第21回 三原宏元さん 「昭和40年代」を追い求めるひと

第21回 三原宏元さん 「昭和40年代」を追い求めるひと

南陀楼綾繁

 新型コロナウイルスが拡大し、自宅で過ごさざるを得ない日々が続いた時期、フェイスブックに「7日間ブックカバーチャレンジ」というものが現れた。好きな本の表紙画像を1日1冊、7日間投稿するというもので、私自身は誘われることも自分から参加することもなかったが、流れていく表紙を眺めていた。その中で、一番面白かったのが、三原宏元さんの投稿だった。
三原さんは7日間という期間を無視して、ご自身が集めてきた片山健やロバート・クラムに関する本や雑誌、レコードの画像を延々とアップしていた。次々に出てくる画像に圧倒された。どうやってこれだけのコレクションになったのか、話を聞きたいと思った。

 三原さんは港区南青山で〈ビリケン商会〉という、古いおもちゃを扱う店を営んでいる。その奥には〈ビリケンギャラリー〉があり、画家や漫画家の展示を行う。また、ビリケン出版として絵本などを刊行している。この小さな場所は、いくつもの顔を持っているのだ。
 そのギャラリーを訪れると、「いらっしゃい。ここは落ち着かないから、上で話しましょう」と三原さんは誘ってくれた。スラリとした長身にヒゲがトレードマークだ。同じマンションの上の階に行くと、「ちょっと待ってね」と云って、入り口にあるものを外に出しはじめた。それらをどかさないと中に入れないのだ。
 やっとわずかに生まれた空間は、太っている私には絶望的に狭い。壁の本棚に顔を擦り付けるようにして奥に進む。そこにも座る場所はなく、結局、ベランダに椅子を置いて、中にいる三原さんに話を聞くことに。背中に雨の音を聴きながらのインタビューとなった。

 1952年、福岡県八幡市(現・北九州市)に生まれる。父は地元企業である安川電機に勤めていた。「父は絵が上手かったです。会社の作業場でこっそり軍艦をつくってくれたこともあります」。両親と祖父、叔父、5歳下の弟と小さな家で暮らしていた。大家族であり、母は洋裁の内職をしていたため、絵本を読んでもらった記憶はないという。
「近所に貸本屋があって、よく行っていました。水木しげるの戦争ものや貸本雑誌の『影』があったけど、あまり好きじゃなかったな。休みのたび、父の実家(島根県)に帰省する時に『少年』(光文社)などの漫画雑誌を買ってもらいました。汽車の中でそれを読むのが楽しかった。いまとなっては、付録のおもちゃのほうが印象に残ってますね」
小学校に行く途中に、木で飛行機をつくるのが上手いお兄さんが住んでいて、しょっちゅう遊びに行った。「その人に木でつくった実物大ウィンチェスター銃をもらったんだよ。嬉しかったなあ」。まだプラモデルが普及する前の話である。高学年になると、『模型とラジオ』(科学教材社)を毎月買ってもらっていた。

小学6年生のとき、埼玉県の入間市に引っ越す。「北九州は都会だったから、いきなり何もない茶畑のなかに来た感じだったね」と三原さんは笑う。中学校に入ると、サッカー部、テニス部、美術部などに属する。レーシングカーや鉄道模型が好きで、自分で改造したりした。
「この頃だったか、父の本棚で見つけた『新潮』で、大江健三郎の『性的人間』を隠れて読みました。あれは人生で初めての衝撃だったね。自分で買っていたのは、『平凡パンチ』と『ボーイズライフ』。親に見られると恥ずかしいから、カラーグラビアを外して家に持って帰った(笑)。ずっと後になって、埼玉の家を改築するときに、病気の父がそれらの雑誌を捨てないで倉庫に移してくれていた。僕がこういう古いものを扱う商売だと理解してくれてたんだなと思いました」

 それからの三原さんは、サブカルチャーまっしぐら。池袋や新宿で映画を観て、ビートルズのレコードを聴く。『平凡パンチ』『メンズクラブ』などの雑誌を読み、横尾忠則、伊坂芳太郎、柳生弦一郎らのイラストレーションに魅かれる。
 高校に入ると、古い時計を集めはじめる。古道具屋に通ううちに「時計のあんちゃん」と呼ばれるようになった。高校卒業後、大学を受けるが失敗。その後、桑沢デザイン研究所に入ろうとするが、周りの受験生が予備校の友人同士でつるんでいるのを見ているうちにイヤになり、合格発表を見に行かなかった。
 その頃、古いブリキのおもちゃがアンティークとして扱われていることを雑誌で知り集めはじめた。1976年、知人と共同で日本で最初の古い玩具専門店〈ビリケン商会〉を設立。数年後に自分の店になった。
「オープン当初はまったく売れませんでしたが、お客様たちが私よりちょっと年上のデザイナーやカメラマンのような職業の方が多くその方々の話を聞くだけでも面白かったのです。その後、古い玩具だけでなくソフビ製フィギュアやブリキの玩具などの製造販売もしました。」

 そんな三原さんが古本を集めるようになったのは、片山健がきっかけだった。
「1970年代に『こどものとも』などで片山さんの作品を読んでいましたが、1985年に結婚して子どもが生まれてから、もういちどハマりました。1989年渋谷の〈パルコ〉で片山さんの個展があり、そこで原画を見たのも大きかったですね」
 三軒茶屋にあった古本屋〈喇嘛舎(らましゃ)〉(のち神保町に移転)で、片山健の画集や絵本、雑誌を買いまくった。
「喇嘛舎は1982年に片山さんの『マッチのとり』という画集を復刻していますが、その元となった自費出版の画集を入手したときは嬉しかったですね。それに、片山さんはいろんな著者の本や、『映画評論』『グラフィケーション』などの雑誌の表紙に絵を描いています」
 三原さんは、片山健作品の収集ノートをつくり、そこに情報を書き込んでいる。すごい情熱だ。1998年にビリケン出版をはじめたのも、片山健の『きつねのテスト』という絵本を出したかったからだという。
 片山健から土方巽、赤瀬川原平、四谷シモン、つげ義春ら、昭和40年代のサブカルチャーをリードした人たちの本を集めるようになった。

