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『本を売る技術』について

『本を売る技術』について

矢部潤子

 このたび、本の雑誌社から「本を売る技術」という本を出しました。長い間書店の店頭で働いてきたなかで、試行錯誤しながら積み重ねてきた、本屋の基本的な仕事のしかたや考えかた、さらに一冊を買っていただくために、今するべきことの具体的ないろいろをまとめたつもりです。

 36年ほどの間に、100坪の駅前書店から1000坪の大型書店まで、さまざまな規模と立地の計7店舗で働きました。スタートは芳林堂書店池袋本店で、多層階の当時は大型書店でした。3年後、開店するパルコブックセンター新所沢店に入り、パルコブックセンター吉祥寺店に異動、93年渋谷パルコにオープンするパルココブックセンター渋谷店に移ります。その後、パルコブックセンター池袋店で半年働き、リブロ池袋本店に異動しました。本店閉店後は、よむよむ花小金井店で9か月にいて、書店員に区切りを付けました。

 書店員の基礎を教わったのは、やはり新卒で入社した芳林堂書店です。研修があって、1週間の座学、数週間ずつの各フロア巡回、仮配属先でさらに研修。私は医学・理工書フロアに配属でした。当時、そのフロアに配属になった人がたどる担当ジャンルのコースは決まっていて、新人はいつも講談社ブルーバックスから。ここで納品、単品管理、注文や返品の仕方、そして棚と向き合う姿勢を仕込まれたあと、新刊や買切商品、常備品の扱い等々を学習していくことになります。

 売場と商品のコンディションを整えるということ、メンテナンスにきちんと手をかけるということ、これも最初に教わったことだけれど、つい後回しにしがち。が、これが実はお客さまに手に取っていただく、そしてさらに一冊買っていただくための、簡単で有効な手立てだとやはり思います。店内を見廻し、什器や商品に手を入れ続けて、そして売れる棚売れる平台、売れる店に育て上げるということ。この本のなかでも再三、この点を語ったつもりです。

 本屋が通常もっている武器は、まずは“場所の力”だということを自覚したのは、渋谷PBCからだったでしょうか。一日の新刊が段ボール一箱のときから、96年の最大売上げを達成したころ、そして徐々に下降していく、その過程のさなかにいることになって、その時々で、いろいろなことを試しました。どこになにをどれくらい置いたら売上げが最大になるのか、そしてその場所がさらに力を持つことになるのかを、その都度即決して繰り返す。失敗したり上手くいったり。1,000冊売った本もあるけれど、それは渋谷PBCの、なかでもあの平台一台の力を成長させた成果だと思います。瞬間最大風速を記録した単発を誇るのではなく、なにをどれくらい置くかということに理由を持たせる継続的な仕事の、その途中経過の果実だったと。つまりは、畑仕事のように、棚を耕し、平台を耕し、商品を置き、手入れし続け、より大きな収穫を得る。

 この本が、いま本屋で奮闘している書店員を少しでも元気にすることができたなら、こんなに嬉しいことはありません。そして、明日売場でやるべきことが次々思いついたらなお嬉しいし、良い結果を得ることができたならさらに嬉しい。もちろん書店員でなくても、またネット書店で買うことが多いという人にも、ぜひ読んでいただきたい。本を買うという行為は同じだけれど、便利とは違う尺度の楽しさを感じていただけるはずと信じています。

hongijyutu

『本を売る技術』 矢部潤子 著
本の雑誌社 定価:1760円(税込)好評発売中!
http://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114388.html

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企画展「作家・大西巨人――「全力的な精進」の軌跡」のご案内

企画展「作家・大西巨人――「全力的な精進」の軌跡」のご案内

山口直孝(二松学舎大学 教授)

 「日本文学史上の最高傑作の一つ」(阿部和重)、「日本語で書かれた小説」の「ベスト・ワン」(奥泉光)と称される『神聖喜劇』で知られる大西巨人(1916年~2014年)の歩みを直筆原稿や関連資料でたどる企画展「作家・大西巨人――「全力的な精進」の軌跡」を東京古書会館、二松学舎大学の二つの会場で開催します。詳細は、下記の案内をご覧ください。

 今回の展示は、大西巨人の資料が二松学舎大学に寄託されたことを記念して企画されたものです。二松学舎大学では、2014年夏から巨人の蔵書約1万1千点の調査を進めてきました。2018年秋には、附属図書館資料センターを発足させ、貴重資料受け入れの環境を整えました。寄託資料は、原稿、草稿類(約8千枚)、ノート、メモ、手帳、日記、執筆資料、書簡、手紙、切り抜きなど段ボール箱で20を超える膨大なものです。全容の把握には相当の時間を要すると思われますが、今回の展示では、現時点で確認できたものを紹介します。ほとんどは、今回が初公開となります。

 二松学舎大学会場では、代表作『神聖喜劇』の成り立ちを紹介します。『神聖喜劇』は、戦時下の兵営における抵抗活動を通じて青年知識人の主人公が虚無主義から脱却し、他者との連帯の可能性を感じるまでの過程を描いています。4百字詰め原稿用紙約4千7百枚の大長編小説には、起筆から刊行完結まで25年の歳月が費やされました。会場には、おびただしい推敲の痕跡が残る原稿、草稿、執筆覚え書き、目次案などを展示しました。巨人が一語をもゆるがせにせず制作に取り組んでいたことや作品世界が作者予想以上に拡大していったことを感じていただければ幸いです。今回新たに見つかった未発表作『明暗の軌跡』、『遺書の告発』の草稿もこちらでご覧いただけます。

 東京古書会館会場では、第一作『精神の氷点』から未完に終わった『八つの消滅』までの創作の歩みを紹介します。長編『天路の奈落』、『三位一体の神話』、中編『娃重島情死行』、短編『連絡船』などの諸作品、「「仆れるまでは」、「仮構の独立小宇宙」などのエッセイの原稿、草稿、ノートを一堂に集めました。巨人が編集に携わった総合雑誌『文化展望』や日記、書簡、手帳、また、蔵書のうち、しおりの挿み込みや書き込みがあるものを選んで公開します。

