F カトレアサロンA・B 千代田区有楽町2-10-1

http://abaj.gr.jp/special/2022/index.php

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趣味の古書展

期間:2022/03/18~2022/03/19
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

https://www.kosho.tokyo

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第5回 春の混陽古本まつり(兵庫県)

期間:2022/03/19~2022/03/27
場所:イズミヤ混陽店 地階催事場  兵庫県伊丹市池尻1-1

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新橋古本まつり

期間:2022/03/21~2022/03/26
場所:新橋駅前SL広場

https://twitter.com/slbookfair

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第99回シンフォニー古本まつり(岡山県)

期間:2022/03/23~2022/03/28
場所:岡山シンフォニービル1F  自由空間ガレリア

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2022/03/24~2022/03/27
場所:さくら草通り(JR浦和駅西口 徒歩5分 マツモトキヨシ前)

https://twitter.com/urawajuku

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第9回 小倉駅ナカ本の市(福岡県)

期間:2022/03/25~2022/04/03
場所:小倉駅ビル内・JAM広場 (JR小倉駅 3階 改札前)

https://twitter.com/zCnICZeIhI67GSi

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和洋会古書展

期間:2022/03/25~2022/03/26
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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五反田遊古会

期間:2022/03/25~2022/03/26
場所:南部古書会館 品川区東五反田1-4-4
   JR山手線、東急池上線、都営浅草線五反田駅より徒歩5分

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中央線古書展

期間:2022/03/26~2022/03/27
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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西武本川越PePeのペペ古本まつり(埼玉県)

期間:2022/03/31~2022/04/12
場所:西武鉄道新宿線 本川越駅前ペペ広場

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青札古本市

期間:2022/03/31~2022/04/03
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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下町書友会

期間:2022/04/01~2022/04/02
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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書窓展(マド展)

期間:2022/04/08~2022/04/09
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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平井のはみだし古本市

期間:2022/04/09~2022/04/17
場所:平井の本棚 2階 江戸川区平井5-15-10(JR総武線・平井駅北口改札より徒歩30秒)

https://kosho-hanautadou.peatix.com/

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大均一祭

期間:2022/04/09~2022/04/11
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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アクロスモール新鎌ヶ谷古本市(千葉県)

期間:2022/04/12~2022/04/20

場所:アクロスモール新鎌ヶ谷 1F 中央エレベーター前・中央エスカレーター前
   千葉県鎌ケ谷市新鎌ヶ谷2-12-1
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日本の古本屋メールマガジンその342 2022.3.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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2022年2月25日号 第341号

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☆INDEX☆
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1.周縁(マージナル)、路上(オン・ザ・ロード)から生まれた本たち
                       新宿書房 村山恒夫

2.生誕120年没後30年反町茂雄文庫展を終えて
                   長岡市立中央図書館 井口麻子

3.文京区立森鴎外記念館特別展「写真の中の鴎外 人生を刻む顔」開催中
                文京区立森鴎外記念館 岩佐春奈(司書)
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━━━━━━━━━【自著を語る(287)】━━━━━━━━━━━

周縁(マージナル)、路上(オン・ザ・ロード)から生まれた本たち
                      新宿書房 村山恒夫

 『新宿書房往来記』(港の人)、私の初めての本である。昔から本
ではなく出版社(出版者)そのものが話題になるのは、誕生の発足時
か倒産時といわれてきた。途中経過の本は「創業◯◯年」に刊行され
る社史のたぐいだろう。まして編集者が自社で本を出すことはまずな
い、あるとすれば本人が死んだ後の遺稿集の場合だろう。それはまさ
に「饅頭本(まんじゅうぼん)」だ。

 この本は鎌倉の出版社「港の人」から生まれた。私は2001年から新
宿書房のHPの片隅にコラムを書いてきた。この間、途中で7年間!も
休んだこともあり、実に気の向くままに書き散らしてきた。2019年1月
からほぼ週1回アップを目指すようになり、2020年の3月から始まった
コロナ禍以降も同じペースで書いてきた。本人は〈『週刊村山タイム
ズ』の地方通信局長〉のつもりだ。取り上げるテーマは当然、新宿書
房に関連する本や亡くなった関係者の思い出話が多かった。しかし、
できるだけ新聞などに取り上げられた事象に関連する本の話を書いて
きたつもりだ。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=8877