 一方、ロバート・クラムを知ったのは、雑誌『宝島』の記事だった。
「クラムは、ジャニス・ジョプリンの『Cheap Thrills』というアルバムのジャケットを描いています。それでクラムの作品を集めるようになりました。渋谷の恋文横丁に植草甚一も通った〈石井書店〉がありましたが、この店が引っ越しするときにデッドストックの洋雑誌を大量に放出したのをかなり買いました」
 レコード集めにも年季が入っており、一時は経堂で〈ホームラン〉という中古レコード店を経営していたほどだ。
 先に挙げた喇嘛舎のほか、神保町の神田古書センターにあった〈アベノスタンプ〉。絵葉書やポスターを買った。また、小田急沿線沿いに数店あった〈ツヅキ堂書店〉にもよく通ったという。
「ツヅキ堂は祖師ヶ谷大蔵、梅ヶ丘、鶴川、仙川などに支店がありました。祖師ヶ谷の若い店長がサブカルのセンスを持っていて面白かった。そういう店の棚の背表紙を眺めているだけで幸せになって、何か買って帰りたくなります」と三原さん。

 そうやって集めた本は、この部屋だけでおさまらず、自宅と倉庫にあふれている。「下手に整理すると見つからない。積み重なった山のままにしておく方が見つかりやすいんです」と云うが、ホントだろうか? 
 コロナ禍での自粛期間に久しぶりに本の整理を始めたところ、急に火が点いて、誰からも頼まれていないのに、片山健とクラムの本をフェイスブックに延々とアップしている。
「これまで集めたものをいつかは本にまとめたいという気持ちは、やはりありますね。生きてきた印のようなものを、世の中に残したい」と三原さんは語る。

 最後に三原さんは、幸せだった日のことを話してくれた。
「1991年頃、つつじヶ丘の鉄道模型屋に行った帰りに、つげ義春さん一家が散歩されているのを見かけました。その日は銀座のギャラリーで片山健さんのサイン会があって、『大きい川 小さい川』(ほるぷ出版)にサインをしてもらいました。このときは、井上洋介さんもいらっしゃいました。ずっと好きで追いかけていた人に同じ日に会えたのは嬉しかった」
 おもちゃにしても本にしても、三原さんのルーツは、多感だった10代で出会った昭和40年代の表現なのだ。それを生み出した人たちの仕事を、今後も追い求めていくのだろう。

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)などがある。

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2020年9月25日号 第307号

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1.転ばぬ先の『中年の本棚』 荻原魚雷
2.『東京、コロナ禍。』について   初沢亜利

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━━━━━━━━━━━【自著を語る(247)】━━━━━━━━━

転ばぬ先の『中年の本棚』

                      荻原魚雷

 一九八九年、大学在学中の十九歳のときからフリーライターの仕
事をはじめ、三十余年になる。これまでは主に古本のエッセイを書
いてきたが、最近は街道や宿場町の本の蒐集に追われている。
「中年の本棚」は二〇一三年の春、四十三歳から『scripta』で連載
をはじめた。

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『中年の本棚』 荻原魚雷 著
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文壇高円寺
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━━━━━━━━━━━【自著を語る(248)】━━━━━━━━━

『東京、コロナ禍。』について

                        初沢亜利

2020年頭から街に出てスナップ写真を撮り始めた。オリンピック
イヤーの東京を撮ってみよう、という動機からのスタートだった。
様々な変化が予測できた。春くらいからはメディアの煽りを食っ
て、表向きオリンピックムード一色になっていただろう。その影
で白けている人々の日常もあったはずだ。
                   

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『東京、コロナ禍。』
柏書房 定価:1,800円+税 好評発売中!
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━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『浮世絵の解剖図鑑』 牧野 健太郎 著
エクスナレッジ刊 定価 1,600円+税 好評発売中!
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『活動写真弁史』 片岡一郎 著
共和国刊 予価:7500円+税 10月25日発売予定
https://www.ed-republica.com/

『谷崎潤一郎と書物』 山中剛史 著
秀明大学出版会刊 2800円+税 10月1日発売予定
http://shuppankai.s-h-i.jp/

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

9月~10月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
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日本の古本屋メールマガジンその307 2020.9.25

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
編集長:藤原栄志郎

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coronaka

『東京、コロナ禍。』について

『東京、コロナ禍。』について

初沢亜利

2020年頭から街に出てスナップ写真を撮り始めた。オリンピックイヤーの東京を撮ってみよう、という動機からのスタートだった。様々な変化が予測できた。春くらいからはメディアの煽りを食って、表向きオリンピックムード一色になっていただろう。その影で白けている人々の日常もあったはずだ。これまで以上に様々な国からの来訪者も景色に加わっただろう。1月は武漢のニュースに終始し、国内への感染流入を食い止めるべく政府の対応が求められた。すでに雲行きは怪しかった。
2月19日に横浜港に停泊していたダイヤモンド・プリンセス号から、陰性と認められた人々が下船を開始し、公共交通機関を使い全国に帰った乗客から、その後次々と陽性反応が出た。この辺りがコロナ禍のスタートであろうか?

