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『近代出版史探索Ⅲ』

『近代出版史探索Ⅲ』

小田光雄

 『近代出版史探索』連作は5月の第二巻に続いて、7月に第三巻を刊行することができた。いずれも昨年の第一巻と同様に、200編を収録した700ページ前後の大部で、しかも第四、五巻も9月、11月に続刊となる。
 著者として、少部数高定価であることは読者に申し訳ない思いがつきまとうけれど、出版業界の危機的状況下とコロナ禍の中での上梓であるだけに、感慨無量といった心境に至っている。
 そのような次第なので、今回は『近代出版史探索』の執筆動機、拙ブログ連載事情、出版に至る経緯といったことなどに、具体的にふれてみたい。

 私は2008年から出版業界の現在を定点観測、分析する『出版状況クロニクル』のブログ連載を始めている。それに関連して、出版業界の現在もさることながら、そこに至った出版業界の歴史を遡行し、明治から昭和戦前の出版史をあらためて検証すべきだというオブセッションに駆られていたのである。それは現在分析にしても、何よりも歴史と過去を対照化させることによって、より明らかにされるのではないかと思われたからだ。

 しかしどのようにして書き、それを伝えるべきなのか。それはこれまで『古本屋散策』や『古本探究』三部作を書いてきたように、一冊、もしくは数冊の古本を対象とした短編の連作形式を採用し、自らのブログに連載していくべきだと思われた。だが長期に及ぶことは必至だし、これもまた必然的に実務を担う編集者の存在が不可欠だった。

 そこでそれを妻の啓子に依頼するしかなかった。彼女は『出版状況クロニクル』の編集者であり、さらなる負担をかけるのは心苦しかったが、息子たちの助力を含めて、一家総出の仕事として、2009年に始められたのである。
 ところが当初は300編ほど書けば、それなりにこれまでと異なる出版史や文学史が提出できると考えていた。しかしそれはまったくの錯誤で、近代出版史の森は広大で深く、しかも暗く、手探りで進んでいくしかなかった。
 それでも併走してくれる妻が、編集者として各編で言及される古本の書影を挙げることによって、拙稿に華を添えてくれた。これは連載をピクチャレスクなものとし、ある古本屋の言によれば、古書業界も含めた古本ブログなどに刺激を与え、ひとつの範になったという。

 そのようにして連載は進められ、10年がたち、1000回に近づき、7000枚に近くに及んだ。当り前のことではあるけれど、もちろん単行本化は思いもよらず、とりあえずは千一夜を目安としようと考えていたのである。
 そこに思いがけなく、『古本屋散策』がドゥマゴ文学賞を受賞することになった。これは『日本古書通信』に17年間にわたって連載したもので、私としては最後の自著のつもりで論創社の森下紀夫さんにお願いし、上梓したものである。彼はこの受賞を知らされ、ただちに記念出版として、19年10月の受賞日に合わせ、『近代出版史探索』の第一巻の刊行を提起してくれた。

 森下さんとは、今はなき人文図書取次の鈴木書店で知り合い、様々に助けられてきた。それに加えて、いずれ論創社から全集を出してあげようといってくれたのである。図らずも、『近代出版史探索』の刊行で、それが実現してしまったことになる。それに同伴してくれたのは、若い編集者の小田嶋源さんで、このような大部の5冊をほぼ1年で刊行できたのは、彼の体力と編集者としての才によっている。膨大な索引にしても、すべては彼の作成である。
 このように記してみると、『近代出版史探索』も家族、友人、編集者などに恵まれ、刊行されたことを実感する。さらに欲をいうならば、読者、書店、図書館にも恵まれますように。

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『近代出版史探索3』 小田光雄 著
論創社 定価:6,000円+税 好評発売中!
http://ronso.co.jp/

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