一個の作品がそれ自体で完結していることを望み、私小説的な読解を戒めた巨人は、自己を語るのに禁欲的な書き手であり、創作の舞台裏は知られていませんでした。今回の展示によって、書斎における巨人の孤独な営みが「全力的な精進」(『神聖喜劇』)の持続であったことを感じていただければ幸いです。みなさまのご来場をお待ちしております。

会場:
【東京古書会館会場】東京古書会館2階展示スペース
【二松学舎大学会場】二松学舎大学九段キャンパス1号館地下3階資料展示室

開催日時:
【東京古書会館会場】2020年2月21日(金)~3月14日(土)10:00~17:00
〔(日)・(祝)および3/9(月)閉室〕

【二松学舎大学会場】2020年2月4日(火)~3月14日(土)10:00~16:00
〔(日)・(祝)および3/9(月)閉室〕

講演会中止のお知らせ
2月29日(土)13:00~15:00 に開催を予定しておりました、
「父親としての大西巨人」大西赤人(作家) 
講演会は新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴い、中止させていただきます。

お問い合わせ:二松学舎大学附属図書館 TEL 03-3263-6364

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虎屋文庫『ようかん』

虎屋文庫『ようかん』

虎屋文庫

 羊羹はお好きですか? ちょっと地味なお菓子だと思われていませんか?
 いえいえ、とんでもない。羊羹は実に多彩な顔を持った、また謎に満ちた、魅力的な食べ物なのです。しかし、餅や饅頭や鯛焼きの本はあるのに、羊羹の魅力を伝える一般書籍はありませんでした。
 「わたしたちが作らなくてはいけないのでは?」
 使命感にかられて本づくりに取り組んだのは和菓子屋・虎屋の菓子資料室、虎屋文庫。和菓子に関する資料収集・調査研究を行い、展示開催、機関誌『和菓子』の発行、執筆・講演などで和菓子の魅力を広く伝える仕事をしている研究部門です(企業アーカイブズとしての仕事も担当)。
 はじめての羊羹の本ですから、原材料や作り方といった基本はもちろん、季節の風物を映した色とりどりの羊羹が、江戸時代から現代まで作られていることをビジュアルでお見せしたい、文豪たちが羊羹について語った味わい深い文章も紹介したい…。盛沢山な切り口が提案されましたが、この辺りは問題なくまとまりそうでした。近年の話題として、パリやニューヨークなどでも開催されたイベント「羊羹コレクション」をとりあげ、参加店の商品を中心とした全国のおいしい羊羹も、新潮社編集部のセレクトで紹介することになりました(ぜひ、新しい味に出会ってください)。
 しかし、難関が残されました。羊羹の通史です(本では「ようかん全史」)。
 そもそも羊羹が菓子ではなかったことはわかっています。本来の羊羹は、古代中国において大変なご馳走だった熱々の羊肉のスープ(羹=あつもの)だったのです。鎌倉~室町時代にこれを禅僧が日本に伝えて精進料理となったところまではよしとして、なぜ菓子になったのか? ―――わかりません。これまで、菓子としては、餡と小麦粉を蒸して固める蒸羊羹が先に生まれ、その後、餡と寒天を煉り固める煉羊羹ができたとされてきました。この二つもずいぶん違う菓子ですが、これ以外に餡を使わない羊羹も存在しており、菓子としての羊羹の定義すら困難です。
 虎屋文庫は史料に基づいた調査研究を旨としていますので、歴史の空白を単なる空想で埋めるわけにはいきません。「ある程度妥当な推論」を見つけるために、史料を探し直し、読み返し、議論を重ねる、「羊羹のことしか考えない日々」が続きました。その結果(時間はかかりましたが)、蒸羊羹は3種類あったのではないか、煉羊羹は水羊羹から発展したのではないか、虎屋で「羊羹製※」「水羊羹製」と呼んでいる生菓子は普通の羊羹とは全く違うが、羊羹の進化(変化)の過程を表しているのではないか等々、当初は考えてもみなかった様々な新説が生まれるに至りました。詳しくは本をお読みいただきたいのですが、菓子としての羊羹の歴史の流れが、今までよりも少し滑らかになったのではないかと考えています。これを足掛かりとして、この先、誰かが更に新しい見解を示してくれる日が来るなら、どんなに嬉しいことでしょう。

 戦国武将や茶人、公家、もちろん菓子屋もふくめ、様々な人たちが遺した、山のような羊羹の記録と向き合うことは、この菓子がいかに愛されてきたかを確認する作業でもあったように思っています。

※一般には「こなし」と呼ばれる。

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『ようかん』 虎屋文庫 著 
新潮社 定価:2,420円(税込) 好評発売中!
https://www.shinchosha.co.jp/book/352951/

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2020年2月10日 第292号

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 。*..*.:☆.:*・日本の古本屋メールマガジン・*:.☆.:*..*。
 古書市&古本まつり 第85号
      。.☆.:* 通巻292・2月10日号 *:.☆. 。
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メールマガジンは、毎月2回(10日号と25日号)配信しています。

初旬に(10日前後)全国で開催されている古本展示即売会など、
イベント情報をお送りします。お近くで開催される際は、ぜひ
お出掛け下さい。

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━━━━━━━━━━【シリーズ 古書の世界】━━━━━━━━

北陸古本案内 その2

                  オヨヨ書林 山崎 有邦

前回は石川県の古本屋について書かせていただきましたが、今回は
お隣、富山県の古本屋の紹介です。

 東京から金沢に引っ越した数年の後、富山市・岩瀬の古道具屋
・スヰヘイ社さんから、ミニ古本市へのお誘いを受けました(そ
の古本市の、男の子が本を読んでいるイラストは、現在、細野晴
臣の本の表紙や、雑誌『POPEYE』のイラストなどでも活躍されて
いる富山出身の漫画家・堀道広画伯でした)。