学生時代から飲んでいた新宿ゴールデン街の変化は忘れがたい。威勢よく自由や個人主義、反権力を語っていた無頼派気取りの記者やジャーナリストが一瞬にして消え去り、多くは国による国民の行動規制を待望し、自由を呆気なく手放してしまった。緊急事態宣言下においても連日街へ出て写真を撮り続けたのは、そのような風潮への異議申し立てでもあった。

一方で、コロナ禍などと言う実体の摑みにくいテーマを掲げた写真家は少なかったようだ。不謹慎かつ無責任な写真家が少なかった、と言うことか。しかし、コロナ禍の風景、人間模様は、誰かが記録しておくべきではないか。不要不急とは言い切れない。報道的な視点だけではない、ささやかな日常を記録することは後世に意味をもつはずだ。都市の感情の記録、東京人の自画像として。

スナップ写真一枚一枚について撮影者自らが語ることは実に難しい。なぜなら、絵画や現代美術、小説などと違い、作品の隅々まで統制不可能であり、意図以外のものを多分に含むことが、表現の前提になっているからだ。その場で起きたことの真相が判らぬままシャッターを切り、立ち去ることも多い。写真を見た人に、状況について質問されても、答えようがない。そのような余白や余韻を見る側同様に撮影者自身も楽しんでいたりする。

自身が拠点する東京を写すことは楽ではなかった。ここ10年、被災地東北、北朝鮮、沖縄、香港と外部を写してきたが、幼少期から住み慣れており、いつでも目の前に「見えている」東京を改めて「見る」ことは、他の地域以上に想像力と集中力を必要とした。カメラ越しに見える東京景は漠然としていたが、2020年上半期、一層モヤモヤとした不安に覆われていた。ロックダウンすることもなく、「自粛」という名の国民の自由意思に任されたため、受け止め方や行動に誤差が生じた。写真集「東京、コロナ禍。」は誤差の幅を写した、曖昧さを多く含んだ日本の首都ならではの光景を写す一冊となった。他国のコロナ禍写真との比較において、その意味はいずれ顕著になるだろう。

写真を鏡として使うか、窓として使うか?という定番の議論がある。私の内面の投影としての写真か、人や社会を私とはなるべく切り離して掬い取り定着させる写真か。両者は明確に線引きできるものではないが、私はこれからも、社会を写す窓として写真表現を継続して行く。そして自らの意思の反映とは言い切れない、偶然写るスナップ写真を追求し精度を高めていきたい。
写真集出版後も、変わらず東京景を追い求めシャッターを切っている。9月後半になると、コロナ禍、を探すことは一層難しくなってきた。自粛でストレスが溜まった人々は、夏から一斉に街中に噴出し、一種の狂乱を思わせたが、秋口に入り、それすらも見慣れた光景となった。コロナウイルス自体は無色透明で写しようがないが、社会の移ろいは写る。

写真家自身が、半年間で何を見てもコロナに引き付けて事象を見てしまう癖がついてしまった。時間と共に、それも洗い流されていくだろう。焦らず淡々と歩き続ける日々はまだまだ続く。

▼3月29日 日曜日の上野恩賜公園 前々日より桜並木が閉鎖された。
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▼三軒茶屋の公園 また舞台で踊れる日まで、と黙々と練習に励んでいた。
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▼5月29日 医療従事者への敬意と感謝をしめすため、ブルーインパルスが東京上空を飛行した。
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『東京、コロナ禍。』
柏書房 定価:1,800円+税 好評発売中!
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転ばぬ先の『中年の本棚』

転ばぬ先の『中年の本棚』

荻原魚雷

 一九八九年、大学在学中の十九歳のときからフリーライターの仕事をはじめ、三十余年になる。これまでは主に古本のエッセイを書いてきたが、最近は街道や宿場町の本の蒐集に追われている。
「中年の本棚」は二〇一三年の春、四十三歳から『scripta』で連載をはじめた。

 今から八年前、東京・高円寺のコクテイル書房のトークショーに出席したとき、「三十代の半ばくらいから中年本を集めているんですよ」といったところ、この日、店に来ていた紀伊國屋書店のOさんに「中年本の連載をしませんか」と声をかけられた。
 中年本はミドルエイジクライシス――“中年の危機”について書かれた本だけではなく、主人公が中年の小説や漫画、中年の心境を綴ったエッセイや対談、中年フリーランス、中年シングル、中年の貧困、中年の転職など、様々なテーマを取り上げた。

 第一回目は野村克也と扇谷正造と吉川英治と源氏鶏太の本について書いた。題して「『四十初惑』考」。彼らの書物の中で「四十不惑」ではなく「四十初惑」という言葉をつかっている。中年になっても、迷い、戸惑うことがわかり、安心した。
 田辺聖子は「とりあえずお昼」「とりあえず寝る」と気を取り直す。水木しげるは「中年をすぎたら、愉快になまけるクセをつけるべきです」と忠告する。津野海太郎は「日常の習慣(家事をこなしたり、いくばくかのさびしさを我慢したりする技術)」の再編成が老いの備えになると考えた。

 目先の問題が片づけても片づけても次の問題が浮上する。連載中、郷里の三重にいる父の死や母の入院による遠距離介護を経験したり、腰痛になったり、五十肩になったりもした。
 一難去ってまた一難。中年になって以来、この言葉を何度噛みしめたか。
 これまで自分の周囲でもそうした話を見聞きしてきたが、心のどこかで他人事のようにおもっていた。書物で読んでいるだけではわからないことがたくさんある。老眼って、こんなに急に進むのか。
 何かしらの経験を積んだ後、昔読んだ本を読み返すと、初読のときにピンとこなかった大切に気づくこともある。中村光夫や尾崎一雄の再読はほんとうに得るものが多かった。

 そのあたりも中年期の読書の面白さだろう。
 中年になってからも、はじめて知ることもたくさんある。気力や体力の衰えもそうだ。徹夜がつらい。寝ても寝ても疲れがとれない。風邪やケガが治りにくい。中年初期にはそうした心身の変調が不安につながった。この先、ずっと下り坂が続くのではないかと……。
 若くもなく、ベテランと胸を張れるほどの実績もない。仕事をしていても、上司と部下の挟まれ、宙ぶらりんの立場で不安定な状態に陥りやすいのも中年のひとつの特徴である。こればっかりは誰もが通る道と開き直るしかない。
 もっとも加齢による変化はつらいことばかりではない。油っこいものを食べると胃がもたれるようになったかわりに、豆腐や酢のものがおいしく感じられるようになった。読む本や聴く音楽の傾向もすこしずつ変わってくる。体力が落ちた分、余計なエネルギーを注ぐ余裕がなくなり、この先、自分のやりたいことが明確になったような気もする。

