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本の本『本のリストの本』に参加して――アイデアが広がる書誌エッセー

本の本『本のリストの本』に参加して――アイデアが広がる書誌エッセー

書物蔵

 めずらしく市販のエッセー集に参加しました。8月27日に発売となるので告知を兼ねてここに経緯を書いておきます。

■本の全体
 去年、ライターの南陀楼綾繁さんに会った時に、〈本の本〉に参加してよ、と言われて、いいですよと言ったら『本のリストの本』とのこと。
 「本の本でもややこしいのに、本のリストの本とは?」
 当初、「要するに、書誌についいての解題書誌なのね」と単純に考えていたんですが――というのも〈書誌の書誌〉というジャンルが図書館学にあるので――出版企画書には「アカデミックな内容ではなく、普通の本好きが読んで面白いこと」とありました。一緒に送られてきた画家の林哲夫さんが書いた原稿を読んだら「あゝ、なるほどぉ……」。
 今回の本は、世にも珍しい文献リストについての/にちなんだエッセーなのでした。それは既存の文献リストについての考えや経験談、文献への言及が散りばめられた文学作品の感想だったり、自分で作った文献リストの紹介でもよいのです。
 担当編集者さんに聞いてみると、英国で次の先例があるとのこと。
 A Book of Book Lists: A Bibliophile’s Compendium / Alex Johnson. LONDON : British Library, 2017。これは『本のリストの本:愛書家提要』といったところでしょうか。紹介文には文献リストの「物語」とあったりもします。
 昨年、友人と『昭和前期蒐書家リスト』なる古本マニア人名鑑を同人誌で作った際、ただのリストをどのように面白く読んでもらうか悩みましたが、この時にはリスト自体がオモシロかったのでその筋では大ウケで、ただのリストでも楽しく読めるものもあるのでした。

■他の著者さんたち
 私は古本市以外には出不精なので、南陀楼さん以外の方は初めてお会いした方々ばかりですが、林さんは愛書趣味界隈では定評のある方、正木さんはご著書を読んで感心したことがありますし、鈴木さんは京都で有名な児童書店の方です。関西の書物文化圏の人たちがメインといっていいでしょう。こういった皆さんが参加しているので、私が「濃ゆい」ことを書いても安心です。

■載せられなかったアイテム
 当初、1人宛て小ネタを30個くらい、ということでしたが、結局、10個程度のトピックが載りました。せっかくなのでここでは〈載らなかったもの〉をいくつか紹介しておきましょう。
・『日本古書通信』の探求書欄を楽しむ――あの図書館学者はトンデモ研究家?!
・ある作家の青春日記にみる読書の実態――明治時代の車中読書や造化機本の購買
・総会屋の戦前史――総会屋の先祖は「壮士」だった。総会屋雑誌史を知るために集めている本
・書いた人の職業から本を探す本――『「古本屋の書いた本」展目録』の読み方
・大学講義の「プリント」出版は明治末から――昭和前期の販売リスト。これであなたも優良可!
・戦前の所蔵リストから絵葉書世界の全体を覗く――図書館絵葉書を例にして
・見たことも聞いたこともない本を見つける方法――未知文献の検索は主題標目で
・古本あつめは「全く平民的」な趣味なのです――戦前古書コレクターの全体像
 ほかにも書いている途中でいろいろ思いつきましたが、つい長くなってしまうのを短く納めるのに意外と苦労しました。

■アイデア1――本文の逆接
 書いている途中で担当編集者さんがデザイナーさんと一緒に本書にちょっとした仕掛けを思いついてくれました。普通〈書誌の書誌〉というと、国会図書館や図書館協会が作っている味も素っ気もないもので、ある文献リストの書誌が先に提示され、これにはこれこれの機能があります、という書き方が普通です。当初は同様な順序で書いていたのですが、途中で逆順はどうでしょうかと提示されました。つまり、先にリスト自体が提示され、これは何だろう、と読者が思ってから、謎解きがされるという形式です。情報量は同じなのに〈判じ物〉形式にすると読み手の印象が全然違ってくるのでした。こういった逆順のオモシロさは、むかしブログを毎日書いていた際にも意識していたことですが、改めて編集作業の重要性に気付いたことでした。
 いままで自費出版(同人誌)や専門書などに何度かかかわってきたのですが、編集者さんごとに固有のノウハウがあるものだなぁと感心です。

■アイデア2――付き物の逆接
 昭和17年から日本出版配給が要請して始まった〈著者略歴〉欄は、もちろん本書にも付いていますが、これがまた。
文献リストとコメントで構成された「書物蔵を作った十冊」といった形式になっていて面白いです。ふつう著者略歴はその人が書いた本のリストだったりするのですが、この本ではその人が読んだ本のリストになっているのです。
児童書では佐々木マキ『やっぱりおおかみ』だけを挙げておきましたが、他にも渡辺茂男『しょうぼうていしゅつどうせよ』、加古里子『海』などもよく読みました。学研の『科学』『学習』と、その附録なんかを読んだことが思い出され、短くまとめるのに苦労しました。著者略歴欄もまた、『本のリストの本』として楽しく読めるようにしてあります。

 ざっと全体を見てみると自分の担当箇所が一番、黒っぽく(漢字が多い)、やっぱり濃くなってしまったと反省しきりですが、全体として、みなさんのご協力もあって、文献リストや、書物満載の文学にまつわるいろんな話という、日本では珍しい本がおもしろく読める形になったように思います。

 本好きには格好の読み物ではないかとお勧めする次第(´・ω・)ノ

risut
『本のリストの本』
南陀楼 綾繁 著 / 書物蔵 著 / 鈴木 潤 著 / 林 哲夫 著 / 正木 香子 著
創元社  8月27日発売予定
https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4128

Copyright (c) 2020 東京都古書籍商業協同組合

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