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オヨヨ書林
https://oyoyoshorin.jp/

━━━━━━━━━【「文学カレー漱石」】━━━━━━━━━

「文学カレー漱石」

                     コクテイル書房 狩野 俊

 当店は高円寺にある、古本屋と居酒屋がいっしょになった店です。
今では珍しくないブックカフェの先駆けとして20年以上に渡り、こ
のような業態の店を営んでいます。文学にちなんだお酒やつまみを
楽しみながら、壁にある本を読むことも買うこともできます。当店
では1年前から夏目漱石の名を冠した、文学カレー「漱石」というも
のをお出ししています。そのカレーのことを書かせていただきます。

続きはこちら
/wppost/plg_WpPost_post.php?postid=5513

コクテイル書房
http://koenji-cocktail.info/

ツイッター
https://twitter.com/cocktail_books

━━━━━━━━━【シリーズ 古本マニア採集帖】━━━━━━

今月の古本マニア採集帖は休載となります。

━━━━━【2月10日~3月15日までの全国即売展情報】━━━━━

https://www.kosho.or.jp/event/list.php?mode=init

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第三回ジュンク堂新春古書展(沖縄県)

期間:2020/01/18~2020/02/24
場所:那覇ジュンク堂 地下1Fイベント広場前  
那覇市牧志1-19-29 D-NAHA ゆいレール 美栄橋駅 徒歩3分

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第10回 戸田書店 古本・古書フェア(群馬県)

期間:2020/01/27~2020/03/15
場所:戸田書店 高崎店 高崎市下小鳥町438-1

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イービーンズ古本まつり(レコード・CD市併催/宮城県)

期間:2020/01/30~2020/03/14
場所:宮城県仙台市青葉区中央4-1-1 9階 杜のイベントホール

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三省堂書店池袋本店古本まつり

期間:2020/02/04~2020/02/11
場所:西武池袋本店別館2階=特設会場(西武ギャラリー)

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フィールズ南柏 古本市(千葉県)

期間:2020/02/14~2020/02/28
場所:フィールズ南柏 モール2 2階催事場  
   柏市南柏中央6-7

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第6回 古書会館de古本まつり(京都府)

期間:2020/02/14~2020/02/16
場所:京都古書会館 3階 京都市中京区高倉通夷川上る

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港北古書フェア(神奈川県)

期間:2020/02/14~2020/02/25
場所:有隣堂センター南駅店店頭ワゴンでの販売

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倉庫会(愛知県)

期間:2020/02/14~2020/02/16
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12

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さよなら東急東横店 渋谷大古本市

期間:2020/02/20~2020/02/25
場所:渋谷駅 東急東横店西館8階 催物場

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たにまち月一古書即売会(大阪府)

期間:2020/02/21~2020/02/23
場所:大阪古書会館 大阪府大阪市中央区粉川町4-1

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ぐろりや会

期間:2020/02/21~2020/02/22
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:http://www.gloriakai.jp/

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好書会

期間:2020/02/22~2020/02/23
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9  

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浦和宿古本いち(埼玉県)

期間:2020/02/27~2020/03/01
場所:JR浦和駅西口下車 さくら草通り徒歩5分 マツモトキヨシ前
URL:https://twitter.com/urawajuku

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第22回フジサワ湘南古書まつり(神奈川県)

期間:2020/02/27~2020/03/11
場所:有隣堂藤沢店4階ミニ催事場
   藤沢市南藤沢2丁目1-1

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城南古書展

期間:2020/02/28~2020/02/29
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22

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西部展

期間:2020/02/28~2020/03/01
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9  

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第14回 上野広小路亭古本まつり

期間:2020/03/02~2020/03/08
場所:永谷お江戸上野広小路 ギャラリー+スペース36  
   台東区上野1-20-10 お江戸上野広小路亭1階

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第93回 彩の国 所沢古本まつり(埼玉県)

期間:2020/03/04~2020/03/10
場所:くすのきホール
   西武線所沢駅東口前 西武第二ビル8階 総合大会場
URL:https://tokorozawahuruhon.com/

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東京愛書会

期間:2020/03/06~2020/03/07
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22
URL:http://aisyokai.blog.fc2.com/

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オルデーズクラブ

期間:2020/03/06~2020/03/08
場所:名古屋古書会館 名古屋市中区千代田5-1-12

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3月反町古書会館展(神奈川県)

期間:2020/03/07~2020/03/08
場所:神奈川古書会館1階特設会場
   横浜市神奈川区反町2-16-10

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古書愛好会

期間:2020/03/07~2020/03/08
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9

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BOOK & A(ブック&エー)

期間:2020/03/12~2020/03/15
場所:西部古書会館 杉並区高円寺北2-19-9

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紙魚之會

期間:2020/03/13~2020/03/14
場所:東京古書会館 千代田区神田小川町3-22 

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第51回 鬼子母神通りみちくさ市

期間:2020/03/15
場所:雑司が谷 鬼子母神通り
URL:https://kmstreet.exblog.jp/

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全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその292 2020.2.10

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
 編集長:藤原栄志郎

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「文学カレー漱石」

「文学カレー漱石」

コクテイル書房 狩野 俊

 当店は高円寺にある、古本屋と居酒屋がいっしょになった店です。今では珍しくないブックカフェの先駆けとして20年以上に渡り、このような業態の店を営んでいます。文学にちなんだお酒やつまみを楽しみながら、壁にある本を読むことも買うこともできます。当店では1年前から夏目漱石の名を冠した、文学カレー「漱石」というものをお出ししています。そのカレーのことを書かせていただきます。