 こうした自分の心身の小さな変化を愉しむくらいの気持でいたほうがいい。
 本書は中年期の転ばぬ先の杖たる指南書を目指した。
 疲れをためず、休み休み、五、六割の力で日々を乗りきる。これも中年の知恵だ。というか、無理したくても、無理ができなくなることが中年になるということかもしれませんが。

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『中年の本棚』 荻原魚雷 著
紀伊國屋書店出版部 定価 1,700円+税 好評発売中!
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2020年9月10日 第306号

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 古書市&古本まつり 第92号
      。.☆.:* 通巻306・9月10日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

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━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

古書店開業記3(コロナ禍の中で)

            古本&カフェ じゃらん亭 内山武明

 実家の19号台風の後片付けが済んでから、平常の営業に戻し、
年が明けて、2月頃からレコード寄席や浮世絵に関するイベントな
どを行いました。徐々にお客さんや買取りも増えてきました。季節
も暖かくなってきて、これからという時に、コロナの流行が始まり、
来客数の低下、古書組合の交換会(市場)の休止、催事などのイベ
ントの中止が相次ぎました。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6168

古本&カフェ じゃらん亭 ツイッター
https://twitter.com/igveuuxvqdwzjpt

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

第20回 伊藤嘉孝さん 古本から新刊を生み出すひと

                      南陀楼綾繁

 私自身もそうであるように、編集者には古本好きであることが結
果として仕事につながっている人がいる。なかでも、会社じたいが
古本マニアの巣窟ではないかと疑われるのが国書刊行会だ。絶版に
なった本や稀覯本を資料として、復刊、アンソロジー、全集などを
刊行している。
 今回はその国書刊行会の若手代表(?)として、伊藤嘉孝さんに
話を聞いた。同社で武術、民俗学、考古学などの本を企画し、新し
い路線をつくっている。
「これまでの古本との付き合いが、すべて仕事につながっている気
がします」と語る伊藤さんに古本遍歴を聞いた。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6141

南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一
文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、
図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年
から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」
の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ
・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人を
つなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市
の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、
『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』
(ちくま文庫)などがある。

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『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社刊 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/atsumeruhito/

━━━━━【9月10日~10月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

※現在、新型コロナウイルスの影響により、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

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書窓展(マド展)【会場販売あります】

期間:2020/09/11~2020/09/12
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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第40回古本浪漫洲 Part 4

期間:2020/09/11~2020/09/13
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2 TEL03-3354-6111

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柏モディ古本まつり(千葉県)

期間:2020/09/11~2020/09/26
場所:モディ柏店 3F 千葉県柏市柏1-2-26 

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好書会【会場販売あります】

期間:2020/09/12~2020/09/13
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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east TOKYO BOOK PARK

期間:2020/09/12~2020/11/08
場所:錦糸町パルコ3階特設会場
墨田区江東橋4丁目27番14号

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第22回 紙屋町シャレオ古本まつり(広島県)

期間:2020/09/14~2020/09/20
場所:紙屋町シャレオ中央広場
広島県広島市中区基町地下街100号

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第40回古本浪漫洲 Part 5 全品300円均一

期間:2020/09/14~2020/09/16
場所:新宿サブナード2丁目広場(催事場)
新宿区歌舞伎町1-2-2 TEL03-3354-6111

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趣味の古書展【会場販売あります】

期間:2020/09/18~2020/09/19
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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第53回 鬼子母神通りみちくさ市 ※中止となりました

期間:2020/09/20~2020/09/20
場所:雑司が谷 鬼子母神通り

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93回シンフォニー古本まつり(岡山県)

期間:2020/09/23~2020/09/28
場所:岡山シンフォニービル1F  自由空間ガレリア

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2020/09/24~2020/09/27
場所:さくら草通り
JR浦和駅西口下車 徒歩5分 マツモトキヨシ前

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和洋会古書展

期間:2020/09/25~2020/09/26
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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五反田遊古会※中止となりました

期間:2020/09/25~2020/09/26
場所:南部古書会館  品川区東五反田1-4-4

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中央線古書展【会場販売あります】

期間:2020/09/26~2020/09/27
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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新橋古本市※中止となりました

期間:2020/09/28~2020/10/03
場所:新橋駅前 SL広場

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西部展【会場販売あります】

期間:2020/10/02~2020/10/04
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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第20回 四天王寺 秋の大古本祭り(大阪府)

期間:2020/10/02~2020/10/07
場所:大阪 四天王寺
大阪府大阪市天王寺区四天王寺1-11-18

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第17回 上野広小路古本まつり

期間:2020/10/05~2020/10/11
場所:永谷お江戸上野広小路 ギャラリー+スペース36
台東区上野1-20-10 お江戸上野広小路亭1階

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2020/10/08~2020/10/11
場所:西部古書会館  杉並区高円寺北2-19-9

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新さっぽろ「アツベツ古書の街」(北海道)

期間:2020/10/08~2020/10/10
場所:新さっぽろサンピアザ光の広場

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城南古書展

期間:2020/10/09~2020/10/10
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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京都まちなか古本市(京都府)

期間:2020/10/09~2020/10/11
場所:京都古書会館1階
京都市中京区高倉通夷川上る福屋町723

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日本の古本屋メールマガジンその306 2020.9.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:志賀浩二
 編集長:藤原栄志郎