『新宿書房往来記』 村山恒夫 著
港の人 定価:2,800円(税別)好評発売中!
https://www.minatonohito.jp/book/401/

━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━━

生誕120年没後30年反町茂雄文庫展を終えて
                長岡市立中央図書館 井口麻子

 長岡の図書館において三大恩人はと聞かれると、大正7年に互尊
文庫を開館し運営資金も含めて寄附した実業家野本恭八郎。空襲で
焼失してしまった互尊文庫の復興を願い昭和23年に再建資金を寄附
した繊維商内藤伝吉。そして昭和51年から図書館の資料の充実に
向けて、数多くの郷土資料を長岡に納めた反町茂雄氏(以下反町)
を挙げている。

 反町は新潟県長岡市出身、東京で古書肆弘文荘を営んだ。古典籍
を多く扱い古書業界の育成だけでなく、大学、図書館、研究機関の
蔵書構築に貢献した。反町が寄附した掛軸・錦絵・古文書などの資
料を中心にした反町茂雄文庫は長岡の図書館を構成する大きな核の
一つである。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=8484

生誕120年・没後30年 反町茂雄文庫展
https://www.lib.city.nagaoka.niigata.jp/?page_id=672
※文庫展、各イベントは終了しています

●生誕120年・没後30年「反町茂雄文庫展」
 ~伝説の古典籍商がふるさと長岡に贈った郷土資料~
 https://youtu.be/X9NAY0G4PnU

●生誕120年・没後30年「反町茂雄文庫展」関連イベント
 オンライン座談会「古書肆弘文荘 反町茂雄さんの想い出」
https://youtu.be/Kt6joaq65-A

━━━━━━━━━━【プレゼント企画1】━━━━━━━━━━━

生誕120年・没後30年 反町茂雄文庫展の関連イベント
『長岡市史双書を読む会「古書肆弘文荘・反町茂雄と長岡」』で用いられた
テキスト『古書肆弘文荘・反町茂雄と長岡 『反町茂雄文庫目録』第2集(補遺)』を、
抽選で5名様にプレゼント致します。ご応募お待ちしております。

応募申込は下記ページにてお願い致します。
 締切日 2月28日(月)午前10時

https://www.kosho.ne.jp/oubo2022/0225-1.html

━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━━

文京区立森鴎外記念館特別展「写真の中の鴎外 人生を刻む顔」開催中
              文京区立森鴎外記念館 岩佐春奈(司書)

 文京区立森鴎外記念館は、森鴎外生誕150年にあたる2012(平成24)年
に前身・文京区立鴎外記念本郷図書館より建物を改めて開館し、今年開館
10年を迎えます。当館が顕彰している森鴎外は、明治大正に活躍した作家
です。『舞姫』『最後の一句』など、その作品は教科書にも掲載されてい
ます。鴎外は、1862(文久2)年、現在の島根県津和野町に生まれ、1881
(明治14)年、東京大学医学部を卒業、陸軍軍医となり1916(大正5)年
まで勤めます。翌年、帝室博物館総長兼図書頭となり在職のまま、1922
(大正11)年、60歳で亡くなりました。今年生誕160年没後100年を迎えま
した。 記念年を機に、より多くの皆さまに鴎外に親しんで頂きたく大規
模な展示や講演会等の開催を予定しています。1つ目の特別展は「写真の中
の鴎外 人生を刻む顔」と題して開催中です。2022年、鴎外を様々な側面
から紹介していくにあたって、写真をとおして鴎外の顔を覚えていただき、
興味を持っていただきたいと考えました。

続きはこちら
https://www.kosho.or.jp/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=8834

文京区立森鴎外記念館
特別展「写真の中の鴎外 人生を刻む顔」
会期:2022年1月9日(日)~2022年4月17日(日)
https://moriogai-kinenkan.jp/

━━━━━━━━━━【プレゼント企画2】━━━━━━━━━━━

森鴎外記念館バッジ・シールを抽選で10名様にプレゼント致します。
ご応募お待ちしております。

応募申込は下記ページにてお願い致します。
 締切日 2月28日(月)午前10時

https://www.kosho.ne.jp/oubo2022/0225-2.html

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『第一藝文社をさがして』 早田リツ子 著
夏葉社 定価:2,750円(税込)好評発売中!
http://natsuhasha.com/news/2022119/