 日本にカレーという食べ物が入って来たのは明治時代の始め、イギリス から伝わりました。昭和二年にインド人革命家ラス・ヒバリ・ボースが亡命中、庇護を受けていた中村屋の相馬夫妻に振る舞ったカレーが、本格的インドカレーの到来だと言われています。明治大正と半世紀、オリジナルのインドカレーを知らずに創意工夫を重ねて、日本独特のカレー文化を築き上げました。そしてそれは現在も続き、カレーは国民食と言われるまでになりました。
 
 日本の近代文学も、明治以降に輸入された多数の翻訳小説の影響を深く受けいれ、多数の作品を生み出してきました。カレーと文学。一見なんの関係もなさそうなふたつの事柄は日本の近代化とともに、同じような道のりを歩んできたのです。文学カレーはこれらを背景につくりあげました。カレーの中に物語を溶け込ませた、食べる文学と言えるかもしれません。

 文学カレー「漱石」は夏目漱石が食べて「おいしい!」と思ってくれるように作り上げました。大好物だった牛肉をメインの具材にし、生涯胃痛や精神衰弱に悩まされた漱石のこころと身体に寄り添うようにスパイスを調合しました。刺激の強い唐辛子を使わずに、辛みは胡椒で出して、やさしい口当たりに。消化に良いように、野菜は細かく刻んで入れました。

 小説「三四郎」の一説にこんな文章があります。「僕はいつかの人に淀見軒でカレーライスをごちそうになった」淀見軒というのは、実際に本郷四丁目にあった洋食屋だったそうです。値は張るけれど味は良いと評判の店だったと言われています。漱石も通っていたであろうこの淀見軒のような昔懐かしい洋食屋のカレーを目指しました。

 この文学カレー「漱石」は評判も良く、文豪の名を恥ずかしめることなく、遠方から足を運んでくださるお客さまもいらっしゃる人気メニューになりました。そこでこの度これをレトルトカレーとして販売することにしました。発売日は2月9日、漱石の誕生日です。このカレーは原則、本屋でしか買えないカレーです。このカレーが話題になることで、本に興味を持つ人を増やすことも目的のひとつです。遠方の方には「日本の古本屋」で通信販売をいたします。クレジット決済もできますので是非ご活用ください。値段は600円+消費税となります。おいしさにこだわったら原価がたいへんなことになり、高いようですがこれがぎりぎりの価格なのです。

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北陸古本案内 その2

北陸古本案内 その2

オヨヨ書林 山崎 有邦

 前回は石川県の古本屋について書かせていただきましたが、今回はお隣、富山県の古本屋の紹介です。

 東京から金沢に引っ越した数年の後、富山市・岩瀬の古道具屋・スヰヘイ社さんから、ミニ古本市へのお誘いを受けました(その古本市の、男の子が本を読んでいるイラストは、現在、細野晴臣の本の表紙や、雑誌『POPEYE』のイラストなどでも活躍されている富山出身の漫画家・堀道広画伯でした)。富山の護国神社で毎月第1日曜に骨董の蚤の市が立ち、以前そこで何度か古美術や焼き物の古本を並べて売っていたので、その縁だったかと思います。ピアノの演奏会が開かれるくらい雰囲気のよい店内で、売り物のアンティークの本棚や飾り棚を利用させていただいての古本市が楽しくて、一緒に参加した高岡市(富山県)の上関文庫さんと盛り上がり、その勢いで、いまは往事の様な活気がない富山市の街中でもこんな感じの(かつて若者だった自分たちが通いたかった店のような)店舗がやりたいと、共同経営の古本屋を開くことになりました。

 場所は富山市内のメインの商店街から一本入ったところ。家賃は安く、美大卒の若い店主が営む民芸店や、オーガニックの化粧品店など、少し変わった店の集まる長屋。店番は交代。売り上げは折半。店名は『まんが道』という案もありましたが、サイモン&ガーファンクルのアルバム『ブックエンド』から。並べる本はお互いの在庫を持ち寄りました。敷金・礼金を払ったら、本棚を買うお金がなくなって、福井県の松村古書店さんの倉庫で使っていたものを譲っていただきました。スヰヘイ社さんから、開店祝いに帳場用の木の机をいただき、さらに塗装のはげていた店のドアを、青く塗っていただきました。

 いままで古本屋のほとんどなかった商店街に出来た店は、地元の人に重宝がられました。友達の友達で全員が繋がるような小さい街ですので、翌年(2013年)からブックエンドが中心となって始めた古本イベント「BOOK DAY とやま」もすぐに認知してらえ、富山のゴールデン・ウィークの定番イベントとなりつつあります。その頃各地で盛んだったブック・イベントを見よう見まねで始めた第1回は、不忍ブック・ストリートでおなじみの一箱古本市と、当時『本屋図鑑』を出版されたばかりの夏葉社の島田潤一郎さんと、ライター・編集者の北條一浩さんをお呼びしてトーク・イベントを開催しました。

つい昨日のことのようです。BOOK DAY とやまはその後も回を重ね、牧野伊三夫さん、ミシマ社・三島邦弘さん、里山社・清田麻衣子さん、服部みれいさん、関谷武裕さん、ひらのりょうさん、安田謙一さん、菊地成孔さん、柴田聡子さんなど、様々なゲストに出演していただき、いろいろな人や施設を巻き込み、今年の春で8回目を迎えます。古本屋の出店も、富山県内だけでなく、北陸、そして全国各地から集まるようになりました。ポスターは3回目からずっと堀画伯ですが、今回思い起こすと、スヰヘイ社のミニ古本市からのお付き合いになります(早稲田青空古本市の永島慎二先生のような存在でしょうか)。

 前置きが長くなりましたが、このイベントとブックエンド開店がきっかけとはいえないまでも、少しの後押しくらいにはなったかもしれない(そうだったら嬉しい)、富山県でここ数年に新規開店した新しいお店を、紹介させていただけたらと思います。