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第20回 伊藤嘉孝さん 古本から新刊を生み出すひと

第20回 伊藤嘉孝さん 古本から新刊を生み出すひと

南陀楼綾繁

 私自身もそうであるように、編集者には古本好きであることが結果として仕事につながっている人がいる。なかでも、会社じたいが古本マニアの巣窟ではないかと疑われるのが国書刊行会だ。絶版になった本や稀覯本を資料として、復刊、アンソロジー、全集などを刊行している。
 今回はその国書刊行会の若手代表(?)として、伊藤嘉孝さんに話を聞いた。同社で武術、民俗学、考古学などの本を企画し、新しい路線をつくっている。
「これまでの古本との付き合いが、すべて仕事につながっている気がします」と語る伊藤さんに古本遍歴を聞いた。

 伊藤さんは1978年、岩手県盛岡市生まれ。父は銀行員。両親との3人家族。
「父が40歳を過ぎて生まれた一人っ子だったので、甘やかされました。両親は本はあまり読みませんが、本はいいものだという思いがあって、私には自由に本を読ませてくれました」
 小学校に入ると、近所にあった〈高松堂書店〉に通う。店の床に座ってマンガ雑誌をずっと読んでいたが、店のおばさんは黙認してくれた。
「マンガの単行本では、藤子不二雄の異色短編集や手塚治虫の『三つ目がとおる』を買いました。10歳になると、栗本薫の『ぼくらの時代』(講談社文庫)を買って、初めて大人向けのミステリを読みました」
 このころ読んだのが、『魔の星をつかむ少年』(鈴木悦夫、学研)。平井和正の『幻魔大戦』を思わせる超能力もので、当時ハレー彗星が地球に接近したことも重ねて読んだ。また、『蘇乱鬼と12の戦士』(本木洋子、童心社)は出羽三山を舞台にした物語で好きだった。
 伝奇SFにハマって、中学では半村良『産霊山秘録』をはじめ、高橋克彦、夢枕獏、菊地秀行などを読んだ。
 
 中学に入る直前に引っ越したが、入学した学校になじめず、2年生になると不登校になった。
「集団行動ができなくて、教室にいるのが嫌だったんです。補導されないように私服で町に出て、自転車でぐるぐる回っていました。息をひそめるように図書館で本を読んでいました」
 伝奇SFのほか、勃興期だったライトノベルも好きで、スニーカー文庫、ソノラマ文庫、富士見ファンタジア文庫などの新刊はほとんど買っていたという。
 また、家にあったパソコンでロールプレイングゲームをやっていたので、『コンプティーク』『ログイン』などのゲーム雑誌も買った。
 不登校のまま高校を受験するが、志望校に落ちて浪人。中学浪人を対象とした予備校に通う。ここで後につながる大きな出会いがあった。地元にあった諸賞流という古武道の道場に通うようになったのだ。
「『少年サンデー』に連載されていた『拳児』を読んで、武術に興味を持ちました。原作者の松田隆智さんは中国武術の専門家ですが日本の古流にも造詣が深く、この人が書いた本も読みました」
 高校には翌年には合格するが、1年で行かなくなる。
「周りに本好きがいなくて話ができなかったんですよね。でも2年生の12月にある修学旅行にだけは参加したくて、それだけ行って中退しました」
 うーん、なかなか曲折の多い青春時代である。

 伊藤さんは1999年、20歳で大検により早稲田大学人間科学部に入学。
「16歳で京極夏彦を読んで以来、新本格ミステリに耽溺していたので、とにかくワセダミステリクラブに入れれば、どの学部でもよかったんです(笑)。ワセミスではラウンジに集まってダベるのが楽しかった。2学年上に作家になる宮内悠介さんがいました」
 早稲田の古本屋街や下宿の近所のブックオフに通い、部屋のなかには本がどんどん増えていった。先輩や友人もみんな似た状況だったので、「そういうものだと思っていました」と笑う。
 2年留年して卒業。古武道の流派に関心を持ち、卒論では「陰流」の伝承について書いた。
 就職活動もせずに無職だった伊藤さんを心配したサークルの後輩が、編集プロダクションのアルバイトを紹介してくれた。その後、〈ブックファースト〉渋谷店で働く。
「接客業ははじめてでしたが、棚をつくるのは愉しかったです。その後、大井町店にいた頃に国書刊行会の社員募集を見て応募したんです」
 
 最初に担当したのは、シャーロック・ホームズのパスティーシュの翻訳だった。訳者は他社のベテランの編集者でもあり、本のつくり方を教えてもらった。
 1年後には自分の企画を出すようになった。最初の頃に手がけたのは、綿谷雪(わたたにきよし)の『完本 日本武芸小伝』。1961年に出た本の復刻だ。
「15歳で東京にはじめて来たとき、神保町の〈小宮山書店〉でこの著者の『増補大改訂 武芸流派大事典』(共編、東京コピイ出版部)を買いました。1万円でした。綿谷さんはこのとき75歳で、その後も補遺としてガリ版刷りで『武芸帖通信』を発行しています」
 編集者になって、より資料性の高い古本を買うようになったと伊藤さんは云う。古流マニアの友人から武術の型が解説されている巻物も譲られたそうだ。
「最近はあまり小説を読まなくなって、古い随筆を読むようになりました。柳田國男の『故郷七十年』に柳田が婿入りした飯田の柳田家が武術に関係していたことが判ったり、埴谷雄高の随筆で福島の実家が剣術を教えていたとあったりと発見が楽しいです」

 伊藤さんは考古学関係の本も編集している。
「子どもの頃、親戚に連れられて遺跡に行って土器を見つけたんです。考古学者になりたいと思ったのですが、本にのめり込んでしまった。あとになって縄文関係の本を集めました。縄文土偶が表紙になっている宗左近の詩集も持っています」
 これまで50~60冊を手がけているが、原本のある企画が多い。手に入りにくい本を新しい装丁と編集で提供することに意義があると、伊藤さんは考えている。
「それと私は索引づくりのような細かい作業が好きなんです。どんな固有名詞を採るかを考えるのが面白いです」