『古本スタイル 創刊1号』 書肆よろず屋刊
販売 古書善行堂 600円(税込)好評発売中!
http://zenkohdo.shop-pro.jp/

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

2月~3月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

⇒ https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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日本の古本屋メールマガジン その341・2月25日

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古本屋四十年(Ⅲ)

古本屋四十年(Ⅲ)

古書りぶる・りべろ 川口秀彦

 横浜希望丘から吉祥寺へ店を移した時に、意図して変えたものがある。店の呼び方、看板を「古本りぶる・りべろ」から「古書りぶる・りべろ」としたのだ。ヨーロッパ風の本当の発音でいうと、スペイン語にしろイタリア語にしろリーブル・リベーロと長音の入るものを、あえて言葉遊びのように音引きをなくし、柔らかく見せようと平がな表記にした「りぶる・りべろ」という店名は、開業当時に東急東横線に自由書房という本屋があって、重複を避けて同じ意味の欧風屋号にしたものだ。何の商売だかすぐに判るように頭に「古本」をつけたが、読みずらい、呼びずらいという、あまり評判の良い屋号ではないことは知っている。「古本」と「古書」についての私のイメージだが、古本はリユース本、セコハン本で、刊行時の新刊定価より安く売買するもの、古書は多少ともプレミアムのつく本という、大ざっぱな区別をしている。横浜の住宅地から、街はずれとはいえ東京の繁華街に移ったのだから、今までよりはプレミアム本の取り扱いに力を入れようと思ったのだ。

 神奈川で組合に加入した頃に、東洋一のデパートを自称する横浜そごうが開業した。70年代後半から90年代の半ば、阪神大震災の頃までだったように憶えているが、デパートでの古書催事が盛んだった。横浜そごうも神奈川古書組合に呼びかけて86年から年二回、十数年間古書即売会をやっている。私は第3回から参加した。目録も出すデパート展は、それまで経験していたリユース本主体のスーパーでの催事と違ってプレミア本が売上げの主力なのを実感した。

 86年に市場と催事の双方を担当する事業部理事という組合の役職に就き、編集者経験を買われたのか、校正などを含む目録係の仕事をすることが多くなり、理事の任期が終ったあとも目録係と対外的な広報宣伝は長く任せられていた。おかげで、他店の目録原稿を読んでどういう本が目録向きなのか、どういうジャンルにどういうプレミアをつけるのかを学習できたようだ。見よう見まねだった私の目録頁も、落ち込んでしまっている現在から見ると倍以上の受注率があった。当時は受注率ではかなり上位に入れるようになっていた。だから店でもプレミア本、古書を売って売上を伸ばそうとしたのだ。

 広告の担当者として、大きな催事ごとに広告を出していた古書趣味誌『彷書月刊』とつきあうようになった。『彷書』は、専従の編集者は複数いるが編集長はなないろ文庫ふしぎ堂という現役の古本屋の田村治芳で、そのブレーンのように石神井書林の内堀弘、月の輪書林の高橋徹たちの古本屋が関わっていた。初期には創業者の一人、自游書院の若月隆一も企画などに関わっていた。『彷書月刊』は雑誌のあった25年間で神田猿楽町、西神田界隈、神田神保町と事務所を転々としているが、私はその三ヶ所とも訪ねたことがある。そんな『彷書』とのつきあいが私の吉祥寺から神田神保町への移転の時に活きてきた。