 デフォー。ブックエンドの3軒隣に出来た絵本の専門店。ショーウィンドウの、月替わりのテーマに沿って並べられた絵本の表紙を眺めるのが楽しみです。

 ジンジャー・ラーメン・ブックス。富山市内、花水木通り。旧ラーメン屋のカウンターをそのまま利用した古本屋。コーヒーは出しても、ラーメンはメニューにありません。店名と看板が前の店のまま。手抜きの店かと思いきや、品揃えは本格的でこだわり有りです。

 ひらすま書房。「ひらすま」は富山弁で昼寝のこと。射水市、旧小杉町の大正時代に建てられた旧小杉郵便局の古い建物を利用した施設「LETTER」の1階にある古本屋。2階はアトリエ。奥ではイベントをやっていることも多い。ミニコミやリトルプレスを中心とした品揃えですが、渋めの古本も増殖中です。Zineなどのワークショップなども開催。

 古本いるふ。岩瀬から滑川に引っ越したスヰヘイ社(現・古道具 スヰヘイ)さんの向かいに、2年前の春にオープン(富山の古本業界の裏にスヰヘイさんの影があちこちに)。デザイン書・美術書・写真集の品揃えは県内随一。2階がギャラリーになっています。各地のイベントにもフットワーク軽く出店。現在、BOOK DAY とやまの実行委員長です。

 コメ書房。店主夫妻が南砺市の散居村へVターン移住。のどかな田園地帯の中の、農家の納屋を改装したブックカフェです。コンセプトは「百姓のくらし」とのことで、1冊ずつ丁寧に選ばれた古本が並びます。かぶらずしサミットなどのイベントも開催。

 古本なるや。高岡市から氷見線で3駅の伏木駅前。店主がジャズ・ミュージシャンでもあります。店も、古本販売だけでなく、ワークショップやライブ、相談支援などに開放されている。品揃えは雑多ですが、なにか見つかりそうなポテンシャルと、店主の人柄か絶妙な居心地の良さを感じさせます。ブログやチラシなど、店主の書く文章も面白い。ジャズと古本て、なんでこんなに相性がいいんでしょうか。

 一番新しい(2年前)、いるふ、コメ書房、なるやは開店時期がほぼ同じですが、品揃えは各店各様で頼もしい。
 店主の数だけ古本屋があり、そういう店を訪ねるのが古本屋巡りの楽しみという、当たり前だけど自分が売る側に回ってからはずっと忘れていたことを、富山で気づかされました。

bookday
BOOK DAY とやまの模様

hirasuma
ひらすま書房

komeshobo2
コメ書房

オヨヨ書林
https://oyoyoshorin.jp/

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2020年1月24日 第291号

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☆INDEX☆
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
1.古書業界と私の個展  高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長)
2.古本屋ツアー・イン・ジャパンの2019年総決算報告」
古本屋ツアーインジャパン 小山力也
3.古本乙女の独り言⑦ 夜行バスに揺られて  カラサキ・アユミ

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━━━━━━━━━━━【自著を語る番外編】━━━━━━━━━

 古書業界と私の個展

             高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長)

 「日本の古本屋」メルマガ読者の皆様初めまして。私は先月発行
のメルマガで個展開催の案内を紹介して頂いた高橋秀行です。なぜ
メルマガで場違いな絵画の個展案内を掲載して頂けたかと言います
と、実は私は元東京古書組合の職員でした。

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『高橋 秀行 (前 東京古書組合事務局長) 個展
1月27日(月)~2月1日(土)
AM11:00 ~ PM6:30(最終日 PM4:00まで)

光画廊
東京都中央区銀座7-6-6
丸源ビル24(1階)

━━━━━━━━【2019年の古ツアをふり返る】━━━━━━━━

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2019年総決算報告

         古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山力也

 ついに2020年になってしまった。漫画『AKIRA』の時代であり、
『ウルトラQ』のケームル人が遠い星で暮らしている時代でもある。
漠然とした未来にいつの間にか現実が追いついてしまった…そんな
殊勝なことを考えながらも、古本と古本屋さんに喜びを見出す日々
は、変わらず続いている。2019年もまったく飽きることなく戯れ続
けた、この素晴らしき知識と物質の泥沼のような世界…一瞬だが駆
け足で振り返ってみよう。

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小山力也

2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売ってい
る場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン
・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚
で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑
誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。

http://furuhonya-tour.seesaa.net/

━━━━━━━━━━━【古本乙女の独り言】━━━━━━━━━

古本乙女の独り言⑦
夜行バスに揺られて

                   カラサキ・アユミ

 先日思い立って、夜行バスのチケットを取って京都に向かった。
明確な目的もなく、衝動的に冬の京都の空気が吸いたくなったとい
う漠然とした理由だった。長い長い乗車時間を経て早朝に京都駅に
到着したバスを降りると、瞬時、澄み渡った冷たい空気が身を包み
寝不足でトコロテンのようにフルフルした頭の中がシャキッとした。
地下鉄を乗り継ぎ、とりあえず鴨川に向かってみた。

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━━━━━━━━━━━━━【次回予告】━━━━━━━━━━━

『ようかん』 虎屋文庫 著 
新潮社 定価:2,420円(税込) 好評発売中!
https://www.shinchosha.co.jp/book/352951/

『本を売る技術』 矢部潤子 著
本の雑誌社 定価:1760円(税込)好評発売中!
http://www.webdoku.jp/kanko/page/4860114388.html

作家・大西巨人―「全力的な精進」の軌跡展 について
            山口直孝(二松学舎大学 教授)