 古本を探すのにはネットや古書目録は使わず、即売会にもあまり足を運ばない。それよりは、店舗を訪れたときに本と出会うのがいいと云う。
「店ごとに本の並べ方などが違っていて、個性が感じられます。100円均一の棚には宝探しのような感覚があります」
 現在は中央線沿線に住み、近所の古本屋を毎日のように覗く。今年4月に荻窪の〈ささま書店〉が閉店すると聞いたときには、1週間で3回行った。
「新型コロナウイルスの感染拡大で外出が自粛されていた時期でしたが、ものすごい人で密密状態でした。飛ぶように本が売れていましたね」
 古いアパートの2階で暮らしているが、あるとき大家さんに部屋のなかを見られた。
「すごい量の本を見て、『常軌を逸している。処分しろ』と云われましたが、話し合った結果、1階の空き部屋を使わせてくれることになりました。更新の際、契約書に『これ以上本を増やさない』と入れられましたが、『努力する』に変えてもらいました」
 本人は飄々としておっしゃるが、凄まじい話だ。肝が据わっていて、私にはとても真似できない。真似したくもないけど……。

「出したい本はまだたくさんあります」と伊藤さんは云う。時を経て一度忘れ去られた本を古本屋で見つけ、新しい本として世に送り出す。さまざまな曲折を経て、伊藤さんは天職にたどり着いたのだ。

南陀楼綾繁
1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。早稲田大学第一文学部卒業。明治大学大学院修士課程修了。出版、古本、ミニコミ、図書館など、本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表。各地で開催される多くのブックイベントにも関わる。
「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。本と町と人をつなぐ雑誌『ヒトハコ』(書肆ヒトハコ)編集発行人。著書に
『ナンダロウアヤシゲな日々』(無明舎出版)、『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『町を歩いて本のなかへ』(原書房)、『編む人』(ビレッジプレス)、『本好き女子のお悩み相談室』(ちくま文庫)などがある。

ツイッター
https://twitter.com/kawasusu

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『蒐める人 情熱と執着のゆくえ』 南陀楼綾繁 著
皓星社 価格:1,600円(+税) 好評発売中!
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古書店開業記3(コロナ禍の中で)

古書店開業記3(コロナ禍の中で)

古本&カフェ じゃらん亭 内山武明

実家の19号台風の後片付けが済んでから、平常の営業に戻し、年が明けて、2月頃からレコード寄席や浮世絵に関するイベントなどを行いました。徐々にお客さんや買取りも増えてきました。季節も暖かくなってきて、これからという時に、コロナの流行が始まり、来客数の低下、古書組合の交換会(市場)の休止、催事などのイベントの中止が相次ぎました。家にいる期間が長くなったので、片づけを行う人が増え、買取りが増えているという話もありましたが、当店の場合、買取も減りました。

第1波が収まった6月頃には、お客さんが戻ってきましたが、その後は、また低下し、いつの間にか開店1周年を迎えて、今に至っています。
幸い、コロナ流行前に買取りした在庫などがあったため、ネット販売することで、なんとかやっています。
コロナの影響はしばらく続くと思いますが、古本業界にも大きな影響があり、変わっていくことも多いだろうと思います。コロナ前から、無店舗インターネット専業の古本屋は増える傾向がありましたが、その傾向にますます拍車がかかって増えていくだろうと思います。

ネット販売の古本屋と店舗での販売をする古本屋の大きな違いは、目に見えるお客さんがいるかどうかというところもありますが、在庫のとらえ方の違いも大きいと思います。極端なことを言うと、インターネットの販売は、在庫は全て販売してしまって無くなっても構わない(また仕入れれば良い)ということにもなります。これに対して店舗では、そういうわけにはいきません。いかに魅力的な在庫を保持していくかということになります。
市場の休止も2ヶ月ほど続き、古本の流通には大きな影響がありました。当店では、今、災害関連の書籍を集めていますが、特定の分野のものを揃えようとすると、古書組合の市場は欠かせません。6月には長野県の古書組合の市場は再開しました。長野県の災害に関する書籍(善光寺地震、伊那の三六水害、浅間山、御嶽山など)については、長野県の市場である程度揃えることができましたが、長野県に関係するもの以外は入手も難しく、東京の市場などに行きたいのですが、コロナのため遠方に出かけることは控えています。

市場でも、目的のものが必ずしも手に入るわけではありません。たいていは何十冊もの束になっており、欲しいものばかりではありません。特殊なものを集めようと思えば、目当てのものが少しでも入っている束に入札し、必要なものを残し、残りは、また市場に出すということを繰り返し、気長に集めていくしかありません。
コロナの影響で、新刊本も含め、本の流通や情報のやり取りは、ますますネットへの依存が進んでいくことになると思いますが、こうした中で古本屋として生き残っていくためには何が必要なのか考えてみました。

 一つは前回書いたことですが、得意分野を持ち、個性的な品ぞろえを目指すこと、2つめは、古いものの面白さ、良さを積極的に発掘、発信して、アピールするということが必要ではないかと思います。ネットの情報は、最近の事は非常に詳しい反面、少し昔のことになると極端に情報が少ないということがあります。懐かしいと思う層だけではなく、若い層にも古いものの面白さを積極的に発信していく必要があると思います。
変化が激しく厳しい時代ですが、古本という魅力のある商品を扱っていることに自信をもって、乗り切っていこうと思います。

jyaran

古本&カフェ じゃらん亭 ツイッター
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2020年8月25日 第305号

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━━━━━━━━━━━━【お知らせ】━━━━━━━━━━━━

刻々と変わる古書店の新入荷情報は、日本の古本屋トップページに
ある「新着書籍」にて常に更新! ぜひご覧ください。

☆INDEX☆
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1.本の本『本のリストの本』に参加して――
          アイデアが広がる書誌エッセー 書物蔵
2.『近代出版史探索3』         小田光雄

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━━━━━━━━━━━【自著を語る番外編】━━━━━━━━━