 吉祥寺の店はJR中央・総武線の高架下で、吉祥寺駅ビルと同じJR東日本の子会社が管理していた。最初から最長9年しか貸さないという「臨時貸借契約書」というかなり厚い書類に判子を押させられていた。8年目になった頃に管理会社から複数回呼び出しを受け、駅ビル本体へ転出するか退去しかないという話をされた。家賃が二、三倍する吉祥寺駅ビルへの転出というのは、こちらが受けるわけがないことを見越しての提案でしかなく、移転先を本気で捜すようになった。神奈川へ戻ることも検討していた時に『彷書』の編集長のななちゃん(多くの知りあいがこう呼んでいた)が良い場所があると言ってきた。『彷書』の事務所の近くの非組合員の古本屋が閉店するので、後釜に入らないかという話だった。時代小説専門の古本屋海坂書房で、私も入ったことのある店だった。十年ほど頑張っていたと思うが、専門特化しているのに自給自足だけ、組合の古書市場を使わないというので、仕入れ、品揃えに無理が来ていたのだろう。『彷書』は古本屋であれば非組合員でもつきあっていたので、色々な情報を持っていたのだ。ななちゃんの紹介で海坂書房と話をし、ビルの持主とも会って私が後に入ることになった。海坂とすれば丸善製のスチール本棚の撤去費用が不要になり、私は逆に棚の設置費用がかからないという、お互いにメリットのある交替だった。ちなみに、その丸善の鉄製の棚は私の神保町店閉店直後に神奈川厚木から埼玉のジョンソンタウン跡へという、米軍基地関連の場所が好きなのかと思わせる移転をした若手の古本屋逍遥館が引取ってくれたので、まだまだ本棚の形で使われているはずだ。神保町店のビルオーナーが、古本屋に二十年以上貸しているので、次は違った業種に貸したいということで、完全撤去を求められたのだ。

 吉祥寺の店で、希望丘の時より広くなった分を新品で補った丸善スチール棚は、現在は知り合いの出版社の倉庫の棚になっている。希望丘の店を満たしていた手作り木製本棚はすべて吉祥寺で使い、その一部を神保町の店、そして現在の倉庫へと使い続けているが、大半は吉祥寺閉店の時に解体して廃材として処理した。手作りでも三十年近く使ったから惜しくはなかったが、鉄製の棚は新品時の価格が高いこともあり、なかなか廃棄する気にならないのは、古本屋らしいリユース癖なのだろうか。

 棚だけではなく私の店ではガラスケース(ショーケース)を使っていて、これは古書市場に出品して他の本屋に買ってもらった。希望丘の時は洋品店の跡に入ったのでショーウインドウのある古本屋だった。見映えの良い高額品はそこに展示していた。吉祥寺の時からガラスケースを導入、神保町でも同じようにプレミア本をそこに陳列して、「古書店」という感じを出していた。

 私は当初「街の古本屋」を貫ぬこうという志向があった。吉祥寺だけでなく、神保町でもその感覚のある古本屋でいたいという気持ちはあった。街の古本屋とは、私の考えでは、地元住民のニーズになるべく応えられるように、ある程度は幅広いジャンルを扱う地元密着型の店ということである。新刊書店員育ちのせいか、いま消えつつある「街の新刊書店」の古本屋版といえるものを志向した。私の開業一年後に新刊で出た『街の古本屋入門』では定義されていたかどうか忘れたが、街の古本屋というのはなかなか良い視点だと思った。専門化した領域へ進むための入門篇やその次のステップあたりまでが街の本屋・古本屋の担える範囲だろうし、私にはそれ以上の能力はなかった。

 吉祥寺の時から店の主要な取扱い分野として近現代詩歌、幻想文学、幻想美術、社会思想、社会運動あるいは肉筆草稿書簡類などをチラシや名刺には掲げているが、それ以外にも書道関係とか映画、演劇、近代文学初版本などもかなりの冊数を置いていた。神保町では海坂書房の後ということで時代小説もある程度は並べていた。専門化した店ではない、街の古本屋らしいというのはそういう店のことでもあると思っている。