企画展 作家・大西巨人―「全力的な精進」の軌跡 開催

二松学舎大学会場
開催期間:2月4日(火)~3月14日(土) (日・祝 3月9日(月)休館) 
時間:10時~16時
場所:九段1号館地下3階 大学資料展示室

東京古書会館会場
開催期間:2月21日(金)~3月14日(土) (日・祝 3月9日(月)休館) 
時間:10時~17時 最終日15時まで
場所:2階情報コーナー

━━━━━━━━━【日本の古本屋即売展情報】━━━━━━━━

1月~2月の即売展情報

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 次回は2020年2月中旬頃発行です。お楽しみに!
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*☆ 本を売るときは、全古書連加盟の全国の古書店に ☆*
全古書連は全国古書籍商組合連合会(2,200店加盟)の略称です

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日本の古本屋メールマガジンその291 2020.1.24

【発行】
 東京都古書籍商業協同組合:広報部・「日本の古本屋事業部」
 東京都千代田区神田小川町3-22 東京古書会館
 URL  http://www.kosho.or.jp/

【発行者】
 広報部:二見彰
編集長:藤原栄志郎

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古書業界と私の個展

古書業界と私の個展

高橋秀行 (前 東京古書組合事務局長)

 「日本の古本屋」メルマガ読者の皆様初めまして。私は先月発行のメルマガで個展開催の案内を紹介して頂いた高橋秀行です。なぜメルマガで場違いな絵画の個展案内を掲載して頂けたかと言いますと、実は私は元東京古書組合の職員でした。

少し自己紹介させて頂くと、私は1970年(昭和45年)に東京都古書籍商業協同組合(以下、東京古書組合と略します)に職員として就職し、2008年(平成8年)に定年退職するまで38年間勤め、後半の20年間事務局長をさせていただきました。その間、18人の理事長の下で働きましたが、私が勤め始めた頃は、昭和42年に新築された神田小川町の古書会館(旧古書会館)で曜日制の市会が毎日開催され、活況に満ちていました。当時は、70年安保闘争の後で、御茶ノ水のカルチェラタンも落ち着きを取り戻し始めていました。古書業界では東京古典会の盛況期の頃で、大きな売り立てや大きな市会がホテルで開かれ、出来高も目を見張るばかりでした。三島由紀夫ブームが去り、次いで初版本ブーム、そして左翼系の本がよく売れた時代です。出版界も上り調子で空前の出版ブームと言われ、文学全集や百科事典が飛ぶように売れた時代でした。

皆さんもご存じのとおり、各古書店はそれぞれの得意分野を持ち専門性があることから、古書業界には特長が二つあります。その一つは卸、問屋が無いことです。新刊書は出版社が本を企画し、印刷所、製本、装丁に関わり上梓し、取次を通して書店に委託します。70年当時は神田のすずらん通り裏に「神田村」と呼ばれる中小の新刊取次業者の集積地がありました。強いて言えば、築地の場外市場といった趣ですが、この取次が集まる神田村が消滅したことが今日の出版業界の衰退を如実に表しています。

前述したように、古書業界には仕入れ先の問屋が無いので、仕入れは読者の持ち込みや宅買い、その他さまざまな方法で仕入れますが、それらも量的に限界があります。そこで、各古書店は専門外の自分の店で不必要な本は売り、必要な本を買う市場(交換会)を必要としました。つまり、売り手イコール買い手になるわけですが、そこには当然利害が絡みますので様々な調整が必要になり、この市場(交換会)を組合が主催することで強固な組合組織が確立されていくことになっていきます。現在、東京古書組合では創立100年を記念して「百年史」の出版を計画、進行中です。この本は古書業界の歴史ですが、読み物としても面白いので、上梓された際はぜひお読みになることをお勧め致します。

今一つは、古書業者は10年修業しないと古書店を開けないと言われていました。それは本の相場を憶えるということです。古書には定価がありませんから、本の価値を自分で判断するしかありません。需要と供給の関係で、高くては売れませんし、安くては他業者に買っていかれてしまいます。この相場を憶えることは、その業者の力量を表す指標でした。実際、古書業者には偏屈な人もいますが、総じて頭脳の明晰な人が多いのです。この古書業者の専門性に穴をあけたのがブックオフとインターネットです。

ブックオフは古書店の専門性をある部分打ち砕きました。その方法は本を定価の一割で買い、五割で売るということを明確に表に出して商売をしたことです。これは消費者にとってとても分かりやすいものであり、素人でも古書が仕入れられるので、古本はブックオフへとなり全国展開にまで至りました。

また、インターネットは相場を全国に公開することになりました。これまで専門性に隠されていた古書の相場がネットで調べられるようになり、都市と地方の古書店の格差が無くなり、古書業を営むための修業が必要なくなって、素人の業界参入が容易になりました。

古書業界の現況は、出版不況とも重なり、大変厳しい経営を余儀なくされています。この流動する環境の中で、古書組合もただ傍観していたのではなく、業界活性化の方策や研究、調査、広報活動を進め、業者の研鑽や組合組織の改変など自助努力も続けています。
しかし、残念ながら本を読む人が少なくなり、古書店に出向く人も減少し、町の書店も姿を消しつつあります。今は断捨離という名のもとに本が廃棄され、貴重な本が失われてきていて、今こそ古書業界の存在を知ってほしいと思います。

さて、本題です。私は1月27日から2月1日まで、銀座の「光画廊」で個展を開催します。私が描く絵はとても分かりやすい絵です。どちらかというと写実的で、退職してから一生懸命に描き出しました。絵画は基本的に二次元の平面に、いかにして三次元の世界を構築するか、そのための手段として明暗や色彩、線や面を用いて表現するものだと思っています。この考え方は西洋の伝統的な絵画観ですが、ルネッサンスから500年を経て、現代のIT世界で通用するのか、様々な考え方がありましょう。音楽は7つの音階でクラシックからジャズ、歌謡曲まで表現します。絵画も色彩の赤、黄、青の三原色にそれを混ぜた橙、緑、紫を加えた二次色の6色に白黒を加えた8色ですべての表現を行います。どんな現代作家もこの枠組みから逃れることはできません。その上、技量や感覚、知識も必要になりますので、なかなか絵画の世界も奥深く難しいものです。更に独自性や感動をとなると、何がなんだか訳がわからなくなります。
そんな五里霧中の結果の絵ですが、ご都合がつきましたらご高覧下さり、ご批評賜りましたら望外の喜びとするところです。