本の本『本のリストの本』に参加して――
               アイデアが広がる書誌エッセー

                      書物蔵

 めずらしく市販のエッセー集に参加しました。8月27日に発売と
なるので告知を兼ねてここに経緯を書いておきます。

■本の全体
 去年、ライターの南陀楼綾繁さんに会った時に、〈本の本〉に参
加してよ、と言われて、いいですよと言ったら『本のリストの本』
とのこと。
 「本の本でもややこしいのに、本のリストの本とは?」
 当初、「要するに、書誌についいての解題書誌なのね」と単純に
考えていたんですが――というのも〈書誌の書誌〉というジャンル
が図書館学にあるので――出版企画書には「アカデミックな内容で
はなく、普通の本好きが読んで面白いこと」とありました。一緒に
送られてきた画家の林哲夫さんが書いた原稿を読んだら「あゝ、な
るほどぉ……」。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6000

『本のリストの本』
南陀楼 綾繁 著 / 書物蔵 著 / 鈴木 潤 著 / 林 哲夫 著 / 正木 香子 著
創元社 定価:2,300円+税  8月27日発売予定
https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4128

━━━━━━━━━━━【自著を語る(246)】━━━━━━━━━

『近代出版史探索3』

                       小田光雄

 『近代出版史探索』連作は5月の第二巻に続いて、7月に第三巻
を刊行することができた。いずれも昨年の第一巻と同様に、200編
を収録した700ページ前後の大部で、しかも第四、五巻も9月、11月
に続刊となる。
 著者として、少部数高定価であることは読者に申し訳ない思いが
つきまとうけれど、出版業界の危機的状況下とコロナ禍の中での上
梓であるだけに、感慨無量といった心境に至っている。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=6103

『近代出版史探索3』 小田光雄 著
論創社 定価:6,000円+税 好評発売中!
http://ronso.co.jp/

━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『中年の本棚』 荻原魚雷 著
紀伊國屋書店出版部 定価 1,700円+税 好評発売中!
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784314011754

『東京、コロナ禍。』
柏書房 定価:1,800円+税 好評発売中!
http://www.kashiwashobo.co.jp/book/b517597.html

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

8月~9月の即売展情報

※新型コロナウイルスの影響により、今後、各地で予定されている
即売展も、中止になる可能性がございます。ご確認ください。
お客様のご理解、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます。

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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 次回は2020年9月中旬頃発行です。お楽しみに!
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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその305 2020.8.25

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
編集長:藤原栄志郎

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kindai3

『近代出版史探索Ⅲ』

『近代出版史探索Ⅲ』

小田光雄

 『近代出版史探索』連作は5月の第二巻に続いて、7月に第三巻を刊行することができた。いずれも昨年の第一巻と同様に、200編を収録した700ページ前後の大部で、しかも第四、五巻も9月、11月に続刊となる。
 著者として、少部数高定価であることは読者に申し訳ない思いがつきまとうけれど、出版業界の危機的状況下とコロナ禍の中での上梓であるだけに、感慨無量といった心境に至っている。
 そのような次第なので、今回は『近代出版史探索』の執筆動機、拙ブログ連載事情、出版に至る経緯といったことなどに、具体的にふれてみたい。

 私は2008年から出版業界の現在を定点観測、分析する『出版状況クロニクル』のブログ連載を始めている。それに関連して、出版業界の現在もさることながら、そこに至った出版業界の歴史を遡行し、明治から昭和戦前の出版史をあらためて検証すべきだというオブセッションに駆られていたのである。それは現在分析にしても、何よりも歴史と過去を対照化させることによって、より明らかにされるのではないかと思われたからだ。

 しかしどのようにして書き、それを伝えるべきなのか。それはこれまで『古本屋散策』や『古本探究』三部作を書いてきたように、一冊、もしくは数冊の古本を対象とした短編の連作形式を採用し、自らのブログに連載していくべきだと思われた。だが長期に及ぶことは必至だし、これもまた必然的に実務を担う編集者の存在が不可欠だった。

 そこでそれを妻の啓子に依頼するしかなかった。彼女は『出版状況クロニクル』の編集者であり、さらなる負担をかけるのは心苦しかったが、息子たちの助力を含めて、一家総出の仕事として、2009年に始められたのである。
 ところが当初は300編ほど書けば、それなりにこれまでと異なる出版史や文学史が提出できると考えていた。しかしそれはまったくの錯誤で、近代出版史の森は広大で深く、しかも暗く、手探りで進んでいくしかなかった。
 それでも併走してくれる妻が、編集者として各編で言及される古本の書影を挙げることによって、拙稿に華を添えてくれた。これは連載をピクチャレスクなものとし、ある古本屋の言によれば、古書業界も含めた古本ブログなどに刺激を与え、ひとつの範になったという。

 そのようにして連載は進められ、10年がたち、1000回に近づき、7000枚に近くに及んだ。当り前のことではあるけれど、もちろん単行本化は思いもよらず、とりあえずは千一夜を目安としようと考えていたのである。
 そこに思いがけなく、『古本屋散策』がドゥマゴ文学賞を受賞することになった。これは『日本古書通信』に17年間にわたって連載したもので、私としては最後の自著のつもりで論創社の森下紀夫さんにお願いし、上梓したものである。彼はこの受賞を知らされ、ただちに記念出版として、19年10月の受賞日に合わせ、『近代出版史探索』の第一巻の刊行を提起してくれた。