 ブックオフなどの新古書店は、私から見ればある意味では街の古本屋の進化形に思える。彼らの特色は明るくキレイな店、売買価格が明確な店というだけでなく広いことでもあるのだが、その広さがジャンルを問わない幅広い品揃えを可能にしている。街の新刊屋のような品揃えを、そのままリユース本として再現できているのだ。今までの古本屋は、たとえばビジネス書などの類は古本としては扱ってこなかった。新刊店員をしていてはっきりと知ったのだが、新刊には年々新しい本が出されて過去に出されたものがすぐに売れなくなる分野もあれば、同じものが長く求められる分野もある。たとえばビジネス書は発行時での需要は多くても商品としての生命力は短かいものが多い。文学書、哲学書は逆のものが多い。新刊書店では出版社、取次から配本されたものを内容は問わず新刊として陳列するが、刊行年次(本の美汚は別として)のみで本の価値を判断する新古書店の棚づくりは、新刊書店のようで新刊屋よりも内容を勘案しているわけではない。とにかくオールジャンルの本があるから、旧来の古本屋が陳列できなくて捨てていたジャンルの本の客がついたのだ。広さの勝ちといえるだろう。生業的な狭い古本屋では、回転率の良い文庫、マンガ、エロ本や見ばえがして回転率の悪くない本が主力商品であって、特価本の地図などはともかく、回転率が悪く、商品としてすぐに生命力のなくなるビジネス書などは、いくら買取値を安くしても扱おうという気にならない分野だったのだ。


①向かいから見た前景。看板が「古書」になっている。

②店内に入ってすぐの雑誌棚。奥は丸善製のスチール棚。

③ガラスケースと壁面展示のスペース。

いずれも吉祥寺店開店当時の様子。

Copyright (c) 2022 東京都古書籍商業協同組合

古本読書史と古本に飽きたときの展開法(古本の読み方5最終回)

古本読書史と古本に飽きたときの展開法(古本の読み方5最終回)

書物蔵

 

 最後は古本の読み方、というか、それを少し広げて「使い方」「楽しみ方」の歴史をざっと概観して、古本に飽きた時の対処法につなげてみたい。

■明治まで本は「借りる」ものだった
 学者や支配層、豪商はともかく、江戸時代の庶民にとって本は「買う」ものではなく、「借りる」ものだった。

 江戸中期に商業出版が成立し、「本屋」で新刊書も買えるようになるのだが、その新刊部数は1000部も刷ればそれはベストセラー扱い、発行部数は少ないため単価も高く、八犬伝(1815-1842)といった読み物であっても揃いで現在の1万円以上はした。

 江戸時代、寺子屋などで大都市の庶民も読み書きができるようになったので(農村だと地主層は読めたが庶民はまだ読めない。ルビンジャー、川村肇訳『日本人のリテラシー』 柏書房、2008を参照)、本をデリバリーの貸本屋から借りて読んでいた。

 明治になり公共の「書籍館」(図書館のこと)も設置されたが、明治末になるまで各地に広がらず、文化の都・東京でさえ3館(帝国図書館、大橋図書館、教育会図書館)しかなかったが、ちゃんと「高等貸本屋」で硬い本も借りられたのだった。だから、明治中頃までの「読書術」の本には、本の買い方が書いていない。

■古本なら半値だから買えば――明治末
 明治末になってようやく、古本なら新刊の半値だから買えば、と言われるようになった。「資力豊かならざる読書家が、僅少の資を投じて読むに価する書籍を購求せんとす。之れ頗る困事なりと雖も、世は便宜なるものにて古本商あり」(横田章著, 大町桂月校『読書力の養成』広文堂, 1909. p.57)。

 一方で雑誌の部数が増えた明治30年ごろから新刊雑誌の「月遅れ」が市中に出回りはじめ(定価の3割くらい)、大正期の庶民はそれらを買うようになっていった(同時に「雑誌回覧会」も大規模に成立して新刊書店と揉めている)。

 「本を買う」ことが「新刊書を買う」意味になりはじめたのは、やはり、初刷部数が万単位となった「円本」ブーム(1926-ca.1929)からだろう。それまで、庶民が本を買う場合、絵双紙屋で軟派系の本を買うか、古本屋や露店で古本を買っていた。古本を買う目的は何より、安いからだった。

■安い本から珍しい本へ
 しかしここに古本を「安いから」でなく「古いから」買う人達が現れる。「珍書家」「珍書持」という人たちである(水谷不倒『古書の研究』駿南社、1934、p.15)。

 『古本年鑑(昭和8年)』(古典社、1933)に載っている全国古本屋リストは、和本屋と洋本屋にわける印が付けられている。これは単に安く買いたい人と、古い和本・珍本を買いたい人がお店を選べるようにしたものだ。これはちょうど平成期に、ブックオフ=安い本、街の古本屋=古い本、と考えられるようになったのと同じ図式だ。戦前期の古本趣味を書いた河原万吉『古書通』(四六書院、1930)に出てくる「古本」は、基本的に崩し字の和本(和装本)である。