『高橋 秀行 (前 東京古書組合事務局長) 個展
1月27日(月)~2月1日(土)
AM11:00 ~ PM6:30(最終日 PM4:00まで)

takahashi

光画廊
東京都中央区銀座7-6-6
丸源ビル24(1階)
http://hikarigarou.o.oo7.jp/

Copyright (c) 2020 東京都古書籍商業協同組合

古本屋ツアー・イン・ジャパンの2019年総決算報告

「古本屋ツアー・イン・ジャパンの2019年総決算報告」

古本屋ツアー・イン・ジャパン 小山力也

 ついに2020年になってしまった。漫画『AKIRA』の時代であり、『ウルトラQ』のケームル人が遠い星で暮らしている時代でもある。漠然とした未来にいつの間にか現実が追いついてしまった…そんな殊勝なことを考えながらも、古本と古本屋さんに喜びを見出す日々は、変わらず続いている。2019年もまったく飽きることなく戯れ続けた、この素晴らしき知識と物質の泥沼のような世界…一瞬だが駆け足で振り返ってみよう。

 東京近郊ではあるが、まずは新たに開店したお店を列挙してみよう。谷保の鄙びた商店街に「小鳥書房」という出版もするお店が開店。三鷹には「りんてん舎」が出現し、駅からちょっと離れていはいるが、地元民の心を素晴らしき棚造りと値段の安さで捉えている。西荻窪の「benchtime books」は製本工房と古本屋さんが一体化した変わり種。国分寺の「早春書店」は若者向けの選書が尖る、攻める姿勢が好ましい。町田の「EUREKA BOOKSTORE」は裏路地の飲屋街二階にあるが、場所柄に反してセンスの良いセレクトがピカリと光る。鎌倉「くんぷう堂」は一軒家を改装した広いお店で、女性店主の視点に、幅広く豊かで芯の通った強さを感じる。西荻窪の「トムズボックス」は吉祥寺にあった絵本屋さんが古本屋さんとして復活。武蔵境「おへそ書房」は奇妙な店名とは関係なく、子供にも大人にも優しいしっかりとした選書が際立っている。吉祥寺「BOOK MANSION」は棚貸しを基本とした、小さな固定一箱古本市と言った趣きの空間。一棚店主の個性がせめぎあう面白さがある。阿佐ヶ谷「ネオ書房」は評論家の切通理作氏が、三月に閉店したお店を引き継ぎ開店。以前とは異なる、怪獣文化やサブカル・映画に強いマニアックなお店に生まれ変わった。氏の蔵書が棚に並ぶのも大いなる魅力である。神楽坂「アルスクモノイ」は、バーカウンターも併設し、小さな印刷&製本工場が連なる地帯にオープン。「砂漠のような場所に店を出したかった。寂しいところにポツンと灯りが浮かんでいるようなお店」とは、店主の呟いた名言である。高円寺の「tata」は、行き止まり路地の元「アバッキオ」があった場所にオープンした、小さなセレクトブックショップ。武蔵藤沢の「逍遥館」は『ジョンソンタウン』という元米軍住宅の街に、その米軍ハウスの中に端正で重厚な棚を並べて年末に開店。周囲のショップが飲食店や雑貨店ばかりなので、タウン内で一際目を惹く存在になっている。他にもまだ未踏ではあるが、尾久に古本バーが出現していたり、大森にも同様の古本バーが。そして黄金町に「楕円」というお店が開店しているとの情報もつかんでいる。

 さて、新開店するお店あれば、残念ながら閉店するお店もあり。悲しいことだが、これも流れの一つなので列挙しておこう。阿佐ヶ谷では「あきら書房」と旧「ネオ書房」、それに山岳書籍の老舗「穂高書房」が店主の急逝により閉店。谷中「信天翁」、荻窪「象のあし」、龍ヶ崎「竜ヶ崎古書モール」、神保町「マニタ書房」、「東京書房 自由が丘店」、西千葉「鈴木書房」、経堂「遠藤書店」、町田「高原書店」、鳩の街「右左見堂」、鎌倉「books moblo」、神保町「りぶる・りべろ」も様々な理由で閉店となってしまった。頻繁に利用したお店、時々出向くお店、一度しか行ったことのないお店など、これもまた様々であるが、間違いなく古本屋巡りと古本買いの楽しさを支え、教えてくれたお店たちである。ここで多大なる感謝を捧げておきたい。みなさま、本当におつかれさまでした。

 またこの年は、移転したお店が多かったのが一つの特徴であった。何はともあれ、どうにか店舗を継続してくれるのは、古本屋巡りをする者にとってありがたいものである。神保町の『すずらん通り』に移転した「虔十書林」、早稲田の「丸三文庫」は路面店に。「古書ほうろう」は不忍池近くに。八王子「まつおか書房」は京王八王子駅近くに。八幡山駅前にあった「グランマーズ」は永福町にいつの間にか移転していた。また「東京書房 自由が丘店」は店舗機能の一部を宮前の倉庫に移し、時々ガレージセールを開いているとのことである。

 このように日々情報を集め、地元近くの古本屋さんを巡り歩いていると、古本者の常として、いつしか自然と定点観測ルートが組み上がって来るものである。最近のお気に入りルートを思い出してみると、まずは荻窪で「ささま書店」→「藍書店」→「竹陽書房」。吉祥寺で「一日」→「バサラブックス」→「よみた屋」。高円寺で「古書サンカクヤマ」→「DORAMA高円寺庚申通り店」→「アニマル洋子」。西武池袋線沿線の中村橋「古書クマゴロウ」→保谷「アカシヤ書店」と言ったところだろうか。基本は安くて見かけたことのない古い本が買えるお店である。私の蔵書も売る本も、これらのお店で出来ていると言っても過言ではない。