 森下さんとは、今はなき人文図書取次の鈴木書店で知り合い、様々に助けられてきた。それに加えて、いずれ論創社から全集を出してあげようといってくれたのである。図らずも、『近代出版史探索』の刊行で、それが実現してしまったことになる。それに同伴してくれたのは、若い編集者の小田嶋源さんで、このような大部の5冊をほぼ1年で刊行できたのは、彼の体力と編集者としての才によっている。膨大な索引にしても、すべては彼の作成である。
 このように記してみると、『近代出版史探索』も家族、友人、編集者などに恵まれ、刊行されたことを実感する。さらに欲をいうならば、読者、書店、図書館にも恵まれますように。

kindai3

『近代出版史探索3』 小田光雄 著
論創社 定価:6,000円+税 好評発売中!
http://ronso.co.jp/

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risut

本の本『本のリストの本』に参加して――アイデアが広がる書誌エッセー

本の本『本のリストの本』に参加して――アイデアが広がる書誌エッセー

書物蔵

 めずらしく市販のエッセー集に参加しました。8月27日に発売となるので告知を兼ねてここに経緯を書いておきます。

■本の全体
 去年、ライターの南陀楼綾繁さんに会った時に、〈本の本〉に参加してよ、と言われて、いいですよと言ったら『本のリストの本』とのこと。
 「本の本でもややこしいのに、本のリストの本とは?」
 当初、「要するに、書誌についいての解題書誌なのね」と単純に考えていたんですが――というのも〈書誌の書誌〉というジャンルが図書館学にあるので――出版企画書には「アカデミックな内容ではなく、普通の本好きが読んで面白いこと」とありました。一緒に送られてきた画家の林哲夫さんが書いた原稿を読んだら「あゝ、なるほどぉ……」。
 今回の本は、世にも珍しい文献リストについての/にちなんだエッセーなのでした。それは既存の文献リストについての考えや経験談、文献への言及が散りばめられた文学作品の感想だったり、自分で作った文献リストの紹介でもよいのです。
 担当編集者さんに聞いてみると、英国で次の先例があるとのこと。
 A Book of Book Lists: A Bibliophile’s Compendium / Alex Johnson. LONDON : British Library, 2017。これは『本のリストの本:愛書家提要』といったところでしょうか。紹介文には文献リストの「物語」とあったりもします。
 昨年、友人と『昭和前期蒐書家リスト』なる古本マニア人名鑑を同人誌で作った際、ただのリストをどのように面白く読んでもらうか悩みましたが、この時にはリスト自体がオモシロかったのでその筋では大ウケで、ただのリストでも楽しく読めるものもあるのでした。

■他の著者さんたち
 私は古本市以外には出不精なので、南陀楼さん以外の方は初めてお会いした方々ばかりですが、林さんは愛書趣味界隈では定評のある方、正木さんはご著書を読んで感心したことがありますし、鈴木さんは京都で有名な児童書店の方です。関西の書物文化圏の人たちがメインといっていいでしょう。こういった皆さんが参加しているので、私が「濃ゆい」ことを書いても安心です。

■載せられなかったアイテム
 当初、1人宛て小ネタを30個くらい、ということでしたが、結局、10個程度のトピックが載りました。せっかくなのでここでは〈載らなかったもの〉をいくつか紹介しておきましょう。
・『日本古書通信』の探求書欄を楽しむ――あの図書館学者はトンデモ研究家?!
・ある作家の青春日記にみる読書の実態――明治時代の車中読書や造化機本の購買
・総会屋の戦前史――総会屋の先祖は「壮士」だった。総会屋雑誌史を知るために集めている本
・書いた人の職業から本を探す本――『「古本屋の書いた本」展目録』の読み方
・大学講義の「プリント」出版は明治末から――昭和前期の販売リスト。これであなたも優良可!
・戦前の所蔵リストから絵葉書世界の全体を覗く――図書館絵葉書を例にして
・見たことも聞いたこともない本を見つける方法――未知文献の検索は主題標目で
・古本あつめは「全く平民的」な趣味なのです――戦前古書コレクターの全体像
 ほかにも書いている途中でいろいろ思いつきましたが、つい長くなってしまうのを短く納めるのに意外と苦労しました。

■アイデア1――本文の逆接
 書いている途中で担当編集者さんがデザイナーさんと一緒に本書にちょっとした仕掛けを思いついてくれました。普通〈書誌の書誌〉というと、国会図書館や図書館協会が作っている味も素っ気もないもので、ある文献リストの書誌が先に提示され、これにはこれこれの機能があります、という書き方が普通です。当初は同様な順序で書いていたのですが、途中で逆順はどうでしょうかと提示されました。つまり、先にリスト自体が提示され、これは何だろう、と読者が思ってから、謎解きがされるという形式です。情報量は同じなのに〈判じ物〉形式にすると読み手の印象が全然違ってくるのでした。こういった逆順のオモシロさは、むかしブログを毎日書いていた際にも意識していたことですが、改めて編集作業の重要性に気付いたことでした。
 いままで自費出版(同人誌)や専門書などに何度かかかわってきたのですが、編集者さんごとに固有のノウハウがあるものだなぁと感心です。

■アイデア2――付き物の逆接
 昭和17年から日本出版配給が要請して始まった〈著者略歴〉欄は、もちろん本書にも付いていますが、これがまた。
文献リストとコメントで構成された「書物蔵を作った十冊」といった形式になっていて面白いです。ふつう著者略歴はその人が書いた本のリストだったりするのですが、この本ではその人が読んだ本のリストになっているのです。
児童書では佐々木マキ『やっぱりおおかみ』だけを挙げておきましたが、他にも渡辺茂男『しょうぼうていしゅつどうせよ』、加古里子『海』などもよく読みました。学研の『科学』『学習』と、その附録なんかを読んだことが思い出され、短くまとめるのに苦労しました。著者略歴欄もまた、『本のリストの本』として楽しく読めるようにしてあります。

 ざっと全体を見てみると自分の担当箇所が一番、黒っぽく(漢字が多い)、やっぱり濃くなってしまったと反省しきりですが、全体として、みなさんのご協力もあって、文献リストや、書物満載の文学にまつわるいろんな話という、日本では珍しい本がおもしろく読める形になったように思います。

 本好きには格好の読み物ではないかとお勧めする次第(´・ω・)ノ

risut
『本のリストの本』
南陀楼 綾繁 著 / 書物蔵 著 / 鈴木 潤 著 / 林 哲夫 著 / 正木 香子 著
創元社  8月27日発売予定
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