■古本マニアの発達段階
 なにが言いたいかというと、日本人の古本を求めるニーズが大きく、安いもの→珍しいものに発展したように、個人が古本を求めるニーズも同じく、安いものから(自分にとって)面白いものへと変わっていくのではないか、ということだ。

 南陀楼綾繁『古本マニア採集帖』(皓星社、2021)を見ると、一見普通の人から濃ゆいマニアまで、いろんな古本マニアが紹介されている。もちろん古本趣味のバラエティは幅広いのだが、実は特定個人の中でも、時期によって趣味の熟成度というか、発達段階というのもあるのではないかと思う。たとえばこんな。

ステップ1(普通の本好き):古本屋で安い本を買う
ステップ2(古本初心者):古本屋で懐かしい本を買う
ステップ3(マニア入門):古本屋で特定主題の古本を買う
ステップ4(立派なマニア):古書目録(古書販売サイト)で古本を買う
ステップ5(ディープなマニア):手段を問わず古本を買う
ステップ6(達観期):全体像がわかった気分になるのであまり古本を買わなくなる

■いつまでも楽しむためには――メディア形態をずらす
 ステップ(古本病?)が進んだほうがいいというわけでもなくて、だいたい一番楽しいのは、ステップ3から4のあたりかと思う。自分にとっての面白さ(新奇性)に目覚めたあたりが、新しい世界が開けた感じがして楽しいものである。私の場合、関連書籍を集め切って、一段落したあと、古本マイブームが再燃したのは、雑誌を集め始めた時と、絵葉書を集め始めた時だった。そこから考えると、古本に飽きた場合には、集める主題は同じでも、媒体を単行本から雑誌へ、あるいは紙ものなどへズラしてみると、ステップ6から3に戻ることができ、また楽しめるのではないかと思う。

■古書会館の週末古書展で意外な発見をする方法
 これはステップ3あたりの人におすすめしたいが、東京なら神保町、五反田、高円寺の業者用古書会館で週末、古本マニア向けに開催される週末古書展に行くといいだろう。今どき入場時にカバンを預けるという古風なことをしているが――十年前まで高円寺では下足をとったくらいだ――それにめげずに飛び込むと、古本趣味が広がると思う。

 理由は2つあって、一つは、週末古書展での本の並びが、主題別でも形態別でもなく、お店別。これが意外といい。結果として古本の出どころ別になっており、これが図書館でも新刊書店でも不可能な独自配列で勉強になるのだ。前にその本を使っていた人の文脈が部分的に保存されているんよ。 

 その文脈を釣り上げるには、まず自分の知っている本、興味のある主題の本を見つけ、その周りの本を見る。すると、情報検索や主題書誌では絶対に見つからない意外な、けれど関連する面白い本が見つかるはずである。一般の古本まつりに出品されないような特殊な濃ゆい本が週末展だと出品されるということもある。

 あと、週末展だと立ち読みをしやすいこともある(コロナ禍中はなるべく短くすべきだが)。店頭よりじっくり古本が選べる寸法だ。ただし、古本というのは基本、一期一会なので「買わない理由が値段なら買いなさい」と言われていることをお忘れなく。そういえば4月創刊の『近代出版研究』(皓星社発売)なる雑誌に、前代未聞の「立ち読み」の歴史が載るんだった。

■書くことを始めると沼にはまる?
 さらに、同人誌やジンなどに集めている古本の題材で何か書くと、読みが深くなって、よく読めるようになる。これは自分でも不思議なことで、書くと読むは連動している部分があるようだ。私も『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(品切れ)という同人誌に協力してわかった。ちょっとした在野研究といった具合。それでお仲間などができると楽しいし、趣味としても良いのではないかと思う次第。古本収集家のサークルがかつていくつかあったらしいが、私もいつのまにか古本フレンズができてコロナ禍以前は毎週末、古書展がえりに行きつけの店で談論したものだった。みなさんも大いに古本を楽しんでくだされたく。



書物蔵
本格的古本歴は15年ほど。興味は日本図書館史から近代出版史へ移行し、今は読書史。
共書に『本のリストの本』(創元社、2020)がある。

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