古本スタイル創刊!林 哲夫 |
やっぱり、雑誌がやりたくなるのです。昨年末に『古本スタイル』という古本好きの雑誌を創刊しました。岡崎武志、山本善行らと発行していた同人誌『sumus』が13号をもって休刊したのが2010年ですから、そろそろ何かやりたくて、雑誌の虫がウズウズしていたのは間違いありません。
そこへもってきて世界の終末を見るような新型コロナ騒動です。それまでは、『sumus』が休刊する直前(2009)に京都で善行堂という古本屋をはじめた山本善行も、古本ソムリエと自他ともに許し、その弁舌と同じように絶好調で古本商道まっしぐらでした。ところが、一転、地獄を見たのです。一時は「店を閉めようかと思う」と悲壮な面持ちで語ることもありました。それでも〈善行堂倶楽部〉という「おすすめ古本直販システム」(要するに古本おまかせ弁当ですね)をひねり出しては、かろうじて日々を乗り切ってきたのです。 かつて善行堂ファンで満員だった店内は、コロナ禁足によって、全国からの客がパッタリと絶え、地元の常連がときおり顔を見せるていどです。店主は、ジャズやクラシックのレコードをかけながら、上林暁か何かをしんみりと読んでいるのです。 コロナ以前から「雑誌、出したいなあ」と善行堂はつぶやくことがありました。小生も、たしかに、腕が鳴ってはいたのです。けれども、実際に編集レイアウトを担当する身としてはもうひとつふんぎりがつきませんでした。「出せたらいいね、誰か若い人がやってくれたらいいんだけどなあ」などとはぐらかしていました。ですが、コロナのどん底で、あまりに閑そうにしている店主を見ていると、もちろん小生自身も、画家として個展など開けない状況でしたので、閑だということに変わりはありません。「じゃ、やりますか!」 そして「二人が雑誌やるなら、うちが版元になりましょう」という有難い提案が善行堂の常連さんからありました。古書とレコードのヘビーコレクター(体育館みたいな書庫を持っておられます)でもある書肆よろず屋さんです。それまですでに小生が『ふるほんのほこり』(2019)と『日々スムーム』(2021)を、善行堂は『本の中の、ジャズの話』(2020)という単行本を書肆よろず屋さんから出させてもらっていましたから、やるとなったら話は早いのです。誌名も三人であれこれ議論したりはせず、メッセンジャーのやりとりだけで、善行堂の提案した「古本スタイル」に決まりました。 雑誌の内容は、二人が古本ネタを書くのは当然として、ゲスト毎号一人を原則としました。創刊号では善行堂へ高校生のときから通っており、現在は立派な古本真人間となった鈴木裕人さんにお願いしました(南陀楼綾繁『古本マニア採集帖』にも登場)。『龍膽寺雄の本』(2020)で読書人をギョッとさせた鈴木さんは「龍膽寺雄と歩く街」と題した詳細な龍膽寺雄読み解き術を執筆してくださいました。古本魂をいたく刺戟する内容です。 善行堂は久々に復活した「善行堂日記」を掲載しました。相変わらず笑わしてくれる。 《画家のAさん、日が暮れてからご来店。善行堂の灯りに誘われて、と言ってくださる。昔は遅くまで開いている店も多かったが、近頃少なくなって寂しいという話から、コロナの話へ。そういえば丸山書店は遅くまでやっていたな。深夜に入れる書店っていいな。 小生は古本道に迷い込んだ初期の思い出を京都の山崎書店さんとの交遊を中心に書いてみました。コロナ禍の谷間を見計らって、松山〜大分〜鹿児島〜倉敷と古本屋巡りをしましたので、そのレポートも載せました。「本の本」として『オン・ザ・ロード』(トゥーヴァージンズ、2021)を紹介。余ったスペースには「古本クロスワードパズル上級編」(これはちょっと難しいですぞ)、オーウェルの「古書店の思い出(抄訳)」などを埋め込み、これにて一丁上がり。 体裁はA5判32頁および片袖折返し表紙、ともにファンシーペーパー使用でやや高級感を出しました。表紙デザインはあえて古本を避けて、ブリキのヒコーキを配置しました(これも古本市で買ったものですが)。 昨夏、東京オリンピック効果によって、ふたたび患者数が急増し始めたころに着手して、少し収まってきた11月には完成しました。ところがどうでしょう、ご存知の通り、そこからまたもやオミクロン株が猛威を振い始めたのです(さらには変異株も次々と)。しきりに「ウィズ・コロナ」というような掛け声が聞こえます。『古本スタイル』も、無理せずに古本病と共生する、そんな気持で続けて行けたら良いなと思っています。ご希望の方は古書善行堂(http://zenkohdo.shop-pro.jp)まで、よろしくお願いいたします。そろそろ2号の締切も近いのです。 林 哲夫(はやし・てつお) |
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