 またこの年は、古本神のひとり、ライターの岡崎武志氏と古本屋旅行ををする機会に恵まれた。夏の熱い盛りに青春18きっぷで栃木方面に赴き、栃木市駅前のハンコ屋兼業の「長谷川枕山堂」を訪れ、続いて住宅街の中の古本屋さん、御歳九十一のお母様が店番をする「吉本書店」にも赴いた。その時には女性店主とお話しさせていただき「いつまでもお店を続けて下さい」とお願いしておいた。ところがその後、台風の水害被害により、「吉本書店」は棚下まで水没し、閉店を余儀なくされてしまったのであった(ただし閉店したのは実店舖で、事務所店は今は復活し、催事に通販に再び活躍を始めている)。その被害の甚大さから、これはもう仕方のないことであるが、その後の古本屋さんたちの連携による、何日にも渡る片付け作業は、迅速で献身的で、感動を覚えるものであった。十月には、熊本の「舒文堂河島書店」の若旦那・河島康之氏の多大なる尽力により、「第50回鶴屋古書籍販売会」に合わせて開かれたトークに、岡崎氏とともに呼んでいただいた。他のトークは硬い内容なのに、こちらはいつものように面白古本トークを繰り広げ、果たして怒られないだろうかと心配したが、概ね好評だったようで、無事に役目を果たせたことに安心する。この時に『上通り』という目抜き通りに集まる、新進気鋭の「汽水社」に古書が雑本的に溢れる「天野屋」、そして熊本時代の夏目漱石も訪れた老舗「舒文堂河島書店」を見学。さらにその後は、路面電車や乗合バスやフェリーを乗り継ぎ、島原で古本屋さんにフラれ、島原鉄道で諫早に乗り込んだ後、博多へ。博多では「徘徊堂」を楽しみ、珍道中を終えて帰郷した。このようにこの古本コンビ、日本全国お出かけして、楽しい古本のお話をいたしますので、ご用命の際はご連絡をいただければ。

 最後にこの年の収穫を一冊挙げるとすれば、三鷹「りんてん舎」で購入した、新太陽社「ですぺら/辻潤」(裸本千円)を迷いなく選ぶ。今まで一度も見たことなく、憧れていた本が、突然目の前に安値で現れる衝撃! 何度味わってもやめられぬ、古本探しの醍醐味をこの身に甘受出来る瞬間である。今年もそんな古本との出会いを求めて、あちこちの古本屋さんに出没いたしますので、今年も何とぞよろしくお願いいたします!



小山力也 2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。西荻窪「盛林堂書房」の『フォニャルフ』棚で、大阪「梅田蔦屋書店」の古書棚で蔵書古本を販売中。「本の雑誌」にて『毎日でも通いたい古本屋さん』連載中。
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☆古本乙女の独りごと⑦ 夜行バスに揺られて

☆古本乙女の独りごと⑦ 夜行バスに揺られて

カラサキ・アユミ

 先日思い立って、夜行バスのチケットを取って京都に向かった。明確な目的もなく、衝動的に冬の京都の空気が吸いたくなったという漠然とした理由だった。長い長い乗車時間を経て早朝に京都駅に到着したバスを降りると、瞬時、澄み渡った冷たい空気が身を包み寝不足でトコロテンのようにフルフルした頭の中がシャキッとした。地下鉄を乗り継ぎ、とりあえず鴨川に向かってみた。通勤ラッシュの殺気立った駅構内、スーツを着た人達が足早に進む方向とは逆に向かう自分の足を見下ろしながら静かに幸福感を噛み締めて歩いた。河原町と祇園を挟んだ四条大橋に立つと、どこまでも広がる朝焼け空と緩やかなカーブを描いて流れる鴨川が眼前に広がっていた。京都に住んだ経験もないのに不思議と懐かしい感覚が微かに胸に広がった。深呼吸をすると自分の口から煙のような真っ白い息がフワァと飛び出していった。京都に着いてからまだ数十分、既に旅の目的が果たされたような気がした。さて、今からどうしようか…と腕を組みながら、川を泳ぐ鴨の親子をしばし見つめた。

 観光地にいっても観光しようという欲があまり湧かず、まずはその土地の古本屋に行きたいと真っ先に思ってしまうのは、どの古本者にも当てはまる心理なのだろうか。暇をつぶすのは大得意の作業なので、古本屋が開店するまでの数時間、自販機で買った缶コーヒー片手に偶然通りかかった神社境内のベンチに腰掛け、何をするわけでもなく、ひたすら枯れ木をボンヤリ眺めたり野鳥のさえずりを聞きながら過ごしたのであった。なんとも贅沢な朝の時間の使い方だ。

 京都に訪れる度についつい思い出してフフフとなるのが修学旅行の記憶で、当時高校生だった自分は仲間意識を保つ事に必死だった。仲良しグループでの自由行動、よーじやのあぶらとり紙をお揃いで買ったり抹茶パフェを食べに有名茶房に並んだり、記念写真代わりにプリクラを撮ったり。これが楽しいと自分に言い聞かせながら友達と足並みを揃え笑い合いながら京都の街を歩いた。しかし通りがかりに古本屋を見つけた瞬間、皆が通り過ぎる中、自分一人店先で足を止めていたのであった。

 こうして様々な過去の思い出を振り返りながら幾つかの古本屋を巡り終えると、いつの間にか空は夕暮れ模様に変わっていた。財布と携帯とハンカチしか入っていなかった手提げ鞄は、帰路に着く夜行バスに乗り込む頃にはパンパンになっていたのであった。

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『全古書連ニュース』より転載

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東京古書組合発行 『古書月報』より転載

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『古本乙女の日々是口実』皓星社
価格1,000円+税
http://www.libro-koseisha.co.jp/publishing/furuhonotome/

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